本日のお悩み
ヤングケアラーの22歳女性について、介護職として心が痛いです。もっと私たちに頼ってほしいです。専門家の方はあのニュースについてどう思いましたか?
この質問の意義は大きいです!
ご質問ありがとうございます。
このご質問の背景は、2019年10月におきた神戸市の事件だと推測します。ご存知ない方もいらっしゃると思いますので少しだけ事件に触れますね。
■まずは事件について
この事件は、介護に疲れた22歳の幼稚園教諭が、つきっきりで介護していた祖母を殺害したという概要です。殺人罪に問われた元幼稚園教諭は、2020年9月、神戸地裁から懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役4年)を言い渡されました。
しかし、裁判で明らかになったのは、22歳の孫娘が置かれた過酷で孤独な介護の現状でした。
祖母(要介護4)には3人の子供がいましたが、それぞれ忙しく、親とは死別していた22才の孫に同居させ、介護対応させていたとのこと。
短大卒業後、念願の幼稚園教諭になったが、介護と勤務の毎日は平均睡眠時間が2時間、軽いうつ病と診断されながらの介護に耐えられなくなり、殺害に及んだという内容です。
■「どこにも相談できなかった」ことが事件の大きな原因
さて、この事件はどこに大きな原因があったのか?
私は、「22才のヤングケアラーだった女性がどこにも相談ができなかった。」ということだと思います。
実際、祖母にはケアマネジャーさんがついていて日中はデイサービスを利用していました。
要介護4の認知症であれば、ショートステイ、施設入居も十分考えられる選択です。
しかし、なぜこの選択ができなかったのか?ヤングケアラーの女性は、学費や生活費を祖母から工面してもらっていたという理由をつけられて、介護を強要されていただけでなく、ケアマネジャーへの相談も禁止されていたそうです。
もしケアマネさんに継続的相談をしていたら、こんなこと起きなかったかもしれません。
■私たち介護職にできることは、社会で要介護者を支える体制づくりに協力すること
さて、これ以上、この事件に対して深堀りするのは、情報が明確ではないので、私自身の推測と結論に移ります。
今後このような事件を起こさないように私達ができること。それは、家族介護が当たり前ではなく、社会で要介護者を支える体制づくりに協力することです。
今年度、埼玉県が全国に先駆けて実施した高校2年生への調査(55,000人/回答率90%)では、25人に1人がヤングケアラーに該当するとの結果がでました。
又、厚生労働省は2020年度までに中学校や高校を対象とした実態調査を実施し取りまとめる予定だそうです。埼玉県の実績を踏まえると厳しい数字が出そうですね。
私達は、日々目の前のご利用者に精一杯の力を注いで支援をしています。
一方で、その先には、家族がいて、もし私達の介護サービスがなかったら、家族介護によって介護離職や生活基盤を失う方が多発するでしょう。
これは、日本の経済はもちろん社会全体の破滅を引き起こします。
今後、若者の25人に1人が、万が一ヤングケアラーの問題でこのような事件に陥ることがあれば、日本の社会は成り立ちません。
■「家族だけで介護を丸抱えする時代は終わった」と発信していきましょう
では具体的にどうすればよいか?
私達はもっと社会に目を向けましょう。未来を託す若者に辛い思いをさせたくないですよね。
そして、自分たちの仕事に誇りをもって外へ発信していくことです。例えば、「ヤングケアラーの相談窓口になりますよ」と学校に声をかけるなどどうでしょう。
介護は突然きます。予測できません。もし介護が必要になっても誰もが慌てず冷静な判断ができるよう社会に啓発していくことが、家族介護から社会で要介護者を支える体制づくりの一丁目一番地です。つまり「家族だけで介護を丸抱えする時代は終わった」ということを知ってもらいましょう。
■最後に
質問者さんが、今回この質問をしてくださった社会的意義は大きいです。
ありがとうございました。
茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)