食事介助のポイントとは?正しい姿勢や手順、注意点を確認しよう
高齢になって自分で食事をすることが難しくなった人には、介護者が食事介助を行う必要があります。
食事は活力の源ですが、介助の方法を間違うと、要介護者にとって食事の時間が負担になったり、思わぬトラブルを招いたりすることもあります。
介護者が正しく安全な方法で介助し、声かけなどの工夫で食事を楽しめるようにすることが大切です。
そこで今回は、要介護者が食事をするときの基本の姿勢や手順、スプーンの入れ方、注意点など、食事介助のポイントを紹介します。
マンガ監修:望月太敦(公益社団法人東京都介護福祉士会 副会長)
食事の重要性
人が生きるためには、身体機能を維持し、活動に必要なエネルギーを得るために、食事を摂取し続ける必要があります。
もちろん、介護を必要とする高齢者も、食事から十分な栄養を摂らなければなりません。
ただし、食事が持つ意味は、単なる栄養補給だけではありません。
まず、食べることは要介護者にとって大きな楽しみのひとつです。
毎日楽しく、「おいしい」と感じながら食事を摂ることが、活力を生み、人生を豊かにします。
また、食事は、身体機能を維持するために必要な行為でもあります。
朝、昼、夕と規則正しく食事をとることで、消化酵素やホルモンのバランスが保たれ、生活や排便のリズムも整います。
さらに食べ物をよく噛むと脳の活性化につながるうえ、噛めば噛むほど唾液の分泌量が増加し、内蔵の働きが活発になるというメリットがあります。
このように、食事を楽しむことは、要介護者の心身にさまざまな良い影響をもたらすのです。
食事が難しくなる主な要因
私たちは普段あまり意識していませんが、人が食事をする際には、歯や舌、のど、食道といったさまざまな器官が最適なタイミングでうまく機能することで、食べ物を噛み砕き、飲み込んで体に取り込んでいます。
しかし、加齢とともにそれぞれの器官の機能が低下し、のどやあごの筋力が衰えるため、スムーズに食事をすることが難しくなってきます。
食事介助を行う介護者は、そのような高齢者の体の変化を知っておかなければなりません。
ここでは、高齢者の食事を妨げる身体機能面の主な要因を紹介します。
■噛む力が弱くなる
私たちは食べ物を口に入れた後、歯や舌、頬を使って細かく噛み砕いています。
高齢になると舌の運動機能が低下し、あごや頬の筋力も衰えてくるため、食べ物を噛む力が弱くなってきます。
また、人によっては、歯の本数が少ない、入れ歯が合わないといった要因も重なります。
噛む力が弱くなると、ゴボウやタケノコ、キュウリといった繊維質が多く硬い食べ物は食べにくくなり、おかゆやプリンのような軟らかい食事を好むようになっていきます。
要介護者の状態に合わせて、食べやすい大きさにカットし、軟らかく調理した食事を用意する必要があります。
■飲み込む力が弱くなる
口の中で食べ物を噛み砕いた後、唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすい形にすることを食塊形成といいます。
高齢になると唾液の分泌量が少なくなるため、食塊形成が難しくなってきます。
また、通常、食べ物が喉を通るときには、瞬時に喉頭蓋(こうとうがい)が気管の入り口にフタをして食べ物を食道へと導きます。
この動きを「嚥下(えんげ)反射」と呼びます。
ところが年齢を重ねると、のどの筋肉や靭帯の衰えにより嚥下反射がうまくできなくなってくるため、気管に食べ物が入ってしまう「誤嚥(ごえん)」が起こりやすくなります。
■味覚が鈍くなる
高齢になると、舌や口の中にある「味蕾(みらい)」と呼ばれる味を感じ取る器官の細胞が減少します。
そのため甘味、旨味などの味を感じにくくなり、濃い味つけの料理を好むようになります。
さらに嗅覚が衰えることで食べ物や料理の匂いを感じにくくなるため、食欲が刺激されず、食事を楽しめなくなることがあります。
■消化機能が低下する
加齢とともに胃液の分泌が減り、消化器官の機能も衰えてくるため、食事の後に胃もたれが起こりやすくなります。
不調が続くと、食欲不振につながることがあります。
■喉の乾きを感じにくくなる
高齢者は体内の水分量が少なく、脱水症状になりやすい傾向があります。
また、加齢とともにのどの渇きを感じる感覚機能が低下するため、体が水分摂取を必要としていても、喉の乾きを感じられない場合があります。
介護者は、要介護者が水分不足にならないよう、摂取量を確認しながらこまめに水分摂取を促す必要があります。
■認知機能が低下する
認知症や認知機能の低下も食事に影響します。
たとえば認知症の症状である「失念(目の前にあるものが何かわからなくなること)」が原因で、食べ物を食べ物として認識できなくなり、食事を拒否することがあります。
また、「失行(今までできていたことができなくなること)」という症状が生じて、食べ方がわからなくなってしまうこともあります。
このような場合には、介護者が「これはおいしい○○ですよ」などと声かけをする、実際に食べる動作を見せて真似てもらうといった対策が考えられます。
食事前の準備
■食事に集中しやすい環境を整える
食事前にはまず排泄を済ませ、テレビを消し、食事に集中しやすい環境を整えます。
食事を食べたいと思える雰囲気づくりも大切です。
■口の中を清潔にする
口の中が汚れていると、食事中に誤嚥した場合に細菌が体内に入って、誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。
予防のため、歯みがきやうがいなどで口の中を清潔にしておきましょう。
■声掛けで食べる意欲を引き出す
さらに、「今日のメニューは○○ですよ」「おいしそうですね」「お腹はすきましたか?」などと声かけをして、ちゃんと意識があるかどうかを確認し、食べる意欲を引き出しましょう。
■盛り付けは食欲が湧くように
ごはんを手前左、汁物を手前右、主菜(肉や魚)は右奥、副菜は左奥になるように配置します。
必要に応じて、スプーンや自助具も用意しましょう。
※地域の習慣によって異なる場合があります。
食事をとるときの正しい姿勢
人は食事をする際、飲み込み時には顎を引き、やや前かがみの姿勢になります。しかし加齢による筋力の低下や障がいによって正しい姿勢が取れなくなっていることもあります。
体のバランスを保ち、食べやすくするためにも、誤嚥予防のためにも、正しい姿勢を確保することが重要です。
■いすに座る場合の正しい姿勢
・いすに深く腰掛けてもらう
・足の裏が床にしっかりついているか確認する
・股関節と膝関節が90度になっているか確認する
・おへそのあたりにテーブルの高さを合わせる
・顎が引ける、やや前かがみの姿勢が取れることを確認する
■ベッドで食事をする際の正しい姿勢
・利用者にリラックスした姿勢をとってもらう
・麻痺などがある場合、身体が傾かないようにする
・背もたれを30度以上にギャッジアップする(利用者の状態に合わせて適宜対応します)
・ベッドの折れ目に腰が合っているか、ひざは軽く曲げた状態になっているか確認する
・顎が引ける姿勢になっているか確認する
・足の裏にクッションを置くなど、足の裏がずり下がらないようにする
■車いすのまま食事をする場合は?
本来、食事をする時はいすへ移乗したほうが望ましいですが、車いすのまま食事をする場合はフットサポートなどで両足の裏が床につくようにします。
※車いすに乗ると、体は自然に少し後ろに傾きます。これは食事の姿勢(やや前傾姿勢)とは逆になるため、真逆の姿勢と言えるでしょう。
食事介助のポイントと注意点
準備と姿勢が整ったら、食事を始めます。
要介護者が自分で箸やスプーンを持って食べられるうちは、介護者が様子を見守りながら必要に応じてサポートします。
自力で食事をするのが難しい場合は、介護者が食事介助を行う必要があります。次に、そのポイントと注意点を紹介します。
■介護者が隣に座る
介護者は必ず座って介助しましょう。
立ったままで食事介助を行うと、要介護者のあごが上がって食べ物を飲み込みにくくなり、誤嚥のリスクが高まります。
要介護者と同じ目の高さで介助することで、のどの動きや表情を確認しやすくなるのも利点です。座る位置は、要介護者の隣が基本です。
対面だと、見張られている感じがして落ち着かない場合があるので避けましょう。
片麻痺がある利用者の場合
片麻痺があれば、麻痺側に座りましょう。
麻痺側に食事がたまるためです。
■スプーンは下から運ぶ
スプーンや箸は、必ず下から要介護者の口に運ぶようにします。上から食べ物を運ぶと、要介護者のあごが上がり、誤嚥しやすくなります。
スプーンを口に入れたら、奥まで入れすぎないよう注意し、要介護者の唇が閉じたところで、やや斜め上に引き抜きます。
詳しい手順
①口に対してやや斜め下からスプーンを入れる
②舌の中央にスプーンを置く
③唇を閉じてもらい、上唇に沿って水平に近いやや斜め上に引き抜く
■適量を口に入れる
一口分の量が多いと、むせたり窒息したりする危険があります。かといってあまり少なすぎても、嚥下反射が起きにくくなり、ちゃんと飲み込めないことがあります。
適量は人によって異なりますが、ティースプーン1杯程度を目安にするといいでしょう。
■バランスに気をつける
要介護者が飽きないよう、ごはん、おかず、味噌汁などを交互にバランスよく口に運ぶのが基本です。ただし、食べたい順番は人それぞれなので、できる限り本人の希望に合わせるようにしましょう。
口の中が乾くと飲み込みにくくなるので、途中、お茶や水などで適度に水分を補給することも必要です。
■急かさず、ゆっくり進める
要介護者ののどの動きをよく見て、「ごっくん」と飲み込んだのを確認してから次の一口を運びます。
急かして食べさせると誤嚥の原因になるだけでなく、食事をするのが苦痛になってしまう可能性があります
。
高齢になるほど食事に時間がかかるようになるので、要介護者のペースに合わせ、十分な時間をかけて食事を進めましょう。
食事中に「ゆっくり食べましょうね」などと声をかけると、急いで食べなくてもいいのだと安心してもらえます。
ときには食が進まないこともあるかもしれませんが、無理に完食させようとせず、まずは食べられない原因を探って対策を考えてみましょう。
ただし、「食べたくない」「甘いものが食べたい」といった要介護者の要求を受け入れすぎると、栄養不足や脱水になって健康を害するおそれもあります。
介護者には、要介護者の気持ちと健康状態の双方を考慮しながら、柔軟に対応していく姿勢が求められます。
コラム ~口腔内の動きからみる、スプーンの入れ方について~
ここでは、食事の際のスプーンの入れ方について解説します。
その前に、口の中でどのようにして食べ物が飲み込まれるのかというメカニズムを知っておく必要があります。ご本人の口腔機能がどの程度の状態なのかによって、スプーンの入れ方も変わってきます。
■①先行期:食べ物を見つけ口腔内に入れる
食物を見つけ、見る、嗅ぐなど五感によって食べられるものであるかどうかを判断し、口に運んで口唇で取り込むまでの一連の動作を指します。
ポイント
これからお口の中へ食べ物を運びますよという事を認識していただかなくてはいけません。
声掛けと、スプーンに乗っている食べ物を目視していただきましょう。弱視や全盲の方には、丁寧に声掛けをしながら口元まで運び、唇にスプーンを触れさせることも有効です。
声掛けは忘れずに!!
■②準備期:食べ物を咀嚼し食塊にする
食塊を形成するため、口に入れた食物を咀嚼します。
舌は食物を上あごに押し付け、かたさや温度、味など、その食事がどのような食事なのか確認します。やわらかければ、そのまま舌と上あごで押しつぶし、舌の上で食塊を形成します。
噛む必要があるなと認識した場合に、舌を使って奥歯へと送って咀嚼します。また、大きな食物はまず前歯で砕いたのち、舌の上から奥歯に移していき、舌と頬によって奥歯で粉砕されます。
そうして、ペースト状や極刻み状になった食べ物は舌の上に集められ、飲み込める量の塊を作ります。この過程を「食塊形成」といいます。
ポイント(常食、きざみ食のスプーンの入れ方)
『極刻み』や『ペースト』状の食事形態は、ご本人の噛む能力や、飲み込む能力に合わせて形態を選択しているため、食事形態によって口の中へスプーンを入れる方法が少し変わってきます。
●常食
かむ力や舌の力、飲み込む力が十分にある方です。そのため、スプーンをお口と並行に差し入れ、そのまま引き出す形で十分に咀嚼が出来ると思います。
●きざみ食
常食の方よりも、かむ力や飲み込む力が弱くなっている方です。特に、口の中に食べ物が入って来た際に、舌で上あごに押し付ける力が弱まっている方が多いでしょう。スプーンを引き抜く際、前歯の後ろ側に押し付けながら引き抜くイメージでスプーンを抜いてみてください。そうすることで、ご本人のお口の中で食塊が形成しやすくなると思います。
■③口腔期:食塊をまとめ、飲み込む準備をする
舌運動によって、食塊を口腔から咽頭に送り込む時期です。
口腔期以後は、意識しなくても反射的に行われる運動です。
このとき、口唇は閉じて、舌の前方は上あごの前歯の付け根に押し当てられます。こうすることで、喉の奥に送り込みやすくなるんですね。
ポイント(極刻み、ペーストのスプーンの入れ方)
●極刻み
この食事形態の方は、口腔内の力がかなり衰えています。その為、そのまま飲み込んでも問題が無いほどに刻んであります。私たちでいうところの、噛み終えた状態に近いでしょう。
そのまま喉の奥に送り込みやすいように、スプーンは舌の中央に差し入れ、舌の中央に食事が乗るようにしてください。お口の中に運ぶ量は、一回で飲み込める量となることがお分かりいただけると思います。
上あごに押し付ける力が残っている場合には、前歯の後ろ側に押し付けながら引き抜くイメージでスプーンを抜いてみましょう。その際、口の中に食べ物が残っている場合、舌の上で食塊が形成できず喉の奥に送り込む力が無い状態だと思われます。飲み込みやすいように、舌の中央に乗せてあげるようにしてくださいね。
●ペースト
かむ力も、飲み込む力も弱まってしまっています。食塊も形成できない状態ですので、スプーンは舌の中央に差し入れ、舌の中央に食事が乗るようにしてください。こうすることで、舌で喉の奥に運び、飲み込むだけになります。
■④咽頭期:食塊を咽頭に送り込み嚥下する
■⑤食道期:嚥下した食べ物を胃へ送る
④⑤については、飲み込んだ後の反射となりますので、詳しい説明は省かせていただきます。
事業所に歯科医や歯科衛生士さんの訪問がある場合には、管理栄養士さんや、看護職員さんも含めてご相談されるのが良いと思います。
食事介助の流れ
■1.利用者への挨拶
まずは自分の名前を伝え、挨拶をします。利用者との関係性によっては自己紹介を加えると良いでしょう。
■2.利用者の状態の確認
・体調、気分の確認
「体調や気分はどうですか」と声掛けをしましょう。
・覚醒状況の確認
しっかりと目が醒めているかどうか、意識の状態はどうか確認しておきましょう。
・排泄の確認
お手洗いに行く必要はないか等、利用者に応じて必要な声かけをしましょう。
・姿勢の確認
いす・車いす・ベッドなど状況に応じて正しい姿勢を確保しましょう。
■3.食べ物や食事をする環境の確認
・エプロンの装着
・利用者の手洗いや手拭き
介助が必要であれば行いましょう。
・食事の温度を確認
温かいもの、冷たいものがおいしく食べられる温度かどうか、器をさわって確認しましょう。
■4.食事介助をする
・利用者の横に座り、利用者と同じ目線に合わせる
・食事の内容や献立の説明をする
食事をする楽しみを感じてもらうため、旬の食材や味付けなどの説明をしましょう。
視覚障害がある利用者の場合、食器の位置を時計の文字盤に例える「クロックポジション」も有効です。
・食事前に飲み物を促す
口腔内と食道を湿らせるとよいでしょう。
・相手のペースに合わせてバランスよく食事を進める
・利用者の喉や顎を見て、咀嚼と嚥下が行えているか観察する
声掛けをする際は、飲みこんだことを確認してからにしましょう。咀嚼や嚥下の最中に声をかけると、誤嚥の危険性があります。
また、誰しも食事中にジロジロと見られると良い気分にはなりません。利用者の状態を確認しつつ、適度に視線を向けるようにしましょう。
食後のケア
食後は、入れ歯を外して手入れをする、口内をゆすぐ、歯を磨くなど、要介護者の状態に合わせた口腔ケアを行います。
食事をとった後にすぐに寝てしまうと、食べ物が逆流するおそれがあるので、食後しばらくは座った姿勢のままで休んでもらうようにしましょう。
食事や水分の摂取量、食欲の程度などを記録することも、介護者の重要な役目です。
まとめ:要介護者に寄り添った食事介助で、食事を楽しい時間に
体が自由に動かせなくなり、趣味や外出の機会が減った高齢者にとって、食事は貴重な楽しみの時間です。
毎日の食事を心からおいしいと感じながら味わうことが、生きがいを生み、身体機能の維持にもつながります。
要介護者が食事を楽しめるかどうか、食べる機能を長く維持できるかどうかは、介護者の食事介助のやり方にかかっています。
体の状態や食への意欲、好み、習慣は人によって違うので、その人に合わせたサポートをすることも重要です。
基本の知識とスキルを身につけたうえで、積極的にコミュニケーションをとりながら、要介護者に寄り添った正しく安全な食事介助を心がけましょう。
■食事介助のポイントを動画でチェック!
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ささえるラボ編集部です。
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