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【弁護士が解説】介護事故報告書の書き方と実践的なポイント

【弁護士が解説】介護事故報告書の書き方と実践的なポイント

介護事業者はサービスの提供により事故が発生した場合、事故の種類によっては、事故報告書の提出を行う必要があります。事故報告書の作成時に押さえておきたい実践的なポイントをこの記事では解説します。【執筆者/弁護士:伊達 伸一】


【弁護士が解説】介護事故報告書の書き方と実践的なポイント

【弁護士が解説】介護事故報告書の書き方と実践的なポイント

介護事業者は、サービスの提供の際に事故が発生してしまった場合、速やかに市町村・入所者の家族等に連絡を行い、それと同時に必要な措置を講ずる必要があります。

必要な措置として、事故報告書の作成と提出がありますが、事故報告書の作成時に押さえておきたい実践的なポイントをこの記事では解説します。
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執筆者/弁護士

伊達 伸一

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/10

伊達総合法律事務所 代表弁護士 ▶プロフィール 弁護士業務開始当初から現在に至るまで多数の交渉・訴訟案件など紛争案件処理に従事。介護会社の個別の紛争案件のみならず、虐待事案の第三者委員会や調査案件を手がける。 多数の介護案件に従事した経験から、初動対応の重要性に着目し、介護事業者・介護職員を守るために、介護に特化した月額基本料2,000円の顧問弁護士サービス「介護のまもりびと」を立ち上げ運営している。

まずは、報告すべき事故の範囲を確認しましょう

前述の通り、介護事業者はサービスの提供により事故が発生した場合には、速やかに市町村、入所者の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講ずる必要があります。

このとき、各自治体ごとに報告すべき事故の範囲は異なります。
ただし、下記の事故に関しては原則すべて報告する必要があります。


    【報告しなければならない事故】

    1.死亡に至った事故
    2.医師(施設の勤務医、配置医を含む)の診断を受け投薬、処置等の何らかの治療が必要となった事故

    ※出典:厚生労働省老健局の令和3年3月19日付けの「介護保険施設等における事故の報告様式等について


各自治体によって、報告フローなどが定められている場合もありますので、各自治体の対応マニュアルなどを事前に確認しておきましょう。

事故報告書の作成方法に関する実践的なポイント

事故報告書を作成するうえでの大切なポイントとしては大きく2つあります。

しっかりと調査をしたうえで事故報告書を作成する

事故報告書の目的は、下記です。

    【事故報告書作成の目的】

    ・事故について記録を行い、原因を分析する
    ・事故の発生防止・再発防止につなげる

そのため、事業所は報告書の記載内容について、正確にしっかりと事実を記載する必要があります。


また報告書には「事故の状況及び事故に際して採った処置」を記録しなければならないとされています。
よって報告書に記載すべき内容は下記の項目となります。

    【事故報告に記載すべき内容】

    ・事故の概要(発生日時、発生場所、発生状況・事故の内容)
    ・事故発生時の対応
    ・事故発生後の状況
    ・事故の原因分析
    ・再発防止策 など

しかし、第一報の段階では、事故の原因分析、再発防止策までは必須ではありません。

事故報告書の第一報は速やかに提出する必要がありますが、1分1秒を争って提出しなければならないわけではないためしっかりと関係者にヒアリングをして、資料確認をしっかりと行い調査や検討をしたうえで、記載をしていきましょう。

●NGな対応

事故後は慌ただしく、
介護事故報告書の作成を担当していた介護職員さんのみに任せてしまったり…
担当介護職員さんから話を聞くだけで、事故報告書を作成しとりあえず出してしまったり…
きちんと報告書の作成を行えていないようなことが往々にしてあるかと思います。

しかしながら、このような対応はNGな対応となります。

なぜなら、事故報告書は、記録としても証拠としても非常に重要なものであるためです。


ご家族から提出を求められて提出することや事故状況やその後の対応の説明を求められた場合には事故報告書を提示して説明を行います。
ご利用者・ご家族と訴訟になったときには証拠として提出されます。

事故報告書の記載について、後できちんと調べたところ、事実と異なったなどで記載内容が二転三転することになれば、ご利用者・ご家族には不信感を与えます。
また行政からの信頼も失いかねませんし、裁判所にも不利に認定されることにも繋がります。

そのため、最初の段階からしっかりと調査(確認)をする必要があります。

●OKな対応

事故報告書の作成は、事故の際に担当していた介護職員さんに任せるのではなく、施設管理者などの立場の方が中心となってヒアリングをし作成しましょう。

事故の際に担当していた介護職員さんは気が動転していたり、法的には職員・施設側に責任がなかったとしても、ご利用者に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになっていたりする可能性があります。

上記の理由からも、その職員さんに任せっきりにしてしまうのはよくないと言えます。
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しっかりと賠償責任の有無を意識して作成する

次に大切なポイントは、しっかりと賠償責任の有無を意識して作成することです。

先述のとおり、事故報告書は行政への報告書であると同時に、ご利用者・ご家族への説明書面にもなります。また、事故の賠償問題になると訴訟では証拠として提出されます。

特に事故報告書には、事故の原因分析・再発防止策の欄があり、これを記載しなければなりませんが、事故原因をしっかりと検討することなく、安易に記載すると、賠償請求を呼び込むことになりかねません。また、裁判でも不利になる可能性があります。

賠償責任を意識せず安易に報告書を書いた場合に起こりうること

例えば、転倒事故が発生した際に、あまり検討することなく、安易に事故報告書を作成した場合どのようなことが生じる可能性があるかをお話します。

本来事業者側に責任が認められる事案でないにもかかわらず、事故報告書に
・事故原因として、「見守りが足りなかった」
・改善策として、「今後は見守りを増やす」など安易に記載をしてしまったとします。

このように書いてしまうと、ご家族・ご利用者としては、見守りが足りなかったから転倒したと思われる可能性が高くなります。
ほかにも原因があったにもかかわらず、報告書に記載しなかったために「施設の責任だ」と誤解されてしまい訴訟になる可能性が高まります。

また、訴訟になった際にも裁判官が誤った判断をするリスクが高まってしまいます。

このようなことは、事業者側にとって不幸なだけでなく、ご利用者・ご家族にとっても不幸といえます。

以上のことから、しっかりと賠償責任の有無を意識して、調査・検討したうえで事故報告書を作成する必要があります。
どのように事故報告書を作成すべきか、特に事故原因・改善策をどのように記載するべきかわからないときには、介護事業に精通した弁護士等の専門家に相談することもおすすめいたします。

まとめ

介護事故報告書のサンプルテンプレートは厚生労働省が公表しています。
5W1Hを意識し、誰がいつ何をどのように対応したのか明確に残すとよいでしょう。
テンプレートを見たことがない方は一度、サンプルテンプレートを見ておくとよいかもしれません。

介護事故報告書を作成することは、重大事故の防止にも繋がります。
安易に対応するのではなく、しっかりと対応することで、事業所にとってもご利用者にとっても、安心や信頼を生み出していけるでしょう。

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