お悩み① 医師からコールを抜いてよいとの指示…でも罪悪感でいっぱいです
精神疾患のある利用者さんのコールが頻回であることについて、精神科の先生からは本人、家族に了解を得ればコールを抜いても良いと言われています。
でも、コールを抜くことは介護職として虐待をしているような罪悪感あります。有料老人ホームで働く介護職の対応としてこの対応は正しいのでしょうか?どのように解決したらいいですか?
相談者:匿名 さん
その人はなぜコールをするのか?自分に置き換えて考えてみましょう
ゆりかごホールディングス株式会社 代表取締役 株式会社ゆりかご 代表取締役 茨城県訪問介護協議会 副会長 茨城県難病連絡協議会 委員 水戸在宅ケアネットワーク 世話人 介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士・看護師・介護支援専門員・相談支援専門員
精神疾患のある利用者さんの頻回にわたるコールについては、苦労されているところも多いかと思います。ご質問いただいた方は、きちんと医師に確認をとっているということで、その対応も素晴らしいと思います。
■まずはコールを抜くことに違和感を持てたことが大切
個人的な意見を述べさせていただくと、「本人、家族に了解を得ればコールを抜いても良い」という内容には賛同できません。
いくら医師が良いといっても、ご質問いただいた方のおっしゃる罪悪感など、ちょっとそれってどうなんだろうという違和感を持てることが、とても大切ではないかと思います。
■利用者さんはなぜコールをする?自分に置き換えて考えてみよう
そもそも、なぜコールをするのでしょうか?
また、あなたがでコールをするときはどんな時でしょうか?
例えば飲食店に行った際に注文を伝えようとしたとき、私たちは店員を直接呼ぶ、もしくはコールを押して店員を呼ぶと思います。
おなかが空いていて、注文が決まったのに、店員さんが全然注文を取りに来てくれないとどんな気持ちになるでしょうか?
コールは自分の意志を表示するもの
自分に置き換えると簡単なことですが、コールができなくなるということは、自分の何らかの要求を他者に伝えることができないことになります。
そのような状況を本人が了解するでしょうか?
そもそも、この件に本人が了承できるのであれば、何度もコールはしないと思います。
家族は施設に遠慮している可能性も
また、家族への了承確認は、私は危険と感じます。
その理由は、本当に納得した上でご了承いただけているかわからないからです。
施設からこの内容についての連絡を受けた家族は、自分の家族が施設に迷惑をかけてしまっていると感じるでしょう。もしかしたら、施設で受け入れてもらえなくなるかもしれない、または本人にとって不利益なことが起こるかもしれないと感じてしまい、本心では納得がいかないが、仕方なく了承するというようなことになる可能性があると感じます。
■コールが頻回な利用者さんへの対応4つ
頻回なコールをされた場合、私たちは以下のような対応をしています。
1.コールの内容を精査する。
2.コールのあった時間帯、曜日などを分析する。
3.コール前後での出来事について情報収集を行う。
4.コールの対応方法について、情報共有する。
まず、コールの内容ですが、重要性の判断で、主語が「わたしたち」にならないように注意しています。
利用者さんにとって、そのコール内容がどのような意味、重要性を持っているのかという視点で検討します。
そして、コールをする背景や理由を分析します。
その理由や背景を理解するうえで、コールがあった時間帯や曜日に規則性がないかを確認します。また、コール前後の出来事の確認なども、コール内容と関連性があるかを見極めていきます。
これにより、コールをするまでの状況が明らかになり、その状況への対応策を行うことでコール回数が抑制されると考えます。
また、コールを受けた側の対応はどうだったかを顧みる必要もあります。
受けた側の対応によって、次のコールを発生させるということもあります。本人がコールをした目的をしっかりと汲み取った上で、適切な対応ができているかを検討していただきたいと思います。
■「コールを抜く」以外の対応を検討して
ご質問いただいた方の事業所にも様々な都合があるかと思います。
しかし、コールを抜くという行為は、たとえコールの回数が減ったとしても、別の事故が発生する要因となり得るのではないでしょうか。
折り合いをつけるという妥協はすべきではなく、ご自身が感じている罪悪感に素直に向き合い、コールを抜く以外の方法を再考いただきたいと考えます。
お悩み② 耐えきれなくてナースコールを抜いてしまった…私は介護士失格?
ナースコールが頻回なおじいちゃんがいて、耐えきれなくて、ナースコールを抜いてしまいました。
これって犯罪ですか?
僕はもう、介護職にはむいていないのでしょうか?
相談者:さかな さん
余裕がなくなってしまった要因を分析し、状況に応じた対応を具体的に考えましょう
日々のお仕事、お疲れさまです。
きっとこれを読んで、質問者さんの気持ちに共感する介護職の方が大半なのではないかと思います。
ご質問にお答えする前に。
質問者さんが「耐えきれない」と感じた気持ち、とても理解できます。
でも、私たちは介護に「仕事」として関わっています。
それを踏まえた上で、お伝えしますね。
■ナースコールを抜くことは虐待にあたるか?
まず、ナースコールを抜いてしまったことについて。
質問文を拝見し、大変なことをしてしまった、というお気持ちなのだと思います。
高齢者虐待防止法では、「必要な用具の使用を限定し、高齢者の要望や行動を制限させる行為」を虐待と定義しています。
その具体的な内容として「ナースコール等を使用させない、手の届かないところに置く」と挙げられています。
ですから、ナースコールを抜くという行為は、虐待に該当します。
■やってしまったことは反省し、繰り返さないようにする
質問者さんは、そのことを職場のどなたかに相談できましたか?
それとも、職場の人には言えていないけれど、勇気を出してこちらに投稿してくださったのでしょうか?
いずれにしても、自分の行為に疑問を感じ、質問をくださったあなたは、真面目な方なのだと思います。
私たちには、なによりもまず、サービスを利用されている方々の権利を守る責任があります。
してしまったことについては、反省をして、振り返り、何よりこれから同じことを繰り返さないということが重要です。
■なぜナースコールを抜いてしまったのか?対応策も考えましょう
さて、ではなぜナースコールを抜いてしまうほど余裕がなくなってしまったのか。
おそらく理由は1つではなくて、いろいろと考えられると思います。
できれば、1人ではなく職場の方とお話し、時間を取って振り返り、対応策を考えてみましょう。
対応策は出来るだけ具体的な方がいいと思います。
「こういう状況になったらこうする」という行動を決めておくと、考える余裕がない場面でもその場の対応が取りやすくなります。
また、人間ですから誰しも仕事以外のことで気持ちに余裕がないときもあります。
そんなときは無理をせず、日々、自分を労わることも大切にしてくださいね。
■介護の仕事は自身の人間性と向き合う仕事
数分おきに鳴るナースコールに対応した日は、家に帰ってからもナースコールの音が聞こえるような気がするなんて方も多いと思います。
利用者さんにとっては一人ひとり、何かしらの理由があって、時に必死に、時に遠慮しながら押しているということ、そして究極的にはナースコールが鳴る前に声がかけられることを目指すのが私たちの仕事であるということを、最後にお伝えしたいと思います。
介護の仕事は、自身の人間性と向き合わなくてはならない仕事ですが、自分が完璧な人間ではないと理解するからこそ、他者にも寛容になれるのではないかとも思います。
どうか、今回の出来事を自分だけの課題として抱え込まず、いろいろな角度から考えてみてください。
応援しています。
ゆりかごホールディングス株式会社 代表取締役
株式会社ゆりかご 代表取締役
茨城県訪問介護協議会 副会長
茨城県難病連絡協議会 委員
水戸在宅ケアネットワーク 世話人
茨城県介護支援専門員協会 水戸地区会幹事
茨城県訪問看護事業協議会 監事
水戸市地域包括支援センター運営協議会 委員
水戸市地域自立支援協議会全体会 委員
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
日本社会事業大学大学院 福祉マネジメント研究科 在籍中
介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士・看護師・介護支援専門員・相談支援専門員・FP2級