マイナビ福祉・介護のシゴト
祖父母の介護に苦しんでいる家族、地元を離れた私にできることは?

祖父母の介護に苦しんでいる家族、地元を離れた私にできることは?

【回答者:伊藤 浩一】悩んでいるのは一人ではありません。社会背景から紐解きましょう。


本日のお悩み

私の家族は6人家族です。私は東京で一人暮らしをしていて、父も東京へ単身赴任中です。
母と兄が祖父母(80代後半)の介護をしているのですが、二人とも介護疲れが溜まっていて、母に関しては爆発寸前です。
祖父母は認知症ではありません。落ち着いて話せば全然会話はできます。昔のことも覚えています。ただ、少しばかり空気を読めずに発言したり、物覚えが悪くなったり、耳の聞こえが悪くなってきたり。足腰が悪くなっていて、迷惑かけずに何かできることをしようとしても、できない現実があるわけで、その度に母が怒ります。

祖父母が何か言おうとすると、言い終わる前にキレて(祖父母の視線や態度から察して思い込む癖があるので。でも思い込みが違うこともしばしば)、うるさいと言ったり、食器洗いや洗濯機も触らないでと大きな声で叫んだりしています。母は祖父母のことをボケてしまって、もう何言っても仕方ないって諦めています(実際はきちんと話せば分かってくれるのに)。その度に祖父母はなんとも切ない顔をします。
洗濯機に関しては違うボタンを押してやり直すことが度々あったり、祖父が勝手に排泄物がついたズボンや下着を一緒に入れてしまい洗濯物全て大変なことになったり、食器を洗うと落として割ってしまったり、他にも散歩に出て転んで大怪我して帰ってきたり、トイレやお風呂の排泄物掃除など、自分の時間を介護に費やしている日々の、小さな積み重ねがあっての理不尽なキレ方なので仕方ないとは思います。祖母は母の実の親なので、些細なことで親にイライラしている自分が嫌になっているのも感じます。
母は社交的で真面目で完璧主義です。糖尿病や薬の関係で制限のある二人の食事を飽きさせないように毎日違うものを作ったり、うるさいと怒鳴りつつも、やってほしいことを察して行動したり、良い意味での「適当に流す」ができないほど超真面目な性格なので、心の余裕がありません。

父がそばにいない分、愚痴もためがちで、悩みを共有できる人もおそらく少ないです。でも接客業なので、外側からは分からないように明るくしています。でも自死願望があります。実家に帰るたびに母と話す時間を作っているのですが、その度に早く解放されたい、いつ死んでもいいと弱音を吐いてました。

一方、祖父母は東京にいる私に時々内緒で電話してきます。
母が怒って怖いという話や、日々のあれこれ、元気にやってるかなど。
この間は毎日のご飯が別々になってしまったから、これじゃ二世帯住宅だと、悲しむ内容でした。
じっくり会話できるチャンスは祖父母にとっては夕飯時で、そこで家族みんなでご飯を食べるのが唯一の楽しみだと言っていました。母と兄の状況は察しています。コロナのことがあるし、あとストレス回避するためにも距離を置いているのだと思います。
祖母はもうあの世へ行くだけだ。もう楽しみがない。いても迷惑かけるだけだと電話のたびに口にします。
その度に私は胸が苦しくなります。

父は週末、できるだけ実家に帰るようにしています。
母を日々の介護疲れから解放するべく、土日はできるだけ父がそばにます。私としては、すごく安心できることですが、ついこの間の年末、父までも祖父母のことを狂ってると言い出すようになりました。
母の一番の味方だから仕方ないのかもしれません。私のように東京にいる以上、中立の立場で家族の仲を取り持つ役割なのではと思っていたのですが、鬱が酷くなる母と、毎日いてあげたくても居られない自分(仕事の立場上)にイライラしているようにも思います。
じゃあ私が仕事をやめて実家に帰って手伝えばいいじゃないかと言う話になるのかもしれませんが、その混沌とした家の外にいる私の存在が母や祖父母の励みになっているようです。母に関しては、たまに実家に帰っても介護の手伝いはあまりさせてくれません。辛くて汚くなる仕事はさせたくないという気持ちのようです。

それと、今はコロナで難しいですが、たまに東京に行く口実になるので(家を空ける際に、私のことを理由にすれば祖父母は文句を言わないので)、その時は一緒に散歩して気分転換してもらっています。
両親からに何ができるかと聞くと、毎日笑顔で生活してほしいと、あなたが元気だったらお父さんとお母さんも安心だから、と綺麗事のようなことを言ってきます。逆に私が仕事を辞めて実家に帰ることで子供に悪いことをさせているという気持ちになるのが嫌なのかもしれません。

とはいえ、両親/祖父母それぞれの間に立って、それぞれの愚痴を聞いて、どっちも死にたいとか私に言ってきて、親子だなあと冷静に面白く見てる自分がいる反面、家族ってこんなだっけ?って思います。
私は今26歳です。これから結婚もしたいし、子供もほしいです。でも自分も家族を作ったら、こんな生活になるのかなと、大好きな両親のことを迷惑な存在に思う日が来るのかもしれない。そう思うとなんだか家族を作るのが怖くなります。介護疲れの人の事件のニュースを見るたびに、一人の方が迷惑かけずに済むなって思います。

長文な上に、ちゃんと質問になってなくてすみません。
周りの同い年で介護に関して話すことがなく、混沌とした気持ちをどうすればいいのか分からなくて、このサイトにたどり着きました。
離れていても私が家族のためにできることは他に何があるのでしょうか?世の中の家族ってこんなもんなんでしょうか?

相談者:花 さん

悩んでいるのは一人ではありません。社会背景から紐解きましょう。

ご質問ありがとうございます。
社会に出てこれから夢や希望を実現していこうとする26才なのに、介護により、将来に大きな不安を抱えてしまった。
胸が張り裂けそうな話です。
ご相談の中に登場されるお祖父様、お祖母様、ご両親、お兄さん、そして質問者さんは、きっと愛情あふれる、やさしいお人柄で、誰もが羨む温かいご家庭だったんだなと想像しました。
この介護の話が出る前までは・・。

ポイントは「誰にも相談できない」ところ

さて、回答に移りましょう。
ご質問の件、私は、質問者さんが「誰にも相談できない若しくは誰に相談していいかわからない」
ことがポイントだと思いました。
質問文を拝見させていただき、質問者さんは、冷静に状況分析ができ、表現できる方だと思います。
また、文脈からお祖父様、お祖母様は介護サービスを利用されていないのではないでしょうか?

なので、なぜ、質問者さんの大好きなご家庭が、介護によりギクシャクしてしまったのか?
社会背景から掘り下げ、どんな解決の道があるかを考えてみたいと思います。

日本が家族介護から抜け出せない訳

質問者さんのお母様は、きっと「誰にも頼らず、実の親は自分が看る」という正義感とそうは言っても実の親だからこそ、できない姿を受け入れられず、強い口調でキレてしまう自分の不甲斐なさに悩まれているかもしれません。そこに完璧主義者であることが拍車をかけているのでしょう。

実は、この図式、質問者さんのお母様が特別な人ではありません。実の親を大事にしたいという思いが強い日本人は、みんなが陥る状況なんです。世界からみるとこれは日本特有の考え方だということがわかります。

福祉国家であるデンマークでの、介護のとらえ方

私は、2回ほどデンマークへ、福祉国家、そして世界幸福度ランキング上位(2020は2位)といわれる所以は何か?勉強に訪れました。
最初に国の特徴として学んだのは「自己決定、自己責任の国」とうことです。つまり、物事の選択決定は自分の意思で行うことが当たり前で、自分の意思で選択したのだから、その決定は自分が責任を持つのが当たり前だということです。

例えば、デンマークの波止場はとても美しいですが、そこには事故防止のフェンスをほとんど見かけません。日本では危ない場所にはフェンスがあり、ない場所で事故が起これば、危険を察知して整備しなかったと行政の責任が問われます。しかし、デンマークでは、危ないと自分で判断した上で行動して事故になったのは自己責任であり、それよりもみんなの心に癒やしを与える波止場の景観を壊さない、ということが常識となるのです。
そのため、介護が必要になるのも「自己決定、自己責任の原則」するからすると、自分の子供に面倒を見てもらうという考え(親の介護は子の責任)ではなく、原則、自分のことは自分で最期まで責任をもって決めていく、それを福祉サービスが支えるという構図になります。

みんなで支えあう社会

そもそも、日本の家族介護文化を紐解くと、戦後、日本が製造業の工場モデルに過剰反応して「男は仕事、女は家庭」という性分業を推進したことが主因だそうです。また、男尊女卑の朱子学に教導された明治以来の国民国家観も土台となっているとのこと。
さらに、時代はさかのぼり、ホモサピエンス(原生人類)までさかのぼると育児や介護は集団で行うのが当たり前だったそうです。つまり、一部の人が課題を抱え込む社会より、みんなで支え合う社会が健全であることは、1万3,000年前からわかっていたことなんですね。(参考:「教える」ということ 出口治明著 角川書店)

原因は、正義感のズレにあります

というわけで、質問者さん、大好きな家庭がギクシャクしてしまったのは、お祖父様お祖母様に原因があるのではなく、お母さんが一人で介護を抱え込む正義感のズレにあります。

世界トップの長寿国となった日本で、お母様の家族介護があと、5年?(いや10年以上かもしれません)続くことは考えられないです。家庭崩壊どころか、お母様が先に倒れてしまうかもしれませんよ。

地域包括支援センターと、お友達にも相談を

では、どうすればいいか?

ご実家近くにある「地域包括支援センター」に質問者さんが相談に行ってください(その際、このお悩みを印刷して持っていくと伝わりやすいかもしれません)。地域包括支援センターは、2005(平成17)年6月末の介護保険法改正に伴い創設された公的な相談機関です。そこには、主任介護支援専門員、社会福祉士、保健師等、介護相談のスペシャリストがいます。質問者さんの状況もたいへんですが、私の知る限りもっとたいへんな状況のご家庭は更にありますし、増えてきています。経験豊富な専門員がきっと助けてくれるでしょう。
また、もう一つ気になることは、質問者さんの身近な介護の相談相手も必要かなということです。今、ヤングケアラーの問題が日本では急浮上しています。埼玉県の高校2年生への調査では25名に一人がヤングケアラーだという衝撃な結果が出ました。この問題は誰にも相談できない、していないことに問題があります。

もし、ご家庭の話ですが、お話できる友達がいたら勇気をもって話してみることもいいかもしれません。もしかしたら同じ悩みを抱えている友達がいて、情報を共有することで共に解決に向かうかもしれませんよ。

最後に

日本の介護保険制度は、家族介護を前提としたものではなく、ご本人の思いに寄り添った自立支援を理念としています。

行政や制度に責任をなすりつけるのではなく、私達が積極的に介護に対する情報に耳を傾け、柔軟に変化しなければならないフェーズに来ています。

専門家への質問はこちらから!

この記事のライター

茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)

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