本日のお悩み
介護施設も倒産しているとニュースで見ます。転職する時にそういう施設を選ばないためには何を見たらいいですか?
リスクマネジメントと理念は両立しているか?
ご質問ありがとうございます。
お察しの通り、2020年1〜10月の「老人福祉・介護事業」倒産数は、すでに104件(前年同期比10.6%増)に達し、このペースでいくと年間最多の111件(2017年と2019年)を上回ることがほぼ確実となっているようです(東京商工リサーチ調べ)。
さて、そもそもこれらの介護施設の倒産、
原因は何でしょうか?
■倒産の理由を分解してみましょう
倒産の104件を分解すると、まず、小規模な「訪問介護事業」が48件(構成比46.1%)で突出しています。ヘルパー不足が深刻で、採用に苦戦していることが背景にあるようです。
次いで、「通所・短期入所介護事業」が32件(同30.7%)、有料老人ホームが10件(同9.6%)と続きます。これらの背景には、高齢者の増加を見込んで安易に参入した為、既存法人や大手との競争の中で事業に行き詰まってしまったことが考えられます。
という具合で、倒産をひとくくり捉えるのではなく、分解してみると、事業形態によって異なる諸事情が見えてきますね。
質問者さんが、転職を検討する際、倒産しない施設を選ばないためには、まずこのデータを参考にしてはいかがでしょうか?
■コロナ禍だからこそ、施設の対応に注目してみましょう
そしてもう一つアドバイスをさせていただきます。
それは、転職を検討される施設さんが、
「リスクマネジメントと理念を両立しているか?」です。
このコロナ禍、どの事業所もウイルスを持ち込まないことを徹底する為、ご家族や地域の方の出入りを制限するなど、感染対策に最大限の取り組みを実施し、また、職員の皆さんは、プライベートも制限しながら日々業務にあたっていると思います。
一方で、介護サービスがなくなってしまうと高齢者の介護度悪化はもちろん、家族負担の増大、家族介護の選択肢しかなく、仕事を休職せざるを得なくなるなど社会経済を含む様々な問題が浮かび上がってきます。
もちろん感染対策は大切で、その地域ごとの行政や保健所の指示に従った対応を図っていくことが前提です。しかし、前者(リスクマネジメント)に偏りすぎると、私達の本来の共通理念である後者(地域福祉)の担い手という役割が薄れてしまいます。
私は、もしかすると、今年残念ながら倒産された通所、短期入所、有料老人ホームさんは、地域福祉の担い手というよりも、利益優先で経営していたが為、リスクマネジメントを含める様々な工夫が足りず、撤退したというパターンがほとんどだったのではと推測しています。
理念が明確でない事業は、どんな業界でも淘汰されていく、これが現実だと思いますね。
■訪問介護の倒産には、別の事情があります
最後に、訪問介護事業所の倒産について、これは別問題です。訪問介護は、初任者研修修了者しか就業できない、外国人技能実習生は実習できない、個人宅での個別対応に若者がハードルを感じてしまうなど施設サービスやデイサービス等に比べ、求人に1枚も2枚も壁が立ちはだかります。
そのため、地域福祉の担い手としてますます必要な事業にも関わらず、訪問介護員の高齢化も重なり、理念が明確でも本当にどうにもならず、やむを得ず撤退したという事業所がほとんどだと思います。訪問介護のやりがいは、1対1だからこそより深い支援ができ、より深い達成感を得られる、そして、だからこそ自分自身の大きな成長につながる仕事です。
是非、訪問介護事業所も視野に転職活動をお願い致します。
茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)