本日のお悩み
10月のはじめに初任者研修を終了し、住宅型老人ホームで勤務しはじめました。
「トイレに行きたい」と言う利用者様に対して、施設長が「もう食事が始まるから、我慢できないの?」ときつく大声で言ったり
利用者様のトイレ介助に4人(先輩2人と新入職員2人)で入り、大人数でその方の排泄を見て、「この方は何回叱っても夜おむつを外すから」などと言ったり、その方の前でおむつを広げて見せるということがありました。
私はいたたまれずにトイレから出てしまいましたが、これからの人生を賭けて選んだ介護の仕事が正しかったのかと暗い気持ちと、何も言えない自分に失望しています。
もしかしたら施設長の言動や先輩の行動にも理由があったのかなと考えたりもしますが…私のとらえ方がおかしいのでしょうか?アドバイスお願い致します。
ケアする側の、無意識の思い込みに注意
ご質問者さん、まずこれだけは先に言わせて下さい。
あなたは全然おかしくありません!
捉え方が変だとか、全くありません!
そこだけは「絶対おかしくなんかない」と、私は言い切れると思いました。
人生を賭けて選んでいただいた「介護」の仕事は、そんな哀しみばかりではありません。
そのような状況の中、こちらを思い出してご相談をお寄せいただき、本当にありがとうございます。
■あなたは全然おかしくない!良識のある介護者さんです
私はご質問者さんの立場に代わることは出来ませんが、痛いほどお気持ちが分かります。
いたたまれなくなってトイレから出てしまうくらいの状況、私も過去に何度か経験があるので、思い出すと身体がぎゅっと固くなります。
悲しくて涙が出てくるくらいの衝撃でしたよね…。
今、少しでもその辛さが少なくなっている事を祈っています。
しかしご質問の内容からすると、施設長の立場でも利用者さんへそのような言葉をかけているようなので、闇は深いのかもしれないと感じています。
(ですが、そのような事はこれきりで、その後は優しい施設長に戻られた。などの結末だったらどんなに良いかと思います。状況が改善していれば、この先は読み飛ばしていただいても大丈夫ですからね。)
「何も言えない」と思ったのは、入職したばかりだからとか、指摘してもっと酷いことになったらどうしよう…。といった不安からと想像しています。
自分以外は全員が先輩という状況の中で、とても難しいことですよね。
ですが、そんなご自分に失望される前に、ぜひ、思いを寄せて欲しい事柄を書いていきます。
ご質問者さんができそうなことや、このままやりたい介護を実践しないままでいると現場はどうなってしまうのかを想像して、これからどうしたいか一緒に考えていきましょう。
■ケアする側の無意識の思い込みと、排泄ケアの捉え方
さて、私も以前そのような状況に出くわしたことがあると言いました。
それは働いている職員の立場ではなく、現場改善のために関わったり、見学をさせてもらうような施設でのことです。
私のような外部の目があったとしても、そういう行動をしてしまっているということは、それを行う介護職の方は「自分の行動・対応をおかしいと思っていない」証拠なのですよね。
もはや、その対応をすることが「善」だと思い込んでいる方もいらっしゃいました。
職員同士で共感を得ることが一番大切だと思っていたり、業務を早く終わらせたいからスムーズに順序よく思う通りに行いたい。
また、焦燥感や自己否定が強く、心の内側はパニック状態で、自分自身の心が全く落ち着いていられない状態であったり…。
無意識でしょうが、そのような価値観を持っているからこその態度なのかもしれません。
これは、介護の仕事(人と対峙する仕事)に関しての基本的な視点が欠けていること、高齢者の方への対応の認識がずれていることからも起こっていると思います。
ですが一番は、「排泄ケア」についての誤解からくるものもあります。
排泄ケアは、単なる後始末や汚物の処理ではありません。
一見そのように見えているのかもしれませんが、これまで何十年も続けてきた「自分のしたいときにトイレでする」その方の排泄をどう支援したらよいのか、そこを考えていくのが介護の仕事の奥深さだと思います。
■どんな対応が考えられるのか
今回は排泄に関わるシーンでのこと。
この対応が「どうしていけないのか」をご説明していきます。
まず、施設長が話した「我慢できないの?」という言葉についてです。
過活動膀胱や膀胱炎などの症状があると、我慢できない強い尿意を感じるということは、きっとご質問者さんもご存知ですね。
前後の状態は分かりませんが、尿意があって訴えてくることが多くなると「頻尿」と言われ、その原因が膀胱尿道機能にあるかもしれないのに「心のせいじゃない?気のせいだ」と判断されてしまう状況は多く現場に見られます。
心因性と言いますが、そうと言い切れる状況までアセスメントしていない状況が多いです。
膀胱に残尿が溜まっていて、そこからの症状だった場合、早く病院に行かないと悪化させて腎臓を痛める危険性もあります。
排尿している量・回数・時間の記録をとって読み解くことで、見えてくることはたくさんあります。
実際に身体の問題がある場合には、内服などの治療で治ることもあるのが排泄ケアの特徴です。
まずはそのサインを読み取り、データとして生かして、ケアにつなげていくことが求められます。
■排泄介助はセンシティブなもの。通報も視野に入れて
トイレ介助に4人で入り、その方の排泄を見て「この方は何回叱っても夜おむつを外すから」などと言ったり、その方の前でおむつを広げて見せる行為ですが、これは心理的な虐待ともいえる言動です。
この行動で損なわれた施設や職員への信頼は、取り戻すには長い時間がかかります。
また同じことが続けば、利用者さんが負ったであろう心理的屈辱は、体調だけでなく、生きてここで暮らしていく気力さえも奪うのではないでしょうか?
食欲も薄れ、便意を我慢の上で喪失させ、自分の力で歩こうとは思えなくなれば、あっという間に寝たきり状態になるでしょう。
排泄介助は、どれだけ注意をしても、その人のセンシティブな部分に触れるケアです。
また、日本には高齢者虐待防止法という法律があります。
たとえ生命又は身体に重大な危険が生じていない場合でも、介護施設では速やかな通報義務が課されています。
もう悲しみを生み出さないようにするために、このような対応も考えて良い段階かと思います。
■人の感情は伝播するからこそ、利用者さんと心地よい関係をつくる
ご質問者さんが感じた悲しみの理由はきっと「尊厳を損なわれた」状況を目にしたからですよね。
人が人として扱われない状態を「尊厳が損なわれる」と私は認識しています。
簡単に、人を傷つけてしまえる領域だからこそ、そこを守って大切にケアができれば、圧倒的な安心感と明日への意欲を守れるのが排泄ケアだと思います。
利用者さんの気持ちも大切ですが、それと同じくらい、関わる職員の気持ち(心)も大切です。
人の感情は伝染するものですし、相互性を持っているので、不機嫌な対応をされたら相手も当たり前に不機嫌になるでしょう。
しかし、相互作用があるからこそ、介護者が良い関わり方や相手にとって心地よい関わり方をすれば、治らないような問題があったとしても、まだ生きていこうかなと思える。
そんなサポートができるのも、介護職ならではの心震える面白さですよね。
■転職するのも一つの選択肢です
まずは、同じ施設で同じように心を痛めている職員はいないか、探してみてください。
できることなら、その方と協働して、今の状況はとても危険だということを少しずつ伝えることをしてみてはいかがでしょうか?
それが難しそうであれば、行政に相談することも視野に入れていただければと思います。(もちろん守秘義務があるので相談者情報は明かされません)
日本には、ご質問者さんが今働いている場所と同じ、有料老人ホームは他に15,000施設あります。
こんな良識のある介護職さんが心を痛めて、介護の仕事を心底嫌になってしまうならば、私はもっとその人を守るケアをされている場所を探すことも、もう一つの選択肢だと思います。(そんな施設もあります!)
長くなりましたが、ご質問者さんのこれからを応援しています。
また、なにかあれば、いつでもご連絡くださいませ。
社会福祉士、介護福祉士、認定排泄ケア専門員、排泄機能指導士