インドの方に日本の介護業界で働いてもらうためには、どのような対応が必要なのでしょうか。
そもそも、伊藤先生がインドを今回の活動の国として選んだ理由や実際に訪問し、感じた課題と今後取り組むべきことをお話しいただきます!
過去に伊藤先生がネパールやベトナムで活動された際の情報は最下部の関連記事よりご確認ください。
インドの方と共に介護を学び、働ける日はくるのか?
■執筆者/専門家
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
■日本の人材不足は、日本人のみで解決することはできない
厚生労働省の調査によると、人手不足が関連し倒産した企業の件数は、2013年に300件未満だったのに対し、2022年には485件と人材不足は経営状況にも影響を及ぼしていると言えます。※
そのなかでも、介護業界は少子高齢化の影響を受けやすい業界です。
理由としては簡単ですが、働き手(供給)である若者が減少しているにもかかわらず、サービスを受ける側(受容)である高齢者は増加傾向にあるためです。
これらの問題は近年、日本国内のみで解決することはできなくなっています。
※出典:厚生労働省 人口減少社会への対応と 人手不足の下での企業の人材確保に向けて ~人材不足解消のカギは仕事と子育ての両立支援!~
■なぜ、伊藤先生はインドに訪問をしたのでしょうか
介護福祉士養成校へ進学する留学生の面接のためです。介護の仕事に就いて23年、まさかインドに行くなんて想像もつきませんでした。
また、「インドに行きました」というよりは「行かなければならなかった」という表現が正しいでしょう。なぜかというとこの数年で、海外から見る「日本の状況」が変化し、そこに対応しなければならなくなったためです。
■ ベトナムの外国人留学生の減少と介護福祉士養成校の撤退の増加
これは、日本人高校生の減少が大きな要因となっています。
しかし、実は外国人留学生が減っていることも大きな要因となっています。
令和元年度の外国人留学生数は、2,037名でしたが、令和5年度の外国人留学生数は、1,802名です。※
数字だけ見れば、200名の減少のため、そこまで影響はないのでは?と思うかもしれませんが、これは介護福祉士養成校を運営する私の立場では想定外でした。
日本人学生の減少は、日本の人口構造上仕方なく想定内ではあったものの、そこに輪をかけて、外国人留学生が増えていない状況は、より厳しい状況であると言わざるを得ません。
ではなぜ、外国人留学生まで減ってしまったのでしょうか。
それは「ベトナムの外国人留学生が減ってしまった」ためです。
令和元年度、1,047名に対し、令和5年度は430名。※
ベトナムの学生が減ってしまっている理由は、最下部の記事のベトナム編でも紹介をしていますが、円安の影響とベトナムの経済発展と同時に厳しい日本の入国規制(新型コロナウィルス、日本語能力評価)が挙げられます。
もちろん、ベトナムは親日国ですが、労働先としては、日本の魅力は薄れてしまったということです。
(4月に2年ぶりにベトナム ハノイを訪問が、タクシーの一部は電気自動車になっていました。ベトナムの発展に驚きました。)
このように、介護福祉士養成校は入学者数の減少の煽りを受けて、令和元年度は375校あったものの、令和5年度は296校となり、多くの養成校が撤退に追い込まれています。
少子高齢化が進む日本において、介護福祉士養成校の数がこの数年でここまで減ってしまったことは深刻に受け止めざるを得ないでしょう。
しかし、日本の少子高齢化はまったなしの状況です。「もう、お手上げです!」とは言ってられません。
※出典:公益社団法人 日本介護福祉士養成施設協会 令和5年度介護福祉士養成施設の入学定員充足状況等に関する調査
■ 介護福祉士養成校の学生を様々な国から受け入れる
集中投資は、1つのものに投資をすることで、投資額を大きく投資することができ成功すればリターンも大きいという考え方ですが、全てを失ってしまうリスクを伴うハイリスクハイリターンなやり方を言います。
一方で、分散投資は投資するものを分散することにより、リターンは少なくなる可能性はあるものの、どこかがダメになったとしても、他で補うことができるという考え方ですね。
つまり、養成校においても外国人留学生の受け入れ国をベトナム一択にしておくのではなく、国際情勢は常に変化するため、ネパールやインドネシア、ミャンマーと分散して関係性を保っていた方がよいと考えました。
今回、そのなかにインドが入ったということです。
■ インドは世界一人口が多い国
私が担当する授業や研修でのアイスブレイクでよく使うクイズです。
最近は、流石に「中国」と答える人も少なくなりましたね。
実は、中国を抜いてインドが世界1位となりました。
インドの人口は14.3億人、2位の中国が14.2億人、3位のアメリカは3.4億人です。※
3位のアメリカとの差は11億人ということを踏まえると、上位2カ国の人口が突出して多いということがわかりますね。
察しの良い方はお気づきかと思いますが、人口が多い国であるということは、インド行きを決めた大きな理由となります。
※出典:総務省統計局 世界の統計2024
伊藤先生が感じたインドの方が日本に少ない理由
では、なぜベトナムやネパール、ミャンマーとの繋がりはいままでも多くあったにも関わらず、インドとの繋がりは少なかったのでしょうか。
■言葉や文化の課題が挙げられるでしょう
対するインドは、約5万人となります。
中国とインドの人口は、ほぼ同じにもかかわらず、日本における在留外国人数には大きな差があるのです。※
また、介護の現場を支える技能実習や特定技能人材数もインドは留学生全体と比較し、かなり少ない状況です。
※出典:出入国在留管理庁 令和5年末現在における在留外国人数について
大きな理由としては、以下の3つであると思います。
2.カースト制度
3.ベジタリアンなど
インドの準公用語は英語であるため、親日国であっても日本語を用いて働くより英語圏のほうが生活がしやすいことは明白です。
また、カースト制度やベジタリアンであったりすると「介護」や「食事介助」が難しいと考える方もいらっしゃるそうです。しかし、インドは人口が多いですから、インドの方が日本で介護職として働く際に問題となる可能性があることに関して、「問題ない」という方もなかにはいらっしゃることは発見でした。
インドの人々が日本で暮らしたいと感じる日本の魅力とは
インドの方にとって、日本にはどのような魅力があるのでしょうか。
伊藤先生に解説してもらいます!
(インドは来年にはGDPが日本を抜いて世界第4位となりました。)
しかし、日本にも多くの魅力があるということを忘れないでください。
私が思う日本の魅力は3つです。
2.インフラが整った生活環境
3.アニメやポップミュージックなどの文化
1と2に関しては、面接で日本のトイレの写真を見せたり、コンビニエンスストアが24時間やっていることなどを話してみたりすると、インドの学生は驚きながら喜んでくれました。
また、他国に比べて賃金は低い場合はありますが、治安の良さなども安心して日本に行くことができるポイントだと話していました。
日本では女性がひとり旅が安全にできると話をすると、とても安心できる国だと言っていただけました。
あとは、やっぱりアニメですね。
日本に興味を持ってくれたきっかけを聞いてみると面接をした20代の方々は、口を揃えてアニメの話をしていました。働きやすい環境やインフラが整っていることを知ってもらうためには、こういう娯楽の魅力を伝えていくのも大切だと思いました。
インドの人が日本にアニメのイメージを持ってくれているのは、私たちがインドの印象はカレーだと思っているのと同じくらいの感覚ではないでしょうか。
ちなみに実際、滞在中は毎食カレーでした。(本場は本当に辛いです笑)
このように、賃金などでは他国に負けてしまうかもしれませんが、しっかりと魅力発信をしていけばチャンスはあると思っています。
また「お金のために」日本で働くという意味付けではなく、日本が好きで日本に来たいと感じていただける意味付けが重要であると感じました。
そして忘れてはいけないのは「介護の仕事」の魅力をしっかりと伝えることだと思います。
インドの人々は介護に抵抗が少ない!
しかし、そもそもインドの人々は介護の仕事をすることに対してどのような価値観があるのでしょうか。 実際に日本に来てくれても、介護の仕事にマイナスなイメージがあると一緒に働くことはできませんよね。
理由を聞いてみると、インドでは医療や介護が未発達のため、高齢の両親や祖父母など家族のなかに支えないといけない方がいるという状況が珍しくないそうです。
そのため、高齢者や身体が不自由な方を支援することは身近なものであり、ハードルが低いそうです。
「日本に来てしまうとインドでご家族の介護ができなくなってしまうことは大丈夫か?」と確認すると、きょうだいが多いため、他にも介護をできる人がいるから自分は日本で働いてみることができると話していました。
以上のことから、インドの人は家族が多く介護が身近なため、介護に抵抗がない方が多いと思いました。
最後に:日本の魅力をインドの人々に伝えていこう!
また、近年ではシビ・ジョージ駐日インド大使が日本へのインド人留学生を増加させていきたいと留学生交流の意見交換で示されていたり、日本の複数の大学でインド人留学生を歓迎するプロジェクトを行っていたりと様々な方面でインド人留学生の増加に向けた動きが見られます。
これらの波に乗り、介護業界にも多くの人材を迎え入れられるよう業界としても工夫が必要になると思います。 伊藤先生も「インドのみなさんと共に介護を学び、働ける日がくること」とても楽しみにされていました。
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茨城県介護福祉士会副会長
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介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
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