マイナビ福祉・介護のシゴト
認知症の高齢者の最期とは?認知症が与える影響と、介護職として心がけることを解説します。

認知症の高齢者の最期とは?認知症が与える影響と、介護職として心がけることを解説します。

【回答者:伊藤 浩一】認知症を特別視せず、自然に接する


本日のお悩み

不謹慎な質問かもしれませんが、認知症の高齢者の最期について伺いたいです。
私はデイサービスでしか働いたことがなく、看取りの経験はありません。

利用者さんの中には認知症の方も多く、その方々がどのくらい生きられるのか、最後は認知症が原因で亡くなることもあるのか、知りたいです。
また、認知症の利用者さんに対して特に心がけることや気を付けたほうがいい事はありますか?
介護職としてできることが何なのか知りたいです。

認知症を特別視せず、自然に接する

伊藤 浩一

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14

茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもみじ館施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員

ご質問ありがとうございます。
人の最期についてのお悩み、決して不謹慎な話ではありませんよ。
おそらく、ふと次のように思われたのですよね。

「いつも元気にご利用している利用者さん。でもいつまでもこの状態が続くのだろうか?」

「諸行無常」と言う言葉があります。
仏教用語で、「この世の現実存在(森羅万象)はすべて、すがたも本質も常に流動変化するものであり、一瞬といえども存在は同一性を保持することができない」
ということを表す言葉ですが、まさしく質問者さんは介護サービスを提供しながらも「諸行無常」という現実を見ることができる素晴らしい人材であることが想像できます。

専門家・伊藤さんの経験~利用者Aさんのお話し~

さて、ここで少し私の経験談をお話ししましょう。

Aさん(男性)、83歳、定年まで学校の先生を務められ、校長先生までされた方です。
退職後は、地域のためと民生委員に転身され、80歳まで務められました。
地域の皆様からの人望もあり、本当にすばらしい人生を歩まれてきた方です。

そんなAさんが、私の勤務する特養のショートステイを83歳からご利用することになりました。
理由はアルツハイマー型認知症による徘徊や昼夜逆転などの症状が見られ、自宅で対応ができなくなったとのことでした。
施設で初めてお会いすると顔が真っ赤で落ち着きはなく、「なぜ施設にいるのかわからない」と、とにかくお怒りになって常に外に出ようとされる状況でした。

認知症の症状が出たきっかけは?(Aさんの場合)

どうして、人格者で温厚であったAさんがこのような状況になったのか?

医学的な因果関係は明確でないことが前提ですが、症状が出始めたのは「息子さんの交通事故での死」があったとのお話をご家族から伺いました。
息子さんの死から塞ぎ込むことにより徐々に症状がではじめ、ショートステイご利用にいたったとのことです。

Aさんはその後3ヶ月間、自宅と施設利用を繰り返しながら過ごしました。
ご利用中はずっと施設の事務所にいらっしゃいましたね。
事務所が職員(教員)室に近い雰囲気だったので生活スペースにいるより落ち着かれるのではとの配慮でしたが、これはうまくいったと思います。

しかし、自宅に戻ると徘徊や昼夜逆転は治らず、燃え尽きるようにその生涯を終えられた事例でした。

認知症が、人の最期に与える影響

いかがでしょうか?

あくまでも私の主観(経験則)ですが、人生でショックなこと(心理的要因)があった場合、現実から逃げるように認知症が発症する方がいらっしゃるような気がします。
そして、徘徊などの行動によって体力も奪われて最期を迎えられた方を何人も見てきました。

一方で、認知症であっても穏やかに過ごせている方もいらっしゃいます。
こういった方は、緩やかに認知症も進行していき、比較的長生きされている方もいらっしゃるような気がします。
つまり、認知症が人の最期に影響を与えることは大いに考えられるということになります。

認知症の利用者さんへの接し方、心がけることは?

さて、もう一つのご質問「認知症の利用者さんに対して特に心がけることや気を付けたほうがいい事」についてです。

そもそも認知症の方は認知力が低下していて常に不安の状態です。
この不安とは「私は今までの自分でなくなってしまったのでは?」
という状況ではないでしょうか?

今までのように物が覚えられない、今の状況が理解できない、今までのように計算できない、このような症状が重なっては精神的に追い込まれていくことは明確ですよね。

そのため、この不安な状況に寄り添い接することができるか?というのが私は認知症ケアの大前提だと考えます。
つまり「特別視せず、自然に接することが大事」ということです。

普段のコミュニケーションと同様に考える

質問者さんは人とコミュニケーションをとる際どのような点に気をつけていますか?
まず相手の存在価値を認めるところからスタートすることを自然に行なっているはずです。

最初からこの人は特別な人(例えば著名人と会った時)と接すると何かコミュニケーションがギクシャクしてしまう経験もあるのではないでしょうか。
つまり、「認知症の人」と構えて接するとギクシャクしてしまうので同じ人として価値を認め、自然に接することが認知症の方の安心感を引き出すことにつながるのです。

最後に

現実を見る力と学ぶ意欲のある質問者さんは、介護職としてどんどん成長しそうな予感がします。
これからの超高齢社会を支える担い手としてよろしければこの回答も参考に是非がんばってください。

専門家への質問はこちらから!

この記事のライター

茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)

関連する投稿


住居型有料老人ホームでの老老介護|介護職員ができるサポート方法とは?

住居型有料老人ホームでの老老介護|介護職員ができるサポート方法とは?

住居型有料老人ホームなどの介護施設では、夫婦での入居が認められています。長年連れ添った家族と同じ施設に入れることは安心感がある反面、施設に入居をしているにもかかわらず、老老介護になってしまうというリスクもあります。この記事では、夫婦で入居している方に介護職員ができるサポート方法を専門家が解説します!【執筆者/専門家:伊藤 浩一】


【介護業界】実はそれ、労働基準法違反かも?!よくある事例を解説!

【介護業界】実はそれ、労働基準法違反かも?!よくある事例を解説!

「訪問ヘルパーの移動時間は業務外?」「アルバイトに有休はない?」実はそれ、労働基準法違反にあたるかも。この記事では、介護業界でよくある労働基準法違反の事例を専門家が解説します!働く人も事業主も知らなかったということがないようにすることで、働きやすい業界を目指しましょう。[執筆者/社労士:山本 武尊]


【看取りケアのポイント】ご家族の心理に寄り添ったケアの進め方(執筆者/専門家 脇 健仁先生)

【看取りケアのポイント】ご家族の心理に寄り添ったケアの進め方(執筆者/専門家 脇 健仁先生)

高齢化が進む日本において看取り介護の重要性はますます高まっています。看取りケアではご利用者様本人のケアはもちろんのこと、その家族へのサポートなども大切です。この記事では看取り介護の定義や、ご家族のサポート時に留意すべき点について専門家が解説します。(執筆者:脇 健仁先生)


【スピードと質どっちが大事なの?】介護現場での仕事の効率と業務内容の質に関するお悩みに答えます!(専門家:後藤晴紀先生 回答)

【スピードと質どっちが大事なの?】介護現場での仕事の効率と業務内容の質に関するお悩みに答えます!(専門家:後藤晴紀先生 回答)

「仕事のできる人」この定義はなかなか難しいと思います。スピード重視で業務の質にはこだわらない環境に身を置く質問者。利用者に丁寧なサービスを提供したい!そんな想いがあり、立ち振る舞いや転職をするか否かなど多くの悩みを抱えています。そんな質問者のお悩みに専門家が回答します!(回答者:後藤 晴紀先生)


【介護事業の経営難はなぜ?】介護職員や経営者に求められる対策とは

【介護事業の経営難はなぜ?】介護職員や経営者に求められる対策とは

介護事業者の倒産数が過去最多となったというニュース。超高齢社会の日本においてなぜ、倒産数が増えてしまったのでしょうか。 今後、事業所が生き残るために必要なことを専門家が解説します。 【解説者:後藤 晴紀/介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員・潜水士】


マイナビ福祉・介護のシゴト 閲覧ランキング
【北海道・東北】
【関東・甲信越】
【北陸・東海】
【関西・中四国】
【九州・沖縄】

最新の投稿


第36回 介護福祉士国家試験 過去問と解説(こころとからだのしくみ)

第36回 介護福祉士国家試験 過去問と解説(こころとからだのしくみ)

第36回 介護福祉士国家試験の試験科目【こころとからだのしくみ】の過去問と解説を用意しました。 力試しや国試対策にご利用ください。


第36回 介護福祉士国家試験 過去問と解説(医療的ケア)

第36回 介護福祉士国家試験 過去問と解説(医療的ケア)

第36回 介護福祉士国家試験の試験科目【医療的ケア】の過去問と解説を用意しました。 力試しや国試対策にご利用ください。


第36回 介護福祉士国家試験 過去問と解説(総合問題)

第36回 介護福祉士国家試験 過去問と解説(総合問題)

第36回 介護福祉士国家試験の試験科目【総合問題】の過去問と解説を用意しました。 力試しや国試対策にご利用ください。


介護職が行う自立支援|4つの基本ケアや実際の取り組みについて解説!

介護職が行う自立支援|4つの基本ケアや実際の取り組みについて解説!

自立支援介護とは、介護が必要になった高齢者が、可能な限り自分の力で生活できるように支援する介護のことです。高齢化が進む日本において、デイサービスなどを提供する介護施設でも近年、自立支援介護は注目されています。この記事では、自立支援介護の4つの基本ケアや実際の取り組みについて専門家が解説します!【執筆者/専門家:古畑 佑奈】


介護施設で年末年始にできるイベント|クリスマス会や忘年会の準備のポイントを解説!

介護施設で年末年始にできるイベント|クリスマス会や忘年会の準備のポイントを解説!

年末年始は、クリスマス会や忘年会などさまざまなイベントが行われる時期です。介護施設でもこれらのようなイベントを実施すると、利用者さんたちの活力を高めたり、親睦を深めたりする良い機会になります。この記事では、年末年始のイベントを企画するにあたって準備したいこと、当日取り入れられるレクリエーションなどを紹介します。【執筆者/専門家:後藤 晴紀】


マイナビ福祉・介護のシゴト
「マイナビ福祉・介護のシゴト」は、福祉・介護職に特化した中途、パート向け求人サイトです。
介護職をはじめ、福祉・介護業界に関連する職種の求人を掲載しています。
本当に自分にあった施設や事業所を、ご自身で手軽に探すことができるよう職場の雰囲気がリアルに伝わる情報を用意することで、適切なマッチングを実現していきます。
【職種から求人・転職情報を探す】