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口を開けない利用者さん…食事介助が難しいときの観察項目7つ・対応5選を紹介します

口を開けない利用者さん…食事介助が難しいときの観察項目7つ・対応5選を紹介します

認知症の方への食事介助のポイントとは?食事介助で対応できるものと、再アセスメントが必要な場合の見分けも大切です。担当者会議を開催し、食事介助中に口を開けない利用者さんへの具体的な支援方法や状態を振り返って再アセスメントを!【回答者:後藤 晴紀 古畑 佑奈】


目次

口を開けない利用者さん…食事介助が難しいときの観察項目7つ・対応5選を紹介します

本日のお悩み

特養で介護士をしています。食事介助について悩んでいます。
私の施設には、声かけを行いながら唇にスプーンを軽くあてるも口を開けない、口を強く閉ざされる、唇でスプーンを押し返される利用者さんがいらっしゃいます。

私はほとんど食べさせることができないのですが、他の職員が介助すると7割以上は食べるそうです。
他の職員は、やり方としては「無理やり」と表現しています。
歯茎の隙間にスプーンを入れると口が開くとアドバイスされますが、どうにもそれをやろうとは思えません。
水分も口の端からこぼれてくる状態なのに、ちゃんと摂取できてると記録されております。

自分の介護士としての力量不足なのでしょうか?
何か食事介助の方法等アドバイスして頂けると幸いです。

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担当者会議を開催し、再アセスメントを!

ご質問ありがとうございます。

口を開いて下さらない入居者への食事介助についてですね!
質問者さんは、他のスタッフが介助し、7割以上の食事介助が行えているのにもかかわらず、自分はほとんど介助が行えない状況に、自信を無くされているのかと思います。
この問題は、多くの介護現場で発生しており、ご本人の『生ききる』支援の過程においても、非常に重要な問題だととらえています。

先に質問の回答と、質問者さんの介護力についてお答えした後に、ご本人の支援について回答させていただきます。

ご質問の回答

ご質問の回答としては、『早急にご家族も含めたサービス担当者会議を開催し、ご本人の支援方法の共有』を実施してください!

担当者会議の前にケース会議などで、食事介助中に口を開けない利用者さんへの支援の具体的な方法や状態を振り返り、再アセスメントし、方向性を多職種で決めておかれるのが良いと思います。

質問者さんの介護力について

何より、質問者さんの介護技術が劣っているわけではないことをしっかりとご自身で自信をもって認識して頂きたいと思います。

質問者さんは、なぜ他の方同様に7割の摂取介助が行えていないと思いますか?
それは、無理強いをしていないからです。

ご本人が苦悶の表情を浮かべ、歯肉にスプーンを押し込み、痛みを伴いながら強引に食べ物を口の中に入れることに、抵抗を感じているからではありませんか?

質問者さんは、介護力が低いのではなく、むしろ入居者の立場に立って考えられており、『食べたくない』とおっしゃっている入居者の声に気付いているからではないかと推察します。

ご本人の詳細な状態や普段の様子を伺い知る事は出来ませんので、安易にお答えすることは難しいですが、無理強いをしながら介助が提供されているのであれば、それは間違いです。

恐らくご本人には、『楽しい』『うれしい』はずの食事の時間が、『苦痛』や『恐怖』の時間だと感じられているのではないでしょうか。

おいしく食べられるはずもありませんし、口を開けてくださるはずもありません。
ケアプランにも、そのように介助を提供する事は明記されていないはずです。

サービス担当者会議で、多職種&ご家族と検討を

他の現場スタッフの対応が本当であるとすれば、残念ながら不適切であると言わざるを得ません。
ですが、責任感が強く、栄養をしっかりと摂取して欲しいという想いが不適切なケアを招いているのだと思いますので
共通した認識が持てるように多職種で対応を検討することが必要になります。

サービス担当者会議では、ご家族も現在の状況を知ることで想いや気持ちを整理したり、今後どうしてほしいのか発言して下さる可能性もあります。
いつまでも元気で笑顔で生活していただきたいと思う気持ちは、誰しも同じです。
ご家族であれば、なおさら昔の思い出やイメージが先行して今の状況を受け入れたくないという気持ちもあるかと思います。
そんなそれぞれの想いや気持ちが整理できるのも、担当者会議の必要性の一つですからね。

一方的な想いの押し付けではなく、入居者の願いや想いを汲み取るための場となること、それが入居者ご本人にとって、より良い支援の方向になることを心から願っています。
介護福祉の現場では、決して介護者への想いの押し付けで、入居者に苦痛を与えてはいけないという事を思い出さなくてはいけませんからね。

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ご本人への支援について~7つの観察項目~

それでは、ご本人の支援についていくつか確認をしながらアドバイスをさせていただきます。

① ご本人の口腔内の衛生状況はいかがでしょうか?

歯肉に腫れや痛みを伴ったり、虫歯はございませんか?口の中が痛いと、食事も食べたくなくなってしまうかと思います。
管理栄養士や歯科医師、歯科衛生士との連携が必要ですね。

② 日中の活動量はいかがでしょうか?

車いすに座っている時間が長く、疲れて食欲がなくなっているという事はありませんか?体調や体力に合わせて、臥床時間や離床時間の調整を行って下さいね。
機能訓練指導員や看護職員、介護職員との連携が必要ですね。

③ ご本人の覚醒状況はいかがですか?

脱水傾向にあったり、薬の影響で傾眠状態が続いていると、食事を食べる意欲も削がれてしまいますよね。
看護職員や医師、介護職員との連携が必要ですね。

④ 加齢に伴う心身機能の衰えはございませんか?

例えば私の施設では、適切にアセスメントを行い、心身機能の衰えから看取りに近づいている入居者には、好きなものを食べたいときに食べたい量で提供しています。

一食にこだわるのではなく、体力に応じて一週間でどの程度の食事量が摂取できているのか、体重の推移はどのようになっているのかなど総合的に判断しています。
こちらも、医師や看護職員、ご家族も含めて情報を共有し、現在の状態から今後の対応まで検討する必要があるかと思います。

⑤ ご本人が好んで飲まれたり、召し上がるものなどはございませんか?

補助食品として活用して頂けるものがあるかもしれません!再度ご家族に相談されるのも良いと思いますよ!

⑥ 変化が見られた際にご家族に報告をしていますか?その情報は多職種間で共有されていますか?

ご家族に連絡をするのは、生活相談員や介護支援専門員になるかと思います。
その為の必要な情報を多職種間でしっかりと共有できているかという事が肝要になります。
ご家族の事情にもよりますが、連絡をしてこないでほしいと思われているご家族でなければ状態変化がみられる際には報告する必要がありますし、ケアプランの変更も出てくるかと思います。

特にコロナの影響で面会が制限されている施設が多い中、ご本人の状況報告には心配りが必要ですからね。
私の施設では、状態の変化がない場合であっても、普段の様子などを定期的に報告していたりします。

⑦ 食事の時間という事をご本人が認識できていますか?

環境やメニューの説明などの声掛け、姿勢などのポジショニングは適切に行うようにしてください。
どれか一つが欠けてしまっても、おいしくお食事が食べられなくなってしまう事も少なくありませんからね。

最後に

以上が私の見解となります。
質問者さんは介護職員として能力が劣っているわけではございませんのでご安心ください。

ただし、今後は質問者さんが感じられた違和感について、リーダーや主任、相談員や介護支援専門員に相談をされてみてくださいね。
入居者を守れるのは現場の職員の気づきの力によるものが大きいのですから。

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食事介助に関連したお悩み

なかなか食事を摂らない利用者さん。怒鳴って介助をすれば食べてくれるなら、そうした方がいいの?

特養老人ホームで働いています。
利用者のなかに利き手骨折して自ら食べなくなり介助になった方がいます。
口は開くのですが、声かけをしても咀嚼ができず吐き出す状況です。栄養剤を飲み、食事は2~3口のみのときもあります。食事形態は色々試していますが難しい状況です。

この利用者に対して、「飲み込んで」「なんで出すの!出さないよ!」など強い口調で何度も言っている職員を目にします。利用者も「怖い!」「分かんないんだよ!」などと声を荒げることがあります。
その利用者は優しく声をかけても「怖い」と言うので、私は間をあけたり落ち着いてから再開するようにしているつもりです。

リーダーも含めその対応をしているので、無理にでも食べさせることがいいのかと考えてしまいます。
普段は話せば会話も弾むし笑顔も多い利用者なので怒号が飛び交っているとかわいそうと思ってしまうのですが、怒鳴ってでも食べるのであればその方がいいのでしょうか。

専門家からの回答

ご利用者さんの辛い気持ちを汲み取り、状態を改善したい一心での質問ですね。
とても深刻な質問だと受け取りました。

質問者さんも、悩み・考えながら対応している中で、状況が改善していかない事に心を痛めていることと思います。
そんな中、この相談室にたどり着いてくれたことをうれしく思います。
一人で抱え込まないで大丈夫ですからね。
質問者さんの行動が、このご利用者さんの笑顔に繋がるように回答させていただきます。

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この記事のライター

・けあぷろかれっじ 代表
・NPO法人JINZEM 監事

介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、潜水士

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