本日のお悩み
利用者さんのご家族から「体調を崩しても病院に連れて行かないようにしてくれ、救急車も呼ばないでくれ」と言われます。
どう対応したらよいのでしょうか。
なぜ?そう言われているのか?背景や感情にしっかり寄り添うこと
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもみじ館施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
ご質問ありがとうございます。
質問が短い為、前提が確認できませんが、入居施設でのご質問でしょうか?
このような事例を私も過去2件程経験しましたので参考にご紹介します。(特別養護老人ホームの事例)
■入居者と家族の関係が劣悪な場合
まず1つ目は、入居者と身元引受人であるご家族の関係が劣悪な事例です。
男性の入居者で、若い時に借金や私生活などで散々ご家族に迷惑をかけてきたが、加齢と疾病により介護施設に入居せざるを得なくなった。
入居の際、ご家族に身元引受人になっていただくことが必要ですが、辛い思いをしてきたご家族にとっては、もう何もしたくないし、お金を支払うことも嫌とのこと。
そのため、ご質問のように体調を崩しても何にもしないで欲しい=「費用負担は嫌です」とのことでした。
■対応策:まずはご家族の思いを受け止め、説明する
この場合、どのように対応したかと言いますと、まずは、ご家族の思いをしっかり受け止めました。
どんなつらい状況で生活されていたのか。入居者であるお父様に対してどのような恨みなどのマイナスの感情があるのか。
涙ながらに話されていましたが、「本当にお辛い状況だったんですね。」と共感することを大事に時間をかけて傾聴しました。
そして、その上で、特養の運営基準第18条をご説明しました。
第18条 健康管理
特養の医師又は看護職員は、常に入居者の健康の状況に注意し、必要に応じて健康保持のための適切な措置を採らなければならない。
「ご家族のお気持ちも十分理解させていただきましたが、私達も入居していただいた以上、運営基準に沿った対応をしなければなりません。ご高齢ということもありますが、できる限り、健康にお過ごしてしていただくよう努力いたしますので、医療が必要な体調となられた際は、第18条に沿って対応させていただきたいです。」
というようなご説明です。
ご家族と信頼関係を築くまでの時間はいただきましたが、上記の対応で納得いただけた事例です。
■お看取りの時期が迫っている場合
2つ目は、お看取りの事例です。
入居5年目(90歳女性)、徐々に食欲も低下し、医師からも「あと1ヶ月くらいですね。」という判断をいだだきました。
入居時より定期的(カンファレンス時等)にお看取りの対応を丁寧にヒヤリングし、ご本人、ご家族の望む最期に向けた過ごし方をケアプランに反映しながら対応を図ってきました。
そのため、「体調を崩しても病院に連れて行かないようにしてくれ、救急車も呼ばないでくれ」というご家族のご希望は重々承知です。
なぜなら、ご本人、ご家族の望みは病院でなく、顔見知りの職員や家族に囲まれて施設で亡くなることだったからです。
■対応策:多職種連携で、穏やかな旅立ちをサポート
ではどうすれば良いか?
主治医、看護職、介護職、管理栄養士、相談員等、多職種連携の本領発揮です。
例えば、最期に食べたいものはないか。
食欲が低下した中で、嚥下機能にも配慮しながら好きなものを食べていただく支援も生活の場である施設だからこそできました。
もちろん、病院へ行かずに主治医の往診で経過を見ていきます。
そして、最期を迎えた時は、救急車でなく、主治医に居室で判断していただきました。
お別れは寂しさもあります。
しかし、ご希望通り、ご家族、職員に囲まれながら穏やかに旅立たれたことで「心が救われた」とのお話をご家族からいただくこともできました。
病院でなく施設だったからこそできたお看取りの事例です。
お看取りは、お一人の人生の最期に寄り添うことを通じて教えていただくことが大きいといつも感じます。
■最後に
いかがでしょうか?
もしかするとご質問者さんの背景とは違うかもしれませんが、共通して言えることは、「なぜそう言っているのか?」その背景や感情にしっかり寄り添うこと。
必ず方法はあります。
ご参考になれば幸いです。
茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)