■執筆者/専門家

社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員 特別養護ホーム生活相談員、訪問介護事業、地域包括支援センターにて介護支援専門員の経験あり。 現在は、デイサービス管理者として勤務。 地域でのネットワーク活動では事務局として「死について語る会」や「3大宗教シンポジウム」など幅広いテーマの勉強会やイベントを企画・運営の経験がある。 すきな食べ物はラーメン。
そもそも羞恥心とは?
羞恥心とは、自分が他人に対して恥ずかしいと感じる感情のことです。私はたとえば、仕事で何か失敗をしたときや、密かに書いている日記を読まれたとき、プライベートな部分を見られてしまったときなどに感じます。
■羞恥心の感じ方は人によって違う
いずれにしても、私たちはプライバシーを侵害されたり、プライドが傷つけられられたときに「恥ずかしい」と感じます。感じ方の度合いは、個人の性格や過去の経験などといった背景事情も影響しています。
■羞恥心は生きていくうえで重要な感情
ヒトは社会的動物と言われており、社会の中で生きていくためには、誰かの役に立つこと・信頼を得ること・不愉快な思いをさせないことなど気を遣って生活をしています。羞恥心(恥ずかしさ)というのは、これらのバランスを保ち、社会的な自分のイメージを守るために必要な心の動きなのです。
自分が思っていたイメージと、周囲の評価や信頼にギャップが生じたとき、人は「恥ずかしい!」という感情を抱きます。これは、私たちが社会に適応するために必要な働きなのです。
■過度な羞恥心はストレスに繋がることも
例えば、介護の現場で介護職が「お風呂に入らないと汚いですよ!」と伝えたり、「○○さん、お通じ出ましたね!よかったよかった!」などと大声で話したりといったプライドやプライバシーを傷つける言動は、利用者の方にとって大きなストレスとなります。
特に、認知症の方は、このストレスや不安、心配を感じやすい傾向があります。今までできていたことができなくなったときの不安な感情に、介護職の声かけが原因で羞恥心も芽生えてしまうと、BPSD(行動・心理症状)として暴言や暴力、妄想、抑うつなどの症状が表れることも少なくありません。
羞恥心に配慮した声掛けのコツ

2.介護職は全てがプライバシーに触れると認識しておく
3.クッション言葉を使う
4.物理的な配慮もおこなう
■1.相手の基準を知る
冒頭、私は「密かに書いた日記を読まれるのが恥ずかしい」と書きましたが、利用者さんの中には、書いた日記を自ら見せてくださる方もいらっしゃいました。その方は日々起きたことを丁寧にメモし、人に伝えるために日記を書いて、いつも楽しそうに話してくださりました。
つまり「プライバシーの侵害になりうるから、配慮して日記を読んではいけない」と一律に考えてしまうのではなく、その方にとって、どこまでがパブリック(公に他者に見せている姿)で、どこからがプライバシーを侵害していると感じるのかを探ることが重要です。その際に、「自分だったら」ということを考えるのももちろん大切ですが、自分とは異なる考えの人もいることを念頭に置くようにしましょう。
■2.介護職は全てがプライバシーに触れると認識しておく
そのため、まだ関係性が浅いうちは最大限配慮をし、どんなことがその利用者さんにとってプライバシーやプライドを傷つけるのか分からないため、聞く場所や聞き方には十分注意しています。
■3.クッション言葉を使う
クッション言葉には、主に以下のようなものがあります。

■4.物理的な配慮もおこなう
そのため、肌が見えるケアを行うときは特に、声掛けだけではなく物理的な配慮(カーテンや扉を閉めて見えないようにする、タオルで隠すなど)に注意します。
羞恥心に配慮した声かけの具体例3選
■ケース1:排泄介助
以下でポイントを紹介します。
・トイレに行く際はできるだけ周りに聞こえないように声をかける
・おむつを交換する際はカーテンやタオルで覆って隠す
・においにも配慮する
・「~しますね」のように介助する際は事前に声をかける
このように状況に応じて声かけやそのタイミングを配慮する必要があります。安心できる排泄介助を提供することで、利用者さんも排便をスムーズに行えるようになります。排便がうまくいかないと健康問題にも繋がってくるため、排泄介助を行う際は、いつも以上に羞恥心に配慮する必要があるでしょう。
■ケース2:入浴介助
以下でポイントを紹介します。
・「汚い」「汚れている」など否定的な言葉は使わない
・「さっぱりしましょうね」「気持ちいいですか」など前向きな言葉を使う
・お風呂の手順はいつも同じにし、安心してもらえるようにする
・「お湯加減はいかがですか」「気になる箇所はないですか」などこまめに声をかける
このように、入浴は楽しみにしている利用者さんも多いため、前向きな声をかけリラックスした雰囲気づくりが大切です。
■ケース3:陰部洗浄
以下で陰部洗浄を行う際の声かけや配慮のポイントを紹介します。
・声色や声の高さも意識をし、高圧的にならないようにする
・「汚いから洗いますね」といった批判的な言葉は使わない
このように、羞恥心を感じやすい場面であるからこそ、前向きかつ明るい声での声かけが大切です。
羞恥心に配慮した声掛けに関するお悩み
■お悩み:周囲の職員が羞恥心に配慮しない声かけをしています
利用者さんに対して羞恥心に配慮しない発言が多く困っています。例えば、トイレが間に合わなかった利用者さんのことを大きな声で指摘したり、利用者さんの失敗を責めるような声かけをしたりします。
何度かやんわり注意をしていますし、施設長にも相談していますが、改善しません。その看護師さんは施設で長く働いていて、施設長や他の管理職とも仲が良いから…とか、看護師だから…と強く注意することは遠慮してしまう自分もいます。
私が考えすぎなのかなとも思いますが、どうしたらいいでしょうか?
■回答:職場のルールを見直してみましょう
言葉遣いは、ケアの質に直結します。そして、1人が誤った話し方をしていると周囲の人にも伝染しやすいものです。また、利用者さんの立場で見ると、職員さんの職種や勤務歴、役職などは全く関係ありません。
私たち介護職は、利用者さんにとって優位に立ちやすい関係性であるという自覚を持ち、対等な関係性を保つためには自分たちの使う言葉に常に敏感にいなくてはならないと考えています。そのために、職場全体のルールを見直していけるとよいでしょう。
■言葉遣いのルールを明確にしましょう
最も大切なのは、やはり言葉遣いのルールです。質問者さんの職場には、言葉遣いに関するルールはありますか?ルールとはその組織に属する以上守るべきことです。もし、職場にルールがないようでしたら、上長に働きかけてみる必要がありますし、ルールがあるにも関わらず、守られていないようでしたら、ルールの徹底や見直しの働きかけが必要です。
■言葉遣いを大切にするムーブメントを
きっと、実は気になっていたけれど言えない人や、その看護師さん以外にも言葉遣いが気になる人、そもそも利用者さんにどう声をかけていいのか分からなくて不適切な声かけになっている人など、さまざまな方が組織にいるのではないかと思います。
これらの方々に適切な指導をするためにも、組織全体としてルールが明確であることで、不適切な声かけに対する根拠となります。
まとめ:羞恥心に配慮した声かけは大切です!
お互いが気持ちよく関係性を築いていけるよう、今回紹介した声かけのポイントも活かしつつ日々の介護に励んでみてください。
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社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員