はじめに:2025年8月より多床室にも「室料相当」の自己負担導入
介護業界に長年従事し、また社労士としても現場と制度の橋渡しをしてきた立場から言えば、この動きは単なる「値上げ」ではなく、制度の公平性と持続性をめぐる構造的な転換点とも言えます。
この記事では、改定の対象者や対象施設の定義、背景となる国の制度設計の意図、今後の影響まで、丁寧に解説していきます。
※参照:厚生労働省 介護保険最新情報
■執筆者/専門家(社労士)

おかげさま社労士事務所 代表 元地域包括支援センター センター長 社会保険労務士、社会福祉士・主任介護支援専門員・介護福祉経営士1級・ ファイナンシャルプランナー2級(AFP)・簿記3級
今回の改定の要点まとめ
・対象施設 :介護医療院(Ⅱ型)、老健「その他型」「療養型」
・対象者:多床室で8㎡/人以上の居住空間を持つ利用者
・室料負担:月額8,000円相当(260円/日)
・免除対象:利用者負担第1〜第3段階(補足給付で負担なし)
・背景:在宅との公平性、制度の持続性を確保するため
対象施設の詳細
■「介護医療院(Ⅱ型)」とは?
従来の療養病床の機能を持ちつつ、生活の場としても利用されており、今回の見直しでは生活施設としての居住性に着目されています。
■老健「その他型」「療養型」とは?
こうした実態を受けて、施設が「生活の場」化していることが、室料導入の大きな背景となっています。
なぜ室料負担が導入されるのか?
2.施設の生活実態への対応
3.介護報酬制度の再構築
■1.他施設利用者との負担の公平性
厚労省はこの点に「公平性の欠如」を指摘し、施設の性格や機能が近いにも関わらず、負担構造が異なるのは不合理と判断し、今回の改定に至りました。
■2.施設の生活実態への対応
「生活施設」として実態に見合った室料負担を求めるのは、介護保険財政の観点からも持続可能性を考えた上での必然的措置といえるでしょう。
■3.介護報酬制度の再構築
その中で、施設運営コストの上昇や人件費の見直し、そして居住環境へのコスト負担など、制度の持続性確保が強調されています。
具体的な負担の仕組み
■ 新たな室料負担:月額8,000円相当
これにより、対象者は従来の居住費(老健多床室:1,100円前後/月)から一気に約8倍近い負担増となります。
■負担のない利用者:補足給付対象者
これは、高齢者や低所得層の生活を支える最低限のセーフティーネットとして、極めて重要な制度的配慮です。
■利用者負担段階と影響度

※参照:厚生労働省 サービスにかかる利用料
厚労省の意図と今後の動き
届出の締切や補足給付の再調整などが課題となっており、今後は「段階的な負担増」の導入も想定されています。今後の注目ポイントは、以下の通りです。
・個室、ユニット型への転換加速
・施設の事務負担(説明・契約変更等)への対応策
現場視点からの提言
また、現場のスタッフや相談員には、制度の背景を含めて丁寧に説明する力が求められます。「なぜこうした負担が生まれるのか?」という問いに答えられる支援者であることが、信頼につながります。 そして、低所得者や高齢単身世帯への支援をいかに継続できるかは、制度だけではなく、地域やケアマネ、サービス事業者等、連携する人たちの力量にもかかっています。
まとめ:制度の先を予測し、課題と向き合っていきましょう!
・制度の財源持続性
・生活拠点としての施設の再定義
・高齢化の深化と世帯構造の多様化への対応
今後さらに、介護保険全体の在り方、家族の役割、地域包括ケアの本質が問われてくる時代に突入します。だからこそ、制度に振り回されるのではなく、制度の先を予測、柔軟に対応をする姿勢が重要です。
最後に私たち専門職が果たすべきことは、単なる「情報の提供」ではなく「納得の支援」です。利用者さんや家族の不安に向き合いながら、今回の室料導入という変化を、次の時代へ繋げる前向きな一歩にしていければ幸いです。
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おかげさま社労士事務所 代表
元地域包括支援センター センター長
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