■本日のお悩み
介護事業者の倒産数が多いというニュースが気になります。
今後、事業所や職員に必要なことはなんでしょうか。
共に発展し、地域社会のために持続可能な運営を
■解説者/専門家
資格▶介護福祉士/社会福祉士/介護支援専門員/潜水士/ 経歴▶けあぷろかれっじ 代表/NPO法人JINZEM 監事/ プロフィール▶ 『介護福祉は究極のサービス業』 私たちは、障がいや疾患を持ちながらも、その身を委ねてくださっているご利用者やご家族の想いに対し、人生の総仕上げの瞬間に介入するという、責任と覚悟をもって向き合うことが必要だと感じています。 目の前のご利用者に『生ききって』頂く。 私たち介護職と出会ったことで、より良き人生の総仕上げを迎えて頂ける為のサポートをさせていただく事が、私たちに課せられた使命だと思っています。 そんな想いから、『生ききる』為の支援の実践者を養成するため『けあぷろかれっじ』を設立。 介護職による介護職の為の有志団体として、セミナーを中心に活動しています。 ご本人やご家族、介護に関係のない一般の方々の想像を超える実践を目指し、現場への提案や助言、実践を行っています。
近年、介護事業所の倒産件数が増加しており、特にデイサービスや通所介護において影響が顕著になっていますね。
この激動の時代を乗り越えていく為に、近年の倒産や休廃業の動向と併せて、事業所や職員として必要なことをそれぞれの視点から掘り下げていきたいと思います。
■まずは、近年の介護事業者の倒産動向について整理しましょう
また倒産以外に事業を停止した介護事業者の休廃業や解散件数は510件にも上り2022年の休廃業・解散件数である495件を抜いて過去最多となりました。
近年は、2010年の調査開始以来、直近2年の間では最多を更新している状況となり、2023年は倒産件数と合わせると、630件以上もの介護事業者が事業を辞めている状況となっています。
出典:東京商工リサーチ 2023年「老人福祉・介護事業」の倒産、休廃業・解散調査
■次に倒産している介護事業者の内訳について整理しましょう
また、その他の事業者については、倒産件数はあるものの、2022年から比べると減少していることがわかり、比較的小規模の事業所の倒産が深刻化していることが伺えます。
高齢化が加速し、人口減少に転じている現代において、在宅介護の要ともなる訪問介護事業の倒産は、深刻な問題であると考えています。
1.訪問介護…過去最多の倒産件数を更新
訪問介護事業は、倒産件数67件となり、2022年の倒産件数50件(143件中)に対し、実に34.0%も急増
2.通所介護(デイサービス)・短期入所(ショートステイ)
通所介護、短期入所事業所の倒産件数は41件となっており、2022年の69件に対し、約40.6%減少
3.有料老人ホーム
有料老人ホームは、倒産件数4件となっており、2022年の倒産件数12件に対し、約14.7%減少
4.その他
その他の介護事業者の倒産件数は10件となっており、2022年の倒産件数12件に対し、約16.7%減少
社会福祉法人のサービス活動収益対サービス活動増減差額比率は近年急速に低下しており、特別養護老人ホームでも赤字となっている状況が報告されています。
いずれにせよ、財務諸表を始めとした経営指標を分析し、運営課題に対しての分析が必要になってきますね。
■倒産理由の考察/なぜ、倒産が増加したのか?
■人材不足/人材確保/人材定着の困難さ
人材が他業界へ流出する状況も相次いだ
そのような状況のなか、新たな介護職員の担い手が不足し、人材定着率も低い状況となっています。
人材不足が故に適切なサービスが提供できないなどの理由から、介護報酬の加算が難しくなり、経営財源が減少してしまい、またも人材流失。
上記のように損失が重なるという悪循環に陥ったことによって、事業者の存続が困難になったのではないかと想像しています。
また、職場環境の人間関係が悪化し、トラブルとなり人材確保や人材定着が困難となるというケースもあるでしょう。
人材不足に陥った状況では、トラブルが発生しやすくなるということも想像しています。
現在では、産業の多様化によりで介護職にこだわらなくても、働く機会が他業界で得られる状況があります。一方で、事業者内でのキャリアアップや給与アップを見据えたキャリアポストが少なく、中堅やベテランスタッフなどの役職者が他業界へ流出してしまうという状況もあったのではないでしょうか。
採用広告求人費用に多くの経費をかけたが採用に至らず、結果的に経営を圧迫しているという状況もあった可能性もあります。
■物価の高騰と経営課題
また、経営改善や努力に本気で力を入れてこなかった事業所やそもそも改善する方法がわからない経営者もいたのではないでしょうか。
超高齢社会での成長産業である介護事業として、業界の状況がよくわからないまま参入してしまった事業所もあり、思ったように経営ができない事業所もあった可能性があります。
また、長く経営をしている事業所であっても、経営層の高齢化で事業を任せられる担い手が見つからないなど、継続したサービス提供ができない事業所もあったでしょう。
以上の倒産理由の考察から、この激動の時代を乗り越えるために必要なことを、職員、事業所(経営者)それぞれに分けて、さらに考察をしてみましょう。
倒産増加のこの時代を乗り越えるための対策案
■介護職員の視点からの対策案
2.ルールを守り、共有する(不適切な対応をする職員を放置しない)
3.自己研鑽をすることで、ストレスを抱え込まない環境を整える
4.会議や委員会の意味を知り主体的に取り組もう
1.従業員の運営への意識的なかかわり
一人の影響は決して小さくはなく、その影響は事業所全体に広がります。
このような環境から人材定着は生まれませんし、人材不足の悪循環を引き起こしている要因の一つは、まさに従業員一人一人の思いやりや配慮の欠如にほかなりません。
対人援助の専門職としての発言や立ち居振る舞い、仲間への態度などの教育や意識づけは日頃から行う必要がありますし、経営者から管理者へ、管理者から中間管理職へ、中間管理職から一般職員へ言葉で伝えていくことが大切だと感じています。
2.ルールを守り、共有する(不適切な対応をする職員を放置しない)
不適切な対応が見られる職員がいる場合は、職員同士という間柄であっても、ルールやマニュアルを守る意識を共有したり、上司に相談したりするような関わり方を心がけるとよいでしょう。
また、人材不足が進むと、組織運営においてはこれ以上退職されては困る状況に陥ることがあるかもしれません。そのような状況では、不適切な対応や態度がある職員を放置してしまうという環境を作ってしまう可能性があります。
しかし、このような環境は、やる気のある職員のモチベーションが大きく損なわれます。その結果、良い職員が流失してしまうといったことをよく耳にします。
リーダーや主任などの役職を任せられている場合、辞められては困るという状況であっても、感情をぶつけるのではなく、就業規則に基づき、しっかりと指導すること、理念や規則、ルールに基づいた適切な指導を心がける必要があります。強く叱責する必要はありません。
指導した内容が改善しているかどうか、定期的に確認しながら関わり続けることをしていきましょう。
3.自己研鑽をすることで、ストレスを抱え込まない環境を整える
私たち専門職は、日々事故の知識や技術を振り返り、また新たな知識や技術を携えるために自己研鑽に努める必要があります。
経験測から提供されるサービスではなく、専門職としての言語化できる技術や知識を携えた、エビデンスに基づくサービスを提供することで、対応が難しい方のサービス提供も可能となり、スタッフ間での研鑽の機会や喜びを共有する機会等、ストレスを抱え込まない環境が整えられます。
4.会議や委員会の意味を知り主体的に取り組もう
その意味を丁寧に理解することで、現場で抱えている課題が明確になり、課題の共有が可能となります。それらの会での議論が活発化することで、スピード感をもって課題解決に取り組める環境が整えられ、結果として良い環境や事業所となるはずです。
■事業者の視点からの対策案
2.経費管理の最適化
3.人材確保と育成の戦略的な展開
4.研修プログラムの充実
5.労働環境の改善
6.組織全体へのサポートを示し、反応速度を高める
7.経済的なインセンティブの提供
8.経営層の意識改革
9.変革への積極的な姿勢
10.次世代のリーダー育成と評価の重視
11.効率的な業務プロセスの構築
12.地域との連携強化
1.経営戦略の見直し
新たな収入源の確保やビジネスモデルの見直しを検討しましょう。
1)事業計画の策定
長期的なビジョンを持ち、事業計画を立てて経営を進めましょう。特に、加算要件の把握や報酬改定時の情報収集、分析を行い新たな加算取得についての計画も行います。
今ではなく、しっかりと未来を見据えた戦略を立てていきましょう。また、最低でも半期に1度や都度の見直しを行い、流動的な市場や社会の動向に柔軟に対応できるように準備して備えておくことが必要です。
想定外を想定内に。
2)収益多角化の検討
他のサービスや事業を展開して収益の多角化を図ると共に、キャリアパスを明確に定め、スタッフのキャリアポストも用意していきましょう。
2.経費管理の最適化
食材費や光熱費、事務費、オムツ材料費、業者委託費などの運営コストを見直し、効率的な経費管理を行いましょう。費用対効果を検証し、できることを優先順位を付けて取り組んでください。
2)効果的な広告費の活用
ホームページやSNSを活用した採用広告や宣伝活動にかかる費用を最適化し、経営を圧迫しないようにしましょう。
3.人材確保と育成の戦略的な展開
先述した効果的な採用広告や宣伝活動に加え、採用活動でも、何に、いつまで、誰に対して幾ら費用を使用するのか具体的な計画を戦略的に立て、適切な人材を採用するためのプロセスを整備します。
2)人材育成プログラムの導入
職員のスキルアップを支援するプログラムを導入し、人材の定着を図りましょう。その際、スタッフのレベル別にそれぞれ違うコンテンツを用意していくとよいと思います。
3)研修プログラムの充実
職員を獲得しながら並行して行われるのが、定着のための整備です。
入職時からのオリエンテーションをはじめ、研修プログラムの充実を図ります。新入職員や経験者に対して、高品質な研修プログラムを提供してスキルを向上させ、職員のモチベーションを高めるとともに、企業理念や地域での役割など、具体的で明確な意思共有を行いましょう。
4)理念の共有
研修にはeラーニングを活用するなど、参集型で開催することが難しい事業所であるからこそ、効率化を図りながら重要な事業計画や理念については、入職初期や年度の切り替え時期には必ず従業員との共有ができる時間を確保してください。
5)若手職員の育成
若手職員を育て、次世代のリーダーを育成する仕組みを整えましょう。明確なキャリアパスを用意し、示してください。スタッフの課題や目標が明確になることで、日々の業務の取組に目的や意味が見出せます。
5.労働環境の改善
良好な職場環境を作り、職員同士のコミュニケーションを促進しましょう。
例えば、月に1度の管理職からの1ON1をリーダーへ実施し、リーダーもまた、一般職員との1ON1の機会を定期的に定めることにより、スタッフのモチベーションを保てる環境を整備できると思います。
2)柔軟な働き方の導入
フルタイム以外の働き方(パートタイム、フレックスタイム、リモートワークなど)を選択できる環境を整えましょう。働きやすい環境を整え、ワークライフバランスを重視している事業所は人気がありますね。
また、介護助手等の間接業務を担えるスタッフを雇用することで、効率化や一人一人のスタッフの負担軽減といった多角的な面からの働きやすい職場環境を整備することも可能です。
6.組織全体へのサポートを示し、反応速度を高める
経営層は職員の意見やフィードバックを真剣に受け止め、改善に活かすことが従業員からも求められています。対話が重要ということですね。
7.経済的なインセンティブの提供
競争力のある給与を提供し、職員のモチベーションを高めましょう。
地域の給与水準のリサーチは必要不可欠ですし、経営補助金等の活用も必要不可欠です。
経済的なインセンティブをいかに創出できるかも、スタッフの定着や獲得には重要な意味を持ちますが、経営指標とのバランスも重要となってきますね。しっかりと戦略的な計画を組み立てていきましょう。
2)パフォーマンス評価の公正性
職員のパフォーマンスを公正に評価し、適切な報酬やキャリアパスを提供しましょう。
処遇改善加算においても算定要件のなかに人材育成や研修、キャリアプランの作成などが組み込まれています。パフォーマンス評価の公正性を意識しながら、職場環境を良くすることは結果的に経済的なインセンティブの原資になると言えます。
3)ボーナスや手当の導入
職員の頑張りを評価し、ボーナスや手当を提供して、やる気を引き出しましょう。また、表彰制度など、学ぶ機会や技術の習得、事業所においての良質なサービス提供に資する従業員に対してのインセンティブの提供は、事業所全体の士気の向上が期待できますね。
8.経営層の意識改革
上述した項目を徹底していくことで、経営努力として人材確保や定着が実を結んでいき、人材が増え、新たな戦略の糸口や事業展開の機会が増え、好循環な経営へと変わっていくと思います。
2)ビジョンと価値観の共有
経営層は組織のビジョンと共通の価値観を明確にし、職員と共有することが大切だと考えています。
3)コミュニケーションスキルの向上
職員との適切なコミュニケーションを図り、信頼関係を築きましょう。対話のない(できない)経営者の近くに、支えてくれる従業員はいません。常に感謝を忘れず、しっかりと言葉として感謝を伝えていきましょう。
9.変革への積極的な姿勢
経営層は変化に対して柔軟であり、新たなアイデアや方法を受け入れる姿勢を持つことが望ましいといわれています。例えば、昭和平成令和という時代の変化から、セクシャルマイノリティーや情報リテラシーに対する考え方も大きく変容していますね。それらの時代の変化を敏感にとらえ、適応し若い世代からも教えてもらう姿勢が大切だと思います。
2)組織文化の改革
経営層は組織文化を見直し、イノベーションを促進する環境を作りましょう。より良き文化は継承し、深化させ、悪しき習慣は正していきましょう。その為には『当たり前を疑う』意識と判断するための品性や知性を高めていきたいですね。
10.次世代のリーダー育成と評価の重視
経営層はリーダーを育て、将来の経営者を育成する仕組みを整えましょう。
上記内容を履行していくことで、リーダー層とのかかわりも深まり、ご自身や組織が大きく成長していくきっかけになると思います。
11.効率的な業務プロセスの構築
DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用して業務プロセスを効率化したり、ICTの導入や情報共有の強化がとても重要です。
2024年度の介護報酬の改定においても、生産性の向上を行うためにICTの導入などは加算要件にも該当していますね。何をどのように活用することで、負担軽減や効率化が図られ、業務の生産性が高まるのか、計画していきましょう。
また、各種補助金についても押さえておきましょうね。
12.地域との連携強化
地域のニーズに合わせたサービス提供や連携を強化し、地域社会との信頼関係を築りましょう。
在宅サービスや入所系の事業者も行政や地域包括支援センター、医療機関、ケアマネジャー、地域に所在している他産業との協力・連携が必要です。
事業所に来てもらう機会だけではなく、事業所として地域に出向いていく機会も増やし、地域の中で、当たり前の関係を築いていきましょう。
以上が私の考える、これからの対策と実践内容だと思います。
皆様の介護事業所の存続と発展に寄与できることを期待しています。
共に発展し、地域社会のために持続可能な運営を行っていきましょう。
ささえるラボの人気コーナー、専門家が答える「お悩み相談室」では、介護職として働く皆様からの質問を募集しています。
・けあぷろかれっじ 代表
・NPO法人JINZEM 監事
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、潜水士