【体験談】介護施設の施設長になる方法、求められること、仕事内容を解説
■本日のお悩み
介護職に興味があります。介護施設長もゆくゆくは目指せると聞いたのですが、施設長はどんな仕事ですか?なるための条件などありますか?
施設長になるために必要なこと(特別養護老人ホーム編)
■執筆者/専門家
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 プロフィール▶ 介護福祉士として8年の現場を経験後、33歳で特別養護老人ホームの施設長に就任。現在まで、4カ所の特養の施設長を経験。また、介護福祉士養成校の経営に携わる観点から福祉人材の確保定着をライフワークと位置づけ「茨城から福祉で世界を元気にするプロジェクト(いばふく)」を法人の垣根を超えて横展開している。 令和元年にNPO法人ちいきの学校を設立。元気なシニアが中心となって多世代が笑顔で暮らす新しいちいきをつくることにもチャレンジしている。 20年で培った現場経験と教員経験、管理者経験を生かして、認知症ケアから組織やチームマネジメントの悩みなど幅広く対応する。
ご質問ありがとうございます。
介護職にご興味があり、ゆくゆくは施設長にも視野に入れていらっしゃるとのこと。大歓迎です。私も施設長の端くれ、体験談も踏まえて施設長になる方法と仕事内容を解説します。
その間は8年で、33歳の時です(2009年ごろ)。
当時、現場上がりの施設長は少なく、事務長をやられていた方が施設長になるケースがほとんどでしたね。今は、時代が変わり、介護職から施設長になられた方の方が多いのではと肌感覚ですが感じます。
私が施設長になるために必要だったと感じる経験・知識・スキルは以下です。
- キャリア開発
介護福祉士としての介護職員としての経験のみではなく、社会福祉士とケアマネジャーの資格取得から各職種を経験し、多職種のマネジメントスキルを取得したこと - 職場の環境
施設長のポストがあったこと、就職先が人材育成を踏まえ、若い人材にチャンスを与えてくれる法人であったこと - 社会福祉施設長資格認定講習会の受講など
経営管理、人事・労務管理、財務管理の知識を学ぶこと
では、それぞれを詳しく解説します。
●生活相談員と施設ケアマネジャーの経験
介護現場に加え、生活相談員や施設ケアマネジャーの役割も経験しています。
・生活相談員の経験
生活相談員は、ご利用者ご本人の相談援助もちろん、そのご家族や医療、行政機関との連携、橋渡し役であり、ベッドコントロールを役割とします。
相談援助技術とともに、介護保険制度や収入に関する知識と意識を高める機会となりました。
・施設ケアマネジャーの経験
施設ケアマネジャーは介護の根拠であるケアプランを立案します。
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【情報収集】→【アセスメント】→【課題抽出】→【ケアプランの立案】→【多職種とご家族とのカンファレンスを通じたケアプランの合意形成】→【実行】→【評価】
上記のケアマネジメント(PDCAサイクル)をご利用者ごとに行います。
いわば多職種連携の中枢ですね。
このように私は、介護主任、介護課長という役職を経験する傍ら、介護職はもちろん、生活相談員、施設ケアマネジャーの役割も経験しました。
これらの経験は、施設長となる上で重要な礎となっています。
●多職種のマネジメントが可能なキャリア開発の成果
各職種の仕事内容を理解していなければ、マネジメントはできないため、介護職以外の職種を経験できた私のキャリア開発が現在の介護施設長というキャリアの土台となりました。
これらの経験と施設長のポストがあったこと、就職先が人材育成を踏まえ若い自分にチャンスを与えてくださる法人だったことが施設長になることができたポイントだったと思います。
●経営管理、人事・労務管理、財務管理の知識
この講習会では、経営管理、人事・労務管理、財務管理について学びました。
このように経営管理、人事・労務管理、財務管理についての仕事が発生するということは、介護の専門職と施設長は全く違う仕事であると言えます。
ここからは施設長の仕事を解説します。
施設長の仕事とは?求められる役割
■リーダーとマネジャーの違い
意外と一緒になってしまっている方が多いと思います。
この役割の違いを理解すると施設長の仕事内容が見えてくると思います。
私の失敗談から、解説しようと思います。
施設長の前の役職は介護課長でした。
介護サービス課の介護職員20名と、洗濯・清掃を役割とする介護助手の職員をマネジメントすることが役割でした。
【マネジャーとは管理する人】です。
つまり、介護サービス課の目標達成に向けて、仕事全体の管理や部下の指導や評価を行うこと、そして他セクション(看護課や給食課、総務課)との連絡調整も担います。
私は、ご利用者の方の望む暮らしを実現することを目標に掲げていましたので、その目標達成に向けて、約25名程度をマネジメントしていたわけです。
そして、このポジションから施設長になると大きな違いが現れます。
それは、【いちセクションのマネジャー】から【施設全体のマネジャー】となることです。
介護サービス課だけでなく、デイサービス、居宅介護支援センター、看護課、給食課、一気に総勢100名のマネジャーとなりました。
もちろん、各セクションにも管理者はいますが、全体に目を配らなければなりません。
まったく勝手がわからないセクションもマネジメントするには、仕事内容の理解がなければいけませんよね。
就任当初は、とにかく全セクションの仕事を理解するのに必死でした。しかし、必死の毎日にもかかわらず人が離れていきました。
なにか頑張りを否定されているようで、今思い返しても辛い日々でしたね。
そこで見かねた先輩施設長がアドバイスをくれます「どんな施設にしたいの?」と……。
【リーダーとは人を牽引する人、つまり施設全体の方向を示す役割】です。
要するに、離れていった人たちは、どこに向かっているかわからない組織で仕事することに不安を感じ離れていったんですね。
私の失敗とは、「この施設の存在意義はなんなのか=パーパス」をみんなと共有しなかったことです。
■施設長はリーダーであり、マネジャーである
どのような方向に施設は向かうのか?を発信する必要があり、また方向付けのためには、社会の動きを見なければなりません。
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・次年度の介護保険制度はどんな改正内容が盛り込まれるのか?
・介護人材は、どのようになっていくのか?
・高齢者や障がい者の方のニーズは、どのように変化するのか?
・介護ロボットなどのテクノロジーの変化は?
・競合施設の動向はどうか?
・自分の施設、組織の状況は?
そして、それを踏まえて、管理すべきはヒト・モノ・カネです。
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・事業目標を達成するために人の配置、評価、育成は?(ヒト)
・今までの介護サービスでお客様は満足しているのか?(モノ)
・昨年の収益を上回る稼働状況か?そして、その得たお金で更なるサービス向上につながる投資ができているか?(カネ)
私は介護現場出身ですが、むしろ異業種から転職してきた方が施設長として活躍しているとも感じます。それは、客観的視点で介護サービスを捉えることができるからでしょう。
質問者さんの介護業界への転職、ぜひお待ちしています。
こんな施設を造りたいという志があれば、必ず施設長になれると思います。
介護施設の施設長の仕事内容とは?3つのタイプで解説
■専門家・伊藤さんの体験談を通じて、3つの型をご紹介
結論から言うと施設長の型は1つではなく、いろんなタイプの施設長さんがいらっしゃると思います。
実は私自身、今日まで特養3ヶ所の施設長を対応させていただくにあたり、都度その型を変化させてきました。そのため、今回は、実際私が体験した3タイプの施設長の型をご紹介いたします。
1.現場型施設長(1年目〜3年目)
前述でもお話しましたが、私は介護職員を3年経験後、介護主任、介護課長を経て、入社9年目に施設長になりました。
現場が大好きだったため、施設長になっても現場から離れられず、介護支援専門員の資格を活かし、ケアプランも一部作成していました。現場命の熱血施設長です(自称)。
しかし、現場に口出しすることも多かったため、中間管理職である介護主任の顔が立たないこともありました。
つまり、現場に入り込み過ぎていたのです。木を見て森を見ず。
利用者さんおひとりおひとりを大切にする姿を職員に見せたかったし、専門職の施設長像を作り上げたかったのですが、一方で、併設するデイサービスや訪問介護、そして特養の目的である地域貢献、加えて、施設の経営に関しては力のバランスが弱くなっていました。
2.運営型施設長(3年目〜6年目)
「うちの施設長は、介護課長に毛が生えた感じだ」なんて痛烈な、そしてありがたい気づきを職員から言われ(笑)、現場は職員をもっと信頼して任せ、併設事業や地域、行政との関わりを大切に仕事をしようと心を入れ替えました。
その中であらためて老人福祉法、介護保険法にある基本方針や運営基準を学び直し、忠実に実行していくことにしました。
ちょっとずつ森をみるようになったんです。
「運営」とは、辞書で調べると団体などの機能を発揮させることができるように、組織をまとめて動かしていくこととあります。
その中で取り組んだのは「オムツゼロ施設」の認証です。当時、全国老人福祉施設協議会では竹内孝仁先生のもと、ベッド上で排便するのではなく、トイレで誰もが排便できるように支えようという講習会があり、全国から200を超える施設が参加していました。
結果、全国一位を達成し、表彰いただいた時はみんなで喜びましたね。
しかし、一方で経営の視点にはまだ目がいかず、人件費や改修費等のコストと収入のバランスは決して誉められるものではなかったのです。
3.経営型施設長(7年目〜13年目)
「経営」とは辞書で調べると「事業目的を達成するために、継続的・計画的に意思決定を行って実行に移し、事業を管理・遂行すること」とあります。
では、運営との違いはなんでしょう?
例えば、スポーツ大会は大会を運営すると言いますよね。つまり決められた資金やヒトの中で、効率的に大会を進めていく(目的達成に運んでいく)イメージです。
経営は、収益を最大化するために、ヒトやモノ(介護サービス)やカネ(資金)を活用する活動のこと。
では、この収益を何に活用するかというと地域サロンの運営や介護予防教室、認知症の会等の社会貢献事業や職員の給料アップ、施設の修繕や設備投資ということになります。
給料をアップするためには、その根拠となる人事考課制度や研修制度が必要です。また、設備投資としては介護ロボットやICTの導入がこれから求められるのではないでしょうか。すると補助金の申請や導入にあたっての組織マネジメントも必要でしょう。
また、これからの人材不足にも備え、外国人技能実習生や留学生の受け入れも必要かと思います。では、どのような団体と組むべきか?実際の国の状況は?などなど。
今だけでなく、5年先、10年先も社会福祉事業として継続するためには、いろいろと考え、ネットワークを築き、お金の動きを見ながら、経営理念達成に向けて組織を先導していくことが大切です。
つまり、これが仕事ですね。
■どのタイプでも共通して大切にすべきこともある
ということで3つの型をご紹介いたしました。
お気づきかと思いますが、これは13年、3施設の施設長人生における私自分の成長過程の振り返りです。
今現在「経営型」に行き着いたという結論ですが、共通して言えることは、第一にお客さまであるご利用者への視点、そして職員を大切に、最後に地域社会貢献のために行動することだと思います。
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