介護職が間違えやすい医療行為4選 その理由も解説
介護職が普通におこなっていた仕事の中には、2005年以降、医療行為とされたため実施できなくなったものがあります。
この記事では4つの例をあげ、なぜそれが医療行為となったのか?なぜ介護職が行ってはいけないのか?専門家の経験談を交えて解説します。
介護今昔物語~それ、実は医療行為かも?~
執筆者
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
私は20年前介護職に就きました。
当時は当たり前に対応していましたが、現在は医療行為としてできなくなった行為があります。
きっかけは2005年に厚生労働省が示した「医師法17条、歯科医師法17条及び保健師助産師法第31条の解釈について」によるルールの明確化です。
現役の介護職の皆さんからすれば「えっ!」と思うかもしれない、そんなお話のご紹介します。
■①水銀血圧計での血圧測定
水銀血圧計を知っていますか?
そもそも水銀血圧計を見たことがない・・という人もいるかもしれません。
20年前は、電子血圧計は正確性がないので使用するとしたら体調不良が見られない方、体調不良が見られる方は正確性の高い水銀血圧計というのが常識でした。
介護福祉士養成校では、ダブルステート(聴診器の耳側が二つに分かれている)を使用して二人で水銀血圧計の音を確認する授業もあったんです。試験もありました。
電子血圧計での測定なら介護職もOK
しかし、今は医療行為です。
技術の進歩により電子血圧計の正確性が医療的に認められたのと、マンシェットを腕に巻いて聴診器をどこにあてるか?どういった音で数値を判断するか?は医学的知識習得が必要と判断されたんですね。
現在は、正確性の高い電子血圧計での血圧測定は介護職でも可能、電子血圧計で測れない場合は、医療につなぐという形となった介護今昔物語です。
*2021年1月以降、水銀が環境汚染につながる為、水銀血圧計や水銀体温計は製造・輸入中止になっています。
■②一包化されていない薬の提供
そもそも「一包化」とは?
一包化された薬とは、数種類の薬を服用時刻ごとにひとまとめにすることで、主に薬剤師が行います。
これにより薬の飲み忘れや飲み間違いを減らすことを目的としています。
命の危険に繋がる誤薬を防ぐため
一包化されていない薬の提供は医療行為です。
なぜなら、一包化の指示は医師が行うからです。
誤薬は命の危険にもつながります。
例えば、血圧が低い方に降圧剤を飲ませてしまったら低血圧症を引き起こす可能性がありますよね。つまり、薬の専門知識がない介護職が、一包化されてない薬を提供することは根拠のない危険な行為となりうるため、医療行為となったという介護今昔物語です。
20年前、短期入所の方がビニール袋にバラバラと薬を持ってきたことがあります。薬袋を見ながら服薬介助をしましたが、今ではNGですね。
■③条件を満たさない爪切り介助
昔は爪白癬でも介護職が対応していた
「痛い!」介護職として駆け出しのころ、爪切りで失敗したことがあります。
その方の爪は大きく膨れ上がっていました。いわゆる爪白癬の爪です。
看護師からニッパー型の爪切りを渡されて「伊藤くん、切ってあげて!」なんて言われたものですから、怖いと思いながらも何の疑いもなく切り始めました。しかし、爪を少し動かしただけでも痛かったようで、結局、看護師にバトンタッチした事例です。
現在、介護職ができる爪切りの条件3つ
現在、介護職が対応できる爪切りは条件があります。それは、
①爪そのものに異常がない
②爪の周囲の皮膚にも化膿や炎症がない
③糖尿病などの疾患に伴う専門的な管理が必要ない
の3点です。
この事例は、①②の条件を満たさないので介護職はNGですよね。私に爪切りを頼んだ看護師は今でも活躍するベテラン看護師ですが、私を成長させようとたくさんのことを教えてくれました。
決して自分が楽しようなんてことはありません。ただルールが明確でなかったという介護今昔物語です。
■④インスリン注射
昔は介護職員が代わりにインスリン注射を打っていたことも
「Bさん、朝のインスリン注射お手伝いしますね。ちょっとチックとしますね」
Bさんは糖尿病(朝食後にインスリンを接種)ですが、認知症のない方でした。
そのため、インスリンペンを使用し、ご自分で接種されるのをサポートすることが介護職の対応内容でしたが、実際は「手が震えるからやって欲しい」との訴えがあり、介護職が接種していたのが実情でした。
現在はできるように訓練or看護師が実施
これも20年前の介護今昔物語です。今や明確な医療行為でNGですよね。
では明確なルール化された以降はどうしたかというと、理学療法士と一緒に自分で接種できるよう機能訓練を実施したり、看護師の勤務を調整し(早番をつくった)、Bさんのサポートに入れるようにしました。
まとめ:なぜ医療行為なのか?という理由も一緒に学ぼう
いかがだったでしょうか?2005年以前、以後で介護職の医療行為についてのあり方が変化したことをお分かりいただけたなら幸いです。
正直、このルールを初めて聞いた時は「なんで!今までやってたのに!」なんて生意気なことを言ってた思い出があります。
しかし、改めて、自分の行為を専門的医療知識があったのかという観点から振り返れば、ただ行為をしていただけだったと恥ずかしくなりました。
これは対応可能、これはダメという漠然とした知識習得でなく「なぜ医療行為なのか?」を学んでください。きっと介護の専門性が高まると思います。
茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)