介護職員が妊娠した際の報告や働き方など、知っておきたいこと
マンガ監修:望月太敦(公益社団法人東京都介護福祉士会 副会長)
介護の仕事は、要介護者を抱える機会が多く、身体的負担の大きい仕事です。
そのため、妊娠したときには仕事内容や量と、自分の体調変化とのバランスをどのようにしたらよいのか悩む人も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は介護職を担う人が妊娠したときに知っておきたいことや疑問について、詳しく解説していきます。
介護職を担う人が妊娠!どうすればいい?
介護職を担う人が妊娠したときには、その人が担当する仕事内容を見直さなければなりません。
自分が担当している仕事のなかから、妊娠が進むとともに対応できなくなるケースがあります。
そうなった仕事内容については他の人に分担する必要が生じるため、妊娠報告は早い段階で行うことが一般的です。
しかし、初めての妊娠では、いつ・誰に・どのように報告していいかわからなくて戸惑うことも多いでしょう。
この項目では、妊娠に気付いてから報告するまでの流れについて確認していきます。
■まずは産婦人科を受診しよう
「妊娠したかもしれない」と思ったとき、多くの人はまず妊娠検査薬で妊娠の有無を確認するのではないでしょうか。妊娠検査薬はドラッグストアですぐに手に入り、安価に検査ができます。
しかし、妊娠検査薬の結果はあくまで目安であり、使い方を間違えた場合には正確な判定ができないこともあります。また、妊娠の経過が問題なく進んでいる状態なのか、子宮外妊娠や胞状奇胎など妊娠を継続できない状況なのかの判断ができません。妊娠検査薬で陽性が出たからと言って自己判断せず、必ず産婦人科を受診して確定診断をしてもらいましょう。
では、妊娠に気付いてどれくらいで産婦人科を受診したらよいのでしょうか。受診のタイミングは、生理予定日から2週間以降、前回の生理開始日から6週間後を目安にしてください。妊娠検査薬で陽性が出ている場合でも、1週間ほど時間をおいてから受診すると確定診断がしやすくなります。
なぜなら、エコーで妊娠が確認できるのが4週目後半から5週目以降だからです。それ以前だとエコーで判断できず再受診になる可能性もあります。病院に何度も通う労力や受診料を考えると、確実に診断できる可能性の高い状況で受診するのがよいでしょう。
妊娠後の仕事のことを考え、受診時には介護職であることを伝えておくと安心です。妊娠が確定したときには、妊娠中に気を付けることを具体的に聞きやすく、産婦人科医もアドバイスがしやすくなります。また、職場に妊娠報告をする際にも、医者からのアドバイスが具体的であれば仕事上で気を付けるべきことについて説明しやすくなるでしょう。
■妊娠が確定したら職場へ報告を
産婦人科で妊娠が確定したら、早い段階で上司に妊娠報告をしましょう。介護の仕事は妊婦にとって身体的負担も多く、気持ちが不安定になる人も少なくありません。仕事内容の変更が必要になるので、仕事内容の分担を再構築する時間を確保することも考え、妊娠確定診断を受けたら報告するようにしましょう。
最初の報告は直属の上司に口頭で行いましょう。もし、診断書を求められたときには、産婦人科で診断書を発行してもらいます。また、「母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)」を活用する手もあります。母健連絡カードは働く女性が事業主に提出する全国統一型式のカードで、妊婦や出産後の女性が仕事を続けるうえで気を付けるべき内容について、医師の指導として症状と取るべき対応策を適切に記したものです。ぜひ活用しましょう。
同僚への報告については、上司と相談して時期を決めましょう。担当していた仕事について同僚との交替が発生する勤務交替や配置転換が必要な場合には、早期に全員に報告したほうが、スムーズに体制の組み直しができます。
施設を利用もしくは入居している要介護者への報告は、改めて行う必要はないでしょう。同僚や先輩が上手に配慮している様子や、おなかが目立ってきて気付かれることが多く、こちらから言わなくても要介護者から直接聞かれることもあります。要介護者への報告は、聞かれたら答えるという対応で問題ありません。もし改めて報告する必要があるときには、上司とよく相談し、報告時期と内容を検討したうえで行いましょう。
介護職を担う人の妊娠で多い4つの悩み
妊娠中はいろいろな不安や悩みを抱えることが少なくありません。
この項目では、介護職の妊娠で多い4つの悩みと解決策を紹介します。
■避けた方がよい仕事はある?
妊娠中は身体的に負担が大きい仕事は避けてください。要介護者を抱える移乗動作や、足元が滑りやすい入浴介助は、担当から外れましょう。その分、食事の介助やトイレ誘導など身体的負担の少ない仕事を積極的に行います。もし移乗動作や入浴介助を担当するときには、車いすを差し込む係や脱衣場での更衣介助など、妊婦でも安全に行える部分を担うようにします。
また、妊娠により精神的に不安定になった場合は、要介護者の症状によっては上手く対応できないケースもでてきます。その時には我慢をせず、上司や同僚に相談して対応を組織全体で検討してください。実際にどのような業務から外れるのが適切であるかは、上司とよく相談して決定しましょう。
もし、妊娠報告後も仕事内容を変更してもらえずに困っている時には、産婦人科医に相談して母健連絡カードや診断書を作成してもらい、事業所に提出してください。母健連絡カードが提出された事業所は、カードの記載内容に応じた適切な措置を講じなくてはいけません。診断書も同様の効果があります。
■夜勤を続けて大丈夫?
夜勤については、妊娠が分かった時点で外してもらったほうが安心です。特に一人夜勤の場合には、早急に交替してもらうなどの対応をお願いしましょう。なぜなら、妊娠中は何が起こるかわからず、突然体調が悪くなる可能性もあるからです。また、夜勤中に要介護者が転倒したり、急変などが起きたりした場合、急いで対応しなければならず、身体的にも精神的にも負担が大きくなります。
また、要介護者の安全と快適性を確保するためにも、妊娠中の夜勤は担当しないのが適切でしょう。複数体制を導入している事業所で、自分自身がしばらくは夜勤を続けたいと思っている場合は、産婦人科医に了解を得たうえで、上司といつまで続けるかを決めてください。夜勤を続ける場合も、自分の体力や経験値を過信せず周りに配慮をしてもらうことを忘れてはいけません。しっかりと健康管理に努め、少しでも異変を感じたら夜勤から外してもらうことを考えましょう。
■つわりがひどくて休みが続いている
つわりの症状は、少し食事がしづらいと感じる程度の人もいれば、食べ物が喉を通らず寝込んでいる人や、水すら飲めず点滴に通う人もいるくらい、人によって症状はさまざまです。つわりがひどい人の場合、立つこともできず仕事どころではありません。休みが続くことで周りに迷惑をかけていると、精神的に落ち込んでしまい、さらに体調が悪くなることもあるでしょう。
つわりがひどくて休みが続くときには、休職も視野に入れましょう。つわりでの休職は法律で認められている正当な権利です。ゆっくり休んで体調を整えてから仕事復帰をしたほうが、同僚や要介護者も安心できるでしょう。
実際に休職するときには、上司にその旨を連絡します。診断書の提出は体調がよくなってからでも大丈夫ですが、早めの提出を求められたときには、郵送や家族に持って行ってもらいましょう。
4日以上連続で休んだ場合は、傷病手当金の対象となる場合があります。傷病手当金を申請する場合は、医師に診断してもらう必要があります。つわりがひどいときには必ず産婦人科を受診し、妊娠つわりの診断を受けておきましょう。
■マタハラを受けて困っている
介護の現場は女性が多い職場です。妊娠については配慮してもらえる現場が多いものの、「私たちの時代は妊娠中でもバリバリ働いた」と、理解してもらえないケースも少なくありません。また、仕事内容について配慮してもらったことや体調不良で休んだことに対し、冷たい対応をする人もいます。
もし、妊娠を理由に嫌がらせを受けている場合には、一人で抱え込んではいけません。信頼できる上司や身近な人に相談しましょう。マタハラ(マタニティハラスメント)を受けて周りに相談したけれど解決しないときや、どこに相談していいかわからないときには、各都道府県の労働局の雇用環境・均等部(室)や、はたらく女性の全国ホットラインなどの専用相談窓口に相談してみる方法もあります。事業主は、妊娠を理由にしたハラスメントへの対策を講じることが義務として課せられています。マタハラを受けても、一人で悩まないことが、後輩の働く環境改善にも重要な意味を持ちます。
出産後の働き方は妊娠中から考えておこう
妊娠したら、出産後の働き方をしっかりと考えておきましょう。仕事の継続や復帰時期など、働き方を変更する場合は、職場において人員補充や配置転換が必要となることがあります。職場でのスムーズな復帰のためにも、職場の体制再編成の段取りのためにも、産休に入るまでに働き方を決めて上司に伝えてください。具体的な出産後の働き方としては、次の3つの方法があります。
■同じ職場で同じ働き方をする
出産後も同じ職場で同じように働く場合は、子どもの支援体制と自分の健康面を整えることが重要です。まず、子どもを預ける保育園や託児所が確保できるかどうかを確認しましょう。近年は待機児童の問題もあるため、保育園に預けたくても預けるところが見つからないこともあります。介護の現場では、職場に保育園や託児所を併設しているところも増えてきているため、一般企業に比べると支援体制は整えやすい状況といえます。ただし、夜勤や交替勤務をする予定がある場合は、急な勤務変更が難しいため、自分以外に子どもの面倒がみられる人や、急なお迎えに対応できる人を確保しておかなければなりません。
復帰時の盲点となるのが、自分自身の健康管理です。「体力に自信があるからすぐに復帰しよう」と考えている人でも、なかなか体調が戻らないというケースは少なくありません。小さな子どもは体調を崩しやすく、働きながら夜中看病することや、夜泣きがひどく睡眠時間をあまりとれないまま仕事に行く、ということも考えられます。出産前と同じように働く場合には、自分の体調もよく考慮したうえで、復帰時期を検討することが大切です。復帰後の生活については、同じ経験をしている先輩や同僚などに話を聞いておくと、イメージしやすいでしょう。
■働く時間を短くする
子どもが小さいうちは働く時間を短くするという人もいます。職場の時短制度を活用する場合や、正職員からパートになることを考えているときには、復帰前の早い時期に上司に相談しておきましょう。なぜなら、働く時間が短くなると必要な職員数に足りなくなる可能性もあるため、職場全体の人員配置を変更したり、新規人材を募集したりしなければならないからです。
時短やパートを選択すると、必然的に収入も減少します。子どもや自分の体調を考えて働く時間を短くした結果、生活が苦しくなってしまうことも考えられます。働く時間を短くするときには、経済的な状況についてもよく検討しておきましょう。
■産休を取らずに退職する
介護の仕事はシフト制で不規則になりやすいため、産後は育児に専念したいと考え、産休を取らずに退職を選択する人もいます。退職の意思は早めに上司に伝えたほうが、退職までの時間も働きやすくなるでしょう。多くの職場では、退職の場合は希望日の1か月前までとなっています。しかし、妊娠中は体調が急変することも考え、遅くとも職場の規定より1か月以上前には伝えておくと、スムーズに引き継ぎが進む可能性が高くなります。
また、体調によっては休みが続くことや、想定より早く辞めざるを得ないこともあります。上司とよく相談のうえ、引継ぎは早い段階から進めておくようにしましょう。
妊娠中は無理をせず周囲の協力を得ることも大切
身体的にも精神的にも大変な仕事である介護職の場合、妊娠中は仕事を交替してもらうことも少なくありません。周りに負担をかけることを心配して我慢することは、妊婦にとっては大きなストレスです。待望の我が子が元気で生まれてくるためには、無理をせず周囲の協力を得るようにしましょう。
【事例】介護職として働く妊婦さんからのお悩み相談に、専門家が回答
■施設ではじめて、介護職の妊婦として勤務します。不安でいっぱい…できない業務はどう伝える?
私は介護職4年目で、特養で働いています。先月妊娠していることが分かったのですが、これからおなかが大きくなってくるとできる業務が少なくなってきてしまいそうです。
私が知っている範囲では、施設で妊婦が働くのが初めてみたいなので不安です。かといって、あれはできない、これはできないと自分から言いづらいし、どうしたらいいでしょうか。
■回答の内容ダイジェスト
回答者
同僚の職員への対応や、控えたほうがいい業務・できそうな業務についても解説しています。
・まずは様々な変化に気を配り、ご自身を大切に
・主治医や管理者と相談の上、仕事内容を決めましょう
・自分から意思表示をすることも大切です
・自分の状態を把握して、それを周囲に伝えましょう
・控えたほうがいい業務、できそうな業務はこちら
ささえるラボ編集部です。
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