介護職が利用者さんに依存されてしまった…そんなとき、どうする?
ゆりかごホールディングス株式会社 代表取締役 株式会社ゆりかご 代表取締役 茨城県訪問介護協議会 副会長 茨城県難病連絡協議会 委員 水戸在宅ケアネットワーク 世話人 介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士・看護師・介護支援専門員・相談支援専門員
依存心の強い利用者さまへの対応は困っているという方がとても多いですね。
私も「あなた以外は訪問されても断るからね!」と言われてしまい、困った経験があります。
■そもそも「依存」とはどんな状態か?
そのとき私は、「なぜ、強い依存関係になってしまったのか。」を振り返りました。
そもそも、依存とはどのような状態かを考えます。依存とは「自分以外の他者を頼りにして、自分が存在している状態」です。
私たちは社会にいます。複数の人々が、ある空間に、持続的に集まっている状態やその中での結びつきを社会と呼びます。私たちは物理的にも現実的にもひとりでは生きていけません。生きている以上、この社会において他者が存在します。
よって、誰しもが、誰かに依存しているということです。依存そのものは、決して悪いことではありません。
しかし、依存の強さによっては、色々な問題が生じるということがわかります。
■依存の強さは、互いの関係性によって決まる
では、依存の強さはどのように決まるのでしょうか?
それは、依存関係にある相互の関係性です。
私の場合で振り返りますと、利用者さまは、私に対して「他の誰よりも頼れる存在」として認識しているのか、または「他の誰かでは頼ることができない状態」として認識しているのかを考えていく必要があります。
■「誰がサービス提供しても利用者さんの目的が達成されること」は、介護の大原則
私たちが提供する介護サービスは、一定の質を担保しながら、持続可能な形で提供されなければなりません。
そのために、ケアマネジャーが作るケアプランがあり、ケアプランに基づき、各サービスにおいて個別支援計画が作成され、計画的に、利用者の目標達成のために支援しているわけです。
誰がサービス提供をしても、利用者さまは自分の目標を達成できるはずなのです。
「あなた以外は訪問されても断るからね!」という発言は、利用者さまの自分の目標達成という目的が、その目標を達成するための手段「介護サービスを受けること」と入れ替わってしまっていることがわかります。
また、他職員のサービスと自分のサービスに差異があることも一つの要因です。同じ質でのサービス提供ができていれば、そのように思うこともありません。
■利用者さんの特性によって、関係性が変化することも
相互の関係性以外の要因として、個人因子も関係します。目標に対して自分で何とかしようと思う人もいれば、自分で努力することを苦手とする方もいます。他者をどれくらい頼りにするかというのは人それぞれのため、利用者さまのアセスメントも重要になってきます。
■強い依存心がある利用者さんへの対応3つ(まとめ)
よって、
①利用者さまに、介護保険を利用する目的をしっかりと認識してもらい、目的と手段を間違えないようにすること
②サービス提供する職員間でのサービス内容や質の差を少しでも縮めて、なるべく誰が言っても均一なサービス提供がなされること
③利用者さまのアセスメントを行い、依存しやすいと思われる方へのアプローチは距離を保ちながら行うこと
これにより、強い依存心がある利用者さまへの対応ができると思います。
■チームで利用者さんへの向き合い方を見直していきましょう
この3つを行うためには、一人でも、一事業所でも難しいです。ケアマネジャーを中心としたチームとして方向性を統一し、きめ細やかな情報共有を行い続けることが大切であると考えます。
依存されてしまった後にも、改めて私たちを利用しているのはなぜかということを、ケアマネジャーにも同席いただき、ケアプランをみんなで確認しながら話し合うことが大切であり、自分たちが提供しているサービスをしっかりと見直し、利用者さまと一緒に、利用者の目標達成のためにがんばっていきましょう。
利用者さんからの介護依存に関連したお悩み
グループホームでの利用者様への対応について質問です。
初めてグループホームで働いているのですが「利用者様とのコミュニケーションは、依存されるからほどほどに』と言われてしまいました。
夜間何度も起きてしまう利用者様にも、「覚醒するから 話しかけないで」とも言われます。
私は「話しをしたほうが不安解消になるのでは?極端に言えば利用者様が職員全員に依存してくれたらいいのに」ぐらいに思っていますし
過介護を推奨しているわけではなく、会話って基本中の基本だと思います。
「職員全員が優しい声かけをしたら、特定の人に依存する事はないのでは?」とも思っています。
私は介護歴は10年あるものの、グループホームは初めてなので、不安です。
専門家の方の考えを聞きたいです。
相談者:まいこ さん
先輩がその考えに至った「原因」「しくみ」に目を向けてみましょう
新しい職場で、そのような言葉を受けてショックもあったかと思いますが
それに対しての返答でご質問者様のケアへの確信が垣間見え、とても頼もしい印象を受けました。
ご質問いただき、ありがとうございます。
端的にいうと、ご質問者様のお考えは間違っていないと思います。
■先輩の発言の背景を考えてみましょう
文中に登場する方は、同じの職場に勤めている先輩のお立場の方でしょうか?
私も現場に入る際や、介護職として働いていた際に全く同じことを言われたことがあります…。
自分はこう思うのに!と正しさで対応してしまうと、相手も防衛本能が働いて反発され、ご質問者様が望む結果から離れてしまうかもしれません。
ですので、ここはまず、先輩がどうしてそのような発言をしたのか、原因や仕組みに目を向けてみることで少し思考の転換をしてみたいと思います。
これまで、コミュニケーションを多くとってきた結果
その方は「依存されている」とか「覚醒させてしまった」と感じさせられたご経験があるのでしょうね。
そしてそれが、一見周りに迷惑がかかることだったり、自分以外に影響が及ぶことで「業務が回らなくなる」。
そんな風に指導を受けたりすると、そのような考えにおちいる方が出てくるのかと思います。
このような経験が数多くあると、人は同じ思考を強めてしまうものです。
そして、いわゆる「業務優先」の空気感があると、その対応が一番正しいとインプットされ、いつの間にか思考停止してしまい、発展的なことは考えにくくなってしまいます。
■ケアについて話せる仲間を見つけましょう
何か変化が起きないと、この空気感って変えにくいものです。
これは私の想像かもしれませんが、先輩にはもしかするとそのような過程があって、そんな発言になっているのかもしれません。
ですが、介護のお仕事での話なので、年を重ねるという事は依存先をいかに増やしていくか、ということでもありますし
専門職としてはもう一段、視座を上げて考えていきたいですよね。
ご質問者様は、ご自身の中で「ご利用者さんの支援はこうしてあげたい」という明確なケアの概念をお持ちです。
そしてそれが結果として、良い方向に向かうこともご存知なのかと思います。
今の職場では勤務歴は浅いかもしれませんが、これまで10年現場でご活躍でしたら、たくさんのご利用者様やケアの概念にも触れていることと思います。
そんなご質問者さんと同じように感じている方は、グループホーム内にいらっしゃらないでしょうか?
ひとりでこれまでの仕組みを変えていこうとすると、少し難しい場合が多いです。
同じように感じている、そんな職員さんがいないか、まずは探してケアの方向性について話せる仲間を見つけるのが良いかと思います。
■最後に
一人で立ち向かうのではなく、チームでの働きかけが大きな渦を生んでいきます。
そこから、ご質問者様の「もっと良いケアを」という思いがもっと叶っていきますようにと願っています。
社会福祉士、介護福祉士、認定排泄ケア専門員、排泄機能指導士