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介護の人員配置基準がおかしい?専門家が賛成する理由や4:1にするメリット・デメリットを紹介します!

介護の人員配置基準がおかしい?専門家が賛成する理由や4:1にするメリット・デメリットを紹介します!

[2025年6月19日 更新] 介護施設の配置基準を3:1から4:1に規制緩和することについては、介護現場内外でさまざまな議論が交わされてます。この記事では、介護職の視点で規制緩和のメリット・デメリットを紹介します。【執筆者/専門家:伊藤 浩一】


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本日のお悩み:介護施設の配置基準を3:1から4:1にすることについてどう思いますか?

「配置基準を3:1から4:1にする」という議論について、どう思いますか?職員の視点としては、ただ負担が増えるだけだと思っています。

賛成している人は、どのような理由で賛成しているのでしょうか?
代わりにロボットを導入するにしても全施設で対応できるほどの予算がないと思いますが…。

自分達が介護してもらう側になる時も想定した方が良い時期に来ています

執筆者/専門家

伊藤 浩一

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14

茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもみじ館施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員

ご質問ありがとうございます。 介護の現場からは「現行の3:1ですら人が足りないのに、さらに人数を減らして介護をしろというのか!」という怒りの声が聞こえてきます。

また、「介護は人と人とのつながりが大切なのに、ロボットを導入するなんてありえない。そもそも、人の代わりになるロボットなんて存在しないじゃないか?」という叫びも耳にします。

こうした皆さんの思いには、私も深く共感しています。それでも、私はこの提案の方向性には賛成の立場です。その主な理由は以下3つです。

・賛成理由1:そもそも「配置基準を4:1にする」でなく「4:1を可能に規制緩和する」議論だから
・賛成理由2:介護人材不足は、間違いなくこれから更に顕著になるから
・賛成理由3:チャレンジする組織に介護現場が変わらなければならないから

賛成理由1:そもそも「配置基準を4:1にする」でなく「4:1を可能に規制緩和する」議論だから

大変申し訳ないのですが、そもそもの質問が少し誤解を含んでいるようです。

この提案は、12月20日に内閣府の規制改革推進会議で取り上げられたもので、「配置基準を4:1にする」と決定されたわけではありません。実際には、介護の人員配置に関する規制を緩和する方向で検討するという内容です。

もう少し噛み砕いて言えば、「見守りITなどを活用して対応できる事業所に限り、4:1までの配置でも認める制度にしてはどうか?」という提案であり、すべての施設に一律で4:1を求めるものではありません。つまり、ITの活用が難しい事業所は、これまで通りの基準で運営しても問題ないということになります。

私自身も特別養護老人ホームを運営していますが、現状の3:1ではとても対応しきれません。実際には、2:1に近い体制で、職員の皆さんに頑張ってもらっているのが現状です。
この配置基準はあくまで最低ラインの話であり、仮に制度が4:1まで緩和されたとしても、それを上回る人員配置をしている施設については、今後も何ら問題はないと考えています。
※参照:内閣府 規制改革推進会議 会議情報

賛成理由2:介護人材不足は、間違いなくこれから更に顕著になるから

■介護職員の人材不足の現実

厚生労働省の推計によると、2026年度には約25万人、2040年度には約57万人の介護人材が不足すると言われています。

「4:1なんて無理だよ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、失礼ながら、質問者さんは今おいくつでしょうか?
※出典:厚生労働省 介護人材確保に向けた取組

■人口構造の変化と介護現場の年齢構成

現在の日本の人口ピラミッドを見ると、団塊の世代(75歳前後)と団塊ジュニア世代(45歳前後)の層が特に多くなっています。 つまり、あと5年、10年後には、団塊の世代は80〜85歳、団塊ジュニア世代は50〜55歳となります。

今の介護現場を支えているのは、実は40歳以上の職員が中心で、若い世代の職員は非常に少ないというのが現状です。これは、現場で働いている方なら肌感覚で理解できることではないでしょうか。
※出典:厚生労働省 日本の人口ピラミッドの変化

■若手不足と外国人材の不安定さ

高齢者の数が増える一方で、介護の担い手も高齢化し、若い職員がほとんどいない状態です。さらに、コロナの影響で外国人技能実習生や特定技能、留学生の受け入れも不透明な状況が続いています。

このままでは、現行の3:1の配置基準を維持すること自体が現実的に難しくなっていくのではないでしょうか。

■解決手段となるIT・ICT化

では、どうやって不足する人員を補うのがよいのでしょうか。
安定的に供給できる手段として考えられるのがロボットの活用です。もちろん、ロボットの導入においてもコストの問題や半導体不足などは生じますが、人材不足を補うという点では有効的です。

さらに、ロボット以外だとセンサー技術の活用や、記録の電子化なども介護施設に取り入れられるIT・ICT化の例です。これらを活用することで、介護の質を保ちながら人員の負担を軽減することができる可能性が見えてきます。

■伊藤先生の実体験と介護業界の展望

私は2025年時点で、1975年生まれの50歳、まさに団塊ジュニア世代です。

若い頃は、夜勤手当を目当てに月5〜6回の夜勤にも積極的に取り組んでいましたが、今では体力的に少し自信がなくなってきました。この先は、さらに厳しくなるかもしれません。

これらの背景も踏まえたうえで、今は、2040年を見据えて制度を見直していくべきタイミングに来ているのだと思います。

賛成理由3:チャレンジする組織に介護現場が変わらなければならないから

先述してきた通り、これは規制緩和の議論です。だからこそ、「うちは4:1にチャレンジしてみよう」という事業所があってもいいと思います。

私の勤務する特養では、眠りの見守りシステムを導入しています。睡眠のリズムや体動を感知して見守りができるため、夜間の巡視を2時間おきから4時間おき、あるいは不要にすることも可能になりました。(もちろんケアプラン上での同意を得たうえで)この成果として、職員の負担が減り、利用者さんの安眠にもつながっています。

実際、利用者さんの立場になったときに、睡眠中2時間おきに誰かが部屋に入ってきたら、落ち着いて眠れませんよね。私自身、かなり敏感な方なので、ドキッとして眠れなくなるかもしれません。

つまり、利用者さんにも職員にも良い環境がつくれるなら、4:1も選択肢のひとつです。工夫次第で可能性は広がります。私たち自身が考え、変わっていくことが求められているのだと思います。

配置基準を「4:1」にすることで生じる課題

配置基準

あくまで、現状は規制緩和という形ですが、正式な基準となった場合に生じる課題を紹介します。

1.単純な変更は介護職の負担増加に繋がる
2.職員の給与低下のリスクがある

1.単純な変更は介護職の負担増加に繋がる

今回の配置基準の変更に関する提案は、介護業界の人材不足解消に向けた取り組みです。

しかし、IT・ICT化を前提としてものであるため、その準備が不足した状態で配置基準を変更してしまうと、単に職員1人あたりの負担が増加することに繋がってしまうのです。

2.職員の給与低下のリスクがある

介護施設の配置基準においては、現状「3:1」の配置基準を設けており、この人員配置を上限に介護報酬は設定されています。そのため、配置人員がこの基準より増えると、それに連動して職員の給与水準が低下する仕組みとなっています。

しかし、現状の3:1でも多くの介護現場では、労働基準法に違反したシフトを作成しないと対応できないことから、施設独自の基準を設けて2:1に近い基準で配置しているところが多く、東京都高齢者福祉施設協議会の調査では58%の特養で独自の基準を定めていることがわかります。

これらのことから、今後4:1が基準となった場合、より職員の給与水準が低下してしまう可能性があるので、IT化やICT化への取り組みを強化していく必要があるでしょう。
※参照:東京都高齢者福祉施設協議会 特養における利用率及び介護職員充足状況に関する実態調査(概要)

IT・ICTの導入に向けて補助金を積極的に活用しましょう!

また、ロボットなどの導入に向けて介護施設ごとの差に対する懸念の声もあります。たしかに、介護事業所によって差はあります。

しかし、国としても介護業界の人材不足を懸念していることから、「介護テクノロジー導入支援事業」として、介護職員の業務負担軽減や職場環境の改善に取り組む介護事業者がテクノロジーを導入する際の経費を補助し、生産性向上による働きやすい職場環境の実現を推進する施策を実施しています。

このような申請を面倒と捉えず、積極的に活用することで、長期的に見て安心して働くことができる介護事業所を作っていけるのです。

最後に:時代の変化とともに、介護業界にいる私たちも変わらなくてはいけない

4:1の規制緩和については、今後も「緩和の条件」が具体的に示されていくと思われます。その内容については、しっかりと注視していきましょう。

社会にはさまざまな課題がありますが、なかでも人口減少は確実に進行しています。今が大変なのは間違いありませんが、だからこそ、私たち自身が未来を見据えて変わっていくことが求められています。

「変わらなければ間に合わない。」自分たちが介護される立場になる日を想定して、今から備えていくべき時期に来ているのだと思います。

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この記事のライター

茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)

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