2.認知症ケア専門士の合格率は約50~55%
3.認知症ケア専門士の勉強方法は公式のテキストがおすすめ
地域社会や介護・医療の現場で認知症の高齢者が増えるなか、2005年に設立されました。
この資格を取得すると、専門的で根拠ある知識に基づいて認知症の利用者のケアにあたることができるようになります。
資格を取得するメリットをはじめ、受験方法や合格率など、認知症ケア専門士に関する基礎知識を解説します。
認知症ケア専門士とは
資格ができた背景には、少子高齢化が進むとともに認知症の高齢者が増え、ケアの充実が求められていることがあります。
さらに、認知症ケア専門士の上位資格として認知症ケア上級専門士が、また、より入門的な資格として認知症ケア准専門士が設けられています。
その算定要件の一つとして、「認知症に係る専門的な研修を修了した者」を配置することが定められています。
しかし認知症ケア専門士の資格は、この専門的な研修には含まれません。
この要件に該当する研修は、「認知症介護指導者研修」や「認知症介護実践リーダー研修」といった国や自治体が実施する研修です。
認知症ケア専門士資格のメリット
2.収入アップにつながる場合がある
3.就職・転職で有利になる
■認知症への理解が深まり、介護スキルが向上する
介護業界で働いている人の場合、試験勉強に取り組んで合格することで、認知症への理解が深まり、認知症の利用者に対して、より適切な対応ができるようになるでしょう。
また、資格取得後も、日本認知症ケア学会が認定する講座などを受けて資格を更新する必要があるため、常に知識をアップデートしていくことができます。
■収入アップにつながる場合がある
その場合、認知症ケア専門士の資格を取得することで給与アップが期待できます。
資格手当てがない場合でも、資格を取ることで認知症ケアのスキルが高まり、職場で評価された結果、リーダー職などに昇格して給与アップにつながることもあるかもしれません。
■就職・転職で有利になる
特にグループホームのような認知症の利用者が多い介護施設・事業所への就職・転職活動では、書類や面接で認知症ケア専門士の資格があることをアピールすると、採用されやすくなる可能性があります。
認知症ケア専門士資格のデメリット
2.更新のための講座受講や費用が負担になる
■資格手当ての対象にしている事業所が少ない
それに対し、認知症ケア専門士の資格を手当ての対象にしている施設・事業所は多くありません。
■更新のための講座受講や費用が負担になる
更新のためには、日本認知症ケア学会が認定した講座の受講などが求められます。
また、講座を受けるたびに数千円~数万円の受講料を、更新手続きの際には1万円の更新料を支払わなければなりません。
資格更新のために定期的に最新の知識を学べる点はメリットですが、仕事が忙しいなかで講座の受講や手続きをしなければいけないことを負担に感じる人もいるかもしれません。
受講料や更新料がかかることもデメリットといえます。
認知症ケア専門士資格の取得方法
ここでは、第20回(2024年度)試験の内容をもとに、受験資格や申し込み方法、試験の内容などの概要を紹介します。
なお、変更が生じる可能性もあるため、受験する年度の詳しい試験概要は、認知症ケア専門士公式サイトから確認してください。
■受験資格
認知症ケアに携わっていれば、職種や職務内容に制限はありません。
ただし、ボランティア活動や実習は、実務経験としては認められていません。
■受験方法
料金は1部1,000円で、認知症ケア専門士認定試験を受ける人は、受験する年度の手引きを必ず購入する必要があります。
次に、手引きに従って申請書類を記入します。期限内に申請書類を提出し、受験料を納付すると、申し込みは終了です。
その後、試験までに日本認知症ケア学会事務センターから受験票が送られてきます。
試験は第1次試験と第2次試験があり、それぞれで申し込みが必要です。第1次試験に合格すると、第2次試験を受けることができます。
第1次試験の申し込み期間は3月~4月頃で、受験料は1分野につき3,000円、4分野全てだと12,000円です。第2次試験の申し込み期間は8月~9月頃で、受験料は8,000円です。
■試験の内容
■第1次試験(実施時期:7月頃)
「認知症ケア標準テキスト」に準じた内容で、「認知症ケアの基礎」「認知症ケアの実際Ⅰ(総論)」「認知症ケアの実際Ⅱ(各論)」「認知症ケアにおける社会資源」の4分野から、各50問ずつ出題されます。
各分野につき70%以上の正答率で合格となります。第2次試験を受験するためには、4分野全てに合格しなければなりません。
各分野の合格有効期限は5年間あります。全ての分野に合格できず不合格になっても、期限内に再受験すれば、一度合格した分野の試験については受ける必要がありません。
また、認知症ケア准専門士の資格がある人は、資格取得後5年以内で、認知症ケア専門士認定試験の受験資格を満たしていれば、第1次試験の受験が免除されます。
■第2次試験(受験申請・論述問題の提出期間:8月~9月頃)
内容は、認知症ケアの事例に対する論述試験です。
その年度の第1次試験の合格者には、合格通知とともに論述問題が送られてきます。
前年度以前に第1次試験に合格した人や、3年以上の認知症ケア実務経験のある認知症ケア准専門士資格取得者は、提出期限内に「論述問題(事例)送付希望届」を提出して論述問題を取り寄せる必要があります。
その後、各自が論述問題に回答し、申請期間内に、受験申請書などの必要書類とともに答案を提出します。
論述問題では、次の5つの要件を満たしていると評価されると、合格となります。
1. 適切なアセスメントの視点を有している者
2. 認知症を理解している者
3. 適切な介護計画を立てられる者
4. 制度および社会資源を理解している者
5. 認知症の人の倫理的課題を理解している者
なお、以前は論述試験のほかに、12月頃に面接試験(テーマに沿った約1分のスピーチと約20分のグループディスカッション)が実施されていましたが、2021年度~2024年度の認定試験では、新型コロナウイルス感染症流行の影響で面接は中止されています。
■合格後の流れ
第2次試験に合格して倫理研修を受講したうえで、登録申請をすると、認知症ケア専門士の資格を取得できます。登録には、1万5,000円の費用がかかります。
■合格率
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率(%) |
第12回試験(2016年) | 7,467 | 3,983 | 49.3 |
第13回試験(2017年) | 6,029 | 3,266 | 56.5 |
第14回試験(2018年) | 5,063 | 2,769 | 54.7 |
第15回試験(2019年) | 4,893 | 2,607 | 53.3 |
第16回試験(2020年) | 2,550 | 1,442 | 56.5 |
第17回試験(2021年) | 3,063 | 1,645 | 53.7 |
ケアマネジャー試験ほど難関ではないとはいえ、認知症ケア専門士認定試験の難易度は比較的高めといえるでしょう。
出題内容の専門性も高いため、入念に試験対策をして臨む必要があります。
■勉強方法
全5巻のうち、第1巻「認知症ケアの基礎」、第2巻「認知症ケアの実際I:総論」、第3巻「認知症ケアの実際Ⅱ:各論」、第4巻「認知症ケアにおける社会資源」が、第1次認定試験の出題範囲にあたる内容です。
第5巻は「認知症ケア事例集」で、第2次認定試験の参考になる内容です。
認知症ケア専門士認定試験の過去問題集はありませんが、複数の出版社から解説付きの予想問題集が発行されています。
テキストを読んだ後、問題集を解いて自分の理解度を確認し、間違ったところや答えられなかったところを再度テキストで学習するという流れで勉強を進めていきましょう。
5年間の有効期限内であれば、分野を分けて受けることもできるので、一度の受験のために4分野分の試験勉強をする時間が確保できない人は、2分野ずつに分けて受験してもよいでしょう。
より効率的に勉強したい場合は、日本認知症ケア学会と特定非営利活動法人認知症ケア教育機構の主催による受験対策講座を受講するという選択肢もあります。
■受験対策講座の概要
以下に、2024年度の受験対策講座の内容をもとに、配信期間や費用、プログラムなどの概要を紹介します。
■費用 1万5,000円(テキスト代は別)
■プログラム
内容 | 形式 |
基礎 | 講義(約80分) |
基礎 | 模擬試験・解説 |
総論 | 講義(約120分) |
総論 | 模擬試験・解説 |
各論 | 講義(約150分) |
各論 | 模擬試験・解説 |
社会資源 | 講義(約120分) |
社会資源 | 模擬試験・解説 |
さらに模擬試験や模擬試験解説も行われます。受講にあたって、受講者各自が認知症ケア標準テキストの第1巻~第4巻を用意する必要があります。
■更新に必要な手続きと要件
資格を更新するには、5年間で30単位以上を取得したうえで、申請期間中に1万円の更新料を支払い、更新手続きをする必要があります。
更新に必要な単位は、日本認知症ケア学会が主催または認定する学術集会や講演会に参加するか、機関誌などに論文を発表することで取得できます。
学術集会や講演会に参加するには、その都度数千円~数万円の参加費を支払う必要があります。
取得できる単位数は、学術集会や講演会、機関誌によって1単位~8単位までさまざまです。
期間内に取得した単位が30 単位に満たない場合、定められた期間内に資格更新の保留申請を行えば、1年間だけ更新期間を延長することができます。
保留しても単位を取れなかった場合は資格を失効してしまうので、期間内に30単位を取れるように、しっかり計画を立てることが重要です。
また、5年ごとの更新と単位取得のための学術集会や講演会などへの参加にある程度の費用がかかることについても、資格を取る前から心づもりをしておきましょう。
認知症ケア専門士の資格を活かせる職場
認知症ケア専門士の所属先として特に多いのが、特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)、通所介護施設(デイサービス)、グループホーム、訪問介護事業所といった介護施設・事業所です。
そのほかに、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所といった相談対応の拠点や、医療機関の名前も見られます。
また、認知症ケア専門士公式サイトには、認知症ケア専門士の資格取得者の保有資格を調査した結果も掲載されています。
それによると、最も多くの人が保有しているのが介護福祉士(16,908人)、次に多いのがケアマネジャー(12,354人)です。
さらに、初任者研修や実務者研修を持つ介護職や看護師、福祉住環境コーディネーター、社会福祉士、作業療法士といった資格を持つ人も少なくありません。
このデータからは、福祉・介護・医療業界の幅広い職種の人たちが、認知症に関する知識やスキルを業務に役立てるために認知症ケア専門士の資格を取得していることがうかがえます。
※出典:一般社団法人日本認知症ケア学会 認知症ケア専門士公式サイト「 専門士保有資格(2022年12月現在、重複含む)」
まとめ:これからの時代、介護業界で役立つ資格
取得後も、更新のために講座の受講や機関誌への論文発表などをして単位を取る必要があり、労力も費用もかかります。
しかし福祉・介護業界や医療現場など、認知症の人と関わる職場で働く人であれば、資格取得によって得た知識とスキルは必ず業務を通して活かせるはずです。
今後、認知症の高齢者はますます増えると予想されているため、認知症ケア専門士へのニーズは高まる一方でしょう。
認知症の利用者と接する機会が多い人や、介護職としてさらなるスキルアップを目指す人は、取得を検討してみてはいかがでしょうか。
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