介護職員・並木マイの ほっこり成長日記 ~転職して、介護の仕事はじめました~
■監修者
作:伊藤 美穂
編集:株式会社サイドランチ
咀嚼が低下した利用者さんへの食事提供(食形態)、どうするのが正解だった?解説します。
執筆者
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
食べ物って本当に大切ですよね。
私は特養で勤務していますが、厨房のみんなには、「皆さんの仕事は、生活の源をつくる仕事です」と話をしています。
なぜかと言いますと、どんなに腕のいいリハビリの専門職や看護師、そして熱意、専門性で望む生活を支える介護職のチームが揃っていても、まず食事が取れる状態でなければスタートに立てないからです。
■食べることは、生きること。食事はすべての基礎になる!
食べ物からは栄養を摂取することができます。その栄養は、体をつくる元となったり、体を動かすエネルギーの原料となったり、体の調子を整えてくれたりします。
特養では年間約10名程度のお看取りをしていますが、食事がとれなくなってきたら自然と最期に向かわれていく方が多いです。
逆に言えば、100歳を超えるような長命の方の共通点はバランスよくしっかり食事を召し上がる方が多いです。これはお年を召してからそのような習慣になったのでははく、若いうちからバランスよくしっかり食べる習慣がついていたので結果、健康で長生きなのではないかと感じています。
■機能低下の度合いに合わせて、飲みこみやすい食形態で提供する
さて、マンガでは、甘党の利用者さんがフルーツケーキと聞いて楽しみにしていましたが、食べやすさを優先された形態ででてきたのでガッカリというお話でしたね。
咀嚼(そしゃく)とは、摂取した食物を歯で咬み、粉砕することです。
このときに食物と唾液とが混じり合い、これにより消化を助け、栄養をとることができるというメカニズムをいいます。
この機能が低下した状態で固いものを食べれば、飲み込みやすい状態がつくれないので、食べ物が喉に詰まって窒息というリスクもでてきます。
■専門家・伊藤さんの、新人時代の失敗談
実は私、新人の時、おやつを提供する際に大失敗をしています。
私の勤務する特養では15時のおやつは毎週日曜の訪問販売でご自分でおやつを選んで買っていただきそれを提供するというシステムでした。これは好評でしたね。なぜなら、誰しも好きなお菓子を買いたいじゃないですか。
Aさんという利用者さんがいました。
この方も咀嚼が低下してきていたのですが、500円玉サイズのミニどら焼きを購入されていたんですね。大好物だったんです。
そのミニどら焼きを新人の私は、柔らかいし小さいから大丈夫だろうとそのまま提供しました。
最初、よろこんで食べていたのですが、ふと振り返ると苦しそうなAさんが・・・そのまま飲み込まれてあわや窒息の場面でした。
あわてて、口に手をいれてかき出すことでことなきを得ましたが、もう少し発見が遅れたら亡くなっていたかもしれないとゾッとする事故でした。
■安易に禁止食にせず、専門職で提供方法を話し合う
この事故の後、私はどうしたかというと事故検討会議に参加しました。
そこには、上司、同僚、看護師、栄養士、言語聴覚士、歯科衛生士、ご家族が出席していましたが、話し合いのテーマはどうやって「見た目を損なわずにAさんの好きなミニどら焼きを提供するか?」でした。
もちろん、ミニどら焼きは危ないから禁止食にするというのが一番簡単ですよね。しかし、大好物なんですからなんとか安全に食べられるようにしたい。大好物が食べられないことはAさんのモチベーションにも影響します。
提供のプロセスにも一工夫を!
結果は、訪問歯科で再度入れ歯の状態確認、調整し、言語聴覚士が咀嚼嚥下の評価をする。その上で4分の1サイズならば食べられそうだという判断だったので切って提供するという内容でした。
そしてこの切って出すプロセスに工夫があります。
最初から4分の1で提供するのではなく、現物を見ていただき、切ることの了承を得てから切って提供するということでした。見た目と食欲は大きく影響しますよね。食べやすさ優先と言ったって美味しくなさそうな食事は食べたくないじゃないですか。
■まとめ:見た目がを考慮した食事は健康づくりに繋がる
最近フードロスの問題があります。見た目が悪いだけで味は一緒なのに廃棄処分になる野菜。結局は見た目に対する心理的な問題なのでしょう。まして口に入るものの意識が強く働いているのだと思います。
この心理を利用者さんを照らし合わせてください。自分だったらどうなのか?
ケーキは生クリームの部分は食べれそうですね。どの部分はそのまま食べれるのか?咀嚼力の評価と食材の評価をできればそのまま食べることができるフルーツケーキもあるかもしれません。
そういった工夫の積み重ねがバランスの取れた食事摂取継続につながり、しいては健康づくりにつながるのだと思います。
「見た目を考慮した食事」の組織的な追求をぜひお勧めします。
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今回のお話し
きざみ食や、ミキサー食…
食事のかたちは利用者さんの状態によって様々ですよね。
さて、今日のデザートはフルーツケーキのようですが…?
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咀嚼が低下してきた利用者さん。食事は小さくして食べています。
「今日のデザートはフルーツケーキですよ!」
でも、提供されたデザートにケーキの面影はなく…。
せめてデザートは原型のまま食べたかった…と思う利用者さん。
「次は形を見せられるように、厨房に相談しますね」
と声掛けをするマイさんなのでした。
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次回もお楽しみに♪
ささえるラボ編集部です。
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