マイナビ福祉・介護のシゴト
2025年8月から老健や介護医療院の多床室に8000円の室料負担!要点を社労士が解説します!

2025年8月から老健や介護医療院の多床室に8000円の室料負担!要点を社労士が解説します!

2025年8月より、介護老人保健施設などの多床室において、室料相当の自己負担、8000円が導入されることが厚生労働省より発表されました。この仕組みや、要点を社労士の先生が解説します!【執筆者/専門家(社労士):山本武尊】


\あなたにぴったりの求人が見つかる/
「介護職員」の求人を見る

はじめに:2025年8月より多床室にも「室料相当」の自己負担導入

2025年8月より、介護老人保健施設(以下、老健)および介護医療院の一部において、「多床室」にも“室料相当”の自己負担(8,000円/月)が導入されることが厚生労働省より発表されました。

介護業界に長年従事し、また社労士としても現場と制度の橋渡しをしてきた立場から言えば、この動きは単なる「値上げ」ではなく、制度の公平性と持続性をめぐる構造的な転換点とも言えます。

この記事では、改定の対象者や対象施設の定義、背景となる国の制度設計の意図、今後の影響まで、丁寧に解説していきます。
※参照:厚生労働省 介護保険最新情報

執筆者/専門家(社労士)

山本 武尊

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/23

おかげさま社労士事務所 代表 元地域包括支援センター センター長 社会保険労務士、社会福祉士・主任介護支援専門員・介護福祉経営士1級・ ファイナンシャルプランナー2級(AFP)・簿記3級

今回の改定の要点まとめ

まずはポイントを簡潔に整理しましょう。

・施行時期:2025年8月
・対象施設 :介護医療院(Ⅱ型)、老健「その他型」「療養型」
・対象者:多床室で8㎡/人以上の居住空間を持つ利用者
・室料負担:月額8,000円相当(260円/日)
・免除対象:利用者負担第1〜第3段階(補足給付で負担なし)
・背景:在宅との公平性、制度の持続性を確保するため

対象施設の詳細

「介護医療院(Ⅱ型)」とは?

Ⅱ型介護医療院は、医療的ケアと生活施設としての性格を併せ持つ終身入所型の施設です。

従来の療養病床の機能を持ちつつ、生活の場としても利用されており、今回の見直しでは生活施設としての居住性に着目されています。

老健「その他型」「療養型」とは?

老健は本来「在宅復帰支援」が目的ですが、療養型はその特性から医療依存度の高い長期滞在者も多く、事実上の生活拠点となっているケースもあります。

こうした実態を受けて、施設が「生活の場」化していることが、室料導入の大きな背景となっています。

なぜ室料負担が導入されるのか?

室料負担が導入される理由は、大きく分けて以下の3つです。

1.他施設利用者との負担の公平性
2.施設の生活実態への対応
3.介護報酬制度の再構築

1.他施設利用者との負担の公平性

これまで、特別養護老人ホーム(特養)などでは多床室でも室料(居住費)の自己負担が求められていました。一方で、老健や介護医療院では負担なしという状況でした。

厚労省はこの点に「公平性の欠如」を指摘し、施設の性格や機能が近いにも関わらず、負担構造が異なるのは不合理と判断し、今回の改定に至りました。

2.施設の生活実態への対応

特に8㎡以上の多床室は、居住空間としての居心地の良さやプライバシー確保もある程度担保されており、「入院」ではなく「住まい」に近い実態があります。

「生活施設」として実態に見合った室料負担を求めるのは、介護保険財政の観点からも持続可能性を考えた上での必然的措置といえるでしょう。

3.介護報酬制度の再構築

2024年度の介護報酬改定では、全体で+1.59%の改定率が決まりました。

その中で、施設運営コストの上昇や人件費の見直し、そして居住環境へのコスト負担など、制度の持続性確保が強調されています。

具体的な負担の仕組み

新たな室料負担:月額8,000円相当

施設ごとに異なりますが、今回の見直しではおおむね260円/日、月額8,000円前後が追加負担となる見込みです。

これにより、対象者は従来の居住費(老健多床室:1,100円前後/月)から一気に約8倍近い負担増となります。

負担のない利用者:補足給付対象者

第1~第3段階(低所得者・生活保護受給者等)については、現行の「補足給付」制度により、自己負担の増加はゼロに据え置かれます。

これは、高齢者や低所得層の生活を支える最低限のセーフティーネットとして、極めて重要な制度的配慮です。

利用者負担段階と影響度

令和7年8月 室料負担

上記のように、今回の負担はすべての高齢者に一律で発生するものではなく、一定の収入や預貯金がある場合に適応されます。
※参照:厚生労働省 サービスにかかる利用料

厚労省の意図と今後の動き

厚労省は2025年8月施行に向け、全国の自治体と施設に向けた周知・手続きの整備を進めています。

届出の締切や補足給付の再調整などが課題となっており、今後は「段階的な負担増」の導入も想定されています。今後の注目ポイントは、以下の通りです。

・一般所得者(第4段階)のさらなる負担引き上げの可能性
・個室、ユニット型への転換加速
・施設の事務負担(説明・契約変更等)への対応策

現場視点からの提言

介護の最前線に立ってきた者として申し上げたいのは、今回の制度改定は単なる「値上げ」ではないという点です。利用者さんとご家族にとっては「負担増」である一方、制度としては「持続可能性を守る防波堤」でもあります。

また、現場のスタッフや相談員には、制度の背景を含めて丁寧に説明する力が求められます。「なぜこうした負担が生まれるのか?」という問いに答えられる支援者であることが、信頼につながります。 そして、低所得者や高齢単身世帯への支援をいかに継続できるかは、制度だけではなく、地域やケアマネ、サービス事業者等、連携する人たちの力量にもかかっています。

まとめ:制度の先を予測し、課題と向き合っていきましょう!

繰り返しにはなりますが、2025年8月からの室料負担導入は、以下4点のような転換点です。

・負担の公平性(在宅 vs. 施設)
・制度の財源持続性
・生活拠点としての施設の再定義
・高齢化の深化と世帯構造の多様化への対応



今後さらに、介護保険全体の在り方、家族の役割、地域包括ケアの本質が問われてくる時代に突入します。だからこそ、制度に振り回されるのではなく、制度の先を予測、柔軟に対応をする姿勢が重要です。

最後に私たち専門職が果たすべきことは、単なる「情報の提供」ではなく「納得の支援」です。利用者さんや家族の不安に向き合いながら、今回の室料導入という変化を、次の時代へ繋げる前向きな一歩にしていければ幸いです。

あわせて読みたい記事

介護職のボーナスはいくら?施設・職種による違いをチェック! | ささえるラボ

https://mynavi-kaigo.jp/media/articles/1313

介護職のボーナス事情を徹底解説!施設や職種による支給額の違いや、正社員・パート別の支給率、賞与額を増やす方法まで、転職時に確認すべきポイントを紹介。介護業界で働く方や働きたい方必見です!【執筆者:ささえるラボ編集部/コラム・専門家:大庭 欣二】

介護職1人につき一時金5.4万円支給!|2024年度補正予算806億円の概要を解説! | ささえるラボ

https://mynavi-kaigo.jp/media/articles/1252

[2025年3月19日更新]政府は、2024年度(令和6年度)の補正予算案で、介護職員1人あたり5.4万円の一時金を支給する方針を発表しました。「生産性向上が要件?」「全員5.4万円もらえるの?」この記事では、補正予算が立てられた背景や、概要を専門家が解説します。【執筆者/専門家:伊藤 浩一】

\あなたにぴったりの求人が見つかる/
「介護職員」の求人を見る

この記事のライター

おかげさま社労士事務所 代表
元地域包括支援センター センター長

社会保険労務士、社会福祉士・主任介護支援専門員・介護福祉経営士1級・
ファイナンシャルプランナー2級(AFP)・簿記3級

関連する投稿


高齢者の熱中症対策!夏の介護で介護職が気をつけたいこと

高齢者の熱中症対策!夏の介護で介護職が気をつけたいこと

夏の介護施設での課題の1つが熱中症です。特に高齢の方は熱中症になりやすい特徴があったり、エアコンを使用することを拒んだりと対策にも工夫が必要です。 この記事では、介護施設や自宅でできる高齢者の熱中症対策をご紹介します!【執筆者/専門家:大関 美里】


介護施設でできる夏のイベント!七夕や夏祭りの企画方法を紹介します!

介護施設でできる夏のイベント!七夕や夏祭りの企画方法を紹介します!

暑い日が続きますが、夏といえば七夕や夏祭りなど楽しいイベントも盛りだくさんです。この記事では、介護施設で夏らしいイベントを企画する際のポイントや手順を紹介します。【執筆者/専門家:後藤 晴紀】


梅雨の介護施設で気をつけたいこと!|利用者さんに快適に過ごしてもらうためにできる工夫策とは?

梅雨の介護施設で気をつけたいこと!|利用者さんに快適に過ごしてもらうためにできる工夫策とは?

梅雨の季節は雨の日が多く、思うように行動できなかったり、湿度が高くじめじめしたりと利用者さんにとっても職員さんにとっても過ごしづらい日々が続きます。少しでも快適に過ごせるよう、介護施設におけるカビ対策・湿度管理・雨の日の過ごし方の工夫を紹介します。【執筆者/専門家:伊藤 浩一】


介護施設の花粉症対策|これって花粉症?花粉症で悩む利用者さんにできる対応方法を紹介!

介護施設の花粉症対策|これって花粉症?花粉症で悩む利用者さんにできる対応方法を紹介!

毎年冬~春にかけて花粉症に悩まされる方も多いのでは。介護施設でもその悩みは同じはずです。この記事では、花粉症に関する基本的な事項を確認し、花粉症で悩む利用者さんに施設ができる対策方法を紹介します。【執筆者/専門家:後藤 晴紀】


介護職の離職率はなぜ14.3%に低下した?その理由と今後の展望とは

介護職の離職率はなぜ14.3%に低下した?その理由と今後の展望とは

介護職の離職率は低下しています。ではなぜ介護職の離職率は低下したのか?介護施設の働きやすさは今後二極化していく?!その理由と、専門家の見解、今後の展望について解説しています。【伊藤浩一】


マイナビ福祉・介護のシゴト 閲覧ランキング
【北海道・東北】
【関東・甲信越】
【北陸・東海】
【関西・中四国】
【九州・沖縄】

最新の投稿


2025年8月から老健や介護医療院の多床室に8000円の室料負担!要点を社労士が解説します!

2025年8月から老健や介護医療院の多床室に8000円の室料負担!要点を社労士が解説します!

2025年8月より、介護老人保健施設などの多床室において、室料相当の自己負担、8000円が導入されることが厚生労働省より発表されました。この仕組みや、要点を社労士の先生が解説します!【執筆者/専門家(社労士):山本武尊】


 【例文付き】介護職の面接対策15問|面接官が見ているポイントも徹底解説!

【例文付き】介護職の面接対策15問|面接官が見ているポイントも徹底解説!

介護職の面接対策をすると、「どんな質問をされるのか不安…」「どう答えればいいのか分からない…。」といった不安が出てくるかと思います。そんな方のために、この記事では「よくある質問15選」と、その回答例を解説します。さらに、面接官が見ているポイントや、NG回答例、面接マナーなども徹底解説!【執筆者/専門家:後藤 晴紀、脇 健仁、伊藤 浩一】


生活相談員に向いている人とは?仕事内容や魅力、大変さも解説

生活相談員に向いている人とは?仕事内容や魅力、大変さも解説

介護施設の窓口として、利用者からの相談に対応する生活相談員。介護経験を活かして介護職から転職するケースも少なくありません。生活相談員の仕事に興味がある人のために、向いている人の特徴、仕事の魅力や大変さについて解説します。


第160話 「将来の夢」/ほっこり介護マンガ

第160話 「将来の夢」/ほっこり介護マンガ

「介護職員・並木マイの ほっこり成長日記 ~転職して、介護の仕事はじめました~」 保険会社から介護の仕事に転職した、並木マイさん(31歳)の成長と 介護現場のあるあるを描く、ほっこり癒し系マンガ! 休憩時間、このマンガを読んだあなたが クスっと笑えてちょっと癒され、ほっこりした気持ちになれますように。


発達障害のグレーゾーンとは?当てはまる子どもの特徴や接し方、支援できる職場を知っておこう

発達障害のグレーゾーンとは?当てはまる子どもの特徴や接し方、支援できる職場を知っておこう

発達障害のグレーゾーンとは、発達障害の症状は見られるものの、診断基準を満たさない状態を指します。グレーゾーンの子どもの特徴や対応方法、支援できる勤務先など、子どもの発達支援に携わりたい人が知っておきたい情報を解説します。


マイナビ福祉・介護のシゴト
「マイナビ福祉・介護のシゴト」は、福祉・介護職に特化した中途、パート向け求人サイトです。
介護職をはじめ、福祉・介護業界に関連する職種の求人を掲載しています。
本当に自分にあった施設や事業所を、ご自身で手軽に探すことができるよう職場の雰囲気がリアルに伝わる情報を用意することで、適切なマッチングを実現していきます。
【職種から求人・転職情報を探す】