陰部洗浄はなぜ必要なのか?
■そもそも陰部洗浄とは?
陰部の皮膚は、まぶたよりも薄いと言われており、特に、高齢者の皮膚は乾燥しやすく、バリア機能が低下しているためわずかな刺激でもかゆみや炎症を起こしやすい状態です。
また、おむつをしていると、陰部は高温多湿になりやすく、より皮膚トラブルに繋がりやすくなります。そのため、陰部洗浄をしっかりと行うことで、皮膚トラブルや感染症の予防を行っているのです。
■陰部洗浄の目的
陰部洗浄の目的は主に以下の4つです。
→尿や便が付着したままだと細菌の繁殖などに繋がり、炎症やかぶれの原因となります。
2.感染症の予防
→陰部を清潔に保つことで尿路感染症や真菌感染症などへの感染リスクを下げることができます。
3.においの軽減
→清潔にし、尿臭や便臭を抑えることで本人のQOL(生活の質)向上にも繋がります。
4.スキントラブルの予防
→清潔に保つことで、失禁関連皮膚炎やおむつ皮膚炎などの予防に効果的です。
陰部洗浄に必要な準備と道具
■陰部洗浄に必要なもの
しっかりと用意し、利用者さんにとって少しでも羞恥心をなくしたケアができるよう準備していきましょう。

■道具だけでなく環境の整備も大切
具体的には以下の3点を整えるようにしましょう。
→陰部を露出するので、寒さを感じないよう室温は22~26℃を保つようにしましょう。
2.プライバシーの保護
→カーテンやパーテーションなどを利用し、陰部洗浄の様子が周りから見えないようにしましょう。
3.声かけ
→陰部洗浄を行う前後に必ず声かけを行い、安心してケアを受けられるようにしましょう。また、声のボリュームも周囲に配慮するようにしましょう。
陰部洗浄の基本の手順
■1.準備
その後、利用者さんの腰から下の部分にビニールシートを広げ、その上に使い捨てのおむつなど吸水性のあるものを敷きましょう。
■2.ケアの実施
●陰部の拭き取り
この時点で、手袋も汚れていると思いますので、手袋の汚れた面が内側に入るように外して、新しいものに交換をしましょう。
●洗浄
泡での洗浄が終わったら、お湯で洗い流し、柔らかいタオルやガーゼで優しく押さえるように水分を拭き取ります。このときに擦ってしまうと、肌荒れなどトラブルの要因となるので注意しましょう。
また、洗浄中も適宜赤みやかぶれがないか確認し、異常がある場合は記録と報告を必ず行いましょう。
■3.アフターケア
●保湿や保護を行う
【専門家が解説!】陰部洗浄の頻度や実施のポイント
■執筆者/専門家
社会福祉士、介護福祉士、認定排泄ケア専門員、排泄機能指導士 プロフィール 介護現場の職員の後、祖父の在宅介護での後悔と、自身の介護うつ経験から、そのきっかけになった排泄の支援を追求すべくおむつメーカーへ転職。 1000人以上の方のおむつ交換に触れ、介護する側もされる側も双方が「シッカリ出して、スッキリ生きる」ことが、より良い人生に繋がる。気持ち良く「出す」ことをサポートすることで良い循環が生まれることを実感する。 排泄の不都合があっても『大丈夫。』 そう言い合える社会を目指して、単なる身体からの排泄支援だけでなく、自分の心をどう出すかを新たな価値観で伝えるため「DASUケア」を提唱。 介護施設の現場同行とセミナーから、より良い出し方を伝える活動に挑戦中。
「毎日○時に行う」「入浴日以外に1日○回行う」「おむつ交換のたびに行う」「便失禁時にのみ行う」「拭くのみ、洗浄はしない」…など、施設、事業所毎でそれぞれ異なる状況を伺います。
では一体、陰部洗浄はどの程度行うのが良いのでしょうか?
このようなお悩みや、介護現場の実態を見ていると、「おむつを使っている方へのケア基準」、つまり「陰部洗浄について」ケアが確立されていない状況が多いと考えられます。
介護職の皆さんから、問い合わせを受けること多いこの疑問について、今回は失禁時の陰部洗浄を考える際に介護職が押さえておきたいポイントや陰部洗浄の頻度について解説をします。
陰部洗浄はどのくらいの頻度で実施するべき?
■陰部洗浄は1日1回が目安です!
ここで注意すべきことは、陰部洗浄による「皮膚を擦る摩擦刺激」と「皮脂の取りすぎ」です。
洗浄や清拭で何度も擦ることで皮膚表面は損傷し、バリア機能が低下してしまいます。 また、洗浄剤(石鹸)を使った洗浄は頻回に行うと皮脂を取りすぎてしまうため、石鹸による陰部洗浄は、使用方法によってはスキントラブルの要因となることを覚えておくことが大切です。※
その方の皮膚状況を観察し、皮膚の異常があれば放置せず、状態に合わせたケア計画を立てましょう。
※出典:国立研究開発法人科学技術振興機構 J-GLOBAL 中川嘉子 (JA北海道厚生連 網走厚生病院) ベッド上での陰部洗浄の検討 石鹸洗浄を連日から週1回にした場合のスキントラブルの比較,日本創傷 ・オストミ ー・ 失禁管理学会誌, 14(1), P82, 2010.
■陰部ケアに関する正しい理解・予防の取り組みでスキントラブルを防ぎましょう!
また、皮膚内部の変化により、うるおい、艶やなめらかさ、弾力性などが低下し、少しの刺激が引き金となってスキントラブルが起きやすい状態になっています。
そのうえ、介護施設においては利用者の63.5%※がおむつを使用されているという報告もあります。
またおむつを使用される方は、おむつ内が高温・多湿な環境になり、そこに排泄物が付着することでのPHの変化などの化学的な皮膚刺激、さらにズレや摩擦などの物理的変化が加わりやすい環境になります。
陰部の湿疹・皮膚炎(おむつ皮膚炎)や真菌の感染症を含め、排泄物が皮膚に付着して発生する「失禁関連皮膚炎(IAD)」は、発症すると大きな苦痛を感じます。
以上の理由から、介護現場で排泄ケアを行う私たちには、陰部ケアに関する正しい理解・予防の取り組みを行い、スキントラブルを防ぐことが求められているとわかるかと思います。
※出典:国立研究開発法人科学技術振興機構 J-GLOBAL 高齢者排尿障害におけるケアの現状,日本老年泌尿器 会誌,26:115-118.
陰部洗浄の実施で、介護職が知っておきたいポイント
■1.適切なおむつを使用する
愛知県の調査では、老人保健施設のオムツ使用者は51.2%で、この51.2%のオムツ使用状況を専門医が聞き取り調査をしたところ、約30%はおむつはずしが可能と判断された報告があります。※
予防的に使用することで本人の安心感につながることもありますが、不要なおむつがないか確認することも、陰部ケアの前提として重要なポイントです。
・肌にあたる部分に皺を作らない
・インナー(パッド)やアウターの重ね使いをしない
・おむつメーカーによる製品特徴を知り、対象者に合ったものを選択する
(サイズ、吸水性、通気性、失禁量に合わせたインナーの選択など)
・交換頻度は適切か確認する
おむつ使用により陰部の乾燥が図れない場合も多くあるため、本人の意思を確認しつつ選択していきましょう。
※出典:国立研究開発法人科学技術振興機構 J-GLOBAL 老人施設における高齢者排尿管理に関する実態と今後の戦略 アンケートおよび訪問聴き取り調査
■2.洗浄・保湿・保護で皮膚に負担をかけない陰部洗浄を行う
まずは標準的なスキンケアについて、押さえておきましょう。
陰部洗浄における基本的なスキンケアは、洗浄・保湿・保護の3つです。以下でそれぞれ詳しく解説します。
●1.洗浄
また、「泡状で弱酸性の洗浄剤の使用」「洗浄時の摩擦刺激を抑える」「陰部洗浄は1日1回」というポイントを取り入れ実施した結果、対象患者全例が陰部皮膚の恒常性を保ち、トラブルを生じなかったという報告があります。※
十分に泡立てた厚みのある泡を皮膚に乗せることで、汚れを皮膚から引き離す役割を果たします。
厚みのある泡は優しく撫でながら洗浄を行う際、クッションの役割を果たすので、皮膚への直接的な刺激を避けることができます。
また、弱酸性の石鹸は泡のきめは粗いため洗浄力は低いですが、脱脂力が低くすすぎ落ちに優れています。
泡立ちが良く洗浄力も高いアルカリ性の石鹸は、汚れをしっかり落としたいときには便利ですが、皮膚への吸着が強いため、十分なすすぎが必要になるので注意が必要です。
おむつ使用の方には、泡状で皮膚と同じ弱酸性の洗浄剤や、泡立てなくとも使える専用の洗浄剤などを選択されるのがおすすめです。 洗浄剤の特徴を知り、皮膚の乾燥度に応じて、保湿成分の配合されたものなどを、状態に応じ使い分けをしましょう。
洗浄のあとは、柔軟で、吸湿性の良い素材で、擦らないように押さえ拭きで水分を除去します。
※出典:国立研究開発法人科学技術振興機構 J-GLOBAL 皮膚トラブル低減のための陰部洗浄方法の検討 鳥取市立病院雑誌,21巻,p52-58,2013
●2.保湿
低刺激性でローションや乳液タイプ等の伸びが良い保湿剤を優しく押さえるように塗るのがポイントです。
●3.保護(必要に応じて)
浸軟を予防するだけでなく、排泄物が付着するのを防ぐ役割があります。
【こんなときはどうする?】何回も排便が続く方へのケア
便失禁は、血流が悪くなり、皮膚の一部が赤くなったり、傷ができたりしてしまう褥瘡(じょくそう)の発生率を20倍以上増加させるとも言われています。そのため、排便が続く利用者さんについては、以下2つのポイントを確認するようにしましょう。
2.なぜ排便が何度も続いているのかアセスメントを行う
●1.スキンケアの方法
便失禁による皮膚障害は、皮膚を何度も擦り洗いすることによって皮膚のバリア機能が低下し、そこに消化酵素などの化学的刺激が加わることで発症すると考えられています。
洗浄剤を用いた洗浄は1日に1回から多くても2回とし、洗浄後は保湿剤や撥水剤を使って皮膚を保護するケアを行いましょう。
現場でアセスメントに活用できるツールとして、日本創傷・オストミー・失禁管理学会が開発した「IAD-set(アイエーディ・セット)」という評価スケールがあります。アルゴリズムに従ってアセスメントを実施することができますので、活用されることをおすすめいたします。
●2.排便状態のアセスメント
・体調不良等はないか
・その他内服や食事影響はないか など
特にコントロールが不良の下痢は、スキントラブルのリスクだけではなく、感染のリスクにもなります。排便日誌などで、状態を把握し、排便をまとめていく(有形便にしていく)ケアを検討しましょう。
最後に:陰部洗浄は予防的スキンケアに繋がります!
そもそも排泄物を皮膚に付着させないケア(不要なおむつは外し、トイレでの排泄が可能かをアセスメントすること)を見直す視点を持ちつつ、高齢者の皮膚の特徴を理解し、予防的スキンケアを念頭に置いた愛護的ケアを心がけましょう。
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社会福祉士、介護福祉士、認定排泄ケア専門員、排泄機能指導士