声かけのOK・NG例と注意点は?利用者さんの状況別に解説
マンガ監修:望月太敦(公益社団法人東京都介護福祉士会 副会長)
執筆者
■何はともあれアセスメント
「声かけ」って奥が深いですよね。
テンプレート通りに声をかけたらOKかというと、そうではないことはみなさんご存じの通りかと思います。声をかける状況によって、適した声かけは異なります。
私は以前、100歳の誕生日を迎えられた方に対して「お誕生日おめでとうございます!!」と声をかけたら、とっても怒られた経験があります。その方は年齢のことを言われるのが嫌で、誕生日はおめでたいものではなかったのです。
これは極端な例ですが、その人がどんな人なのか、今どんな状況なのか、というアセスメントが重要になってきます。
■利用者さんに対しては敬語を使いましょう
基礎の基礎ですが、どんな場面においても敬語を使う、ということは大切です。
慣れてくると曖昧になりがちなところですが、言葉の乱れはケアの乱れにつながります。
■認知症の利用者さんへの声かけはどうする?
ポイントと注意点
認知症の利用者さんへの声かけは、特に注意が必要です。
また、見当識障害により時間の感覚が薄れてしまう方も多いので、挨拶の際は時間がイメージできるように「おはようございます」「こんばんは」を意識的にお伝えしたり、施設等だと、生活の場所なので職員同士の「お疲れさまです」は利用者さんの前では使わない、とルールにしているところもあります。
NG例
「○○しないでください」「○○はダメです」といった否定的な声をかけてしまうと、不快な感情が残ってしまいます。
また、「○○した方がいいですよ」といった言い方も、一方的に介助者の決めたことに従ってもらうような印象を与えることがあります。
OK例
「○○してみませんか」「○○はどうですか」という言葉かけをすることで、相手の意思を確認することが出来ますし、たとえ言葉で意思を表現するのが難しい方であっても、表情や仕草から読み取れるものがあります。
■視覚障害のある利用者さんへの声かけはどうする?
ポイントと注意点
その方が求める声かけに個人差があります。
一緒に歩いているときに「これから上りの坂道です」と、いちいち言わなくても感覚で分かるからいいです、という方もいれば、言ってもらった方が安心、という方もいます。何をどこまで説明するかは介助者の考えではなく利用者さんの考えに沿うことが大切です。
高齢期になってから視覚に障害をもった方については、見えないことに対しての不安が大きい方もいらっしゃるため、こまめに「来ましたよ」「これから○○しますね」と声をかけたり、細かいことを説明して差し上げたりしたほうが安心される方が多いと思います。
NG例
つい、「これ・あれ・それ・どれ」と言ってしまいがちですが、伝わりづらいので気を付けましょう。
OK例
基本的には、具体的に説明することが求められます。食事の際に「○時の方向に○○があります」とお伝えしたり、「右手の近くに○○があります」「トイレの流すレバーは座って左手を伸ばした壁側についています」といったように、誰が聞いてもわかりやすいことがポイントです。
■拒否のある利用者さんへの声かけはどうする?
ポイントと注意点
まず信頼関係を築くためにも「ケアをしようと思わない」ことが大切だと思います。
とにかく目をみて、天気でも、ニュースの話でもいいので話しかけ、好きなことを探る。好きなことの話をする。「気にかけてますよ」というメッセージを態度で示す。そのような繰り返しでプラスのイメージを持ってもらうこと。
どうしても介助者側が苦手意識を持つことも多いですが、なぜかそういった感情って伝わってしまいます。利用者さんの立場から考えれば、いきなり自分よりもはるかに若い人にあれしましょう、これしましょうと言われたら、それだけでうんざりしてしまう気持ちもわかりますよね。
NG例
食事や排泄、入浴の場面において「食べないとまた入院ですよ」「着替えないと汚いですよ」「臭いですよ」といった相手を脅迫するような声かけは絶対にNGです。
OK例
「これを食べて元気になりましょう」「着替えてすっきりしましょう」「キレイにしましょう」といったようにプラスのイメージの言葉に言い換えることができ、これをリフレーミングと言います。
あくまでも拒否というのは介助者側からみた現象であって、利用者さんからみたら当然の防御。リフレーミングを活用して、声のかけ方を考えてみるのも策かと思います。
日々の声かけを振り返り、よい声かけとは何なのかを考え続けていきましょう!
声掛けに関連したお悩み
利用者様への対応、声かけが上手くできずに上司やリーダーなどから叱責を受けています。
自分なりに努力をして感情などが出ないように落ち着いて声かけをしているのですが…
何かうまくいく方法があるでしょうか?
質問者:ハルナ さん
声かけ前に必要なのは「観察」と「推測」かもしれません
毎日お仕事お疲れさまです。
努力していても怒られてしまうと、お辛いですね……
質問者さんが上司やリーダーから意見をもらうとき、具体的にどうしたらいったところが課題なのか、のお話はありますか?
質問内容にある、「感情が出てしまう」ということなのでしょうか?
「声かけ」というのは、とても難しいです。
私も日々、頭を悩ませています。いまだに「あ、しまった……もっと違う声をかければよかった」と反省することもしばしばです。
■まずは基本的なコミュニケーションから
さて、うまくいく方法についてですが。
答えは「そのとき目の前にいる利用者さん」が持っていると考えています。
もちろん、基本的なコミュニケーションで守るべきこともあります。
「敬語を使う」とか、「目を合わせる」とか、「口調や声の大きさに気を付ける」とか。
きっと質問者さんも、そこは知識としてご存じで意識されているのかな、と思います。
ただ、それだけを守っていれば「いい声かけ」かというと、そうではない。
たとえ敬語を使っていても、行動を制限されることがあれば不満でしょうし、口調が乱暴だとこわいと感じるでしょうし、目を合わせていてもまなざしが冷たければ緊張するでしょうし。
もし、このあたりの対応で不安に思うことがあったら、「ユマニチュード入門」という本を読むことをおすすめします。
■その時々で、ベストな声掛けは違う
難しいところは、同じ方であっても、そのときの気持ちや状況でかけてほしい声が異なるということです。
私たちでもそうだと思います。
普段はにぎやかに話すのが大好きだけど、自分が頭痛するときに、大きな声でわーわー話すのはちょっとしんどい。
逆に、そんなときに異変に気付いて「あれ、どうしたの?」って声をかけてくれる人がいたらうれしいですよね。
介護の場面でも同じだと思います。
その方のそのときの様子を観察し、求めているであろう「声かけ」を推測する。
■相手を観察・推測する
たとえば転倒リスクの高い方が立ち上がろうとしたとき。
「危ないので座っていてくださいね」といくら優しい声をかけられても、納得は難しいでしょう。
「なぜその人は立ち上がりたいのか?」を探る必要があります。
トイレに行きたいのか、散歩がしたいのか、はたまた、座りっぱなしでお尻が痛いのか……
ご本人に、「どうされましたか?」と聞いてみて、求めていることがわかればすぐ対応できるのですが、言葉で返ってこないこともあるでしょうし、適切な言葉が見つからない方もいらっしゃるでしょう。
だから私たちが観察して、推測して、そのときに適すると考える声かけをする必要があるのです。
(ただ、ここで一生懸命考えた声かけ……相手が求めていることではないことも多々あります。状況によっては少し時間を置いたり、対応者を変えたりすることが必要な場面もありますね。)
■言葉を発する前の思考に着目
私たちに求められるのは、言葉の前の「思考」なのだと思います。
なにか上手くいく方法がないか、と考えていらっしゃる質問者さんならできるはずと感じています。
ぜひ、声をかける前に「相手が求めている声かけを考える」癖をつけてみてください。
社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員