認知症の原因と主な症状
これらの病気の原因は脳にたんぱく質が溜まることなどと言われていますが、たんぱく質が溜まる原因は明確になっていません。
認知症の症状は、記憶障害や見当障害などの「中核症状」と、妄想やうつ、徘徊、暴言などの症状がある「BPSD(行動・心理症状)」の2種類に分けられます。
これらの症状が介護をする側にとってコミュニケーションをとりづらいと感じる要因になっていると言えます。
認知症の方と楽しくコミュニケーションをとるためには相手の状況を把握することが大切です。以下では、コミュニケーションをとるためのポイントを紹介していきます。
認知症の方とのコミュニケーション方法のポイント
・否定せず、受け入れる
・その人のペースに合わせる
・その人らしさを大切にする
・スキンシップをはかる
「認知症だから」と捉えるのではなく相手を受け止め尊重することが大切です。
■耳を傾け、共感する
「受容」とは認知症の方の話を否定せず受け止める姿勢のことを指します。たとえば、認知症の方にはいないはずの人や動物が見える幻視が起こりがちですが、「あそこに誰か知らない人がいる」と言われたら、まず「誰かがいるのですね」と相手の言葉を受け止め反復します。
次に「オープンクエスチョン」とはなぜ、どうしてなどの言葉を用いて相手に自由に答えてもらえる問いを立てることです。たとえば、先ほどの続きでいうと「どのあたりにいるのですか」「どんな人ですか」など相手に自由な回答ができる質問をします。
話を聞き、会話をすることは相手の不安軽減にもつながります。
■否定せず、受け入れる
物を盗まれたと思い込むこともBPSDのひとつです。こうした妄想の裏には「不安な気持ちを聞いてほしい」「もっと気にかけてほしい」という感情が潜んでいる場合もあるので、受け止めて話を聞くことで症状が落ち着くこともあります。
■その人のペースに合わせる
低めの声でゆっくりとしたテンポで声をかけ、反応を見ながら、その人のペースに合わせて会話しましょう。
■その人らしさを大切にする
記憶障害で新しい体験を記憶しにくくなっても、昔の記憶は残っていることが多いので、認知症の方が過去にしていた仕事や得意なことを話題にすると話が弾む場合もあります。
■スキンシップをはかる
肩や腕などに対し、広い面積でやさしく触れることで、安心感を与えることができます。
たとえばケア中に要介護者の手を取るときには、決して手首をつかまず、両手で腕や手を下から支えるようにするといいでしょう。
認知症ケアに効果的な2つのコミュニケーション技法
前述したポイント5つとあわせて使っていくとより効果的なケアができるようになります。
■バリデーション
バリデーションの目的としては認知症の方の自尊心を取り戻すことです。感情に焦点を当て、ポジティブなものだけでなく、ネガティブなものも引き出し、その感情に共感することで同じ価値観を共有していきます。
そのために、相手が話した言葉を反復する「リフレージング」や、「誰が・何を・いつ・どこで・どのように」を問いかける「オープンクエスチョン」、思い出を聞き出す「レミニシング」などのテクニックを用いてコミュニケーションを行っていきます。
■ユマニチュード
具体的には「見る」「話す」「触れる」「立つ」を4つの柱とし、相手の状況に応じてケア内容を調整することで良好な関係を築いていきます。
まとめ
バリデーションやユマニチュードなどの技法を用いて、より豊かなコミュニケーションをとっていきましょう!
以下で、専門家の方が認知症の方とのコミュニケーションで工夫していることや、実際にあった事例について対応方法を聞いてみました。ぜひご覧ください!
コラム:認知症の方とのコミュニケーションでよくある4つの事例について、専門家の方に対応方法や工夫していることを聞いてみました!
1.「家に帰りたい」と繰り返す方への対応
2.何度もトイレに行きたがる方への対応
3.大声を出し、攻撃的な方への対応
4.同じ話を何度もする利用者さんへの対応
回答してくださった専門家
社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員 特別養護ホーム生活相談員、訪問介護事業を経験し、介護業界に9年携わる。 地域でのネットワーク活動では事務局として「死について語る会」や「3大宗教シンポジウム」など幅広いテーマの勉強会やイベントを企画・運営。 現在は介護職やマネジメント経験を活かし、介護系ライターとして研鑽中。 すきな食べ物はラーメン。
■1.「家に帰りたい」と繰り返す方への対応
何度も「家に帰ります」と繰り返し、荷物をまとめて準備している方にどう声をかけたらよいでしょうか。
「帰りたい」理由を探る
帰りたい理由は様々なので、まずはその方の帰りたい理由を探って、不安ごとが何であるのかを考えます。
「慣れ親しんだ家に帰りたい」という思いが自然であることと同時に、認知症の中核症状の1つである「見当識障害」により今いる場所が分からず、余計に不安を感じているかもしれません。自宅にいる方が「家に帰りたい」ということもあります。
具体的な対応策
たとえば「息子が待っている」という理由であれば、息子さんに手紙を書いてもらい、それを読んでもらって少しでも安心してもらう。
「食事の支度をしないと」という理由であれば、食事の支度を手伝ってもらう。
「戸締りが不安」であれば、施設の窓などの戸締りを一緒に確認してもらう。
何かをお願いしたり、役割があると、不安な気持ちも少し軽減されるかもしれません。
■2.何度もトイレに行きたがる方への対応
「さっきも行きましたよ」と言いたくなるのをぐっとこらえて、何と答えたらよいのか。
頭を悩ませる介護職の方、多いのではないでしょうか。
トイレ以外のことに意識を向ける
認知症による記憶障害によりトイレに行ったこと自体を忘れてしまい、少しの尿意や、不安な気持ちから意識がトイレに行ってしまうので、なるべくトイレ以外のことに気が向く環境を整えてみましょう。
パズルゲームや脳トレなど、好きそうなことや熱中しそうなことが結び付けられるといいですね。
医療的なケアが必要な可能性も
また、膀胱機能の低下や精神的なストレスなど、前立腺肥大等の他の要因も考えられます。
医療的なケアが必要でないかも確認が必要です。
■3.大声を出し、攻撃的な方への対応
これが認知症の症状だということを理解しておきましょう
行動・心理症状(BPSD)の1つとして、攻撃的な言動が現れることがあります。
自身の意思をうまく表現できないもどかしさや、自尊心が傷つけられたり、不安や不快を感じたりしたとき、攻撃的な言動として表出する方もいます。
対応の際、ついこちらも感情的に受け止めそうになりますが、まずは認知症の症状がそうさせている、ということを念頭に置いて対応しましょう。
信頼関係を築きながら、チームで対応を
正面から対応しようとしても、難しいケースも少なくありません。時間を置いたり、人を変えたりと、チームで対応を検討していきましょう。
言動の背景にある思いを探りつつ、長期的な対応として、まずは信頼関係を築くことを大切にします。
信頼関係を築く具体的な方法として、ぜひ「ユマニチュード」について調べてみてください。
■4.同じ話を何度もする利用者さんへの対応
アルツハイマー型認知症の利用者様で、短時間、数分単位で同じ内容の事を話される方がいます。
私は、おうむ返しをする、紙に書いて分かりやすく説明する、5、6回同じ事を話されたら
「先程もお話しましたよね?」とさりげなく伝える、違う話題にして(本人が好きな事)など話すなどの対応をしています。
でも、どれも効果がなくどうして良いのか悩んでいます。
相談者:たたみねこ さん
利用者さん本人の理解を大切に
毎日のお仕事、お疲れさまです。
質問を拝見し、同様のことで悩まれている方が多くいるのではないかと思いました。
いろいろと考えて対応をしても、効果がないと感じていらっしゃるのですね。
その言葉の背景にある「思い」を探ることを楽しんでみませんか
実は、質問者さんの感じていることは正しいのです。
なぜならこの、「直前のことを忘れてしまう」のが、まさに認知症の症状であるからです。
どういうことかというと、認知症には「中核症状」と「BPSD(行動・心理症状)」があります。
このうち、「中核症状」は記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、言語障害(失語)、失行・失認などの認知機能の障害です。
「直前のことを忘れる」ことを理解した上で、利用者さんに寄り添う
短時間、数分単位で同じ内容のことを話されるというのは、記憶の障害です。
つまり、認知症のケアは「直前のことを忘れる」という症状を踏まえた上で対応を考える必要が
あります。
質問者さんがされている、「紙に書いて分かりやすく伝える」ということも、とてもいい方法だと
思います。
その場合も、どんなに丁寧に説明して、そのときは納得していたとしても、説明したことを数分後には忘れているのが、認知症の症状なのです。
ですから、私たちもその都度、その方の「分からなくて不安な気持ち」に寄り添った対応をする
必要があります。
利用者さんは、どのようなことを、どのようなときに聞き返すことが多いですか?
日や、時間で、ご様子に変わりはありますか?
表情や、声色や、体調は、どのようなご様子ですか?
いい意味で悩みながら、チームで取り組みましょう
ケアには、「こうすれば解決!」という答えはありません。
しかし、観察からその言葉の背景にある思いを探ることで、アプロ―チの方法が見えてきます。
とはいえ方法は無限にありますし、そのときのタイミングで、ご本人にぴったりはまったり、
全然はまらなかったりします。
こうしてみたらどうだろう?と考えることこそ、介護の仕事のおもしろさ。このプロセスを
楽しみましょう。
1人だと煮詰まってしまうので、チームのメンバーもぜひ巻き込んでみてください。
とても抽象的な回答で恐縮ですが、質問者さんがいい意味で悩みながら、ケアできることを
応援しています!
認知症の利用者さんとのコミュニケーションで気をつけていること2つ
私がコミュニケーションをとるときに気を付けていることは、大きく2つあります。
1つ目は、目を見て、目線を合わせること。2つ目は、目線を合わせて感情を共有することです。
■目を見て、目線を合わせる
認知機能が低下し、外からの刺激への反応が乏しくなると、話しかけても気が付かなかったり、状況が理解しづらかったりします。
加齢により視野が狭くなっている場合もあります。まずその方の視界に入り、目を合わせて話すようにしています。
■目線を合わせて感情を共有する
また、目線を合わせる、いうのも基本的な動作ですが、実際に現場にいるとついついおろそかにしてしまいがちです。
同じ高さで物を見ることで、その方と同じ視点を持つことが、感情の共有にも繋がると思っています。
認知症介護とは、利用者さんの不安に寄り添うこと
現場のみなさんは実感されると思いますが、上記でお伝えした対応をしてみても、認知症の症状により、同じ訴えや言動は続きます。
そうすると、これでいいのか、なにか解決しなければ、と焦ったり悩んだり、余裕がなくなったりしますが、その一連の行為である利用者さんの「不安に寄り添うこと」、そのものが認知症介護なのだと思います。
■すぐに解決できなくても大丈夫
もちろん、安心し、落ち着いて過ごせるように環境を整えることが1番なのですが、人間、生きていれば感情の波が出てくる方が却って健康かもしれません。安全な環境であれば、時間を置いたり、少し距離をとって見守り、その感情の波が過ぎるのを待つというのも1つの方法です。
(それはみなさんの感情についても同様です。)
忘れてはならないのは、100人いれば100通りの生活があり、認知症理解だけではなく「利用者さん本人」の生活や思いの理解が不可欠だということだと考えています。
認知症を理解することがコミュニケーションの第一歩に
上述のように、認知症の人は、幻視や物盗られ妄想が生じて、介護者が驚くような現実離れしたことを言う場合があります。
そんなときに介護者が「何言っているの!」ときつい言い方で反応したり、困惑した表情を見せたりすると、認知症の人は否定されたように感じる可能性があります。
介護者には、まず認知症の人がなぜそのような言動をするのかを理解することが求められます。
そのうえで、常に要介護者の気持ちを想像しながら柔軟に接することが重要です。
なお、2021年4月の介護報酬改定では、介護事業者に対して、無資格の介護職員に「認知症介護基礎研修」を受講させることが義務化されます。
このことは、今後ますます認知症の高齢者が増えることを見据え、介護施設の認知症ケアの質を高めていこうとする国の姿勢を示しています。介護職にとって、認知症の人との関わりは避けては通れないものです。バリデーションやユマニチュードに関する本を読んで学ぶことも、認知症の人とのコミュニケーションの一助となるでしょう。
【最後に】マンガで簡単まとめ♪
マンガ監修:望月太敦(公益社団法人東京都介護福祉士会 副会長)
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ささえるラボ編集部です。
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