本日のお悩み
不謹慎な質問かもしれませんが、認知症の高齢者の最期について伺いたいです。
私はデイサービスでしか働いたことがなく、看取りの経験はありません。
利用者さんの中には認知症の方も多く、その方々がどのくらい生きられるのか、最後は認知症が原因で亡くなることもあるのか、知りたいです。
また、認知症の利用者さんに対して特に心がけることや気を付けたほうがいい事はありますか?
介護職としてできることが何なのか知りたいです。
認知症を特別視せず、自然に接する
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもみじ館施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
ご質問ありがとうございます。
人の最期についてのお悩み、決して不謹慎な話ではありませんよ。
おそらく、ふと次のように思われたのですよね。
「いつも元気にご利用している利用者さん。でもいつまでもこの状態が続くのだろうか?」
「諸行無常」と言う言葉があります。
仏教用語で、「この世の現実存在(森羅万象)はすべて、すがたも本質も常に流動変化するものであり、一瞬といえども存在は同一性を保持することができない」
ということを表す言葉ですが、まさしく質問者さんは介護サービスを提供しながらも「諸行無常」という現実を見ることができる素晴らしい人材であることが想像できます。
■専門家・伊藤さんの経験~利用者Aさんのお話し~
さて、ここで少し私の経験談をお話ししましょう。
Aさん(男性)、83歳、定年まで学校の先生を務められ、校長先生までされた方です。
退職後は、地域のためと民生委員に転身され、80歳まで務められました。
地域の皆様からの人望もあり、本当にすばらしい人生を歩まれてきた方です。
そんなAさんが、私の勤務する特養のショートステイを83歳からご利用することになりました。
理由はアルツハイマー型認知症による徘徊や昼夜逆転などの症状が見られ、自宅で対応ができなくなったとのことでした。
施設で初めてお会いすると顔が真っ赤で落ち着きはなく、「なぜ施設にいるのかわからない」と、とにかくお怒りになって常に外に出ようとされる状況でした。
■認知症の症状が出たきっかけは?(Aさんの場合)
どうして、人格者で温厚であったAさんがこのような状況になったのか?
医学的な因果関係は明確でないことが前提ですが、症状が出始めたのは「息子さんの交通事故での死」があったとのお話をご家族から伺いました。
息子さんの死から塞ぎ込むことにより徐々に症状がではじめ、ショートステイご利用にいたったとのことです。
Aさんはその後3ヶ月間、自宅と施設利用を繰り返しながら過ごしました。
ご利用中はずっと施設の事務所にいらっしゃいましたね。
事務所が職員(教員)室に近い雰囲気だったので生活スペースにいるより落ち着かれるのではとの配慮でしたが、これはうまくいったと思います。
しかし、自宅に戻ると徘徊や昼夜逆転は治らず、燃え尽きるようにその生涯を終えられた事例でした。
■認知症が、人の最期に与える影響
いかがでしょうか?
あくまでも私の主観(経験則)ですが、人生でショックなこと(心理的要因)があった場合、現実から逃げるように認知症が発症する方がいらっしゃるような気がします。
そして、徘徊などの行動によって体力も奪われて最期を迎えられた方を何人も見てきました。
一方で、認知症であっても穏やかに過ごせている方もいらっしゃいます。
こういった方は、緩やかに認知症も進行していき、比較的長生きされている方もいらっしゃるような気がします。
つまり、認知症が人の最期に影響を与えることは大いに考えられるということになります。
■認知症の利用者さんへの接し方、心がけることは?
さて、もう一つのご質問「認知症の利用者さんに対して特に心がけることや気を付けたほうがいい事」についてです。
そもそも認知症の方は認知力が低下していて常に不安の状態です。
この不安とは「私は今までの自分でなくなってしまったのでは?」
という状況ではないでしょうか?
今までのように物が覚えられない、今の状況が理解できない、今までのように計算できない、このような症状が重なっては精神的に追い込まれていくことは明確ですよね。
そのため、この不安な状況に寄り添い接することができるか?というのが私は認知症ケアの大前提だと考えます。
つまり「特別視せず、自然に接することが大事」ということです。
■普段のコミュニケーションと同様に考える
質問者さんは人とコミュニケーションをとる際どのような点に気をつけていますか?
まず相手の存在価値を認めるところからスタートすることを自然に行なっているはずです。
最初からこの人は特別な人(例えば著名人と会った時)と接すると何かコミュニケーションがギクシャクしてしまう経験もあるのではないでしょうか。
つまり、「認知症の人」と構えて接するとギクシャクしてしまうので同じ人として価値を認め、自然に接することが認知症の方の安心感を引き出すことにつながるのです。
■最後に
現実を見る力と学ぶ意欲のある質問者さんは、介護職としてどんどん成長しそうな予感がします。
これからの超高齢社会を支える担い手としてよろしければこの回答も参考に是非がんばってください。
茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)