本日のお悩み
数年前、介護福祉士に8万円支給されるというような話があったかと思います。
あれって結局どうなったんですか?
周りの話をきいても、そういうことは聞かないのですが…。
給料明細見ていますか?
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもみじ館施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
ご質問ありがとうございます。
確かに!あの話題はインパクトありましたね。
遡ること三年前(2017年12月)、突如新聞各紙に
「2019年10月から10年以上の経験ある介護福祉士に、公費1,000億円程度を投じ、月額8万円相当の処遇改善を行う」と出ました。
これは、人生100年時代においてますます介護職が必要となる中で、人材確保定着のため、そして、8%から10%に増額となった消費税を財源とするとのことでした。
私もこの記事を読んで「おーっ!みんな良かったねー!」と職員に伝えた記憶があります笑。
■特定処遇改善加算は、予告通りの内容で実施されたのか?
では、ご質問の答えです。
実際はどうなったのかと言いますと「特定処遇改善加算」という制度となりました。
先程の文言を分解して解説していきます。
◆時期:2019年10月から ⇒ 実施されました。
◆対象:10年以上の介護福祉士 ⇒ 勤続年数10年以上の介護職員を基本としつつ、他の法人経験や、当該職員や技能等を踏まえ、各事業所の裁量で設定するとなりました。そして、この定義(①)の他に②一般職員、③その他の職員という項目もできました。つまり、10年以上のベテラン介護福祉士以外の介護職員(例えば初任者研修修了者)や、事務職員、栄養士、看護職員(一部)なども対象となったのです。
◆公費1,000億円 ⇒ 処遇改善の予算規模は年間2,000億円とし、半分は予定通り公費、半分は加算としてご利用者からいただくこととなりました(これ重要)。
◆月額8万円 ⇒ 対象者①についてはそのうち最低1人、月額8万円以上の処遇改善か、年収440万円以上を確保することとなりました。支給額でなく支給条件の基準額となったのです。
*もう少し詳細な決まりごとがあるのですが、細かくなってしまうのでここでのご紹介は、質問者さんのご質問に即した情報提供だけにとどめます。
■金額が分散していった理由は?
さあ、これを読んで質問者さんはなんとお思いになりましたでしょうか?
「介護福祉士に8万円」という文言が独り歩きしてしまった感は大いにありますが、
介護ってチームで行っているよね。でも介護職だけにっておかしくない?
また、ベテランの介護福祉士はもちろん評価されていいけど、一所懸命頑張っている介護職もたくさんいるよね。
と議論している内に、金額が分散していったということになります。
そして、制度としては予定通り実行されている。ということも付け加えておきます。
■自分の処遇改善内容をきちんと知っていますか?
さて、質問者さんに逆質問です。
この特定処遇改善加算、取得要件として「処遇改善内容の全てを従業員に周知していること」とあります。
質問者さんは、「そういえば去年から少し給料増えたなーなんだろうな?ま、いいか」なんてことはないですか?
もし身に覚えがあったらまずいですね。ルール違反の可能性があります。
給料明細を確認の上、所属事業所に相談することをオススメします。
■介護福祉士の給料や年収の相場は?
厚生労働省「令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果」より、資格別の給与を調べてみました。
令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果(厚生労働省が発行するPDFに遷移します)
介護福祉士の平均月収・年収(額面)
◆処遇改善加算のみ取得している事業所の
1ヶ月の平均給与…¥328,720
平均年収…¥3,944,640
◆特定処遇改善を取得している事業所の
1ヶ月の平均給与…¥334,510
平均年収…¥4,014,120
介護福祉士の平均月収・年収(手取り)
◆処遇改善加算のみ取得している事業所の
1ヶ月の平均給与…¥262,976
平均年収…¥3,155,712
◆特定処遇改善を取得している事業所の
1ヶ月の平均給与…¥267,608
平均年収…¥3,211,296
※1ヶ月の平均給与は、基本給(月額)+手当+一時金(4~9月支給金額の1/6)
※「手取り」は月収または年収の8割として算出
詳しくはこの記事をチェック!
社会福祉士の年収や、施設形態別の給与も紹介しています。
介護職の給料、相場はどのくらい?手取りや年収、夜勤手当の平均を調べてみました | ささえるラボ
https://mynavi-kaigo.jp/media/articles/164あなたはいくら損してる?介護職の給料、相場はどのくらい?施設形態・保有資格別に手取りや年収、夜勤手当の平均を調べてみました!ズバリ、転職をお勧めします。【回答者:伊藤 浩一】
介護職の給与、2023年以降の展望とは
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
先日、1,000人の高校生に介護についてのお話しをする機会がありました。
「バイアス・ブレイキング(偏見を壊す)」と言うテーマで、IT化が進んでいたり、グローバル化も進んでいたり、皆さんが「介護はただ大変」と思っている偏見を破壊するというお話をさせていただいたところ、介護に対するイメージが大きく変わったとの反響いただきとてもうれしかったです。
その中で「自分は介護職を目指しているのだけど、将来のお給料はどのぐらいになるのか?」という質問をくれた学生さんがいました。
私は下記(「処遇改善加算の歴史」参照)のように介護職のお給料は継続して上がり続けていること、そして、トータルすればいい人で年100万円の増額がここ10年ではかられたこと(自法人職員の実際の給料を見ていて)、そして、これからまた上がる可能性が充分あるというお話をさせていただきました。
■処遇改善加算の歴史
処遇改善の歴史年表
2009年10月~2012年3月 | 「介護職員処遇改善交付金」 (100%国財源) *介護職員(常勤換算)1人あたり月1.5万円増額相当 |
2012年4月〜 | 「介護職員処遇改善加算」へ変更(交付金額の維持) *キャリアパス等要件を満たせば加算という形で算定可能=一部ご利用者からいただく |
2019年10月~ | ①介護職員処遇改善加算に、②介護職員等特定処遇改善加算が追加となる *月8万円増額(言葉が一人歩き) |
2022年2月~ | ①介護職員処遇改善加算、②介護職員等特定処遇改善加算に、③介護職員処遇改善支援補助金(100%国財源)が追加となる *月9千円増額 |
2022年10月~ | ①介護職員処遇改善加算、②介護職員等特定処遇改善加算 、③介護職員処遇改善支援補助金(100%国財源)が、「介護職員等ベースアップ等加算」に名称変更され、職場環境等要件が厳格化される |
■まずは介護報酬の視点から、介護事業者の収入を考える
介護報酬が上がる=介護事業者の収入が上がるということ
2024年度には介護報酬の改定があります。
まず確認ですが、介護報酬とは、国が定める介護サービスに対する報酬の基準です。介護保険法に基づいたサービスを提供する限り、基本料金を独自で決めることはできません。実費部分(食費等)においては、多少の裁量権はありますが、基本的には国の定めた基準に沿った介護報酬をご利用者からいただく形となります。
となれば、我々事業者にとって注目すべきは介護報酬が上がるかどうかです。
介護報酬が上がるという事は、事業者にとって、収入が増えるということになります。収入が増えればその分、人件費や修繕費、水道、光熱費等のコストに充てることができます。
では、2024年の介護報酬改定の動向は?
しかしながら、次期改定では、介護報酬が上がる事は、ほぼ期待ができない状況と考えます。
なぜなら、介護を代表する国会議員は誰もいないからです。医師、理学療法士、看護師等はその団体の代表が国会議員になっています。
職能団体の生の声を直接国に届けることは、制度の改正に大きく寄与することになります。しかし、前回の参院選においては残念ながら介護を代表する国会議員は落選してしまいました。これにより、介護報酬のプラス改定に大きな影響を与えることが難しくなってしまったと考えられます。もし、上がったとしても最近の物価高騰による微調整でしょう。
■介護職員の給料は上がる?
介護職員の報酬は今後も増えていく
では介護職員の報酬はどうなるのか?
こちらは別で、処遇改善加算が更に拡充される可能性はあります。
国は、まだ他業界に比べ介護業界は給料水準が低いと考えているからです。
つまり、事業所の収入は増えないが、直接的に介護職員の報酬はアップするということです。なぜなら、介護人材不足は、これからますます深刻になる事は明確だからです。
ただし、「加算要件」をクリアした事業所に勤めていなければ報酬は上がらない
しかしながら、ただ介護職の収入が増えるだけということにはならないと思います。
現在、手続きの簡略化が議論されています。歴史をみてわかるように加算の追加により複雑になった制度のスリム化は進み、すっきりした形となることが予想されますが、「加算要件を適正にクリアしているか?」の確認は厳しくなると考えられます。
正直なところ、今まで処遇改善加算に対する実地指導はあまり厳しいという印象はありませんでした(地域差はあるともいますが)。
しかし、加算算定には、以前こちらに書いた要件(過去記事)があります。特に、「職場環境等要件」として、研修の実施などキャリアアップに向けた取組はもちろんですが、ICTの活用など生産性向上の取組等の実施が求められています。
つまり、私が高校でお話しした内容ですね。
■まとめ:事業所の収入は増えないが、介護職員の給料は上がる可能性が高い
①介護報酬は次期制度改正では、物価高騰分程度の微増
②介護職員の処遇改善に関しては、さらに拡充されるが、よりその算定要件を満たしている運営をしているかどうかが厳しい目となる。
というのが私の予測です。
つまり、介護職も今までのバイアスをブレーキングしてICTの活用や生産性向上への変化に順応していかなければ、給料アップは望めないことになります。
また、それは決して利用者さんへマイナスではなく、よりサービスの質を高めるため、そして介護職自身が成長するために、私は必要な制度変更だと前向きに捉えています。
冒頭の高校生の話になりますが、介護の仕事につきたいという学生さんがたくさんいたこと、とても嬉しかったです。私たちが変わり、若い方たちがやりがいをもって活躍できる介護業界になることが、最終的に私たちが介護が必要な状況になった時への大きな種まきなのかもしれませんね。
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介護職の給料アップにつながる「処遇改善手当て」とは?加算の仕組みや目的を理解しよう | ささえるラボ
https://mynavi-kaigo.jp/media/articles/511介護業界の人手不足を解消するために国が創設した「介護職員処遇改善加算」。要件を満たした事業所には加算金が支給され、「処遇改善加算手当て」として従業員に配分されます。加算の仕組みや目的などの基礎知識を紹介します。
茨城県介護福祉士会副会長
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NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)