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利用者さんから新人へのセクハラ、なんとかしてあげたい!介護施設でのセクハラに関する法律ができるって本当ですか?

利用者さんから新人へのセクハラ、なんとかしてあげたい!介護施設でのセクハラに関する法律ができるって本当ですか?

【回答者:伊藤 浩一】「視点の分解」からはじめよう!


本日のお悩み

利用者さんからのセクハラについて相談です。

私も何度もセクハラにあったけど、認知症の症状によるものだと理解してなんとかやってきたのですが、さいきん若い新人さんが入ってきて彼女も悩んでいるみたいです。
私はこの秋からリーダーになったのでなんとかしてあげたいです。

いい対策があったら教えてください。

また、利用者さんからのセクハラに対する法律ができるかもしれないと聞きました。
そんなこと本当に取り締まれるのでしょうか。

「視点の分解」からはじめよう!

ご質問はたいへん深刻な問題と受け止めました。
実は私も現場で何度も経験してまして、現在進行中の事例もあります。

では、どんな解決の糸口があるか?
一緒に考えていきましょう。

関係する人それぞれの、視点を分けて見てみましょう

まず、この問題、「視点の分解」が大切です。
つまり、誰の視点からみるとどのように捉えられるかを明確にしてみることです。
(質問の情報では背景が読みきれませんのでここから記載することは仮説です)

<視点1> 認知症の利用者さんからセクハラを受けている若い新人さん

利用者さんのセクハラは、認知症の症状とはわかっているが?受け止めきれない。本当に嫌。


<視点2> 質問者さん(若い新人さんの上司)

若い新人さんが辛い思いをするのをなんとかしてあげたい。

もちろんセクハラは自分も嫌だが、利用者さんが認知症であることもわかる・・・。


<視点3> セクハラをしている利用者さん

セクハラをしてしまう時は、だいたい・・・な時。

セクハラをしているのはAさん、Bさんで、Cさんにはしない・・・?

そもそも、セクハラをしている理由は・・・?


<視点4> 若い新人さんの同僚

若い新人さんがセクハラをされるのを見るのは辛いから、自分と勤務が一緒の時はなるべく自分が対応にあたり、若い新人さんには、他の利用者さんの対応をお願いしている。


<視点5> セクハラをしている利用者さんの家族

父(又夫)がそのようなセクハラをするなんて信じられない。家庭ではまじめでおとなしい人だった。

職員側からだけでなく、利用者さんの視点もアセスメントしましょう

さて、いかがでしょう?
質問者さん、若い新人さんだけの視点では、セクハラをしている利用者さんは、認知症はあれど加害者的見方が強く感じられました。

しかし、視点3〜5を加えると「ちょっと待てよ」という感覚もおきませんか?
この問題は、セクハラを受けた職員さんに感情が「かわいそう」と偏りすぎて、
なぜこのようなセクハラが起きるのかという論理的な課題解決を見失ってしまうことに落とし穴があります。

特に利用者さんの視点をしっかり分析(アセスメント)すると意外な解決策が見えてくるかもしれません。

セクハラ行動の原因は?ピック病の可能性も。

例えば、「利用者さんがセクハラをする時はどのような時か?」ですが、便秘時、水分摂取量がすくない時、夜間不眠時等であれば、利用者さんがなんとなく体の不調を感じているが、それを認知症で伝えきれず、不調に対する対処をセクハラ行動に置き換えていることも考えられます。

この場合は、便秘改善、水分の適量摂取、日中の活動量増加等で生活習慣を整えていくことも対策方法となるでしょう。

また、ご家族の情報からすると「前頭側頭型認知症(ピック病)」の可能性も考えられます。この認知症は、性格が真逆になってしまう症状があります。
若しこの認知症の診断がなく、ピック病の可能性があるのであれば医療機関との連携も対応方法となります。

助けてくれている職員は誰か?にも注目し、組織で対処することが必要です。

そして、利用者さんがセクハラをするのが決まった職員さんである場合は、
4の気遣ってくれる他の職員に頼むだけでなく、他の職員にもヒヤリングをして、
誰に対して行っているか、誰が助けてくれているのかを明確にしてください。

助けてくれている職員が一部の場合、状況によっては最初は善意で行っていたことが、
「なんで自分ばかりが助けなければならないんだ」とマイナス要素に切り替わってしまうこともあります。下手をすると組織全体に悪影響が広まる恐れも出てくるでしょう。

セクハラは表に出しにくい問題ではありますが、内々で解決を図ろうとしてもうまくいきません。
組織の問題としてみんなで対処することが重要です。
組織全体の課題として職員が認識していれば、フロアー異動や担当変更という方法をとった際も、そのあとの組織運営がスムーズとなるでしょう。

職員の心に寄り添いながら、粘り強く実践していきましょう

以上、私は、利用者さんのセクハラには
①「視点の分解」
②「利用者さんの再アセスメント」
③「組織全体の課題と捉える」
を対処法として実践しています。

冒頭に現在進行中の事例もあると書きましたが、一朝一夕に解決できる問題ではありません。
辛い思いをしてしまった職員の心に寄り添いつつ、できる対策を常に図りながら、利用者さんを中心としたケアという根本を外さず、粘り強く実践していくことが重要です。

難しい問題ですが、共にがんばりましょう。

セクハラに関する法整備について

また、お尋ねいただいてるセクハラの法整備等については、「利用者さんへ」ではなく、「利用者さんに対しては認知症であることの理解を示すとともに、事業所のサポート体制の整備(相談窓口の整備等の労働環境整備)が重要だ」という論点で話し合いがなされているようですね。

今後も注目していきましょう。

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この記事のライター

茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員

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