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ALS患者の安楽死のニュースについて、どう考えますか?

ALS患者の安楽死のニュースについて、どう考えますか?

【回答者:伊藤 浩一】安楽死合法化の議論より先に、みんなが死について考えられる社会づくりを


本日のお悩み

ALS患者の安楽死のニュースがありました。看取り等もあり死を身近に感じる介護職として安楽死にどのような意見をお持ちですか?

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安楽死合法化の議論より先に、みんなが死について考えられる社会づくりを

ご質問ありがとうございます。
京都の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者のニュースは、医師2名が逮捕されてから1ヶ月以上が経過します。現在でも新聞各紙では論説が繰り広げられる程、深く考えさせられる、むしろ考えなければいけないニュースだと私も考えます。
自分自身、介護職として、施設長として死に向き合ってきた経験を踏まえ、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。

「安楽死」とは?

そもそも「安楽死」とはなんでしょうか?

漢字を分解してみると「安らかに楽に死を迎える」となります。また、広辞苑では「助かる見込みのない病人を、本人の希望に従って、苦痛の少ない方法で人為的に死なせること」と記載されています。

一見、この京都のニュースをALS患者さんの視点で捉えると、広辞苑の定義に合っていて合法のような気がしますが、今の日本では、刑法第202条の嘱託(同意)殺人罪となります(「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する」。ただし、罰金刑はない)。そのため、ニュースや新聞紙面をよく確認すると「嘱託殺人事件」、「嘱託殺人罪で医師2名を逮捕」となっているのがわかります。

安楽死が合法の国は?

それでは、日本では違法ですが、世界において安楽死が合法の国はどこでしょうか?
現在、ヨーロッパの一部(スイス、ベルギー、オランダ等)及びアメリカの一部州で認められています。例えば、スイスでは、自殺を幇助する任意団体があり、年間1,000人超が安楽死を選択しているそうです。
ベルギーでは、パラリンピックで活躍した元車いす陸上選手(マリーケ・フェリフェールト選手 享年40才)が病気を理由に昨年10月安楽死を選択したことも記憶に新しいところです。

安楽死が認められる国の特徴

なぜこれらの国は安楽死が認められているのでしょう?

これは「自己決定」が尊重されている国の風土にも起因しているでしょう。
例えば、ベルギーでは、①居住する自治体に自身の意思を前もって登録する、②顔見知りなどではない中立な立場にいる精神科を含む医師が、医療の力では治癒の見込みがなく、肉体的・精神的に耐え難い苦痛にさいなまれていると認定すること、が前提条件となっています。

また、オランダでは、①安楽死の要件は、全く自発的でなければいけない、②安楽死の要請は、十分に考えた上なされるべきである、③安楽死の要請は、持続的で、特定な期限を限ってはならない、④患者は、耐えられない苦痛にさいなまれていなければならない、⑤安楽死の臨床に経験のある同僚医師に意見を求めなければならない等(一部抜粋)、のように条件が決められています。

これらの国の条件を読むと、いづれにしても「自己決定」であることが前提ですが、合法とされるまでに「十分な考え」、「中立的な医師の認定」が絶対条件であり短絡的な安楽死はありえないことがわかります。

日本の場合

さて、日本に目を戻しましょう。
今回の事件、ご本人の意思はあったにせよ、「SNSでのやりとりのみで実行に至った」、「安楽死に賛成意見である2名の医師による実行で中立的な医師の意見は聞いていない」など、合法の国の条件にも全くあてはまらない短絡的なものと言わざるをえません。

伊藤さんが勤務する特養の場合

私の勤務する特養では、入所時にお看取りや延命処置(気管切開や胃ろう等)についてのお考えをご本人、ご家族に必ずうかがいます。なかには「折角入所したのになんでそんな不吉なことを聞くんだ」とお話されるご家族もいらっしゃいます。

しかし、高齢者にとって死は予期せぬ時に訪れる可能性もあり、ご本人はもちろんご家族にも考え、備えていただかなくてはなりません。このヒヤリングは、定期的に開催し、その都度想いを確認します。なかには、半年前と正反対のことをおっしゃる方もいらっしゃいます。

このように死を考えるには、時間をかけてたくさんの話し合いを積み重ねる必要があります。人はその時その時の気持ちの変化があって当然ですから。

まとめ

最後に、結論です。私は、日本が安楽死を合法にするべきかどうかに関しては、時期が早いと考えます。

なぜなら、ACP(人生会議)などの推進がスタートしたばかりで、国民全体が自分、家族、身近な人の死について考える環境がまだ整っていないからです。
また、教育の現場ではゲームの影響からか、死んだ人が生き返ると思っている小学生が全体の15%(長崎県教育委員会調べ)もいるという実情もこれから考えていかなければならなしでしょう。

コロナ禍により、人との関係性が希薄になる中、死についてみんなで考えることは教育も含めまだまだ時間を要する必要性があります。

命は、再現性のない唯一無二の尊いものです。短絡的に死を選ぶのではなく、命の尊さ、可能性を柔軟に考えることができる、そして、その辛く苦しい思いを共感し、サポートできる社会づくりが、これからの日本にまず求められていると考えます。

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この記事のライター

茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)

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