本日のお悩み:日本と海外の介護の違いを知りたい!
私たちが当たり前だと思っている介護は、海外の介護と異なるのですか?教えてください。
この記事のポイントまとめ
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日本と海外、介護に関する考え方の違いとは?~東南アジア編~
■執筆者/専門家

茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
ご縁に恵まれ、これまでにベトナム、タイ、カンボジア、ミャンマー、そしてデンマークを訪れる機会をいただきました。どの国でも貴重な経験をさせていただき、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
日本にいると、「日本の超高齢社会は大変だ!」という声をよく耳にします。しかし、海外で現地の方々と直接話すことで、日本の福祉をより客観的に捉えることができるようになりました。私はこの視点を、勝手ながら「グローバル福祉観」と呼んでいます。
それでは、日本と海外では介護や福祉に対して、どのような考え方の違いがあるのでしょうか?
まずは、東南アジアに焦点を当てて、その違いについてお伝えしたいと思います。
■「介護」の概念がない国も?その理由とは
■日本の平均寿命は海外と比較して高い

日本の平均寿命は、男性で81.09歳、女性は87.14歳で東南アジア諸国と比較して長寿国であることがわかります。特に、フィリピンやインドネシアとは、男女ともに10歳以上の差があります。
では、なぜ日本が長寿国なのかその理由を考えていきましょう。
■日本が東南アジア諸国と比較して長寿国となる理由
・医療制度
・教育水準
・治安、社会の安定
このように、様々な要因が考えられます。特に東南アジアでは過去の内戦や紛争の影響などから、都市部と農村部の格差などもあり平均寿命全体に影響を及ぼしています。
■「介護」は必要性があるからこそ生まれる概念
日本の認知症有病率を見てみると、75歳から79歳の間では約10%ですが、80歳を超えるとその割合は急激に上昇します。80歳から84歳では22%を超え、85歳から89歳では実に4割以上の人が認知症を抱えているというデータがあります。こうした数字からも、80歳を超えると多くの人にとって介護が現実的な課題となることがわかります。※
このように考えると、平均寿命が80歳に満たない国では、介護が社会的に重視されにくいのも当然のことと言えるでしょう。介護という制度や文化は、長寿社会だからこそ育まれてきたものなのです。
※出典:厚生労働省 認知症 参考資料
■【専門家:伊藤先生の実体験】カンボジアで見た介護の現状
■お寺が介護施設のような役割を果たしていた
一方、タイやベトナムでは経済発展に伴い高齢者の数は増加していますが、介護が必要な人の割合はまだ少なく、日本のような介護保険制度は存在していません。経済的に余裕のある一部の人が、自費で日本の介護に近いサービスを受けているのが現状です。
また、2年ほど前には、タイから私が勤務する施設を見学に来られた方がいました。その方は「まったく同じ施設をタイに作りたい」と言い、設計図の提供を求めてきました。しかし、設計図だけでは私たちの介護に対する理念や思いは伝わらないと考え、丁重にお断りしました。それでも、これから介護が必要になる社会に向けて、何かを始めようとする意志は強く感じられました。
■【専門家:伊藤先生の実体験】ベトナムで見た介護の現状
その際、特に意識したのが「介護とは何か?」という基本的な説明です。というのも、ベトナムではまだ介護という概念が一般的に浸透していないと想定していたからです。しかし、現地の方からは「2年前よりも介護について理解している人が増えている」という声も聞かれました。
背景には、日本で介護の仕事に従事するベトナム人が増えていることがあります。技能実習制度などを通じて日本での経験を積んだ人たちが、SNSなどを通じて介護の現場や仕事内容を発信しており、その影響が少しずつ広がっているようです。
状況は確実に変化しており、介護に対する理解も進化しつつあると実感しました。
■東南アジアにおいて「介護」はまだ発展途中
2.平均寿命が低い国では、介護が必要な状況が生まれづらい
3.介護の概念は、介護が必要な人が増えないと想像しづらい
これらのことから、東南アジアにおいて介護はまだ身近な感覚はなく、一部の人が将来を見据えて動き出し始めているという状況です。
■「優しさ」がつなぐ国境を越えた介護の現場
彼らの母国では、日本のように核家族化が進んでおらず、祖父母と同居する期間が長いのが一般的です。高齢者を大切にする文化が根強く残っており、その価値観は日本の高齢者とも自然に調和します。実際、日本の80代の方々も、かつては三世代・二世代で暮らしていた経験があるため、彼らとの関係性に温かさを感じることが多いようです。
異国から学びに来ていることを知り、涙を流される高齢者の方もいらっしゃいました。「外国人に介護はできない」と言う人もいますが、私はそうは思いません。むしろ、日本人のほうが「介護はこうあるべきだ」という固定観念にとらわれすぎているのではないでしょうか。
近い将来、外国人の介護職が日本人をマネジメントするリーダーとして活躍する時代が、きっと訪れると私は信じています。
日本と海外、介護に関する考え方の違いとは?~北欧編~
■【専門家:伊藤先生の実体験】デンマークで見た介護の現状
直近では、新型コロナウイルスが流行する直前の2022年でした。
■デンマークの平均寿命と福祉制度
そもそもデンマークは「福祉国家」として知られており、医療費、出産費、教育費がすべて無料。高齢者向けのサービスも非常に充実していて、「ゆりかごから墓地まで」国が面倒を見てくれる体制が整っています。
※出典:厚生労働省 令和5年簡易生命表の概況
■高福祉の裏にある高負担
ちなみに、私はビールが好きなのですが、2年前の滞在時に飲んだ生ビールは1杯約1,000円(税込)でした。高い税率のおかげで、飲みすぎずに済んだとも言えますね(笑)。
※出典:財務省 国民負担率の国際比較(OECD加盟36カ国)
■「自己決定・自己責任」の国民性
たとえば、海岸の景観を見ても、日本のように危険防止の柵は設置されていません。景観を損なわないように配慮されているのです。事故が起きたとしても、それは自分で判断して行動した結果であり、責任は自分にあるという考え方が根づいています。
日本では、事故が起きると「なぜ柵を設置しなかったのか」と行政に責任を問うケースもありますが、デンマークではそのような発想はあまり見られません。
■介護の領域にも滲み出る、デンマークの国民性
高い税率も、自分たちが選挙を通じて決めたという認識があるため、納得して受け入れられています。介護が必要な人が増えれば税率が上がることも理解しており、老後を子どもに頼るという文化もありません。
「自分は自分、子どもは子ども」。それがデンマークの基本的な価値観です。
■介護サービスも「自己決定・自己責任」
そして、介護サービスを受けるかどうかも自分で決めること。だからこそ、サービスに関するトラブルはほとんど起きないと聞きました。「そのサービスを受けると決めたのは自分だから」という明確な責任意識があるのです。
■移乗介助はリフト使用が法律で義務化
なぜなら、リフトを使わなかったのは「自己責任」だからです。
■幸せのとらえ方も、日本とは大きく異なる
この違いは、「ヒュッゲ」というデンマーク語に象徴されます。「ヒュッゲ」とは、ほっとくつろげる心地よい時間や、そうした時間を自分で作り出すことによって得られる充実感を指します。 高級品や高収入ではなく、日常の中にある小さな幸せを大切にする文化です。
そのため、デンマークの家は暖色の間接照明で柔らかい雰囲気が演出され、インテリアも洗練されています。自分の空間づくりを楽しむ姿勢が、北欧家具の文化を育て、ガーデニングにも時間をかけることで、どの家も美しい庭を持っていました。
※出典:国連など World Happiness Report 2025
■日本は「反面教師」として見られている?
日本が介護に手厚くすることで社会保障費が逼迫していることは、海外でも知られています。 デンマークでは、日本の現状を「反面教師」として見て、自分たちの制度をどう整えるべきかを考えているのです。
■「グローバル福祉観」で、福祉の未来を見つめる
冒頭でも触れましたが、日本の視点だけで「大変だ」と嘆くのではなく、グローバル福祉観を持つことで、「今」の見え方が変わるかもしれません。
海外の介護の進歩には差がある
■執筆者/専門家

海外の介護の現状は、進んでいると言える国がある一方で、まだまだ進歩していない国があるのも現状です。
■世界の高齢化率を見てみると…
日本は2005年に最も高い水準になってから、すさまじいスピードで高齢化率の上昇を続けており、これは2040年頃まで続くと考えられています。つまり、日本は世界で最も高齢化が進んでおり、その期間も長い国であるのです。
※出典:総務省 統計からみた我が国の高齢者
■福祉先進国は「在宅介護」に力を入れている
また、日本の介護保険制度(2000年開始)は、1995年に導入されたドイツの公的介護保険制度を参考にしています。ドイツでは在宅介護が優先され、介護者に対して現金支給が行われる制度もあります。
さらに、「高齢者が一番幸せな国」と言われるデンマークでは、在宅介護の充実に加え、本人の意思決定や残存能力の活用が重視されています。
このように、福祉先進国の多くは「在宅介護」に力を入れていることがわかります。
■高齢化が急速に進んだ日本
施設介護に関しては、他国と比べて手厚いと言われています。これは、介護保険制度が始まる以前から、施設整備が国策として進められてきた背景があります。
しかし現在は、地域包括ケアの推進により、在宅介護の質と量の向上が求められています。 日本は高齢化が急速に進んだため、他国がまだ経験していない課題に直面し、成功と失敗を繰り返しながら模索を続けている段階とも言えるでしょう。
日本の介護福祉士資格を活かして海外で働くことはできるのか?
また、海外で働くためには、その国で就労ビザやワーキングホリデービザを取得する必要があります。介護が未発達の国においては、日本の介護福祉士のスキルや技術がお手本となることも多いでしょう。
最後に:「介護」において世界の手本となるために
外国人技能実習制度などを活用しながら、真の意味でのモデル国となるには、これからの取り組みが重要です。そのためには、制度だけでなく、介護に関わる私たち一人ひとりの意識と成長が欠かせません。
ともに学び、支え合いながら、より良い未来を築いていきましょう。
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茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)