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認知症による暴力・ハラスメントへの対応方法とは?【 回答者/専門家:伊達 伸一弁護士・ 古畑 佑奈先生】

認知症による暴力・ハラスメントへの対応方法とは?【 回答者/専門家:伊達 伸一弁護士・ 古畑 佑奈先生】

(2024年5月更新)「利用者さんからの暴力」介護職に携わる人の多くが直接的に関わったり、目撃したりしたことがあるのではないでしょうか。さらに、利用者さんからのという点で対応方法にもお困りでは…本日は法的な視点で弁護士の伊達先生に、介護職の視点で古畑先生に説明していただきます!【回答者/専門家:伊達 伸一・ 古畑 佑奈】


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本日のお悩み

利用者さんから暴力を受けて主任に相談したら、ケアが間違っていたからだと言われました。
たしかに私の力不足もあると思います。

でも施設の外なら普通は傷害罪になるようなことでも、私たちが悪いのでしょうか?
いつか大事にならないかひやひやしています。黙って受け止めるしかないのでしょうか?

この記事のポイント

1.利用者さんからの暴力は「労働災害」になる
2.暴力の背景は理解しつつチームで動くように工夫しよう

【弁護士: 伊達伸一 先生】「利用者さんからの暴力」を法的な視点で見ると?

介護現場における暴力などのハラスメントは珍しい話ではありません。また、暴力が原因で長年続けた仕事を辞めてしまったり、その影響で収入が減少したりとその場だけの問題ではなく、その後の生活にも影響を与える場合があります。

一方で、「普段は優しい利用者さんだから」「認知症などで辛いのかな」などと利用者様の気持ちを案じ、介護職員として大目に見たい気持ちもあると思います。とはいえ、暴力は傷害罪など罪に問われるべきものです。施設内での暴力やハラスメントはどのような扱いになるのでしょうか。

本日は法律の視点と現場の視点でそれぞれ専門家の先生方に解説いただきます!

伊達 伸一

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/10

伊達総合法律事務所 代表弁護士 弁護士業務開始当初から現在に至るまで多数の交渉・訴訟案件など紛争案件処理に従事。介護会社の個別の紛争案件のみならず、虐待事案の第三者委員会や調査案件を手がける。 多数の介護案件に従事した経験から、初動対応の重要性に着目し、介護事業者・介護職員を守るために、介護に特化した月額基本料2,000円の顧問弁護士サービス「介護のまもりびと」を立ち上げ運営している。

三菱総合研究所が2019年に調査した「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書」によると、サービス形態によって差はありますが、職員の5~9割が利用者からのハラスメントを受けたことがあるとのことでした。

そして、利用者から職員へのハラスメントの内容をみると、訪問・通所系では人格否定・能力否定などの暴言が主となる「精神的暴力」が最も多く、その他のサービスではいずれも物を投げつけられる、唾を吐かれるなどの「身体的暴力」が最も多かったとのことでした。※1

このように、介護の現場では、職員さんが、利用者さんから暴力等を受けていることは少なくありません。
※1 出典:厚生労働省 株式会社 三菱総合研究所「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究 報告書」

基本的には「労働災害」になる

職員の方が利用者から暴力を受けた場合、基本的には「労災」になります。

そのため、賠償については勤務先の法人に対して責任を問うことになります。
その後の生活に支障が出るような後遺障害が残った場合も、その点が賠償の額として問題となります。

加害者である利用者に対しては、利用者が認知症で責任能力が無かったりすると利用者本人の賠償責任を問うことは難しいでしょう。
利用者の親族に責任が問えるかどうかという点も法的な問題としてありますが、施設に預けている場合は難しいかもしれません。

弁護士や公的な窓口に相談しましょう

相談先としては、法的な相談は弁護士へ。
暴力を受けたことにより発生する生活の相談は、行政や公的な相談窓口などそういった相談を受け付けている団体に相談しましょう。

迷ったら厚生労働省 総合労働相談コーナーのご案内から各都道府県の窓口を探すことができます。

利用者さん同士のトラブルに発展すると、法的責任を負うことも

介護の現場では、暴力等に及ぶ利用者さんの問題行動の対応に頭を悩ませているかと思います。

しかしながら介護事業者は、職員や他の利用者の生命・身体の安全を守るべき安全配慮義務(安全で健康に働ける・利用できる環境を整える責任のこと)を負っています。

暴力等の問題行動が見られる利用者さんがいた場合、これにしっかりと対応しておかないと、万が一職員や他の利用者さんに危害が及んでしまった場合、介護事業者としては法的責任を負ってしまう可能性があります。

実際に損害賠償請求が認められた事例も

実際に、特別養護老人ホームにおいてショートステイを利用した際、利用者が他の利用者の車椅子を押して転倒させた事案において、介護事業者に安全配慮義務違反による損害賠償請求が認められた裁判例があります(東京高裁 平成18年8月29日判決)。

この裁判例では、介護職員に対し暴言を吐いたり暴力的な行為をしたりといった事故前の状況から、事故発生の予見可能性が認められるとして、その利用者の安全を確保する義務があったとして損害賠償請求を認めています。

このような事態を未然に防ぐために、職員と利用者さんの関係ももちろんですが、利用者間同士の関係も把握し適切な対応が必要となります。

【専門家: 古畑佑奈 先生】「暴力」という表現の背景にあるものを探ってみましょう

古畑 佑奈

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/19

特別養護ホーム生活相談員、訪問介護事業を経験し、介護業界に9年携わる。 地域でのネットワーク活動では事務局として「死について語る会」や「3大宗教シンポジウム」など幅広いテーマの勉強会やイベントを企画・運営。 現在は介護職やマネジメント経験を活かし、介護系ライターとして研鑽中。

お身体は大丈夫でしたか?
利用者さんからの暴力については、身体もですが、精神的にショックを受ける方も少なくないと思います。

もっと具体的なお話を伺いたいところですが、伺った質問内容の範囲から、推測が混ざった回答になってしまうことをお許しください。

まずは認知症の症状について復習しましょう

まず、その方が認知症であるという前提でお話したいと思います。

ご存知かもしれませんが、大切なことなので復習だと思って読んでいただければ幸いです。 認知症には、「中核症状」と「行動・心理症状」があります。

中核症状」とは、出来事を忘れてしまうといった記憶の障害、時間や場所がわからなくなる見当識の障害、思考力や判断力の低下、物事の手順がわからなくなる遂行機能障害、といった症状です。
これは、認知症と診断される人みなさんに、進行の程度によって現れます。

もう一つが「行動・心理症状」です。「BPSD」と言われます。
行動症状としては、ひとり歩きや帰宅行動、昼夜逆転、不潔行為、異食行為、などがあり、攻撃的な言動や介助への抵抗もこちらに該当します。
心理症状には、不安感や強迫症状、抑うつ状態、無気力状態などがあります。

このBPSDは、人によってさまざまで、症状が出ないという方もいます。
認知症介護に携わっている方は、このBPSDと向き合い続けている方がほとんどではないでしょうか。

BPSDは身体的要因・心理的要因・環境的要因で起きやすくなる

さて、ではBPSDは、なぜ起きると思いますか?
それには、身体的要因、心理的要因、環境的要因がかかわってきます。

◆身体的要因:水分不足・体調不良・便秘・薬の副作用etc.
◆心理的要因:不安・孤独・ストレスetc.
◆環境的要因:騒音・慣れない場所・慣れない介護者etc.

これらの要因に働きかけることができれば、症状が治まることもあります。 ですから、一概に「質問者さんのケアが適切でなかった」だけが理由ではないかもしれません。

もしかしたら、便秘で調子が悪かったのかもしれない。
もしかしたら、寝不足でいらいらしていたのかもしれない。
もしかしたら、部屋の照明が明るすぎて嫌だったのかもしれない。

自身のことを責めるのではなく、利用者さんの立場で考えてみましょう。

暴力は「言葉にできない気持ちの表れ」と理解する

「暴力」で表現された気持ちを受け止めるのはとても大変です。
これから書くことはきれいごと、と思われてしまうかもしれません。
ですが、これだけは忘れないでください。

利用者さんは、言葉にできない気持ちを、暴力という形で表現されています。 決して、質問者さんを、傷つけようとか、困らせようと思っているわけではないのです。
むしろ利用者さんからの不調の訴えである可能性もあります。行為の背景になにがあるのか、いろいろな可能性を考えて「生活を整える」ことが、介護の仕事です。

振り返りはチームで!

質問者さんは、ご自身の力不足も要因であると考えておられるようなのですが、どこが不適切だったかの振り返りは主任に相談された際にしましたか?
そのことについて、チームで相談する機会はありましたか?
要因を探ると、その方の訴えたかったことがいくつか出てくるかもしれません。

その場合は1人ではなく、ぜひチームで取り組んでみてください。
同じように悩んでいる職員の方もいるかもしれませんし、チームでその方に適切なケアを提供することが、BPSDの改善に必要なことなのではないかと思います。

質問者さんは、ご自身の力不足も要因であると考えておられるようなのですが、どこが不適切だったかの振り返りは主任に相談された際にしましたか?
また、そのことについてチームで相談する機会はありましたか?
要因を探ると、その方の訴えたかったことがいくつか出てくるかもしれません。

その場合は1人ではなく、ぜひチームで取り組んでみてください。
同じように悩んでいる職員の方もいるかもしれませんし、チームでその方に適切なケアを提供することが、BPSDの改善に必要なことなのではないかと思います。

対応が難しい場合は「かわす」技術も必要です

また、もともと気が短くて、普段から怒りっぽい方だった可能性もあるかと思います。
私の経験上、どんなに要因を探って働きかけても、申し訳ないことにこちらの考えがご本人の思いに至らず、対応が難しい方はやはりいらっしゃいました。

その場合、暴力を「かわす」技も必要です。
イライラしていそうなときは時間をあける、1人ではなく2人で介助する、相手の行動パターンを予測して拳をよけるなど。
手をつかまれたときにスッと外せる護身術の技を覚えておくのもいいかもしれません。 (もちろん、相手に危害が及ばないもので、あくまでも自身が怪我を負うことを防ぐ目的です。転倒事故などには十分注意してください。) 少しでもヒントになることがあればいいのですが… 今後も、一緒に考えていければと思います。

最後に:ハラスメント対策マニュアルを見てみよう

厚生労働省は介護職員の方々に安心して働いてもらえるよう、介護現場におけるハラスメント対策に力をいれています。そして、その一環として 介護現場におけるハラスメント対策マニュアルを作成しています。

その中には、組織としてハラスメント等に対する考え方を周知させておくこと、話し合いの場や相談窓口を設けること、未然防止に向けて日々点検を行うこと、行政など関係機関と連携をとっておくことなどが書かれています。

事業所としても、個人としても一度目を通し、施設ごとに今一度、暴力やハラスメントと向き合う機会を作ってみてください。
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この記事のライター

社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員

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