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訪問介護ができること、できないこと~医療行為との境目を知る~

訪問介護ができること、できないこと~医療行為との境目を知る~

介護職は医療行為(医行為)にあたるサポートはできないものとされています。しかし、日常生活を支える介護の現場において、この境目の判断は難しいものです。そこで、この記事では改めて、介護現場における医療行為(医行為)について解説し、介護職ができることと、できないことを解説します。【執筆者/専門家:脇 健仁】


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介護職は医療行為(医行為)ができない!できることを確認しておこう!

執筆者/専門家

脇 健仁

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/22

ゆりかごホールディングス株式会社 代表取締役 株式会社ゆりかご 代表取締役 茨城県訪問介護協議会 副会長 茨城県難病連絡協議会 委員 水戸在宅ケアネットワーク 世話人 茨城県介護支援専門員協会 水戸地区会幹事 茨城県訪問看護事業協議会 監事 水戸市地域包括支援センター運営協議会 委員 水戸市地域自立支援協議会全体会 委員 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 日本社会事業大学大学院 福祉マネジメント研究科 在籍中 介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士・看護師・介護支援専門員・相談支援専門員・FP2級

介護職として働くなかで、医療行為(医行為)を行うことが禁じられているのは、多くの人にとって認識があることでしょう。しかし、日常生活のサポートを行う介護業界、特に訪問介護においては、医療行為(医行為)と身体介護や生活援助の区別に悩む方も多いのではないでしょうか。

この記事では、訪問介護事業の運営にも携わる脇先生に、介護職ができること、できないことについて解説していただきます。

はじめに:医療行為の定義から確認しよう

まず、医療行為とは何かについて確認いたします。厚生労働省通知「医療法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」によると、

医師、歯科医師、看護師等の免許を有さない者による医業(歯科医業を含む。以下同じ。)は、医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条その他の関係法規によって禁止されている。ここにいう「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。
出典:厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)〔保健師助産師看護師法〕


とあります。ここでいう「医行為」が「医療行為」と同義であると考えられます。法律上、「医行為」と呼ばれていますので、この記事でも、以下「医療行為」を「医行為」と明記します。

次に、医行為の範囲についてですが、同通知によると、

ある行為が医行為であるか否かについては、個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要があるが、介護現場等において医行為であるか否かについて判断に疑義が生じることの多い行為であって原則として医行為でないと考えられるもの等については、これまで、「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(平成17年7月26日付け医政発第0726005号厚生労働省医政局長通知。以下「平成17年通知」という。)等においてお示ししてきたところである。
出典:厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)〔保健師助産師看護師法〕


と記されています。つまり、医行為とは、医師の医学的判断および技術によらないと人体に危害を及ぼす、または及ぼすかもしれない行為のことを言い、個別具体的に判断しなければならないということですから、明瞭な境界線は無いということになります。

医行為ではない行為とは?

さらに同通知では「介護現場等において医行為であるか否かについて判断に疑義が生じることの多い行為であって原則として医行為でないと考えられるもの」を明示しています。

これらは原則的に介護職員が行ってもよいという行為になるとしています。ですので、「介護職員が行ってよい医行為はない」ということを理解しておきましょう。これから下記に挙げる行為は、原則として医行為ではないと判断するから介護職が行えるものとなります。

平成17年の通知として示されたものと、令和4年に追加されたものに分けて提示していきます。

【平成17年7月26日の通知として示されたもの】
1.電子体温計による腋窩での体温測定・耳式電子体温計により外耳道での体温測定
2.自動血圧測定器による血圧測定
3.新生児以外へのパルスオキシメーターの装着
4.軽微な切り傷、擦り傷、やけど等について、専門的な判断や技術を必要としない処置
5.3条件を満たした場合での医師の処方を受けた、軟膏塗布(褥瘡処置は除く)、湿布貼付、点眼薬の点眼、一包化された内服薬の内服(舌下錠使用含む)、肛門からの坐薬挿入、鼻腔粘膜への薬剤噴霧※1
6.爪切りや爪ヤスリをかけること
7.重度の歯周病などが無い場合の日常的な口腔内の刷掃・清拭で歯ブラシや綿棒、巻き綿子などを用いて歯、口腔粘膜、絶に付着している汚れを除去し清潔にすること
8.耳垢除去(耳垢塞栓は除く)
9.ストマ装具の排泄物の破棄・交換
10.自己導尿を補助するためのカテーテルの準備、体位保持など
11.市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器を用いての浣腸※2
出典:厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)

※注意点※

※1:3条件について

1.容態が安定していること
2.医師や看護職員の連続的な容態の経過観察が必要ではない
3.誤嚥の可能性、坐薬については肛門からの出血など専門的な配慮が必要な場合ではない

※2:使用する浣腸器の条件

・挿入部の長さが5~6cm程度以内
・グリセリン濃度50%
・成人用の場合で40g程度以下、6~12歳未満の小児用の場合で20g程度以下、1~6歳未満の幼児用の場合で10g程度以下の容量のもの)



次に、令和4年度の通知で追加されたものをご紹介します。
1.インスリンの注射実施の見守りや準備、片付け
2.インスリン注射実施にあたり医師からの指示内容と実施する患者が測定した血糖値の範囲の確認
3.インスリン注射実施にあたりインスリン注射期の目盛りと医師から指示されたインスリンの単位数との確認
4.患者への持続血糖センサーの貼付・測定値の読み取り等の血糖値の確認
5.すでに患者の身体に留置されている経鼻胃管栄養チューブの再固定
6.経管栄養の準備(注入行為は除く)及び片付け(栄養剤注入停止行為を除く)※1
7.吸引器の吸引瓶の廃棄や吸引器の入れる水の補充、チューブ内を洗浄する水の補充
8.在宅酸素療法を実施している患者の「酸素流入が開始されていない状態での」酸素マスクや経鼻カニューレの装着などの準備や後片付け※2
9.酸素供給装置の加湿瓶の蒸留水交換、機器の拭き取りなど機器の使用に係わる環境の整備
10.在宅人工呼吸器を使用している患者の体位交換を行う場合に、医師や看護職員の立会いの下で、人工呼吸器の位置の変更
11.膀胱留置カテーテルの畜尿バックの尿破棄、尿量や尿の色の確認、チューブの固定しているテープが外れたときにあらかじめ明示された貼付位置に再度貼付すること
12.専門的管理が必要ないことを確認した場合に限り、膀胱留置カテーテルを挿入している患者の陰部洗浄
13.3条件を満たしたことを医師や看護職員が確認した場合に限り、処方薬であらかじめ薬袋等により患者ごとに分けられている服薬介助(水虫の薬や吸入薬なども同様)※3
14.新生児以外のものであって入院治療の必要のないものに対してのパルスオキシメーターの装着と動脈血酸素飽和度の確認
15.半自動血圧測定器(ポンプ式も含む)での血圧測定
16.食事(とろみ食を含む)の介助
17.義歯着脱及び洗浄
出典:厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)

※注意点※

※1:医師または看護師が行うべき特記事項あり

・鼻からの経管栄養チューブが胃に挿入されているかの確認
・胃ろう・腸ろうのび爛や肉芽などの状態確認
・チューブから胃や腸の内容物をひいて、性状や量から胃腸の状態を確認する行為

※2:医師または看護師または利用者本人が行うべき特記事項あり

酸素吸入の開始(酸素流入が開始されている酸素マスクや経鼻カニューレ装着を含む)や停止(酸素吸入中の酸素マスクや経鼻カニューレの除去を含む)といった行為

※3:3条件について

1.患者が入院や入所して治療する必要がなく容態が安定している
2.医師や看護職員の連続的な容態の経過観察が必要ではない
3.誤嚥の可能性など専門的な配慮が必要な場合ではない

介護職員等の特定行為とは?

医療と介護の連携

介護職員の特定行為とは、医行為のうち、痰の吸引等その他の日常生活を営むのに必要な行為であって、医師の指示の下に行われるものとされています。

具体的には鼻腔・口腔からの喀痰吸引、気管カニューレ内部の喀痰吸引、経鼻経管栄養。胃ろう・腸ろうからの経管栄養です。これらは、決められた研修を受けて、指導看護師による実技試験に合格し、認定特定行為従事者として登録したうえで、喀痰吸引等事業者(特定行為事業者)の登録を受けた事業所に所属していなければなりません。

すべての特定行為が不特定多数の利用者に実施できる第1号研修や、限られた特定行為を不特定多数の利用者に実施できる第2号研修、特定の利用者だけに限られた特定行為ができる第3号研修があります。訪問介護は第3号研修が対象となり、施設介護等では第1号または第2号の研修が対象となります。

医行為でない行為、「特定行為」に共通する大切なこと

最初にお伝えしましたが、医行為は、明瞭な境界線があるわけではありません。通知の原文をよく読んでいただくと、前述した医行為でない行為であっても、状態が悪化したり、専門的な判断や経過観察が必要になったりする場合などは、医行為となることがあります。

行うケアが医行為かどうかの判断は介護職員ではできません。だからこそ、医療従事者との連携が必須となるのです。特定行為については、すべて医師の指示書が必要になります。どういう状況であっても、介護職だけで判断することなく医療従事者と連携を取りながら確認していくことが大切です。

最後に:すべてのケアにおいて安全が担保できているか振り返ってみましょう

特定行為だけでなく、それぞれのケアにおいても、きちんと事前に手順書を作成しておく必要がある行為も多くあります。また、従事する介護職員の研修機会の確保、事業所としての危機管理体制の構築など介護職員個人だけでなく、事業所単位での体制整備がも要不可欠です。

ぜひ、事業所全体で日常のケアを見直し、普段の行為で医行為をしてしまっていないか、医行為でない行為でも、本当に安全が担保できているか、今一度振り返ってみていただきたいと思います。

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この記事のライター

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茨城県難病連絡協議会 委員
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介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
日本社会事業大学大学院 福祉マネジメント研究科 在籍中

介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士・看護師・介護支援専門員・相談支援専門員・FP2級

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