本日のお悩み
専門家の方は、経験を積んだ今でも思い出す利用者さんはいますか?私は職場の近くに紅葉がきれいなところがあって、涼しくなってくるとはじめて受け持った利用者さんと散歩しながらお話ししたことを思い出します。あったかいエピソードがあったらぜひ聞きたいです。
やっぱり最高!お風呂後のコーヒー牛乳
間もなく紅葉が綺麗な時期になりますね。
きっとお連れした利用者さんはさぞかし喜ばれたことでしょう。
また、質問者さんの良い思い出となった以上に利用者さんにとっても心に残る思い出となったのではないでしょうか。素敵なエピソードですね。
■みんなの兄貴分だった、佐藤さんとのエピソード
さて、ご質問の件です。
たくさんの利用者さんのお顔が浮かびましたが、3年目に経験した佐藤(仮名)さん(当時85才/男性)とのエピソードをご紹介します。
佐藤さんは、身長180cmの大柄の男性でした。
会社役員まで勤めた後、地域のまとめ役として活躍。誰にも別け隔てなく面倒見の良い方だったそうです。しかし、83才の時脳梗塞で倒れ、右半身に麻痺が残る状況となりました。発見、治療が早かったこととリハビリで麻痺は比較的軽くすんだのですが、今まで人一倍まわりを助けてきた自分が、逆に助けてもらう立場となったことにショックを受けられ意気消沈。社交的だった生活は逆転し、自宅でただただ過ごす日々に家族の介護負担も大きくなり、ショートステイ利用開始となりました。そのはじめての担当者が私だったのです。
■手強い印象、でもそこには理由が…
佐藤さんと初めてお会いした時は、目を合わせてくださりませんでした。
介護施設のはじめての利用で緊張されていたのと本意ではないという気持ちの現われだとすぐ思いました。これは打ち解けるまで手強いな。と感じたことを今も思い出します。
施設での佐藤さんは、一日中新聞を読んでいるか時代劇を見ているかの生活でした。居室から一歩も出ようとせず、こもりっぱなし。これでは家にいる時とあまり変わらないと感じた私は、片時も離さない新聞に注目しました。毎日、新聞記事の内容を佐藤さんに教えていただくことにしたんです。すると次第に政治や経済の内容を語ってくださるようになり、昔の苦労話なんかもしてくださるようになりました。そして、忙しい中でも毎年、ご家族と様々な温泉地に行かれていたこと、大のお風呂好きであることを語ってくれました。
私はここでピンときました。佐藤さんのご家族は佐藤さん以外みんな女性です。倒れた後は家族が心配して代わり番で入浴の手伝いをしていたと伺っていました。すばらしいご家族だなとその時は伺っていましたが、もしかしたら、もともと自分よりも人を助けることが生きがいだった佐藤さんにとって、大好きなお風呂を奥様や娘さんに助けられて入るのが嫌だったんじゃないか、そこで、なるべく動かず、面倒をかけないように生活されていたんじゃないかなと。
■本当の思いを引き出し、実現すること
そこで、佐藤さんを日帰り温泉にお連れする計画を立てました。ご家族もご快諾してくださり、本人には私が一緒に入ること、そして何かあったときのために看護師にも同行することをお話し、行く気になってくれました。
行き先は、露天風呂のある日帰り温泉施設です。当日は施設からの出発時にご家族もお見送りにきてくださり、車中は、好きな演歌のカラオケ大会、入浴は、私が支えながらでしたが、露天風呂まで入浴でき、締めのコーヒー牛乳の味は今もわすれません笑
帰りもご家族が出迎えていらっしゃいましたが、「おー、帰ったぞ−」という佐藤さんの力強い言葉に涙流されていた光景が今も思い出されます。実は私少しのぼせましたが、介護士冥利につきるあったかエピソードでした。
さて、いかがでしたでしょうか?私達介護の仕事は、ご利用者の思いを実現することです。しかし、その本当の思いはご家族でさえ計り知れないことがあります。その本当の思いを引き出し、実現することがプロフェッショナルじゃないかなと思います。素敵なご質問ありがとうございました。
茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)