入浴介助の熱中症対策についてのお悩み
コロナ感染予防策として、入浴介助中もサージカルマスク着用を義務付けられています。
マスクが濡れて息が出来ずフラフラです。
先日、倒れてしまいました。
施設長から水分補給をしっかりするように言われましたが、もう辛いし自分の身体が大事なので
辞めたいと思っています。
でも、介護の仕事も好きなのでどうしようかと悩み中です。
相談者:はなまる さん
「冷やす」だけじゃない!個人でできる熱中症対策は?
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもみじ館施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
連日暑い日が続きます。みなさんお身体は大丈夫ですか?
今年(2022年)は史上最速の「梅雨明け」、梅雨の期間も21日間と最短となりました。この異例の事態に、厚生労働省をはじめさまざまな公的機関が熱中症予防を訴えています。
我々介護業界も室内だからと言って油断は大敵です。あらためて予防策を確認しましょう。
■熱中症の要因は、環境・体・行動
そもそも熱中症は、下記、「環境」「体」「行動」の3つがその要因となります(環境省HPより引用)。
「環境」要因:気温が高い、湿度が高い、風が弱い等
「体」要因:高齢者や乳幼児、肥満の方、低栄養状態、二日酔いや寝不足といった体不調等
「行動」要因:激しい労働や運動によって体内に著しい熱が生じたり、暑い環境に体が十分に対応できない、水分補給できない状況
■熱中症対策① 熱中症を引き起こす要因を知る
みなさん、思い当たる節はありませんか?
実は、「上記の3要素を知っていること」が1つ目の熱中症対策となります。
例:気温が高い日
今日は気温も高いし、昨日雨だったから湿度も高いな・・・。
→熱中症になりやすいな→エアコンの除湿機能を使用しよう。と対処できます。
例:食欲がないとき
最近食欲なくてあんまりバランス良く食事がとれてないな・・・。
→熱中症になりやすいな
→できればバランスの良い食事が良いが、難しければ栄養補助剤の活用しよう(必要に応じて病院受診も)。と対処できます。
例:入浴介助の対応が多い日
今日は入浴介助の対応をする方が多い、時間もかかるからいつの間に業務に集中してしまうことが考えられるな・・。
→熱中症になりやすいな
→いつもより多めに意識して水分をとるようにしよう。と対処できます。
つまり、熱中症と聞けば気温だけを考えがちですが、「環境」「体」「行動」の3つがその要因であることを理解しておくことが予防策としてもっとも重要なのです。
■熱中症対策② 自分の汗の状態を観察する
人の体温調節機能である「汗」
次に、第2の熱中症対策をお伝えします。
熱中症は、前述した3要因から体温の上昇と調整機能のバランスが崩れることで、どんどん身体に熱が溜まってしまう状況をいいます。体に熱が溜まってしまうと、体温の上昇やめまい、吐き気、頭痛、けいれんなどの症状を引き起こし、場合によっては意識消失から命に関わります。
では、人の体温調整の代表的な機能はなんでしょうか?
それは汗です。
気温の上昇や運動、カゼの発熱などで体温が高くなった時に発汗は起こります。 汗の水分が皮膚の上で蒸発するときに熱が奪われ、それによって体温を36.5℃前後に保つことが出来る仕組みです。 例えるなら汗は皮膚の表面での"打ち水"機能とも言えますよね。
汗ができる仕組み
では、その汗はどうやってできるのか?
もちろん体内の水分がなければ汗をかくことができない=体温調整ができないということになります。だから水分が必要なんですね。また、水分と同時に塩分もとらなければならないことはみなさんもご存知の通りです。
水分だけを摂取した場合、血液中の塩分濃度が下がり、濃度を一定にしようとして水分を取るなという指令が脳からでます。すると水分を欲しがらなくなり水分不足に陥ってしまうわけです。
というわけで第2の熱中症対策は、自分は汗かいているのか?(体温調整機能は大丈夫か)、汗をかくために水分と塩分をバランス良く摂取しているか?について自己分析することが大切になります。
■熱中症対策③ タンパク質を意識的に摂取する
プロテイン=タンパク質 筋トレをしなくても摂取してOK!
そして、第3の対策としてお伝えするのは、タンパク質です。
いま、空前のフィットネスブームですね。プロテインを飲み始めた人も多いのではないでしょうか?
実は私もその一人です(朝・夕2回シャカシャカやってます笑)。
しかし、プロテインはマッスルな方だけに効果があるわけではありません(私筋トレしてません)。
そもそもプロテイン=タンパク質なんですから。
タンパク質は人の体にどんな効果をもたらしているのかも考えることが重要です。
熱中症とタンパク質の関係
実は、タンパク質と熱中症は深い関係があります。
血液中のタンパク質のほとんどを占めるのは「アルブミン」というタンパク質です。アルブミンは、スポンジのように水分をため込み、栄養素や水分を全身に運ぶ役割を持ちます。 血液中のアルブミンが不足すると、その分、血液中の水分も少ない状態になり、結果的に熱中症になりやすい状態になるんですね。
メンタルヘルスにも影響あり。認知症ケアにも活用される、タンパク質
みなさんタンパク質を意識して摂取していますか?
さらに、タンパク質は、メンタルヘルスにも影響があります。
幸せホルモンとも呼ばれるセロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンなどのメンタルヘルスに関連の深い神経伝達物質は、実はたんぱく質からつくられます。タンパク質が不足するとメンタル不調に陥る可能性が出てくるわけですね。
そのため、プロテイン摂取を認知症ケアのひとつとして活用している施設さんもあるみたいです。
認知症は、不安感を募ります。その不安をプロテインによって緩和しようという試みですね。
熱中症予防としても、メンタルヘルスケアとしても、プロテイン=タンパク質の効果があることをおわかりいただけましたでしょうか?
ちなみに、タンパク質を多く摂れる食材は下記の通りです。
肉:ササミ、生ハム、魚介類:いくら、魚肉ソーセージ、卵類、大豆製品など
■まずは、適度な運動、適切な食事、十分な睡眠を!
例年にない猛暑。熱中症対策として3つをお伝えさせていただきました。
しかし、最も基本となるのはシーズンを通して暑さに負けない体づくりをすること。つまり、適度な運動、適切な食事、十分な睡眠になります。
これは、新型コロナウィルスに対する免疫力を高める上でも効果的です。
これを機会に自分の生活を振り返ってみてください。自戒の念をこめて。
マスクについて常識だと思っていることは本当なのか?疑問を持ってみると、意外と解決する
ご質問ありがとうございます。
気温や湿度も上がり、通常の状態でもマスクが苦しいと感じるのにまして浴室内は
本当に大変です。
そんな状況に質問者さんが必死で頑張っているにもかかわらず、施設長さんの冷静な一言に
モチベーションが下がってしまった様子。
私も施設長として気をつけなければなりませんね。
■過去の記事をおさらい
さて、この浴室のマスク問題、過去にもご質問にお答えしていますのでよろしければこちらも御覧ください。
入浴介助でマスクの重ね付け、本当に意味があるの? | ささえるラボ
https://mynavi-kaigo.jp/media/articles/417【回答者:伊藤 浩一】最大の感染対策は、感情に流されず、常に正しい情報、知識に立ち返りながら行動すること
そして、今回は、コロナ禍も1年半が経過した現在地。
まだまだ油断は許されませんが、いろいろと状況は変化し、科学的にわかったことも増えてきました。
そんな新しい情報も踏まえて浴室マスク問題を紐解いていきましょう。
■そもそもマスクは外せないのか?
現在、高齢者福祉従事者のワクチン接種も進み、質問者さんを含めたほとんどの介護職の方は、
2度の接種が完了しているのではないでしょうか?
しかし、厚生労働省のHPには「ワクチンを接種した方は、新型コロナウイルス感染症の発症を予防できると期待されていますが、ワクチンを接種した方から他人への感染をどの程度予防できるかは
まだ分かっていません。そのため、マスクは着用継続お願いします。」と掲載されています。
ということは、高齢者施設においても現段階ではマスクを外して良いと言えないようですね。
■マスクと熱中症の関係は?
NHKの実験(2021.6)で面白い報告がありました。
気温35℃の中でマスクを着けた場合に体温がどのくらい上昇するかサーモグラフィーを使用し、
シミュレーションしたところ、口の周辺の皮膚の温度は、着けていない時より2℃近く上昇
しました。
これはマスクの表面温度を測定した際に被実験者が感じた「口の周りが暑いな…」という体感と
一致するようです。
しかし、一方で「深部体温」は、0.06℃~0.08℃しか上昇しなかったそうです。
医療工学が専門の名古屋工業大学 平田教授は番組の中で「日常生活でも深部体温は0.2℃ほど
上がることがあります。
リスクはゼロではありませんが、マスクをしたからといって急激に熱中症のリスクが高まる訳
ではなく、過度に心配する必要はないと考えています」と解説されています。
つまり、マスクと熱中症に関しては、因果関係はないということになります。
■浴室で倒れないためにはどうするか?
この事実をもとに、質問者さんが今回浴室で倒れてしまった件を再検証してみましょう。
マスクが濡れて息ができないことの対策
まず、マスクが濡れて息ができなかった件、これは濡れて苦しくなりそうだと気づいたら新しい
マスクに変えてはいかがでしょうか?
もし、マスクが自己負担であれば、施設長に状況に応じて取り替えれるマスクを常備して
もらいましょう。
新型コロナウイルス感染予防備品費用に関しては、今年度の介護報酬改正により上乗せに
なっています。
熱中症対策
また、質問者さんが倒れてしまった原因が熱中症だとすると、施設長さんがおっしゃっていた通り、こまめな水分補給が重要になります。
当日はどのくらい水分摂取されてましたか?
更には、
①冷たい流水で手首までしっかり洗う
(ウイルスを洗い流すと同時に、血管が皮膚に近い手首を冷たい水で冷やすことで、効率的に体温を下げる効果がある。)
②ぬれたタオルで顔や頭をふく
(顔や頭、首を冷やすと体温が下がりやすい。また水分が蒸発する際にも熱を奪う。)
ことも効果的だそうです。
■感染予防と付き合うには、今持っている知識を疑うことも大切
Withコロナ時代、感染予防とどう付き合っていくか?
日々、新しい情報が更新されていますので、今の自分の知識や判断だけを絶対と捉えるのではなく、本当にこの知識、判断であっているのか?と考える癖をつけると
余計な不安でせっかくのモチベーションが落ちてしまうことを防ぐことができるかもしれませんよ。
介護の仕事を好きと言っている質問者さんはこれからの日本を支える重要な一人です。
共にがんばりましょう!
茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)