賃上げ9,000円 結局、貰えた?貰えない?確認方法を解説します
■申請を行う人にとっても複雑な制度
今回の介護職員処遇改善支援補助金(以下、補助金と略します)に、従来からの処遇改善加算、特定処遇改善加算など、複雑のルールの下で、介護職員の賃金改善が行われています。これ自体は、すごく喜ばしいことだと思います。
ただし、申請を行う経営者や事務の方(以下、担当者と略します)でさえ、そのルールの把握に四苦八苦されていますので、補助金や加算に基づいて、賃金改善される側の職員さんにとっては、理解しにくい制度であることは間違いないと思います。私もこの制度に関する悩みや相談を受ける機会も多いです。
■支給方法は「職員への周知」が義務
介護職員処遇改善支援補助金についても、今までの加算と同様に、国が定めたルールに基づき、事業所側も一定の裁量が認められ、運用されています。
今回はこの補助金における事業所側の裁量について、ご説明いたします。
事業所の裁量も含めた支給方法は「職員への周知」が義務付けられていることも知っておいてくださいね。
■給与明細のどこを見ればいい?
今回の補助金については、「補助金の全額を賃金改善に充てることかつ、賃金改善の合計額の3分の2以上をベースアップ等に充てること。
それ以外の分は、賞与・一時金等による賃金改善に充てることは可能。全体として、補助金の額を上回る賃金改善を行うことが必要」とされ、この範囲の中で事業所の裁量で配分されます。
給与明細では、
①「基本給」が上がる
②「処遇改善手当」などの「手当額」が上がる
③「賞与」が上がる
④「一時金」として支給される
⑤以上を組み合わせて、支給される
などが想定されます。
つまり、給与明細をじっとみて、前月度との比較をしてみても、分からない場合も多いと思います。
確実なのは、周知された書面を確認し、それでも理解できなければ、担当者へ説明を求めることだと思います。
■いつから貰える?
賃金改善時期については、「原則として、令和4年2月分から賃金改善を実施すること。令和4年3月分とまとめて2月分の賃金改善を行うことも可。令和4年2・3月分は一時金等による賃金改善も認める。」となっています。
つまり、開始時期は「2月分から賃金改善を実施」を守れば
・「2月給与から支給開始」
・「3月給与から支給開始」
・「2・3月分を一時金にて支給」など、現行の加算の改善方法と逸脱しない範囲での裁量は認められています。
こちらについても、「周知された書面」と「担当者」への確認を行うことが、理解するためには確実な方法ですね。
以上、ご説明した事業所ごとの裁量とサービス区分による交付率の違いもあり、個々の職員ごとの改善額については、かなり隔たりがあるのが事実です。
■配分方法によっては職員のモチベーションを上下させることも
私の知る限りでも、今回の補助金で人により月額15,000円上げることができた事業所もあれば、配分方法により上がらない職員がいる事業所もあります。
気を付けなければいけないのは、この補助金の配分方法により、職員がそこで働くモチベーションを上げることも下げることもありうるということです。
複雑な国の施策を理解しながら、それらを存分に活用し、事業所や職員の満足度をいかに高めるかが、経営者に求められています。それにより、働く職員による選別が行われることも経営者は理解しなければなりませんね。
本日のお悩み
介護職に補助金がもらえるという話について、本当にもらえるのでしょうか?
これまでも給料があがるかもしれないと期待してきて、結局あまり変わらずにがっかりしてきました。
正直金額としては少ないと思いますが…どうなのでしょうか?
「介護職員処遇改善支援補助金」のルールを理解し、職場の動向を見極めてみてはいかがでしょうか。
岸田政権が打ち出した「2022年2月から介護職の給与を月額9,000円引き上げる」という計画の件ですよね。
介護職員処遇改善支援補助金について、11月19日に閣議決定され、1月13日現在までに決まっていることをベースに、回答をさせていただきますね。
■給付金、これだけ?とガッカリしないために
この金額について、多い少ないの議論もありますが、私自身は介護職に対して、国が給与増額の施策を決めたことは喜ばしいことだと思っています。
では、ご質問者さんにとって、今回の施策はどうなのでしょうか。
これまでも、期待ほどあがってこなかったとのことですが、今回もご質問者さんの期待通りの増額にならないかもしれません。
期待を大きく持ち、現実にがっかりするよりも、ある程度ルールを把握され、この程度になりそうだなという理解が出来ていたら良いなと思います。
■介護職員の賃上げ、職員の立場で知るべき2つのポイント
ポイント1 事業所ごとに、もらえる給付金の額は違う
まず、今回の給付金に関しては、事業所ごとに支給要件を満たしているかどうかが問われます。
具体的には、現行の介護職員処遇改善加算の区分Ⅰ~Ⅲを算定していることで、事業所へは介護報酬請求額にサービス種別毎に設定された加算率を掛けて支給されます。
ただし、この介護職員処遇改善加算を算定できない居宅介護支援、訪問看護、訪問リハ、福祉用具貸与、居宅療養管理指導などのサービスは対象外です。
介護職員処遇改善支援補助金の交付率(案)
サービス区分 | 交付率 | 具体例 |
訪問介護 夜間対応型訪問介護 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 2.1% | 訪問介護 |
(介護予防)訪問入浴介護 | 1% | 訪問入浴 |
通所介護 地域密着型通所介護 | 1% | デイサービス |
(介護予防)通所リハビリテーション | 0.9% | デイケア |
(介護予防)特定施設入居者生活介護 地域密着型特定施設入居者生活介護 | 1.4% | 有料老人ホーム |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 2.1% | 認知症対応型デイサービス |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 看護小規模多機能型居宅介護 | 1.6% | 小規模多機能 |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 2% | グループホーム |
介護老人福祉施設 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 (介護予防)短期入所生活介護 | 0.8% | 特養 ショートステイ |
介護老人保健施設 (介護予防)短期入所療養介護(老健) | 1.6% | 老健 |
介護療養型医療施設 (介護予防)短期入所療養介護(病院等) | 0.5% | 病院の療養病棟等 |
介護医療院 (介護予防)短期入所療養介護(医療院) | 0.5% | 介護医療院 |
※厚生労働省の資料をもとにマイナビが作成
ポイント2 給付金をどの職種にまで配分するかは、事業所が判断する
その上で、その金額の配分に関しては、事業所が多職種へ配分する柔軟な運用も認められるので、事業所によっては、看護職や相談職、事務職へも対象を広げる可能性もあります。
さらに、2022年10月以降は制度が切り替わる予定
つまり、質問者さんの勤める事業所が給付金をもらえるかどうか、もらえたとしてどのような配分にするかにより、質問者さんの期待通りになるか否かが決まってくるわけです。
これも2022年9月までの暫定的な措置であり、10月以降は制度が切り替わります。
「ポイント1」で説明した加算率も改めて調整される予定ですので、受取金額が変わることも考えられます。
■全員一律支給ではない。マスコミに踊らされないで!
今までも、例えば介護職員処遇改善加算で月額37,000円上がるとか、特定処遇改善加算で月額80,000円上がるとか、マスコミの報道に踊らされた過去もあります。
実際には、全員が一律上記のような金額が増額されることはなく、事業所が交付要件を満たしているか、加算を算定しているか、そして事業所ごとの加算率の違いや、職員への配分方法の違いで大きく異なっているのが現状です。
今回も、大枠の考え方は今まで同様のようですので、質問者さんもご自身の働く事業所がどうであるのかを冷静に見極められてはいかがでしょうか。
私は、このような給付金や加算を活用し、職員さんにとっての働き甲斐を創れる職場が、これから選ばれていく職場となっていくような気もします。
■補足:事業所側は3月までに賃上げをする必要がある
事業所側がこの交付金を受け取るには、「2、3月から実際に賃上げを行っていること」が条件となります。
※対応が間に合わない場合は3月からの実施となることもありますが、その際は2月分の賃上げも3月にまとめて行われます。
2月もしくは3月の給与明細を受け取ったら、それまでの給与との差を確認してみましょう。
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福岡福祉向上委員会 代表