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介護脱毛は本当に必要?介護職の目線から、介護脱毛を語ります

介護脱毛は本当に必要?介護職の目線から、介護脱毛を語ります

介護脱毛から、「介護予防」への意識チェンジを!最近話題の介護脱毛。介護脱毛とは、将来介護を受ける時に備え、陰部や肛門付近の毛を脱毛することを言います。それについて、介護する側(介護職)の視点から回答していきます。【回答者:伊藤浩一】


目次

介護脱毛は本当に必要?介護職の目線から、介護脱毛を語ります

本日のお悩み

介護脱毛が気になっています。話題になっていることについて、介護職の方から見てどうですか?
介護脱毛は、やっておいたほうが良いのでしょうか?

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介護職に対する気遣いなら、本末転倒です

回答者

伊藤 浩一

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14

茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員

そもそも、介護脱毛とは?

介護脱毛とは、VIO(アンダーヘア)の脱毛をすること

ご質問ありがとうございます。
介護脱毛、流行ってるようですね。

芸能人のみんなさんで声高らかに言っている方、私もテレビで見ました。
この介護脱毛、基本的にはアンダーヘア(陰部や肛門付近の毛)を脱毛することを言うそうです。ではなぜ介護脱毛に取り組んだのか?ある芸能人さんは「介護が必要になった時の配慮」と言われていました。そして、概ね取り組まれた方の理由は同じようです。

介護職は、アンダーヘアのある・なしで差別はしない

しかし、私はあまり関心がありません。なぜなら、私たちはアンダーヘアがあることないことでご利用者を差別することはないからです。
むしろアンダーヘアがあることは当たり前のこと。その上でどう清潔を保つか?考えることが介護技術だと思っています。

アンダーヘアはなぜ存在するのか?

人類の歴史の中で、退化せず残ったもの

さて、そもそもなぜアンダーヘアはあるのでしょうか?

およそ20万年前に人類は誕生し、現在まで進化してきました。
その進化の過程の中で、必要なものは残り、不必要なものは退化したのはみなさんもご存知の通りです。

ということは、アンダーヘアは退化せずに残ったもの、つまり必要なものと位置付けられたわけです。ではなぜ必要なのか?

VIO(アンダーヘア)は、肛門付近の粘膜を守るためにある

陰部や肛門付近は、皮膚の角質層(バリアになるところ)が他の体の部位よりも薄く粘膜が混在しているため、そもそも摩擦による刺激に弱い部位になります。
そのため、皮膚を守るためにアンダーヘアが存在するということになるのです。

これは学術的に明確な根拠があるわけではありませんが、毛が生えているところ(頭、腋窩、陰部)を考えると、どこも人間の重要な機能を司るところであり、そこを守るために体毛は存在すると考えることができます。

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介護のプロは、アンダーヘアがあっても清潔に保つ技術を持っている

ということで、私は、「アンダーヘアは人にとって必要だからあるわけなので無理に剃る必要性はないし、介護される時を想定するのであれば、介護職はプロとしてアンダーヘアがあっても清潔をたもつ技術(陰部洗浄等)を身につけていますので特に気を使っていただかなくても大丈夫。」と考えます

大人用オムツの性能は進化している。介護脱毛を焦らないで!

介護脱毛はお金もかかりますよね。
介護脱毛が「介護を受けるエチケットだ」なんてもし広まったとすれば、経済的にゆとりのない方は困ることになると思います。

自分の現役時代を振り返っても、なんでアンダーヘアがあるんだ!と介護に困ったことはありません。大人用オムツの性能も日々進化しています。

また、オムツに頼らずトイレの排泄を継続する介護方法もあります。
「介護を受けるためにアンダーヘアはない方が良い」と極端に決める必要はありません。

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介護脱毛から、「介護予防」への意識チェンジを!

実は、先述した介護脱毛について、とても反響があったんです。
このお悩み相談をきっかけに、様々なメディアから取材をいただき、正直驚きでした。

逆に言えば、介護脱毛に対する世間の関心が予想以上に高いものなんだなということもわかりました。

※介護脱毛について伊藤さんのコメントが掲載された記事はこちら(プレジデントオンラインの記事に遷移します)
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なぜそんなに介護脱毛をしたいのか?から見えてきた老後の不安

さて、今回は前回の追記という形で書かせていただきますが、ふと疑問に思ったことがあります。
それはなぜ介護脱毛をそんなにしたいのかということです。

介護職からの視点では、介護脱毛はしなくて大丈夫

もちろん介護脱毛は本人の自由です。
ただ、介護職からすれば、体毛があることは当たり前。
そこに気を使うことはありません。われわれ介護職は、陰部洗浄という技術を習得しており、陰毛があっても陰部を清潔に保つ専門性を身に付けています。

また、脱毛はお金がかかることですので、脱毛をしないと介護施設に入れないという風潮になる事は、むしろ経済的にゆとりがない方に対して不安を与えすることになります。なので、脱毛事態は本人の自由ですが、しなくても大丈夫ということはあらためて強調させてください。

要介護状態になったときの不安が、介護脱毛の根底に

では、なぜ皆さんは介護脱毛がしたいのでしょうか?

ある調査によると、40代以上の女性の6割以上が介護脱毛をしたいと回答したそうです。

そして、なぜ介護脱毛をするメリット関しては、「清潔さを保てる」「介護者の負担が減る」と考えられているようでした。しかし、これは将来的に要介護状態になることを前提としており、要介護状態になった時の「不安」が根底にあるのではと推察しました。


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自分でトイレ排泄ができない状況は「要介護3以上」

要介護3とはどんな状況か?

では、介護が必要な状況とはどんな状況でしょうか?

「陰部を見られるのが嫌だ。」「陰毛に糞尿がつくことで介護職に迷惑をかけるのが嫌だ」という状況を介護現場に置き換えると、ご自分でトイレ排泄ができない状況が想定できます。介護度でいうと要介護度3以上が想定できますね。

要介護3の定義を厚労省は、「日常生活動作及び手段的日常生活動作の両方の観点からも著しく低下し、ほぼ全面的な介護が必要となる状態」としています。現在、特別養護老人ホームへの入居条件は原則要介護度3以上となりますので、要介護3は、特別養護老人ホームへの入居レベルであることがお分かりでしょう。

そもそも要介護度が高くならないと、排泄介助は受けられない

もう少し解説すると、実はこの基準ができたのは平成27年で、それ以前は要介護1の方でも特別養護老人ホームに入居できました。なぜ特養への入居条件が厳しくなったかというと、高齢者が増加し、低い介護度の方を受け入れ入れていると本当に介護が必要な方を支えられないとなったからです。

つまり、皆さんが想定している「排泄を全介助でケアしてもらう状況」は、重度でなければ受けられないということです。

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「要介護3以上にならないようどうしたらいいか」を考えよう

脱毛ではなく、生活習慣病の予防にお金をかけよう

ここで提案です。
今皆さんが想定している未来は、さらに高齢者が増加し、よほど重度でない限り全介助でのケアが受けられないと考えられます。できる限り自分でできることは自分ですることが(自立支援)が強まる時代になると思います。

ではどうするか?
「要介護3以上にならないようどうしたらいいか」というところに僕は逆にお金をかけるべきだと思います。
要介護度3以上にならないためには、生活習慣病を予防すること。つまり、適量の運動、食事、睡眠、社会活動を通じ、健康寿命を伸ばすことです。
もちろん介護予防に力を注いだからといって100%要介護状態にはなりません!ということではないと思います。しかし、確率を下げる事はできると思います。

デンマークでは職業紹介の際、ジム通いが義務化されている

3年前デンマークに行った時のおはなしです。

ハローワークにて職業を紹介された際、職に就く前に公営のスポーツジムに通うことが義務付けられていました。運動の習慣をつけないとせっかく就職しても生活リズムを崩し、また職を辞する可能性が高いことがわかっているからです。
また、職につけない状況が続けば、社会参加ができず要介護状況になり、さらには社会保障費も圧迫する…。
そこまで考えて運動習慣をつくることを義務付けているんだなと感心しました。

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まとめ:健康寿命をのばして、いつまでも自分でトイレに行ける状態をつくろう

介護脱毛にかけるお金をスポーツジムの費用や趣味活動への費用、減塩食や栄養指導への費用に活用し、健康寿命を1日でも長くする。そして、健康寿命を少しでも伸ばすことは、日本の社会保障費を軽減させるとともに、自分の人生を豊かに生活し続けられる、いわば一石二鳥の策ではないでしょうか?

つまり、介護する人のことを思いやる前に「いつまでも自分でトイレにいける状況をつくりましょう」というお話でした。
本当に介護職を思いやるのであれば、介護が必要な人が増えないことがベストですよね。

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