本日のお悩み
日本の介護はすすんでる、海外のお手本に、などと言いますが、どんなところが進んでいるのでしょうか?
私たちが当たり前にやっていることは、海外から見たら普通ではないのでしょうか?
日本と海外、介護に関する考え方の違いとは?~東南アジア編~
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
ご質問ありがとうございます。
いろんなご縁から、ベトナム、タイ、カンボジア、ミャンマー、デンマークと行かせていただきました。本当に感謝しかありません。
日本にいれば、「日本の超高齢社会は大変だー!」となりますが、海外でそれぞれの国の人と話をすると、客観的に日本の福祉を見ることができます。私はこれを勝手に「グローバル福祉観」と呼んでいます。
それでは、海外と日本でどのような考え方の違いがあるのでしょうか?
今回は東南アジアにスポットを当ててお伝えします。
マンガ監修:望月太敦(公益社団法人東京都介護福祉士会 副会長)
■「介護」の概念がない国も?その理由とは
そもそも、これを論ずる前に前提を押さえなければなりません。
それは、平均寿命についてです。
日本の平均寿命は84.36歳
厚生労働省は7月29日に簡易生命表を発表しました。2021年の日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳、男女の平均値は84.36歳となり、新型コロナウイルス流行の影響で、2020年と比べて男性は0.09歳、女性は0.14歳短くなったと新聞各紙が報じました。
このように日本にいれば、日本国内だけのデータで「寿命が伸びた・短くなった」の話題になりますが、東南アジアの代表的な国の平均寿命がわかる方はいらっしゃいますでしょうか?
厚生労働省「令和3年簡易生命表の概況」を見る(厚生労働省のページに遷移します)
では、他国の平均寿命は?
2019年のデータ(男女平均値)では、タイは77.2歳、ベトナムは75.4歳、カンボジアは69.8歳となっています。
どうでしょう?そして、この違いで「何を思うか?」が重要です。
そうです。日本は東南アジアの国と比較して圧倒的に長寿国だということがわかります。
カンボジアと比較すると約14歳も違いますよね。
ではなぜ圧倒的長寿国なんでしょうか?
平均寿命と戦争の関係
それは、医療の充実、食生活の充実、健康に対する国民意識など様々な要因が考えられますが、どの時代まで戦争に関わっていたか?というのも重要になります。
日本は1945年に終戦を迎えましたが、ベトナムは1975年までベトナム戦争があり、その後1989年までカンボジアとの戦争が続きました。さらにカンボジアは1993年まで内戦が続いたんです。戦争が継続されている間は、国内政治も安定せず経済発展が遅れ、そのため医療、食生活、健康への意識も停滞することはみなさんも想像がつくでしょう。
平均寿命が80歳以下の国に、介護は存在しない
このような歴史的背景を抑えることで、介護に関する考え方の違いがわかりやすくなります。
そうです。平均寿命が80歳以下の国は、介護という概念が存在しないことが想像できませんか?つまり、多くの方が認知症や介護の必要性が生じる前に寿命を迎えるということになるんです。日本の認知症有病率というデータ(75歳〜79歳では13.6%、80歳〜84歳は21.8%、85歳〜90歳は41.4%:筑波大学調査)が高齢になるほど高くなることでも明確ですね。
■専門家・伊藤さんの、カンボジアでの体験
お寺が介護施設のような役割を果たしていた
8年間、カンボジアの介護施設を視察に行った時でした。
案内されたのはごく一般的なお寺です。これは高齢で身寄りがなければ、同じような境遇の方達で身を寄せ合って生活する。その場はお寺である。
という考え方に基づくものでした。
タイやベトナムは経済発展により高齢者も増加していますが、介護が必要な方の割合はごくわずかですので、日本のような介護保険法は存在しません。一部の経済的余裕がある方が、自費で日本の介護に近い形のサービスを受けている状況です。
また、2年ほど前、タイから私の勤務する施設を見学に来た方がいました。全く同じ施設をタイにつくりたいから設計図が欲しいと言われたことがあります。設計図だけでは我々の介護に対する理念は伝わらないとし、丁重にお断りしましたが、これから必要になるだろう介護に対し動いていこうとする意志は感じました。
東南アジアでは、介護はまだ身近な感覚ではない
ということで「介護に関する考え方」については、東南アジアにおいてまだ身近な感覚はなく、一部将来を見据え動き出した人が出てきている状況と結論づけられます。
■外国人介護職に共通する「やさしさ」
今、私の周りには14名の介護福祉士を目指す留学生(ベトナム)と4名のタイからの技能実習生、そして見事介護福祉士の国家試験に合格した現役の介護職4名(ベトナム2名、ネパール2名)が各々頑張っています。共通することは、「やさしさ」ですね。
いずれの国も日本のように核家族化が進んでいないのでおじいさん、おばあさんと同居していた期間が長く、また、おじいさん、おばあさんを大切にする文化が根強い、そして、日本のおじいさん、おばあさんと相性もいいです。
なぜなら、今の80代の皆さんもまだサザエさん的に3世代や2世代で同居して生活した経験がある方達だからです。異国から勉強しに来ていることを聞くと涙を流される方もいらっしゃいました。外国人に介護はできないなんていう方もいらっしゃいますが、私はそうは思いません。
日本人の方が「介護はこうあるべき」に囚われ過ぎているのではないでしょうか?
近い将来に日本人をマネジメントする外国人のリーダーが活躍する時代が来るでしょう。
日本と海外、介護に関する考え方の違いとは?~北欧編~
■東南アジア編を振り返ろう
日本と東南アジアの介護に関する考え方の違いについて記載させていただきました。
ポイントは、
①東南アジアを一括りとして日本と比較してはいけない(平均寿命が違う)。
②平均寿命が低ければ介護が必要な状況は生まれにくい。
③介護の概念は、介護が必要な人が増加しなければ想像しにくい。
という内容でした。
2022年、最新のベトナム介護事情は?
2022年7月に、2年ぶりのベトナムホーチミンを訪問いたしました。
介護福祉士養成校の説明会を現地で行いましたが、「介護とは何か?」を説明することにとても注意しました。なぜならベトナム人にとって介護はまだ馴染みがないと想定していたからです。しかし、2年前よりわかる人が増えているという話も聞きました。
技能実習制度等で日本で介護の仕事に従事するするベトナム人も増え、SNS等で仕事の内容が広がっているとのことでした。状況は刻一刻と進化していますね。
■今回は、北欧・デンマークについてお話します
さて、今回は北欧デンマーク編です。
私は、過去2回デンマークを訪れた経験があります。近々は新型コロナウイルスの発生直前の2年前でした。
北欧デンマークと日本の介護はどう違うでしょう。
ちなみに平均寿命で言えばデンマークは81.3歳です。
80歳を超えていることから介護が必要な人も増加していることが想像できますね。
■「福祉国家」デンマーク、背景には税金の高さも
そもそもデンマークは「福祉国家」と言われています。
医療費無料、出産費無料、教育費無料、充実した高齢者サービスなど、社会福祉がとても充実しており、まさに「ゆりかごから墓地まで」を国が面倒を見てくれる=福祉国家となったわけです。
その一方で、税金は、消費税率25%、租税負担率と社会保障負担率を合計した国民負担率約70%(日本は約47%)と、かなりの高納税国であり、だからこそこの充実した社会福祉制度が構築できているんですね。
私は、ビールが好きです。デンマーク滞在中も飲みたいですよね。
2年前ですが、生ビール1杯約1,000円(税込)でした。
ある意味飲みすぎずにすんだ事例です(笑)
日本では、消費税を10%にするにも大騒ぎで、今後の社会保障費増大に伴い、更なる増税が議論されていますが、とてもじゃないデンマークのようにはいきませんよね。
■「自己決定・自己責任」という国民性
また、デンマークに行くと必ずその国民性についてお話を受けます。
それは、「自己決定・自己責任の国」ということです。
例えば、デンマークの景観ですが、とてもおしゃれで素晴らしいです。
日本との違いは、例えば海岸で言えば、日本では必ずある危険防止の柵はありません。
スッキリ、景観が保たれています。
つまり、危険な場所に自ら近づき事故があったとしてもそれは自分で決めて行動したことなんだから自己責任だと言う考え方です。日本では、海岸で事故があった場合、なぜそこに柵をつけていなかったんだと行政に損害賠償を求める事例を多々あるかと思います。
これが、日本とデンマークの介護観の違いにも明確に現れます。
デンマークでは介護が必要な状況になるのも「自己決定・自己責任」なんです。
■介護の領域でも滲み出る国民性
投票率はほぼ100%、老後の生活も子供には頼らない
デンマークは選挙の参加率がほぼ100%と聞きました。日本みたいに30%〜40%で低迷するなんてことはありません。
要はこの高い税率も自分達が選挙に参加して決めたという認識があります。そのため、介護が必要な人が増加すれば税率を上げざるを得ないことも理解していますし、そもそも老後を子供に面倒見てもらうなんて文化もありません。
自己責任ですから、自分は自分、子供は子供なんです。
「介護サービスを受けると決めたのは自分」だから、トラブルもほとんどない
とすれば、介護が必要な状況にならないよう努力することは自分の為でもあり、国の税金を引き上げない為にもつながります。また、介護が必要な状況になり、介護サービスを受けることも自分が決めることであり、自分の責任なんです。
そのため、介護サービスを受ける上でのトラブルはほとんどないと聞きました。それは、そのサービスを受けると決めたのは自分だからです。
移乗ではリフトを使うことが法律で決まっている、デンマーク
ちなみに、デンマークの移乗介助は基本リフトです。これは法律で決まっています。
もし日本のように時間がないからリフトを使わずに対応し、うっかり腰を痛めてしまった場合、労災は使用できません。リフトを使用しなかったのは自己責任だからです。
■幸せのとらえ方も、日本とは大きく異なる
どうでしょう。日本と真逆ですよね。
ちなみに、幸福に対する考え方も日本とデンマークは大きく違います。
毎年、世界の番付が発表されますが、たいがいデンマークは2位(1位はいつもフィンランド)、日本は60位以下と低迷しています。
この違いには「ヒュッゲ(デンマーク語で小さな幸せと私は伺いました)」という言葉に現れると思います。
どんな時に幸せを感じるか?の問いに対してデンマークでは、ほっとくつろげる心地よい時間、またはそんな時間を作り出すことによって自然と生まれる充実感を幸せと感じるそうです。
日本では、高い給料を得て、高級ブランド品、高い車にのって高い地位を得て、それでも満たされないなんてこと聞きますよね。これでは幸福度が下がって当たり前です。
ほっとくつろげる時間を得たことで幸せなんです。そのため、その時間をどう過ごすかが大切なのでデンマークの家は、暖色の間接照明で柔らかい雰囲気を演出されてたりインテリアがおしゃれです。自分の空間作りを楽しんでいるんですね。だから北欧家具のすばらしい文化が生まれたんです。また、ガーデニングにも時間をかけるのでどの家もお庭も素敵でしたよ。
■反面教師として世界から見られている日本
実は2年前にデンマークに行った時、私はこんなことを言われました。
「何しに来たの?」
えっ、福祉を学びに来たんだけど・・・。と返すと
「いやいや日本の方が超高齢社会だろう。日本の今を教えてくれ」
そんな感じです。
日本が介護に手厚くすることで社会保障費が破綻しかけていることを海外は知っています。そうならないように自分達はどうすればいいか?という視点で日本は見られているんだなとデンマークで学びました。
■グローバル福祉観を持って、高い視座で福祉を見つめよう
ということで東南アジア編、北欧編と2回に渡り日本と海外の介護に対する考え方の違いを記載させていただきました。東南アジア編冒頭で記載させていただきましたが、日本の視点だけで「大変だー」と言っているのではなく「グローバル福祉観」を持っていただくと、「今」が変わるかもしれませんよ。
進んでいるところ、そうでないところが混在している状況です。
海外からの視点で介護をみるという質問、とてもユニークで素敵な発想ですね。
ありがとうございます。
見方によっては、進んでいると言えますし、まだまだ遅れているところもあるのが現状です。
■世界の高齢化率は…?
まずは世界各国の2019年の高齢化率を見てみましょう。
1位は断トツで日本(28.0%)、2位イタリア(23.0%)、3位ポルトガル(22.3%)となっています。
ちなみに隣国の韓国は48位で15.1%、中国は64位で11.5%です。
日本は2000年にスウェーデンを抜き、高齢化率で1位となり、2060年ごろまで1位であり続けると言われています。
そういう意味では、世界の中でも日本の高齢化は最も進んでいますし、その期間も長いといえます。
■福祉先進国は在宅介護に力を入れています
次に他国の介護や制度の状況を確認してみましょう。
2000年に日本が抜いたスウェーデンは「福祉大国」と呼ばれ、国や地方自治体による在宅介護サービスが充実し、高齢となっても自宅での生活の継続ができる仕組みが充実しています。
2000年に始まった日本の介護制度ですが、1995年に先に始まったドイツの公的介護保険制度を手本に構築されています。ただしドイツの制度は、在宅介護が優先され、介護者に報いるための現金支給制度があります。
また「高齢者が一番幸せな国」といわれるデンマークは、高齢者福祉のモデルともいえます。
在宅介護の充実が進み、当事者の自己決定や現存能力の活性化に力を入れられています。
各国、制度も文化も様々ですが、どうやら福祉先進国の多くは「在宅介護」に力を入れているようです。
■高齢化が急速に進んだ日本
ん??では、日本の介護は本当に進んでいるといえるのでしょうか?
まず、施設介護は、数の上では他国よりも手厚いと言われています。
介護保険制度が始まる前から、施設介護は国策として整備されてきたからといえます。
ただし日本でも、地域包括ケアが進められるようになり、今まで以上に在宅介護の質と量の向上が求められる状況になりました。
日本では高齢化が急速に進んだがゆえに、他国が経験していないことを成功と失敗を含め経験しながら、まだまだ模索している状況ともいえるでしょう。
■世界の手本となるために
現在、高齢化率の低い東南アジア諸国では、介護という概念が薄く、制度も未整備、介護産業もこれからの状況です。
日本は様々な経験を積んだ介護先進国として、世界の手本とならなければならない存在です。
外国人技能実習制度等を活かして、真の手本になっていくのはこれからの気がします。
そのためには、介護にかかわる私たち一人一人の自覚と成長も大切ですね。頑張りましょう。
福岡福祉向上委員会 代表