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手のかかる利用者さんに付きっきり…公平にケアできないジレンマ、どう対処する?

手のかかる利用者さんに付きっきり…公平にケアできないジレンマ、どう対処する?

公平にケアしたいのに、介護現場は「困った人」を優先せざるを得なくなりがちです。否のない人たちに我慢を強いるしかないのでしょうか?…完璧に対応しようとしていませんか?サービスの質を保つため、「できない」と判断することも大切。限界と目的を見誤らないで【回答者:伊藤 浩一】


本日のお悩み

私が働いている特養に、カッとなって暴言・暴力が出やすい利用者さま(A様)がいます。
先日、利用者間で少しトラブルになってしまいました。その結果、普段は共有スペースで談笑するのが好きな利用者様も、怖がってしまっている状況です。

A様のような方は初めてではありませんし何か原因があるのだろうと思います。暴言や暴力の裏には寂しさや不安が、というのは何十回も聞いてきましたし、なんとなく感じることもありました。
多忙ゆえに本来行うべきそのケアが満足にできていないのはこちらの落ち度で、今回の件は私達職員のA様に対しての対応が不十分だから起きたのかもしれません。他利用者様たちには怖い思いをさせてしまって本当に申し訳ないです。
でも人員的に無理なものは無理なんです。A様一人のために他の業務が滞れば他の方々に迷惑がかかります。

介護現場は「困った人」を優先せざるを得なくなりがちです。
A様とA様を怖がる他の利用者様、どちらも平等に利用者様です。
否のない人たちに我慢を強いるしかないのでしょうか。

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限界と目的を見誤らない

伊藤 浩一

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14

茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員

ご質問ありがとうございます。
質問者さんの利用者さんを平等に対応したいという姿勢、介護職の鏡ですね。

常に忙しい現場においては、つい、目の前の業務だけに視野が狭くなりがちです。
そんな中、平等という視野を保ち続け、また、Aさんに対してもその暴力的行動の背景に何かあるのではと寂しさや不安への対処ついて、すでに自分達のケアを振り返っていることも、プロとしてすばらしいです。

完璧に対応しようとしすぎていませんか?

一方で気になることもあります。

完璧に対応しようと追い込みすぎていないでしょうか?
時に、全て平等を完全に求めるのは難しいと判断することも必要ではないでしょうか?

キャパシティを超える場合は、利用者を選定することも大切

確かにどんな方でも対応する。という考えは素晴らしいです。
しかし、人は十人十色、そこに認知症の症状が加わるとさらに状況は複雑化していきます。

そして、介護サービスにも限界があります。
キャパシティを超える介助が必要となった場合は無理をせず、対応できるご利用者を選定させていただくことも重要ではないでしょうか?
なぜなら、できないことをできると言って安請け合いすることこそお客様に失礼だからです。

サービスの質を保つため、「できない」と判断する

例えば、とっても美味しいと評判の高いレストランがあるとします。
その評判を聞いて行ったらたくさんの人が並んでいました。
店員さんに「今日入店は難しそうですか?」
と聞いたら「大丈夫ですよ」なんて言われたもんだから我慢して1時間待ちました。
それなのにいざ入店直前に「材料なくなったので対応できません。」
と言われたらどう思いますか?もう2度といきませんよね。

つまり、できないのはできないと判断することは決して悪いことでなく
お客様にとっても良いことなんです。サービスの質を保つという判断をしたということですね。

利用者さんに事業所を移っていただくのもひとつの手段

では今回の事例はどうでしょう。

質問者さんの事業所さんは、Aさんに対しても他の利用者さんにも精一杯対応していらっしゃいます。
しかし、お客様の満足度はAさん、他のお客さんともに満足いっているとは言えないようでしょう。

ではどうするか?
Aさんは質問者さんの事業所には合わないと判断して、合いそうな他事業所に移っていただいたらいかがでしょうか。
今の自分達の介護サービス量で対応できる環境に調整するということです。介護サービスの質を保つ判断です。

介護の目的は、個別支援

たしかに、社会福祉の概念からすれば公平性は重要です。しかし、無理しても結局その皺寄せは利用者さんにいきます。
彼を知り己をしれば百戦危うからずと孫氏の兵法にありますが、己の力量を見誤ると失敗するという話の通りになります。

介護の目的は平等を保つことでなく、個別支援です。
限界と目的を見誤らないでください。
介護事業所はひとつしかない訳ではありませんよ。

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この記事のライター

茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)

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