【2024年度】政府が806億円の補正予算を介護職に!
■執筆者/専門家
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)
「おっ!給料上がるの!」と思った方、「どうせたいして上がらない…」と思った方など、介護職の皆さんの反応は様々だと思いますが、深層心理は「なんかよくわからない」「そもそも知らない」「興味ない」という方が約9割ではないでしょうか…。
この記事では、そんな補正予算について背景や概要を解説していきます!
■そもそも補正予算とは?
当初予算は年度の初めに計画される一方で、補正予算は緊急性の高い課題や政策の修正が必要な場合に国会の承認を得て実施されます。
ちょっと難しいのでもう少し紐解いてわかりやすく説明していきます。
ー電車が止まって急な出費…こんな経験ありませんか?
例えば、皆さんが旅行の計画を綿密に立てるとします。いざ、旅行に出かけると必ずしも予定通りにいくとは限りませんよね。電車のトラブルで遅延、飛行機の乗車がうまくいかず遅延、台風や雪による欠航、これらの予想できなかった事象に対して移動料金が割り増しになってしまったり、やむを得ず宿泊することによりホテル代がプラスでかかったり…こんな経験はありませんか?
つまり、令和6年度の補正予算は、当初予算では予測できなかった介護業界が抱える深刻な課題(旅行でいうトラブル)に迅速に対応するために編成されたのです。
■介護業界の課題=他職種との賃金格差
今年、9月19日に全国老人保健施設協会等、9団体が共同で発表した「介護現場における物価高騰・賃上げ等の状況調査」によると、全産業の平均賃上げ率が3.62%に対し、医療・介護・看護業は2.19%で、業種別の賃上げ率で最も低い数字でした。※1
また、平均賃金で見てみても、介護職は、全産業平均と比較し、令和4年度6.8万円(全産業平均36.1万-介護職29.3万)の差だったのが、令和5年度には6.9万円(全産業平均36.9万-介護職30.0万)と拡大していることがわかります。ちなみに、ケアマネジャーの平均賃金は、37.6万円と全産業平均より高いため処遇改善の対象外となっていると考えられるでしょう。※2
※1出典:公益社団法人 全国老人保健施設協会 緊急!「介護現場における物価高騰・賃上げ等の状況調査」結果報告 記者会見を開催しました
※2出典:厚生労働省 令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果
■賃金格差は、人材不足の要因となる
「賃金差が拡大するということは、給料の高い他産業に転職してしまう介護職が増加する可能性がある、これからますます人材不足に陥っていく介護業界、緊急で歯止めをかけなければ…」というのが、今回の補正予算の背景です。
なぜ介護職の給与はあがらないの?
■加算(Ⅰ)の取得率が低いから
本質的に基本給が低いという課題はありますが、厚生労働省は「介護職員等処遇改善加算」の取得率に注目しています。この加算は、文字通り介護職員の処遇を改善するために設けられていますが、未だ、1.4%の事業所が取得していないのに加え、加算率の高い「加算(Ⅰ)」の取得率が73.6%になっています。(新加算は上記図のようにⅠ〜Ⅳの段階にランクづけ)
つまり、算定してないもしくは満額を得ていない事業所が26.4%あるということになります。「加算(Ⅰ)」を取得する施設が増えれば、介護業界全体の平均賃金向上に繋がるはずです。
■処遇改善を持続的におこなうことが補助金支給の条件!
そこで、今回の補正予算806億円も「すべての介護職員に満遍なく配布します!」ではなく、介護職員等処遇改善加算を算定している事業者かつ、生産性向上や職場環境の改善に取り組んでいる事業者に対象が絞られているのです。
■常勤1人あたり5.4万円に注意!
これをどのように分配するかは、事業所ごとに決定できるため、賃金の引上げとして活用することもできますし、職場環境改善の予算として活用することもできます。全員が5.4万円一律でもらえるわけではないという点は把握しておきましょう。
まとめ:生産性向上は賃金とサービスの質向上につながる
私たちが生産性向上に取り組んでいる理由は、今後、今までの職員数で業務を行うことができないことが人口統計上明白だからです。この課題に今から取り組まないと間に合わないという「警笛」が今回の補正予算であると私は感じています。
今までの業務がベストなのか?効率化を図れる業務はないのか?効率化によって生まれた時間で利用者さんの思いを叶えられた、喜んでいただけた=サービスの質向上。さらに、国からの一時金支給、このプロセスが介護職員のモチベーションとなり、従業員の定着率向上。そして、長く働く人が増えると、さらなるサービスの質向上…といったようによい循環が続いていきます。
単に賃金が上がったから仕事を頑張ろうとは必ずしもならないと私は思います。なぜ、賃金が上がったのか?って大事ですよね。
まだ、今回の補正予算の詳細なルールは出ていません。みなさん、ぜひ、今後の動向に注目しましょう。
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