今日のお悩み
自分よりも10歳以上年上で、プライドも高いような新人を指導することになり接し方に困っています。
少し注意をすると、自分のやり方のほうがいいと思うと言って改善してくれず、指導に時間もかかります。
どのように接したらスムーズに教えられるでしょうか。正直自分の仕事もあるので困っています。
ペンネーム:太一
魔法のことば、「教えてください」〜尊敬の念をもって接してますか?〜
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
ご質問ありがとうございます。
「年上の部下問題」、私も苦労しましたね。
今まで、介護主任、介護課長、施設長と役職を経験させていただきましたが、現在は私にとって「年上の部下」はなくてはならない存在となっています。
では、どうして「苦労した存在」から「なくてはならない存在」に変化したのか?
エピソードを踏まえてお答えしようと思います。
■エピソード1「言うことを聞いてくれない」
苦手意識を持っていた、職員のAさん
介護主任の時です。
勤続10年のベテラン介護職員Aさん。この方は、私が主任に就任したことにより先輩から部下へと立場が変化した職員です。
Aさんは先輩として頼れる存在であったものの時折雑な介護が目立ち、お世辞にもご利用者から人気があるとはいえない存在でした。そして実は私、ちょっと苦手な人でした。
なぜかというと、その雑さを指摘しても聞いているような聞いていないような感じで効果がなく、周りの職員からはなんとかしてほしいと嘆願され、まさに間に挟まれ、存在がストレスになっていたのです。
Aさんの本音を聞けた瞬間
ある日、夕食後の口腔ケアの際、Aさんとご利用者がもめていました。Aさんの雑な対応にご利用者さんがご立腹だったのです。私はまたかと思い近寄り「どうしました?」と声をかけると不貞腐れた表情で無視するAさん。さすがに私も堪忍袋の尾が切れて、ご利用者のフォロー後に別室へAさんを呼び出しました。
すると突然、Aさんが泣き出したのです。良く話を聞くと「自分の雑さは理解できているが直そうと思ってもできない、そんな中みんなに責められ続け、自暴自棄になっていた」とのことでした。
自分が上から目線だったことに気づいた
私はこの話を聞いてはっとしました。「主任としての使命感で指摘し続けていましたが、Aさんの立場に立っていなかった」と。
つまり、悪いとこばかりに視点を置き、認めていなかったのです。上から目線だったんですね。涙ながらに話すAさんに対して、自分はAさんの良いところ、認めているところを伝えました。そうして、その上で向いている仕事とそうでない仕事について話し合いをし、働き方を調整することでAさんが信頼を取りもどし、いきいきと働くようになった事例です。
■エピソード2「魔法のことば、教えてください」
施設長になりたてで、不安だった専門家・伊藤さん
施設長になりたての時です。
介護の責任者の経験を経て、施設長となると、介護職員だけでなく、さまざまな多職種の上司にもなります。自分の専門性以外の職員をマネジメントするだけでも大変なのに、自分よりも年上で経験年数も豊富な部下と協働していくことは不安でしかありませんでした。
年上の部下Bさんの一言で、視界がひらけた
そんな中、私は失敗します。不安感の中で、施設長としての威厳を守ろうという態度だけが先走り、職員が全くついてきてくれなかったんです。
そんな時、ふと声をかけてくれたのが環境整備のBさんでした。Bさんは、65歳。企業を定年退職し、社会の役に立てればと私の勤務する施設のドアを叩いてくれました。
「施設長、気張りすぎだよ。もっと素直に教えてくださいと頼めばみんな振り向いてくれるよ」との言葉。
私はまた、はっとしました。わからないくせにわかった風を装っていたのをみんなに見抜かれていたのです。この後、私は、わからないことは素直に教えてくださいと年上の部下に頭を下げ、聞くことを徹底しました。すると、みなさん、イキイキと教えてくれたんです。
これもエピソード1と同じく、年上の部下を認めていなかった事例です。
■大切なのは尊敬の念を持ち、分からないことは素直に聞くこと
どうでしょうか?
二つの事例に共通することは、年上の部下に対して「尊敬の念」をもって接しているか?ということです。もちろん、立場的には上かもしれませんが、人間としてみれば人生の先輩です。
年上の先輩として尊敬の念を持って接すること、そして、わからないことは素直に聞く、この2点が相手を認めることにつながり、上司と部下のコミュニケーションの土台となるのです。
■「部下」ではなく、チームのメンバー
実は、私には、「部下」という概念はあまりありません。
年齢は、ともに目的を達成するチームにおける個性と捉えています。特に年上の職員のさまざまな人生経験や特技は、お年寄りを支える強力なアプローチですし、未熟な私の道標となってくれています。
つまり、いなくてはならない存在なのです。
参考になれば幸いです。
人間に上下はない!フラットな思考で、本当の課題に対してアプローチを
年上の部下問題。
プライドを傷つけないようにどう伝えるか、悩ましいですよね……。
■年齢は、単なる数字と捉える
個人的には、仕事をする上で年齢は単なる数字(!)と考えて気にしなくていいと思います。
組織に属していると、その組織の役割として上下が生じることはあるかもしれませんが、ピラミッド型でない組織もありますし、そもそも人間に上下はありません。年上は敬うべき、という考え方もありますし、もちろん人生の先輩として尊敬する気持ちは前提としてありますが、年下であっても尊敬できる人はたくさんいます。
年上だろうと、年下だろうと、プライドが高い人は高い。自分の考えを曲げない人は曲げない。それに対して年上だからといって変に媚びる必要もなければ、年下だからといって偉そうな態度をとっていいわけでもない。対等なチームのメンバーであると捉えた上で、組織の役割に求められる振る舞いがあるのだと考えています。
■人によって「当たり前」が違うことを理解しましょう
今回のご質問には「少し注意をすると、自分のやり方のほうがいいと思うと言って改善してくれず、指導に時間もかかります」とありました。この場合、相手とのコミュニケーションに対してのアプローチを考えてみる必要があるかと思います。
まず、新人であるために「教える、教えられる」という関係性が出来てしまうのは仕方ないことです。ただ、この関係性に年齢が相まって、相手のプライドをより刺激しているのではないかと考えられます。
自分のやり方のほうがいい、と思っている人に対して、いくら違うやり方を丁寧に説明しても、理解や納得を得るのは難しいかもしれません。特に介護の現場は、様々なバックグラウンドを持った方が多く働いている職場でもあるので、実は自分たちにとっては当たり前だったことでも、その人から見たら当たり前ではない、ということも十分考えられます。
■なぜ、そうする必要があるのか?を説明する
相手の考えを聞いた上で、なぜ、そうする必要があるのかという根拠をこちらも説明する。
たとえば「シーツは四隅を三角折に」といったことも、なぜそうするのか分からなければ「いや、わざわざそんな面倒なことしなくても早くできる方法で効率重視したほうがいいですよ」となってしまいかねません。「シーツの皺による不快感を避け、褥瘡発生のリスクを減らすため」と説明があれば、必要性が理解できると思います。
それでもなお「効率重視のほうが重要だ」と言われるのであれば、それはベッドメイキングではなく他の部分でやるべきことだ、なぜなら~~と介護の原論や、会社の理念など、抽象度を徐々に上げて説明していけばよいと思います。また逆に、相手の意見が的を得ている場合もあるかもしれません。その場合は、自分たちの日頃の業務について見直しが図れる機会でもありますね。
■逆に何かを教えてもらう機会を作っても良いかも
以上はコミュニケーションの具体的な方法でしたが、もう一つ付け加えてお伝えしたいことがあります。
私は相手の得意分野を聞き出して、それについて教えてもらう(相談する)という姿勢を示すことで教える、教えられるの関係を一方的なものではなく双方向のものにするようにしています。これは関係性構築のためなので、美味しいラーメン屋に詳しい、とか得意分野の内容はなんでもいいんです。人は誰かから頼りにされるとうれしいんですよね。繰り返しになりますが、年上にも、年下にも人として敬意を持って接した上で、組織の役割として働きかけ、根拠をきちんと説明する。
もっともらしいことを述べつつ、実際はスムーズにいかないことばかりだと思います。
コミュニケーションの取り方については、最近様々な書籍も出ているのでこれを機に相手に合いそうなものを探ってみるのもよいかもしれません。
なにか少しでもヒントになれば幸いです。
尊敬の念を持って接する!
株式会社コンソーシアムジャパン 代表取締役 有限会社ケアステーション大空 取締役副社長 一般社団法人日本介護協会 理事 事務局長
介護業界では年上部下はよくありますよね。
指導するにも感情も入り、なかなか接しづらいということも大いにあると思います。
とはいえ、忙しい業務の中でチームに貢献もしないといけませんから教えていかないといけない。
ご苦労お察しいたします。
■年上部下を指導する上で、気を付けていたこと
さて、私の経験も踏まえお伝えさせて頂きます。
私が年下部下に気をつけていたのは、下記の3点です。
①なぜ?を必ず確認し、いい意見は取り入れる
②上司であるのはあくまでも役割であると認識してもらう
③プライドを守る です。
■専門家・平栗さんの経験
私の場合は、私が30歳の時の部下が57歳でした。
表ではニコニコしていましたが、裏では「なんであんな若造に偉そうに言われないといけないんだ」と言っていたそうです。
その話を聞いて私は57歳の部下を呼び面談をしました。
まず「私が立場上、上司ではあるもののそれはあくまで役割。上司という仕事を私がしているだけです。」と説明し、もし職場を良くする方法があるのであれば教えてほしいと頭を下げました。
すると、もっとこうしたほうがいいなどの意見を頂けましたのでいい意見は取り入れることにしました。
でもその人が言い出したのに、その人が結局その仕事をしなかったので(みんなやっているんですよ笑)、その場で怒ろうと思ったのですが、プライドを守るためにまたこっそり呼び出して面談しました。
「みんなで決めたことはやりましょう、できればあなたにみんなの見本になってほしいと思っています。」
と個別にお伝えすると、「そうですね、すみません」と素直に改善してくれました。
■配慮や尊敬を伝えていきましょう
年上部下だからと言って変に気を遣う必要はありません。
人生の先輩であるからこそ、みんなの見本になってほしいので、私も立場上、嫌々言っているんですよという、配慮や尊敬の念が見えると年上部下は心を開いてくださるように思います。
ご苦労あるとは思いますが、あきらめず引き続き対応してみてください。
参考になれば幸いです。
株式会社コンソーシアムジャパン 代表取締役
有限会社ケアステーション大空 代表取締役
一般社団法人日本介護協会 理事長