本日のお悩み:利用者さんが「詐欺に遭っているかも」と思ったときに介護職ができることは?
訪問介護に携わっていくなかで、このような場面に出くわす可能性は0ではないと思うのですが、もしも利用者さんが詐欺に遭っているかも、遭いそうと感じたとき、介護職はどのような対応をすればよいでしょうか。
詐欺被害の現状を知ったうえで対策を考えていきましょう!
■執筆者/専門家
株式会社ケアサービスひかり 介護福祉士/介護支援専門員 日本ホームヘルパー協会東京都支部 副会長 2000年4月より24時間365日型の訪問介護事業所の管理者・サービス提供責任者として医療的ケア児から障害・高齢者の在宅介護支援に携わっています。 ヘルパーは、利用者の伴走者であり、先導者でもあり、より安全な暮らしができるように生活見守り隊でもあります。ヘルパー自身も生きて活かされるこの魅力ある仕事を発信し、繋ぎたいと奮闘しています。
■詐欺の増加が原因で、利用者さんとの電話連絡が難しくなっている
それでも、振り込め詐欺などの特殊詐欺の被害は後を絶ちません。
市区町村では、居住する高齢者に自動通話録音機の貸し出しをしています。警告メッセージと録音機能により犯人に通話を断念させ、被害を未然に防止することが期待できるとされています。
■自動通話録音機の課題:便利だけど、使いづらさも
たとえば、警告メッセージが流れることで通話が始まるまでに時間がかかり、「急いでいるときには邪魔」と感じる方もいます。また、警告メッセージが利用者側にも聞こえる設定になっていると、「この電話は振り込め詐欺防止のため…」という音声を聞いて不安になり、電話に出るのをためらってしまう方もいます。
特に、認知症のある利用者さんの中には、そのメッセージを聞いて混乱し、電話を受けること自体が難しくなってしまうケースもあります。
高齢者が詐欺に遭いやすい背景
それでも被害がなくならないのは、高齢者が詐欺に巻き込まれやすい背景があるからです。次に、その背景を見ていきましょう。
■認知機能の低下と「わかったふり」
そのため、利用者さんは理解できていないことがあるにもかかわらず、そんな自分を認めたくない感情から、理解できないことを隠し、話を合わせようとする「わかったふり」をしてしまうこともあります。そしてその隙を、業者は巧みに突いてきます。
■不安・孤独・情報の偏りが詐欺を呼び込む
さらに、流行や情報に疎く、テレビ番組などで「○○が健康に良い」と紹介されると、すぐにスーパーで品切れになるような現象もよく見られます。
そして何よりも、高齢者の多くは孤独と隣り合わせの生活を送っています。 捨てられない物がたくさんあるのも、実は寂しさを埋めるための行動かもしれません。
これらが高齢者が詐欺に遭いやすい理由であると言えるでしょう。
【実例あり】「まさか自分が…」詐欺被害にあった高齢者の声
どの方からも共通して聞かれたのは、「まさか、私が詐欺に遭うなんて」という言葉でした。皆さん、自分だけは大丈夫だという強い思いを持っていたのです。
中には、高額な商品を購入してしまっても、それを「騙された」とは思わず、納得している様子の高齢者もいらっしゃいました。
■心の隙をつく詐欺の巧妙な話術
ある日、自動通話録音機に記録された通話を聞く機会がありました。そこには、利用者さんが勧誘の電話に対応している様子が残されていました。
最初は「騙されないぞ」という強い意志が感じられ、声のトーンも語気もはっきりしていました。「そんな売れるような物、持っていないわよ」と、いわゆる“押し買い”の電話をしっかりと拒否していました。
■言葉巧みに引き出される個人情報
「そうね、着物くらいは持っているわよ」と、相手が一度引いたタイミングで、つい話してしまったのです。さらに、「いつ頃買ったのか」という質問に対して、「娘が20歳のときに」と、家族の情報まで口にしてしまっていました。
別の録音では、「分からないですよね?」という問いかけに、「ちょっと待ってて」と言って受話器を置き、何かを探しに行ったまま通話が切れている場面もありました。
このようなセールスの電話は、話が途切れることなく続きます。利用者さんのちょっとした質問にも丁寧に答えながら、気づかぬうちに納得させられてしまうのです。
■信頼を装う巧妙な訪問販売の手口
強引に売りつけるのではなく、あくまで自然に話を進めることで、「この人は悪い人ではない」と思い込んでしまうのです。
さらに、知人の名前が出てくると、「あの人も買ったなら安心」と信じてしまい、結果として高額な寝具などを購入してしまうこともあります。
■ 第一印象と偏見が招く落とし穴
この経験から、「人は見た目で判断できない」ということ、そして「今どきの若者にしては…」という自分の偏見が、被害につながる可能性があることに気づかされました。
「相談できない」高齢者の心理とその背景
■相談窓口はあるのに、なぜ利用されないのか?
しかし、実際にはこれらの窓口を利用する人は多くありません。
■「恥ずかしい」という気持ちが相談の壁に
特に、社会的地位のあった方や、現役時代に責任ある仕事をしていた方ほど、「騙された」とは認めたくない気持ちが強く、周囲に相談することをためらってしまいます。
その結果、不要な物がどんどん増え、生活空間が物であふれてしまうケースもあります。 誰にも相談できず、ひとりで抱え込み、泣き寝入りしてしまうのです。
介護職が利用者さんの詐欺被害を防ぐためにできること
■日々の観察力=「気づき」の専門性を活かしましょう
例えば、以下のような様子が見られたら、詐欺の兆候を見抜くヒントになるかもしれません。

■情報共有と連携でチームとして利用者さんを守る
相談窓口の情報を把握しておくことも、いざというときの支援につながります。
そして何より、気づいたことや違和感のある出来事は、チーム内で共有しましょう。 1人では防げないことも、チームで連携すれば、利用者を詐欺被害から守る力になります。
まとめ:介護職の「気づき」が高齢者を守る力になる
だからこそ、日々利用者さんと接している介護職の「気づき」が、被害を未然に防ぐ大きな力になります。 ちょっとした違和感や行動の変化に敏感になり、チームで情報を共有したり、地域の相談窓口とも連携したりするなどして対応することが大切です。
利用者さんから「まさか自分が…」という言葉を、これ以上聞かないために。 介護職だからこそできる支援を、これからも一緒に考えていきましょう。
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