本日のお悩み
グループホームで働いています。
以前、夜勤中に利用者様が不穏になった際に大声で騒がれてしまい、つい暴言をはいて叩いてしまいました。
夜勤は1人体制で、その人は昼夜逆転していていつも夜間徘徊がある人だったので仮眠も取れず、精神的に余裕がありませんでした。
上司からは簡単な注意のみで終わりましたが、介護士として利用者様に対して暴力をふるうという、人としても最低な事をしてしまい、後悔しています。
また、当たり前ですが、この事で職場の人から陰口を言われたり、距離を取られて働きづらくなりました。
介護の仕事は好きで、可能なら続けていきたいと考えていますが、職場を変えてもまた手をあげてしまうのではないかと思うと私は介護士として向いてないんだな…と思い悩んでいます。
利用者様に手をあげた介護士は辞めるべきなのでしょうか?
利用者さんを殴りたいと思ってしまう…その対処法は?
■怒りの結果を想像せよ。損するのは自分
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
■専門家・伊藤さんの経験
「バカやろー」と職員を殴りつけてくる利用者さんがいた
実は私も経験があります。
それは、現場で2年目の時、新人さんを指導しながらの夜勤帯、早朝4時の出来事でした。
男性でショートステイを定期的に利用されているAさんという方がいました。
その方は、なにかにつけ「バカやろー」と職員を殴りつけてくる方で、こちらからの言葉はご本人には伝わらず(診断を受けていたアルツハイマー型認知症が中度に進行していると判断)、力も強かったため、できる限り男性職員が担当することとなっていました。
上手く受け流し、ケアに自信もあった伊藤さん
実は私自身、Aさんに対する苦手意識はありませんでした。
アルツハイマー型認知症の進行から現状の認知力が低下しているため自分の状況がわからない。つまり、いつも不安な心境にある。
そんな時、他人の手が入ると何をされるのかわからない恐怖心から身を守るために「バカやろー」と殴りつけてくると理屈で理解していたからです。
そのため、通常は介助に対する説明をしながらもなんとなく手がでるタイミングがわかっていたのでうまく受け流しながら対応していました。
むしろ、そのケアに自信があったんです。
忙しく余裕がない日、利用者さんに殴られ感情が爆発…
しかし、その日の4時は少し状況が違いました。
夜間永眠された方がいらっしゃり、その方の対応に時間を割いていたので、他の方への対応が後手後手にまわり、疲れとあせり、そして新人に指導する手前、完璧にこなさなければならないというプレッシャーがありました。
そんな状況で、Aさんの排泄介助に入るのですが、ゆとりもなく、冷静にAさんを見ることができなくなっていたのですね。
予想通り「バカやろー」と出されたAさんの拳は私のあごを直撃。
正直にカチンときました。
一瞬ですが脳裏に殴り返してやりたいと思ったことを今でも覚えています。
自分はご利用者のために一生懸命動いてきた、なのになんで殴られなきゃなんないんだという感情が、顎の痛みをきっかけに爆発したという感じでした。
新人さんの表情を見て、思いとどまった伊藤さん
でもそこで思いとどまりました。
新人さんが一瞬カチンとした私の姿を見ていたんです。
その時の顔を私はなんとなく今でも覚えています。
気の毒そうな、けど、私を怖がるような、複雑な顔・・・。
私はハッとしました。
「なんのために私は働いているのだろう?」と。
「なんのために今まで頑張ってきたんだろう?」と。
「これ以上怒りの感情を外に出すことは得策なのか?」と。
さてこの私のエピソード。
本当にお恥ずかしい話ですが、介護職にとって常に起こりうる話だと私は思います。
そして、むしろキレイな話ばかりでなく、このような実際も共有することが私は大切だと思っています。
■怒りとは、理性からくる感情
怒りの背景にあるものとは
そもそも怒りとはなんでしょうか?
怒りは単なる感情ではなく、理性からくる感情です。
例えば、会社に出勤する際、予想だにせず渋滞していて、たまたま前の車が若葉マークのゆっくり運転する車だったとします。出勤時間に間に合いそうにないと不安を感じ始めた時、そのゆっくり運転する様子は怒りに変わっていくでしょう。
つまり、自分は急いでいるのになんでそんな運転しているんだという論理になるわけです。この自己中心的な論理の背景には、仕事の溜まった疲れや、ストレス、あせり、出勤時間を守りたいという思いが考えられます。
怒りの感情を行動に移せば、犯罪になることも
さて、勘の鋭い方はお気づきですね。
この渋滞の例え話、さっきの夜勤の事例と同じではないでしょうか?
もしこの渋滞で怒りの感情を行動に移すとなれば「あおり運転」になり、犯罪になります。
もし、私が夜勤で殴り返してしまえばそれは「虐待」「暴行」という犯罪になったでしょう。
怒りで行動した未来に何があるか?を考えよう
怒り=理性を失うといいますが、そもそもは理性からくるものだったんですね。
とすれば、怒りをコントロールするのも理性。
「この怒りで行動した未来にどんなことが起きるのか?結果的に損するのは自分ではないか?」と論理的に考える習慣をつけることをお勧めします。
■怒りがおさまらないときは、休養を
それでも、怒りの感情が前に出てしまうこともあるでしょう。
そのときは、自分を大切にしてください。休養です。
疲労困憊しているときはポジティブ、冷静に物事を捉えることが難しくなります。疲れているなと感じた時は、意識的に休むことが重要です。
まさしく、休むことにより体力と心の両方を養うのです。
■介護職のアンガーマネジメントには、3つの「自分」を意識しよう
私は、介護職ほど「自分」だと学生に教えています。
その自分とは、
①相手の身に常になることができる「自分」の心身のコントロール
②「自分」はなぜ介護をしているのか自分の存在意義の明確化
③「自分」を俯瞰できるメタ認知力。自分の今を知る力
ですね。
この3つの自分でアンガーマネジメントを養いましょう。
そんな私もまだまだ修行の身です。共にがんばりましょうね。
また同じ状況になったときにどうするかをあらかじめ考えておく
ご質問ありがとうございます。
ご自身の行動を後悔し、介護の仕事を続けたいと思っていらっしゃるのですね。
まず答えをお伝えするなら、今回してしまったことを繰り返さないようにするため今後どうするかを考え、それを貫くことが出来れば、介護の仕事を辞めるべきとは思わないです。
■同じ状況になった場合の、自分なりの解決法を持っておく
「1人体制の夜勤で、仮眠もとれず、精神的に余裕がない」
質問者さんも十分理解されていると思いますが、この状況は、介護のお仕事を続けられるとしたら今後も絶対に出てきます。
また同じ状況になったときにどう対応するか?というのがとても重要であり、もし、そのときの対応が決まっていないのであれば、すぐに考える時間を持っていただきたいです。
誰にも見えないリネン室で枕を殴る、とかでもいいです。
■衝動性を自覚し、働く環境も整える
衝動性は、強弱はあれど誰もが持ち合わせています。
自分がコントロールできないものに対してイライラする感情も、人間であれば当然抱くものです。
そして誰でも、手をあげてしまう可能性を孕んでいます。
まずは、それを自覚すること。
そしてそのイライラを相手に直接表現しないようにするためにはどうしたらよいのかを考えること。
とても精神力のいることですが、専門職としてその感情コントロールも介護の仕事の1つであると考えています。
また、利用者の方々の命を守る仕事をしている介護職が、手をあげてしまうまで自分を追い詰めることには、環境的な要因もあるはずです。
それは、質問者さんだけの課題とは思いません。みんなで考えていかなければならない課題です。
■介護の仕事を続けるために
してしまったことは反省しか出来ませんが、このあとの行動は自分次第で変えられます。
後悔はずっと心に残り続けるでしょうが、それにより自身のことを客観的に見やすくなるのではないかと思います。
介護の仕事の、どんなところが好きですか?
介護を続けるかどうか、どんな決断であれ、質問者さんを応援しています。
社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員