マイナビ福祉・介護のシゴト
陰部洗浄は毎日必要?失禁時の陰部洗浄のポイントとは

陰部洗浄は毎日必要?失禁時の陰部洗浄のポイントとは

「陰部洗浄は毎日必要?どの程度の頻度が適切?」介護職の皆さんから、問い合わせを受けること多いこの疑問について、今回は失禁時の陰部洗浄を考える際に介護職が押さえておきたいポイントを解説します。 【執筆者:大関 美里】


\あなたにぴったりの求人が見つかる/
「介護職員」の求人を見る

執筆者/専門家

大関 美里

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/13

社会福祉士、介護福祉士、認定排泄ケア専門員、排泄機能指導士 プロフィール 介護現場の職員の後、祖父の在宅介護での後悔と、自身の介護うつ経験から、そのきっかけになった排泄の支援を追求すべくおむつメーカーへ転職。 1000人以上の方のおむつ交換に触れ、介護する側もされる側も双方が「シッカリ出して、スッキリ生きる」ことが、より良い人生に繋がる。気持ち良く「出す」ことをサポートすることで良い循環が生まれることを実感する。 排泄の不都合があっても『大丈夫。』 そう言い合える社会を目指して、単なる身体からの排泄支援だけでなく、自分の心をどう出すかを新たな価値観で伝えるため「DASUケア」を提唱。 介護施設の現場同行とセミナーから、より良い出し方を伝える活動に挑戦中。

皆さんは日頃、ケアの中で陰部洗浄はどのくらいの頻度で行っていますか?

「毎日○時に行う」「入浴日以外に1日○回行う」「おむつ交換のたびに行う」「便失禁時にのみ行う」「拭くのみ、洗浄はしない」…など、施設、事業所毎でそれぞれ異なる状況を伺います。

では一体、陰部洗浄はどの程度行うのが良いのでしょうか?

おむつ使用決定のためのマニュアル等がある施設は10%以下※1に留まっていると言われている現状では、「おむつを使っている方へのケア基準」、つまり「陰部洗浄について」もケアが確立されていない状況が多いと考えられます。
介護職の皆さんから、問い合わせを受けること多いこの疑問について、今回は失禁時の陰部洗浄を考える際に介護職が押さえておきたいポイントを解説します。
※1) 高齢者尿失禁ガイドライン(2001):平成12年度 厚生科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)事業

介護現場の排泄ケアは、陰部ケアに関する正しい理解・予防の取り組みが求められる

介護施設における利用者のスキントラブルの背景

高齢者の皮膚は皮脂を分泌する力が低下するため、表面が乾燥してきます。
また、皮膚内部の変化により、うるおい、艶やなめらかさ、弾力性などが低下し、少しの刺激が引き金となってスキントラブルが起きやすい状態になっています。

その上、介護施設においては利用者の63.5%※2がおむつを使用されているという報告もあります。
またおむつを使用される方は、おむつ内が高温・多湿な環境になり、そこに排泄物が付着することでのPHの変化などの化学的な皮膚刺激、さらにズレや摩擦などの物理的変化が加わりやすい環境になります。

陰部の湿疹・皮膚炎(おむつ皮膚炎)や真菌の感染症を含め、排泄物が皮膚に付着して発生する「失禁関連皮膚炎(IAD)」は、発症すると大きな苦痛を感じます。

以上の理由から、介護現場で排泄ケアを行う私たちには、陰部ケアに関する正しい理解・予防の取り組みが求められるということがわかるかと思います。
※2) 高齢者排尿障害におけるケアの現状,日本老年泌尿器 会誌,26:115-118.

陰部洗浄は皮膚を観察しながら基本的に1日1回に

便失禁や尿失禁があると、スキントラブルなどにつながりやすいことは、皆さん体感をもってご存知のことと思います。
それを予防したいと思うほど、こまめに洗浄の機会をもってあげたいと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、頻回な洗浄はさらにリスクを大きくさせるので注意が必要です。

ここで注意すべきことは、陰部洗浄による「皮膚を擦る摩擦刺激」と「皮脂の取りすぎ」です。

洗浄や清拭で何度も擦ることで皮膚表面は損傷し、バリア機能が低下してしまいます。
また、洗浄剤(石鹸)を使った洗浄は頻回に行うと皮脂を取りすぎてしまうため、石鹸による陰部洗浄は、使用方法によってはスキントラブルの要因となることを覚えておくことが大切です。※3
※3)ベッド上での陰部洗浄の検討 石鹸洗浄を連日から週1回にした場合のスキントラブルの比較,日本創傷 ・オストミ ー・ 失禁管理学会誌, 14(1), P82, 2010.

その方の皮膚状況を観察し、皮膚の異常があれば放置せず、状態に合わせたケア計画を立てましょう。

おむつ選択

そもそも高リスクとなる「おむつ」の使用が適切なのか、という視点も必要です。

愛知県の調査では、老人保健施設のオムツ使用者は51.2%で、この51.2%のオムツ使用状況を専門医が聞き取り調査をしたところ、約30%はおむつはずしが可能と判断された報告があります。※4
予防的に使用することで本人の安心感につながることもありますが、不要なおむつがないか確認することも、陰部ケアの前提として重要なポイントです。
※4) 老人施設における高齢者、排尿管理に関する実態と今後の戦略アンケート及び訪問聞き取り調査. 日本神経因性膀胱学会誌 2(2)207-222.2001
おむつ使用時の注意点

・肌にあたる部分に皺を作らない
・インナー(パッド)やアウターの重ね使いをしない
・おむつメーカーによる製品特徴を知り、対象者に合ったものを選択する
(サイズ、吸水性、通気性、失禁量に合わせたインナーの選択など)
・交換頻度は適切か確認する

おむつ使用により陰部の乾燥が図れない場合も多くあるため、本人の意思を確認しつつ選択していきましょう。

皮膚に負担をかけない陰部洗浄のポイント

ここからは、皮膚に負担をかけない陰部洗浄のポイントについてお伝えしたいと思います。
まずは標準的なスキンケアについて、押さえておきましょう。

スキンケアの3原則は 洗浄 保湿 保護 です。

1.洗浄

基本は排泄物を長時間付着させたままにせず、皮膚を清潔に保って、皮膚のバリア機能を維持させることです。
尿臭が強い場合は、アルカリ尿になっており刺激が強い状態になっています。この場合、清拭するだけではなく、できればシャワー浴やシャワーボトルなどで充分に洗浄します。

また、“「泡状で弱酸性の洗浄剤の使用」「洗浄時の摩擦刺激を抑える」「陰部洗浄は1日1回」というポイントを取り入れ実施した結果、対象患者全例が陰部皮膚の恒常性を保ち、トラブルを生じなかった”という報告があります。※5
※5) 皮膚トラブル低減のための陰部洗浄方法の検討 鳥取市立病院雑誌,21巻,p52-58,2013


十分に泡立てた厚みのある泡を皮膚に乗せることで、汚れを皮膚から引き離す役割を果たします。
厚みのある泡は優しく撫でながら洗浄を行う際、クッションの役割を果たすので、皮膚への直接的な刺激を避けることができます。

弱酸性の石鹸は泡のきめは粗いため洗浄力は低いですが、脱脂力が低くすすぎ落ちに優れています。
泡立ちが良く洗浄力も高いアルカリ性の石鹸は、汚れをしっかり落としたいときには便利ですが、皮膚への吸着が強いため、十分なすすぎが必要になるので注意が必要です。

おむつ使用の方には、泡状で皮膚と同じ弱酸性の洗浄剤や、泡立てなくとも使える専用の洗浄剤などを選択されるのがお勧めです。
洗浄剤の特徴を知り、皮膚の乾燥度に応じて、保湿成分の配合されたものなどを、状態に応じ使い分けをしましょう。
洗浄の後は、柔軟で、吸湿性の良い素材で、擦らないように押さえ拭きで水分を除去します。

2.保湿

皮膚が乾燥する前に保湿をしましょう。 低刺激性でローションや乳液タイプ等の伸びが良い保湿剤を優しく押さえるように塗るのがポイントです。

3.保護

撥水効果のあるスキンケア用品で皮膚を保護しましょう。浸軟を予防するだけでなく、排泄物が付着するのを防ぐ役割があります。

何回も排便が続く方へのケア

ここまでは標準的なスキンケアを中心にお伝えしましたが、お悩みとして多いのが「何回も排便が続く方へのケア」かと思います。
便失禁は褥瘡の発生率を20倍以上増加させるとも言われています。

このとき、確認したいポイントは下記2点です。

何回も排便が続く方へのケアのポイント

1.スキンケアの方法
2.なぜ排便が何度も続いているのかアセスメントを行うこと

1.スキンケアの方法

軟便や水様便、そして感染の疑いがある尿の場合には、「洗浄」「保湿」のケアに「保護(撥水)」を追加することが推奨されています。

便失禁による皮膚障害は、皮膚を何度も擦り洗いすることによって皮膚のバリア機能が低下し、そこに消化酵素などの化学的刺激が加わることで発症すると考えられています。
洗浄剤を用いた洗浄は1日に1回から多くても2回とし、洗浄後は保湿剤や撥水剤を使って皮膚を保護するケアを行いましょう。

現場でアセスメントに活用できるツールとして、日本創傷・オストミー・失禁管理学会が開発した「IAD-set(アイエーディ・セット)」という評価スケールがあります。アルゴリズムに従ってアセスメントを実施することができますので、活用されることをお勧めいたします。

2.排便状態のアセスメント

なぜ排便が何度も続いているのかについても、アセスメントを行いましょう。
・下剤の効きすぎではないか
・体調不良等はないか
・その他内服や食事影響はないか など

特にコントロールが不良の下痢は、スキントラブルのリスクだけではなく、感染のリスクにもなります。
排便日誌などで、状態を把握し、排便をまとめていく(有形便にしていく)ケアを検討しましょう。

まとめ

陰部洗浄のポイントは、過度な洗浄や拭き取りに注意し、「排泄物が皮膚に長時間付着し化学的刺激となり、浸軟、皮膚の脆弱化とつながっていく」この連鎖を断ち切ることです。

そもそも排泄物を皮膚に付着させないケア(不要なおむつは外し、トイレでの排泄が可能かをアセスメントすること)を見直す視点を持ちつつ、高齢者の皮膚の特徴を理解し、予防的スキンケアを念頭に置いた愛護的ケアを心がけましょう。
\あなたにぴったりの求人が見つかる/
「介護職員」の求人を見る

あわせて読みたい記事

排せつ介助の苦手を克服する方法、教えます!ADLに合わせた用具選びのポイントも解説! | ささえるラボ

https://mynavi-kaigo.jp/media/articles/134

排泄介助とは?未経験者がつまづきやすいポイントや、心構えを解説します。ADL(日常生活動作)に合わせた排泄介助と、用具選びのポイントも解説!大切なのは、トイレをすぐに諦めないこと。きつい、苦手だと思うことを分解すること、想像力がカギになります【回答者:大関 美里】

マイナビ福祉・介護のシゴト 閲覧ランキング
【北海道・東北】
【関東】
【北陸・東海・甲信越】
【関西】
【中四国・九州・沖縄】

この記事のライター

社会福祉士、介護福祉士、認定排泄ケア専門員、排泄機能指導士

関連するキーワード


介護お悩み 陰部洗浄

関連する投稿


介護職への転職を反対する両親…どのように対応する?

介護職への転職を反対する両親…どのように対応する?

自身のやりたいことに対して、ご両親から反対されたとき、どう向き合うのがいいのでしょうか。介護職への転職を反対されるというお悩みに専門家が回答します。 【執筆者:大関 美里(社会福祉士、介護福祉士、認定排泄ケア専門員、排泄機能指導士)】


介護現場のリーダーの育て方、向いている人とは?

介護現場のリーダーの育て方、向いている人とは?

介護業界では、外国人や専門職以外の多様な人材が活躍しています。多様な人材へのマネジメントがより一層必要となっていくなかで、リーダーに求められる力量も大きいでしょう。リーダーに必要な能力とリーダー育成のポイントについて、後藤先生に解説いただきました。 【執筆者:後藤 晴紀 介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、潜水士】


介護職の腰痛、労災認定はされる?その条件と手続きとは

介護職の腰痛、労災認定はされる?その条件と手続きとは

介護の仕事で腰痛になった場合、労災認定はできるのでしょうか?また必要な手続きとは?弁護士が解説します。 【執筆者:弁護士 伊達 伸一】


認知症の母でも入れる施設とは?施設選択のポイントを専門家が解説

認知症の母でも入れる施設とは?施設選択のポイントを専門家が解説

母を自宅で介護していましたが、認知症が重くなっているよう…認知症の母でも入れる施設はありますか?施設選択のポイントを専門家が解説します。 【執筆者:伊藤 浩一(介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員)】


こんな「賃金カット」はあり得るの!?介護職員からのお悩みに社労士が答えます!

こんな「賃金カット」はあり得るの!?介護職員からのお悩みに社労士が答えます!

月に1回の欠勤や早退・遅刻で処遇改善手当をカットされてしまう… こんな賃金カットってありなんでしょうか? 介護職員からのお悩みに社労士が解説します! 【執筆者:社労士、山本 武尊】


最新の投稿


【最新!2024年】わかりやすく介護報酬改定の全体像を専門家が解説!

【最新!2024年】わかりやすく介護報酬改定の全体像を専門家が解説!

報酬改定について苦手意識のある方は多いのではないでしょうか。とはいえ、介護に関わる皆さんが報酬改正の意図をしっかり理解し、行動を変えることは介護業界の未来にとって大きな一歩となります。法改正がどのように変わったか?を理解するために「なぜ変わったか?」をまずは押さえていきましょう。【執筆者:伊藤 浩一】


第108話 盛り付けで/ほっこり介護マンガ

第108話 盛り付けで/ほっこり介護マンガ

「介護職員・並木マイの ほっこり成長日記 ~転職して、介護の仕事はじめました~」 保険会社から介護の仕事に転職した、並木マイさん(31歳)の成長と 介護現場のあるあるを描く、ほっこり癒し系マンガ! 休憩時間、このマンガを読んだあなたが クスっと笑えてちょっと癒され、ほっこりした気持ちになれますように。


【介護事業の経営難はなぜ?】介護職員や経営者に求められる対策とは

【介護事業の経営難はなぜ?】介護職員や経営者に求められる対策とは

介護事業者の倒産数が過去最多となったというニュース。超高齢社会の日本においてなぜ、倒産数が増えてしまったのでしょうか。 今後、事業所が生き残るために必要なことを専門家が解説します。 【解説者:後藤 晴紀/介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員・潜水士】


第107話 おやつ/ほっこり介護マンガ

第107話 おやつ/ほっこり介護マンガ

「介護職員・並木マイの ほっこり成長日記 ~転職して、介護の仕事はじめました~」 保険会社から介護の仕事に転職した、並木マイさん(31歳)の成長と 介護現場のあるあるを描く、ほっこり癒し系マンガ! 休憩時間、このマンガを読んだあなたが クスっと笑えてちょっと癒され、ほっこりした気持ちになれますように。


精神保健福祉士(PSW)とは?仕事内容や資格の取得方法、勤務先について解説

精神保健福祉士(PSW)とは?仕事内容や資格の取得方法、勤務先について解説

精神障害者の支援に特化した専門職である精神保健福祉士。メンタルの不調を抱える人が増えるなかで、ニーズが高まるといわれています。仕事内容や資格の取得方法、勤務先など、精神保健福祉士に関する基礎知識を解説します。【ささえるラボ編集部】


マイナビ福祉・介護のシゴト
「マイナビ福祉・介護のシゴト」は、福祉・介護職に特化した中途、パート向け求人サイトです。
介護職をはじめ、福祉・介護業界に関連する職種の求人を掲載しています。
本当に自分にあった施設や事業所を、ご自身で手軽に探すことができるよう職場の雰囲気がリアルに伝わる情報を用意することで、適切なマッチングを実現していきます。
【職種から求人・転職情報を探す】