本日のお悩み
15年間介護の仕事をしています。
体調を崩して、一旦介護の仕事を離れた後、派遣で働き始めました。
ところがその施設は、バイタルチェックなし・水分補給もなし。エアコンや機械浴は痛みかけていて、利用者さんへの命令口調などその他、驚くことばかりでした。
コロナのこともあり、「入浴前のバイタルチェックは必要だ」と伝えたところ「ここは家庭のように過ごしてもらう所だから、しません。家庭でバイタル測りますか?」と言われました。
入浴時バイタルチェックはせず、熱感があるかどうかで入浴を判断するとのこと。
でも、入浴が中止になることはありません。その他、事故死につながるような行為も放置のようです。
その後、施設長補佐から呼び出しがあり、「ここのやり方があり、従ってもらう。輪を乱すようなら、辞めてください。」と言われ、派遣元に伝えた所「契約更新すると口頭で言われていたから、継続してください」とのこと。
なんとか強めに話して、契約更新せずに派遣元は退社する事ができました。
私がおかしいのでしょうか。今までいろんな理不尽なことはありましたが、死につながるような行為、基本の介護をするなと言われたのは、初めてです。
それよりも、ここのやり方、職員同士の輪を保つことで働いてください。とのことでした。
教えてください。よろしくお願い致します。
相談者:あや さん
法令を遵守し知識や技術を携えて根拠に基づいたケアに想いを寄せる
ご質問ありがとうございます。
15年の介護職経験との事で、知識や経験、技術的に成熟されたご質問者さんかと推察いたします。
疑問に思う事が多々あり、お悩みも大きく、精神的にも疲弊してしまったのではないでしょうか。
自分のこれまでの経験が間違っていたのかと錯覚もしてしまいますよね。
ご質問者さんの指摘の内容は間違っていませんのでご安心くださいね。
施設形態が入所施設か、小規模多機能型居宅介護などの在宅サービスなのかが不明ではありますが、こちらの施設に対する批判的な意見という事ではなく、原理原則に基づいた客観的な意見として回答させていただきたいと思います。
■内容を6つに整理して考えていきましょう
ご質問の内容についてですが、整理をしながらご回答させていただきます。
①『バイタルチェックなし』
②『水分補給もなし』
③『利用者さんへの命令口調』
④『ここは家庭のように過ごしてもらう所だからしません。家庭でバイタル測りますか?』
⑤『施設長補佐より「ここのやり方があり、従ってもらう。輪を乱すようなら、辞めてください。」』との発言があった。
⑥『エアコンや機械浴は痛みかけている』
回答といたしましては、『専門職としての対応としては不適切』と言わざるをえません。
ご質問者さんは介護保険法やケアプラン、運営基準、運営規定等の原理原則に基づいた意見として事業所に申し入れをされたのだと思います。
⑥に関しては事業所の設備の問題となりますので、やむを得ない場合もありますから、①~⑤について回答させていただきたいと思います。
■ケアプラン・法令や運営規定の確認を
①バイタルチェックについて
こちらに関しては事業所の運営規定内にも記載があると思いますが、事業者にはご利用者の健康管理が義務図けられています。
具体的な健康管理の方法として、バイタルチェックの内容が明記されていることと思います。
このことからも、バイタルを測定せずに入浴などのサービスを提供しているという事は、規定に違反している可能性があるということになってしまいます。
また、居宅サービスでは居宅サービス計画書、施設サービスであれば施設サービス計画書と呼ばれるケアプランが存在しますね。
私たちの介護サービスは、このケアプランの内容に基づいてサービス提供がなされているはずです。
『ケアプランと違った内容のサービス提供が行われている』、『ケアプランの内容がサービスとして提供されていない』等の場合、現場が勝手にケアの内容を変更していることになります。
この場合、指導対象となる可能性は高いと思いますし、行っているサービスの根拠が不透明となってしまいますね。
恐らくプランの内容にも入浴前の健康管理を含むサービス内容が位置づけられているかと思います。
そして、介護職員の観察とは、介護、保健、医療、福祉の知識や技術を携え、目的をもって利用者を観ることですから、その観察の結果を記録する義務が生じています。
また、その結果から生じる事象を推測し『熱発していたら適切な医療に繋げる、処置をする』等の適切な対応を講じることが求められますね。
バイタル測定等の数値化しやすい記録の結果については、その結果を記録することが義務付けられてもいます。
このことからも、その方の体温が何度であるかの根拠が薄く、結果に基づいた入浴サービスに結び付ける判断ができないという事になります。
②水分補給について
そもそも水分補給というケアがないのか、入浴前後の補水としての水分補給がないのかは定かではありませんが、高齢者にとっての入浴前後に水分補給が必要な知識や根拠も薄いように感じられます。
もちろん水分については、1日の水分量に個人差がありますので、一概にこの規定量を摂取しなければならないという事はありません。
しかし、入浴前後は絶好の水分摂取のタイミングでもあります。
水分が体内から1%失われた際のリスクも分からず、その結果どのような状態になるのかも予測できないばかりか、リスクを予見できぬままサービスを提供していくのであれば、ご利用者にとっての安全安心なケアは提供できません。
それでは専門職とは言えませんね。
■介護福祉士会倫理要綱、法人理念や法令を遵守した運営を
③利用者さんへの命令口調
命令口調については、東京都福祉保健財団高齢者権利擁護支援センターから、虐待の芽チェックシートというものが作成されています。
利用者さんへのタメ口や命令口調についても、虐待の芽になるとして注意喚起がなされているものになりますので、私も従業員へは繰り返し丁寧語を使用するように伝えています。
④「ここは家庭のように過ごしてもらう所だからしません。家庭でバイタル測りますか?」
家庭のように過ごして頂くことはとても素晴らしいことだと思いますし、良いところも多く、見習うべきところもたくさんある事と思います。
スタッフの皆さんも家庭の雰囲気を大切にサービスを提供しているのかと思いますが、世間の常識からかけ離れている発言でもありますね。
このコロナ渦では、新生活様式と言われている通り、家庭でも体温を測定していますし、外出先では店内に入る際に必ず体温の測定を求められていますよね。
家庭での購入が増えたために、パルスオキシメーターが一時在庫が品薄になったとも聞いています。
家庭で血中酸素飽和度を測定する日が来るとは夢にも思いませんでしたよね。
時代と共に、その生活様式も変化するという事です。
感染予防については、その時々において正しい知識を得て正しく恐れることが私たち介護職員にとっても重要なことだと思います。
結果として、ご利用者を守る事に繋がりますからね。
⑤施設長補佐より「ここのやり方があり、従ってもらう。輪を乱すようなら、辞めてください。」との発言があった
特に残念なのは、管理者は法令を遵守し従業員が適切なサービスを提供できる体制を整えなくてはならない立場にありながら、事業所のやり方に従うべきという発言をしてしまっている事です。
事業所の常識が間違っている可能性を考慮せずに、思考停止に陥ってしまっている可能性があります。
事業所のやり方として、特色を生かしたサービスを提供する事は良い事だと感じます。
しかし、そもそもの原理原則から外れてしまっては意味もなく、サービスとは言い難いものになってしまいますね。
人材育成にも大きく影響する発言で、これでは事業所全体で、職員が行動を改善をする機会・学ぶ機会を失ってしまう事にも繋がりかねません。
このような風土や慣習がある場合、事業所としての文化が形成されてしまっており、なかなか改善することは難しくなってしまいますね。
現に従業員の方が、『ここは家庭のように過ごしてもらう所だから、しません。家庭でバイタル測りますか?』と仰っていますね。
完全に思考停止の状態に陥ってしまっていると感じます。
■最後に
大切なのは、自分たちのあたりまえを疑い、考え続けることだと思いますので、凝り固まった固定観念で間違った風土や慣習を生まないようにしたいですね。
想いだけではなく、専門職として法令を遵守し知識や技術を携えて根拠に基づいたケアや運営をしてまいりましょう。
長文をお読みいただきありがとうございました。
・けあぷろかれっじ 代表
・NPO法人JINZEM 監事
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、潜水士