本日のお悩み:夫婦で入居している利用者さんに介護職員ができるサポートとは?
長年連れ添った家族と共に入居ができることは非常に安心感があると思います。
一方で、ヘルパーが24時間同居しているわけではないので、夫婦間での老老介護が必要となったり、その結果介護をする側が疲弊してしまう姿や、ニュースも見てきました。
介護職として、介護をする側の方にも何かできることをしたいと思うのですが、声かけのコツやサポートの方法があれば教えてください。
「老老介護」の現状を把握したうえでアプローチ方法を考えましょう!
■執筆者/専門家
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)
「老老介護」
これからの日本における大きな課題ですね。
老老介護とは、高齢者が高齢者を介護する状態のことを言います。
■老老介護は年々増加している
また、総人口に占める高齢者の割合も29.3%で過去最高となり、男女別では男性が26.1%、女性が32.3%となっています。 これらの数字は、今後も増加傾向で2040年の総人口に占める高齢者の割合は35%に達すると言われています。※1
これだけ高齢者が増加するということは、老老介護も増加するであろうことみなさんもお察しがつきますね。
では、実際、老老介護をしている方はいったいどれくらいいるのでしょうか? 2023年7月に厚生労働省が行った調査によると、同居して介護する世帯のうち、介護を高齢者が担う「老老介護」を行っている割合は63.5%を占めることが明らかになりました。※2 高齢者の人口が増えていくことが予想されている現在、老老介護の割合も、今後さらに高くなることは必須といえるでしょう。
※1 出典:総務省統計局 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-
※2 出典:厚生労働省 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況
■老老介護だけでなく「認認介護」も増加する可能性が高い
認認介護とは、認知症の方が認知症の方を介護する状態のことだそうです。
まだまだ一般的でない言葉ですが、2040年には高齢者の約15%(6.7人に一人)は認知症になるとの推計から、こちらもスタンダードな言葉となってしまいそうです。※
※出典:厚生労働省 認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計
老老介護の「共倒れ」を防ぐサポートをしていきましょう!
アプローチのポイントは以下の2つです。
2.介護者の精神的負担軽減
老老介護の一番怖いことは「共倒れ」です。
介護者の心身の負担が増大し、万が一倒れてしまったら、介護を受ける側も倒れてしまう。この状況を防ぐためには、介護を受ける側に適切な介護サービスが提供されているとともに介護者に対する適切な上記2つのアプローチができていることが重要です。
■【補足】そもそも住居型有料老人ホームとは?
介護が必要となった場合、入居者自身の選択により、地域の訪問介護等の介護サービスを利用しながら当該有料老人ホームの居室での生活を継続することが可能です。
出典:厚生労働省 有料老人ホームの類型
これだけだと分かりにくいので、皆さんにも耳馴染みのある介護付き有料老人ホームと比較してみましょう。
出典:厚生労働省 有料老人ホームの類型
つまり、何が違うかといいますと、介護付有料老人ホームは、施設が直接介護を提供しますが、住居型有料老人ホームは外部サービスを利用します。また、介護付有料老人ホームでは施設利用に介護保険が適用される場合が多く、住居型有料老人ホームでは個別の介護サービスに対して適用されます。
ということは、質問者さんは、外部の訪問介護として介護サービスを提供する際、介護者の疲れ、負担を目の当たりにして何かできることはないか?と思い質問されたことが推測できます。
また、みなさんがイメージしやすいよう男性80歳(夫:要介護2 軽い脳梗塞により麻痺まではいかないが日常生活動作等/ズボンの上げ下ろし、移動等に介護を要する)を女性78歳(妻)が介護していると仮定させていただき解説させていただきますね。
アプローチ1:介護者の身体的負担軽減
なぜなら、排泄介助の他に生活援助(掃除など)も利用したい、立ち上がり支援のために昇降型ベッドも借りたいとなることも想定されるためです。となれば、介護保険制度上のサービスだけでは足りない分を自費サービスで補うという形なりますが、月総額5〜6万円になってしまいそうです。
このように経済的負担を考えると奥様はなるべく自分でと考えるようになり身体的負担が増えてしまいそうです。また、質問者さんはおそらく身体介護でサービスに入られているかと想像します。身体介護だと30分以上1時間未満のサービスになりますのでその中でできることとなります。
■身体的負担を減らすための「介護指導」
以下に、具体的な介護技術や指導の例をいくつか紹介します。
2.介護用具の利用方法
3.体位変換や移動の介助技術
ー1.正しい移乗介助の方法
介護者が無理な姿勢や動きをしないように、ボディメカニクス(体の力を効率的に使う技術)を指導します。
例えば、移乗時には背筋をまっすぐにして、腰を曲げずに膝を曲げて体重を落とし、介護者自身の体重を利用して移乗を行います。これにより腰痛や肩こりを防ぎます。
ー2.介護用具の利用方法
ベッドから車椅子に移乗する際にスライディングボード(滑りやすい板)を使うことで、持ち上げる動作を減らし、スムーズに移動が可能です。これにより、介護者の腰への負担が軽減されます。
ー3.体位変換や移動の介助技術
ベッド上で体位を変える際に、スライディングシート(滑りやすいビニールシート)を使うことで、介護者が少ない力で体を移動させることができます。これにより、ベッド上での体位変換や体のずれの修正がスムーズに行えます。
アプローチ2:介護者の精神的負担軽減
心と体はつながっており、精神的にきつくなってしまうと、体調を崩したり、ケガをしてしまったりと身体的な影響が生じる可能性も高まると考えられます。
そこで、介護職ができるサポートとしては以下の通りです。
2.レスパイトケアの活用紹介
3.地域サポートネットワークの紹介
■1.声かけ
NGワードとなるのは、「頑張りましょう!」などとさらに頑張りを促すような声かけです。なぜなら、すでに十分頑張っているのに頑張りましょうと言われても「これ以上何を頑張ればいいの?」とさらに追い込まれることとなってしまうからです。
【介護者への声かけの具体例】
介護者が感じている苦労や不安に寄り添い、理解しようとする姿勢を示すことで、「理解されている」と感じることができます。
・「少しでも助けになれることがあれば言ってくださいね。」
介護者の孤独感を和らげ、サポートを受けやすい環境を作ります。
■2.レスパイトケアの活用紹介
しかし、NGワードがあります。それは、「何もしなくてもいいんですよ」という言葉です。
介護者は大変ではありますが、介護を自分の役割と捉えている場合がほとんどです。つまり、「何もしなくてもいい」という言葉は役割を奪ってしまう言葉になってしまうのです。また、自分の介護が悪かったのではないか?だから辞めろと言われているのではないか?とも捉えられます。
■3.地域サポートネットワークの紹介
たとえば、「介護の会」「家族の会」などです。これらは、地域包括支援センターやNPO法人が運営していることが多いですが、市役所などの行政に尋ねるといいでしょう。これらの会は、自分の思いを伝える場所がない介護者同士が集まり、思いを吐き出せる居場所となります。
質問者さんも悩みを人に打ち明けたとき、気持ちが楽になった経験はありませんか?解決策を伝えるのではなく、まずは思いを吐き出せる場、そして、大変なのは自分だけではないんだと感じられることが重要ですね。そんな場所の情報提供することも大事な支援ではないでしょうか?
最後に:老老介護に寄り添う視点を持ちましょう!
これから老老介護が増加する人口背景、経済的負担が抑えることによる介護者の心身負担増、訪問介護員として介護者に関わることでできることのポイントをお伝えさせていただきました。
これから介護人材不足がさらに進むことも老老介護が増加させる要因となるでしょう。質問者さんは、介護者としてこの問題に寄り添おうとする素晴らしい観点を持っていらっしゃいます。今回の回答がお役に立てば幸いです。
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茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
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