本日のお悩み
最近、ありがたいことに介護未経験の職員が2人入ってきてくれましたが、ひとりは数日、もうひとりは2ヶ月経たないうちに辞めてしまいました。
理由を聞くと「こんなにしんどいと思わなかった、自分にはできない」と言われてしまいました。
元からいる職員も熱心に教えていたつもりだったのですが、やはり慣れみたいなものは必要だと思っており、それには時間がかかると思います。
未経験の職員にこの仕事に慣れてもらい、働き続けてもらうにはどうしたらいいでしょうか?
アドバイスをください。
新人の個人的な問題以前に原因があるかも
ご質問ありがとうございます!
新しい仲間が来てくれるのは、本当に嬉しいですよね!
現場スタッフも待ち望んでいた入職だったのではないでしょうか。
これから一緒に働く仲間として、気合いを入れて育成にあたっていたことと思います。
入職後すぐの離職が多い職場の特徴3つ
新人職員にとって、新たな挑戦が始まる初日は、緊張とワクワク、不安が入り混じった特別な日ですよね。職場の雰囲気が良かったり、既存職員がやさしく声をかけてくれると、本当に安心します。現場の第一印象はとても大切で、今後の在職期間に関わってくる大切な日となります。
そのため、1日から数日で退職してしまう方の背景には、初日の指導者の影響や出勤している特定の職員の影響があると考えられます。
新人の個人的な問題や、施設のシステム的な課題以前に、改善しなくてはならないことがあるということです。
■①「厳しく指導されることが当たり前」の教育方針がある職場
『自分は丁寧に指導された経験がない、私の時代は厳しかった』などと武勇伝のように振り返る先輩職員がいるかもしれません。この発言自体に問題はないのですが、自分が受けてきたからといって新人職員にも同じような対応をしてしまった場合、離職に繋がるリスクは大きく高まります。
時代は流れ、移り行くものです。「昔の当たり前は、今の非常識」かもしれないということを先輩職員が理解できなくては、その事業所では常に人材不足に悩まされるでしょう。
ご利用者に向けるような丁寧な言葉掛けや笑顔は、新人職員を含めた同僚へも必要であるということですね。
事業所にいるたくさんの介護職員の中の一人が、厳しい口調で新人職員の失敗を叱責したり指示を出すことがあったとしたら、それだけでも離職の可能性は大きく高まります。
■②偏った指導思想や職人的な指導をしている職場
新人を放置し、「自分で考えて」「見て覚えて」と伝えていないでしょうか?
新たに入職してくれたスタッフに、期待せずにはいられないのも分かります。ですが焦ってはいけません。個人差もありますが、新人の育成には一定の時間をかけ、丁寧に関わっていく必要があります。
■③オリエンテーションが無い(少ない)職場
オリエンテーションには、施設でのルールや現状を理解してもらい今後の予測をイメージできるように丁寧に伝えることで、後々の『聞いていなかった』『こんなはずじゃなかった』『聞いていたことと違う』という不安や不満を軽減してもらうという意味もあります。
この説明が不十分であった場合も、離職リスクは高まります。新人職員が思い描いている理想と現実のギャップを、しっかりとすり合わせる必要がありますね。
新人教育で、絶対にやってはいけない育成方法と声掛け
現場での業務がスタートすると、「今から行う業務を見学していきましょう。」「まずは自分で考えて、わからない事があったら何でも聞いてね。」と一見優しい言葉を投げかけます。
実はこの言葉、新人職員にとっては不安を煽る一言です。
■新入職員は、何が分からないのかが分からない
新人職員は『わからないことが分からない状態』で入職してきます。考えても答えは出ず、何を考えればいいのかも分からない状態ですよね。そんな新人スタッフを横目に、育成担当は通常の業務手順として淡々と手際よく介護技術を披露していきます。
実はこの育成担当も、今回初めて新人職員の育成に携わる職員だったということも少なくありません。育成担当も、何をどのように伝えればよいのかわからない状態ということです。
このような環境で新人職員は、『こんなにテキパキ動けない』『どうしても覚えられない』という不安やストレスばかりが膨れ上がり、離職という選択が頭をよぎります。
■良かれと思って出した指示が、逆効果になることも
また、新人スタッフへの残酷な一言として『とりあえずコミュニケーションとっててください。』がありますね。
対人援助技術の中でも難しいとされているコミュニケーションを『わからないことが分からない状態』の新人職員へ課すことになります。新人職員の能力を大きく超える業務課題に対して、一人ポツンと佇むことしかできずに、自身の無力さに打ちひしがれることとなるでしょう。
このような場合にも、『この仕事は向いていないかもしれない』『何も教えてもらえない』等とネガティブな思考となり、『退職』という選択が頭をよぎるのかもしれません。
入社後半年間の離職率が高い介護業界
また、2ヶ月間必死に育てた職員が辞めてしまうのは、残された現任者にとっても残念な事ですし、次に入職してきたスタッフへの育成をしていくモチベーションにも影響してしまいますよね。
「教えてもまた辞めてしまうのではないか」と考えるようになると、質の高い教育を行っていくことも難しくなります。
この業界の問題の一つは、入職後半年間での離職率が高いということです。
「職場内の人間関係」が特に問題視されていますが、この「新人育成」も、離職率を高める大きな要因の一つです。
もちろん、向き不向きや、慣れという事も確かに必要ではあると思いますが、新人スタッフの問題だけではないという事です。
■モチベーションが維持できなくなってしまう理由は?
新しい入職者が混乱してしまったり、モチベーションが維持できなかったりする理由については、以下のような問題が指摘されています。
① マニュアル類が整備されていない
② 放置されて、何も教えてくれない
③ 人によって教え方や動きがばらばらで、何が正解なのかわからない。
④ 職場内の人間関係が悪く、愚痴や文句が多い
②④は今回話題にはいたしませんが、①③はいかがでしょうか?
ご質問者さんの現場では、育成制度は整備されていますか??
もし育成の制度はあるけれど、運用されていなかったり、内容が実務と乖離しているようであれば、見直す良い機会にしていただきたいと思います。
育成計画の見直しをしましょう
■未経験者の仕事の流れに合わせた育成計画を!
入職者が無資格未経験だった場合、介護の基礎知識がない中で、どのような流れで働いているのか整理してみましょう。
・ ご利用者のお名前と顔を覚える
・ 業務の流れを覚える
・ 介護の技術を覚える
・ 専門用語を覚える
・ 介護の知識を覚える
大まかな流れは以上のような内容かと思います。これらを同時に覚えていくわけですが、当然初日から半月程度は、「分からない事がわからない」状態が続きます。
そこで必要不可欠なのが育成計画です。
・ 育成期間を定める。
・ 何を理解してもらうのかの内容と量を決める。
・ できる事を明確にする。
・ その人のできることを整理し、分からないことを明確にする。
・ 新人スタッフ自身が、分からない事を分かるようにするための目標を設定する。
これらの工程を、面談やコミュニケーションを取りながらしっかりと伝えていく事が必要です。
面談やコミュニケーションの時間は、業務内の時間で行う事が望ましいですね。
以上のことが、入職者との信頼関係を築き、困りごとや不安を解消することと直結します。
■精神論ではなく、まず知識を伝えましょう
新人スタッフは、反復練習をする事で作業には慣れてくるかもしれません。
しかし、例えばボディメカニクスの理解や知識が得られていない場合、身体には想像を越える負担が掛かっているということも、育成者側は理解をしなければなりません。
正解をきちんと伝えないと、何が正しいのか分からない状態で、不安は解消されていきません。
もしかすると、「こんなにしんどいとは思わなかった」という発言の裏側には、このような要因が潜んでいる可能性があるかもしれません。
人は理解できない事、知らない事には、拒否感や抵抗感を感じてしまう生き物です。
そこに過度な負担がかかれば、心は容易に折れてしまいます。
精神論ではなく、目標や目的を確認しながら、できる項目を増やしていく過程が、新人スタッフとの安心感に繋がるのではないかと考えています。
育成はチームで!既存職員へ、共通理解の機会を設けましょう。
ここまで、新人職員への関わり方や育成方法をお伝えしてきました。
もちろん新人職員の育成も大切ですが、その育成を担う既存職員への働きかけも非常に重要です。
既存職員への働きかけをするには、可能であれば一度集合研修を開催してみましょう。
表題はずばり「新人育成について」です。
【研修の内容】
ここまで読んでいただいたこの記事の内容を伝えると良いと思います。
そして、現任者一人ひとりに、新人の頃の苦労について思い出していただきましょう。
これには少人数のグループワークが良いですね!
・ 新人の頃の苦労話
・ そうならないための関わり方
・ すぐできる明日からの行動目標
こんな形で議論してみると、良いと思います。
【グループワークの方法】
個人ワークとして、まずは自分の経験をアウトプットしてもらいましょう。
それからグループで共有し、他の意見を吸収してもらいます。
最終的に出そろった課題に対しての改善策を、個人ワーク後グループで共有し、優先順位をつけていきましょう!
あとは、新人職員へどのように関わるのか個人の目標設定も行います。
■既存職員への新人育成研修で見えてくるもの
個人ワークでは、様々な苦労話があがってきます。
マニュアルが整備されていなかった、指導者によって言うことがバラバラだった、まだ慣れていないのに独り立ちさせられた、先輩たちの強い口調に心を痛めていた…。
もしかすると、私は指導は受けていない!などという意見があるかもしれません。
その一つ一つの苦労を思い出すことが、実は新人育成をより効果的に行っていくためのヒントになります。
新人のころの気持ちを思い出すことで、新しいスタッフの不安に共感する方も多いと思いますよ。
育成研修のゴールはあくまで「新人職員の不安や不満を解消し、一人でも多くの仲間が長く働ける環境を作る」ことですが、この研修がきっかけで働きやすい環境が整い、既存職員の離職率を低下させる可能性も大いにあります。
入職後の離職率や、離職が発生する原因を明確にし、既存職員がその原因についてどのように関わっていくのかを意識づけることは、新人育成を行っていくうえでとても有効に作用します。
新人育成とは、実は現任者にとってもスキルアップできる経験となることが理解できれば、熱心に指導し、伝えてくれるスタッフが増えると思いますよ。
■介護職未経験者を、育てる文化を醸成するためには?
現場の経験が長くても、その仕事や技術を他者へ伝えるための訓練を受けている職員は意外と少なくありませんか?
自分が当たり前にできることを他者に伝える際には、また違った難しさがありますよね。普段から伝える訓練をしていない職員も、もしかすると新人を育成することに関しては不安でいっぱいかもしれません。
例えば内部研修での講師役やグループワークでのファシリテーター役などを通じて、伝える訓練を業務に組み込んでみるのはいかがでしょうか。
普段から他者に何かを伝える機会を確保でき、成功体験を重ねることができます。
また、育成者としてのOJTも必要不可欠です。何をどのように伝えたのか?どのように伝えればより良いか?について、上司がしっかりとフォローしながら、育成担当とも関わることが大切ですね!
既存職員も新人同様、スモールステップを積み重ねて、自身の成長を実感することができてモチベーションもアップしていくと思いますよ!それこそが、未経験者を育てる文化を醸成する一助になると思います。
■やってみせて、させてみせて、認めて褒める
育成者側の注意点としては、業務を作業として伝えるのではなく、根拠を示して伝えていく事が非常に重要です。
根拠を伝えることで、人によってやり方が違うという事にも意味を持たせることができますよね。
新人スタッフが自分に合った方法を、その複数の選択肢の中から見つけることができるかもしれません。
育成者の基本は、「見せる」だけではだめですし、「やってもらう」だけでも駄目ですよね。
「やってみせて、させてみせて、認めて褒める」ここまでをワンセットにしましょう。
そのためには、現任者の育成も必要不可欠です。
新人職員も現任者も
・ できない事が分かる状態
・ 分かる状態からできる状態
・ できる状態から伝えられる状態
にしていくことが重要です。
今一度、育成カリキュラムのブラッシュアップをしてみましょう!
ご質問ありがとうございました!
・けあぷろかれっじ 代表
・NPO法人JINZEM 監事
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、潜水士