介護業界のIT化・ICT化が進まないのはなぜ?このままだとどうなる?解説します!
令和3年度の介護報酬改定では、
・PDFなどのデータを使って利用者への説明が可能に
・利用者への同意を取る際、電子署名が利用可能に
・押印欄が削除される
・オンライン服薬指導が算定されるようになる
など、デジタル化、IT化、ICT化に向けた施策が進んでいます。
しかし、実際の介護現場では、まだまだ紙文化や印鑑の文化が根強く残っています。
コロナ禍を経て、既にICT化が進んだ社会の中で、なぜ介護現場のICT化は進まないのでしょうか?
その原因を解説します。
IT化・ICT化へ待ったなし!行政の動きに沿った一層の努力が必要です
■介護現場におけるIT・ICT化の現状とは
ファックス、フロッピーが当たり前の介護現場も
介護現場では、いまだにファックスが大活躍。
フロッピーディスクという今の若い方などは見たこともない過去の遺物が、数年前まで介護保険の請求業務で使用されていたなんて、笑うに笑えない話もあります。
そもそも日本はIT化・ICT化が進んでいない国
そもそも先進国と言われている日本そのものが、世界的にみるとIT化・ICT化が進んでいるとは言えず、スイスの国際経営開発研究所が発表した「世界デジタル競争力ランキング2020」によると、日本は27位と決して高い順位ではありません。
その中でも、介護業界はIT化・ICT化が遅い業界であるといえます。
それはなぜなのでしょうか?
■介護業界のIT化・ICT化が遅れている4つの理由
①介護行政との兼ね合い
まずは介護行政との兼ね合いや行政の求めに原因があると思います。
介護業界は比較的行政とのやり取りが多い業界です。
従来は、利用者との契約、重要事項説明書、ケアプランなど多くの書類に捺印が必要とされ、行政の監査や実地指導においても、それを確認されていました。
ようやく令和3年度の介護報酬改定において、電子データでの契約が認められるようになったくらいです。
②働き手側が電子機器に対して苦手意識がある
2つ目の理由は、働き手側にもあるといえます。
介護業界は比較的高齢の従業員も多く、IT機器が苦手な方も少なくありません。いまだに介護記録や報告書でも手書きの書類が散見されます。
1つ目にある電子データの契約が認められても、現場側が追い付いていない現状もあります。
③電子機器の導入コストがかかる
3つ目の理由はコストの問題です。
介護事業の経営は非常に厳しい状況にあります。
令和2年度の厚生労働省による介護事業経営実態調査によると、介護サービス全体の収支差率は2.4%と、前年度より0.7ポイントも低下しています。
人材不足に起因する採用コストの増大、人件費率の増加がその要因と言えると思いますが、この薄い利益の中からITコストを捻りだすのは容易ではありません。
国や行政はIT化に対する補助金なども用意していますが、その申請すら出来るゆとりがない事業所も多いようです。
④情報漏洩のリスク
4つ目は、情報漏洩へのリスクです。
私たち介護現場は、かなりセンシティブな個人情報を取り扱っています。それらの電子データを対行政や事業所間で行う際の暗号化やリスクヘッジに対する備えや知識が、まだまだ不足しているといえます。
これらの理由により、介護現場ではまだまだIT化・ICT化が遅れていると言えるでしょう。
■介護業界のIT化・ICT化の先には、多くのメリットがある
スマートフォンが使えるなら、IT化・ICT化のメリットは理解できるはず
とはいえ、多くの国民が老若男女問わずスマートフォンを使いこなす昨今、だれもがIT化・ICT化のメリットを享受していることと思います。
欲しい情報にいつでもアクセスでき、相手の都合に関わらず情報を届ける事ができ、さまざまな検索ワードで必要な情報を拾い出すということを日常的にしています。
これらは過去に、手紙や公衆電話や固定電話、ファックスなどで行っていたことです。恐ろしいくらいの時間を掛け、非効率で、間違いも発生しやすい行為を行っていたのが、携帯電話やスマートフォンの登場、そして急速な普及により、国民のIT化・ICT化は進んだわけです。
印鑑・紙文化からの卒業の先にあるメリット
家庭で出来て、介護現場で出来ないわけはありません。
介護現場へIT化・ICT化を導入し、印鑑・紙文化からの卒業を図れば、そこには「効率化」「低コスト化」「情報の共有化」「正確性の向上」など、メリットだらけです。
IT化・ICT化が遅い原因の4つをクリアにし、ただちに取り組むべきであると思います。
■介護現場におけるIT化・ICT化は、生き残るために必要なこと
行政も、IT化・ICT化に向けて進んでいる
1つ目にあげていた「介護行政」は大きくIT化・ICT化に舵を切り始めました。
厚生労働省は「厚生労働省では、介護現場におけるICT化を進めています。ICTの活用については、従来の紙媒体での情報のやり取りを抜本的に見直し、ICTを介護現場のインフラとして導入していく動きが求められています。介護分野のICT化は、介護職員が行政に提出する文書等の作成に要する時間を効率化し、介護サービスの提供に集中する上でも重要であると言えます。また、介護現場の情報をICT化することにより、ビッグデータの蓄積が可能となり、エビデンスに基づく介護サービスの提供を促進することにも繋がります。」と掲げています。
IT化・ICT化が進まなければ、やがて負のスパイラルに
しかも、「科学的介護情報システム(LIFE)」を用いた厚生労働省へのデータ提出を行わなければ、加算算定もできない仕組みです。
つまり、満足な収入を上げることが困難となり、人件費に掛けるコストも削らざるを得ず、人は採用できず、辞めていくという「負のスパイラル」に陥ることとなるわけです。
よって、介護現場に於けるIT化は喫緊の課題であり、待ったなしであるというのは、以上のような理由からです。
「苦手」だからとか、「コストが掛かる」とかで、逃げるのではなく、生き残るために必要なことだという覚悟が必要だと思います。
介護現場のIT化・ICT化を取り巻くお悩み
実際に今回、下記のようなお悩みをいただきました。
【お悩み】
介護のICT化に伴い、見守りセンサーをつけたが、実際の忙しさは変わっていないように思います。
例えば、夜勤のように一人でたくさんの人数を見ている場合では、結局ICT化のために導入した見守りセンサーが鳴ったところで、そこへ駆けつけるのは人(介護職)です。
結局人が対応するにも関わらず、配置基準が変わり人数が減らされるのは困ってしまいます。
…とのことです。
このようにICT化を導入したが上手くいっていないというような場合、どのようなことを改善すればいいのでしょうか。
■まずは導入の目的が明確だったかを確認しましょう。
ICT化による省力化が上手く行かない事業所はたくさんありますが、原因は大きく分けて2つに分けられます。
①ICT導入の目的が明確になっていない
ICT導入時の検証が不十分だったり、または. トップダウンからの指示などで導入ありきで取り入れたり、現場の声に沿った機種選定が出来ていなかったり…このようなことはなかったでしょうか。
このような場合は【ICT導入の成果が何なのか?】もおのずと不明確となり、効果測定が難しくなってしまいます。
もう1度原点に立ち返り、現状の現場における課題点を洗い出したうえで、課題の解消にそのICT機器がツールとして活用できるかを見直し、活用方法を再考することをお勧めします。
福岡福祉向上委員会 代表