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介護職員 平均月給6,000円相当引き上げへ、専門家の見解は?

介護職員 平均月給6,000円相当引き上げへ、専門家の見解は?

2024年2月から介護職員に対し、1人あたり平均月給6,000円の賃上げを実施するというニュースを皆さんも耳にしたかと思います。 今回の施策に対して、なぜこのような施策を実施することになったのかという施策の背景と、施策に対する見解を伊藤先生にお伺いしました。


2024年2月から介護職員に対し、1人あたり平均月給6,000円の賃上げを実施するというニュースを皆さんも耳にしたかと思います。
今回の施策に対して、なぜこのような施策を実施することになったのかという施策の背景と、施策に対する見解を伊藤先生にお伺いしました。

◆2024年(令和6年)2月からの介護職員処遇改善支援補助金とは

・「デフレ完全脱却のための総合経済対策」(令和5年11月2日閣議決定)に基づき、介護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、収入を2%程度(月額平均6,000円相当)引き上げるための措置を、令和6年2月から前倒しで実施するために必要な経費を令和5年度内に都道府県に交付する
・介護職員以外の他の職種の処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認める

※出典:厚生労働省 令和6年2月からの介護職員処遇改善支援補助金
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介護職員の賃金課題、暗雲から光は見えているのか?

執筆者/専門家

伊藤 浩一

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14

茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 ▶プロフィール 介護福祉士として8年の現場を経験後、33歳で特別養護老人ホームの施設長に就任。現在まで、4カ所の特養の施設長を経験。また、介護福祉士養成校の経営に携わる観点から福祉人材の確保定着をライフワークと位置づけ「茨城から福祉で世界を元気にするプロジェクト(いばふく)」を法人の垣根を超えて横展開している。 令和元年にNPO法人ちいきの学校を設立。元気なシニアが中心となって多世代が笑顔で暮らす新しいちいきをつくることにもチャレンジしている。 20年で培った現場経験と教員経験、管理者経験を生かして、認知症ケアから組織やチームマネジメントの悩みなど幅広く対応する。

令和5年度、補正予算案が11月10日閣議決定、令和6年2月から介護職員(月額平均6,000円相当)収入引き上げに。

このニュースを聞いて、介護職員の皆さんはどう思いましたか?
残念ながら、ガッツポーズで歓喜した方はあまりいなかったのではないでしょうか。

恐らく、「なーんだ、その程度か」と思ったか、
もしくは「どうせそんなに変わらない」と思ったか…
そのような方がほとんどだったのではないでしょうか?

または、「なぜ、そんな中途半端な時期に…?」とかそんな声も聞こえてきそうですね。

それでは、「なぜ、この時期に?」の疑問から、この賃金上昇劇を紐解いていきましょう。

そもそも補正予算とは何か?

補正予算とは、当初の予算成立後に発生した事実や理由によって、当初予算通りの執行が困難になった際に、本予算の内容を変更するための予算のことです。

ということは、令和5年度の当初に立てた予算では介護職員が「よくない状況」となる何かしらの事実や理由があったということになります。
そして、令和6年度(2024年度)の法改正を待たずに、2024年の2月から介護職員の給料を引き上げることとなったわけです。

介護職員の給料に、補正予算を使用する理由とは?

結論からいうと、介護職員が他業種へ転職してしまうという人材流出が起こってしまったためです。
では、なぜ人材流出が起こってしまったのか?というと、

1.入所サービスを中心に、経営実態が初の赤字に転じたこと
2.介護職員の賃上げ率が他業種に比較すると低かったこと

以上の理由が特に影響として大きかったと言えます。

1.入所サービスを中心に、経営実態が初の赤字に

世界的に新型コロナウイルス感染症の感染拡大が収束に向かう中、経済も回復してきました。
その中で、円安の影響はあるものの一般企業の賃金は上昇傾向でした。
一方で、介護業界の賃金の見直しなどは、基本的には3年に1度の介護報酬改正の縛りがあり、社会の変化についていけなかったと言えます。

また、介護業界への新型コロナウイルス感染症の傷跡は深く、感染対策は利用率や稼働率の低下を産み物価の高騰も追い打ちをかけ、2023年11月10日厚生労働省の発表では、2023年度の特養・老健の経営実態調査結果が、介護保険制度始まって以来、初の赤字になったとのことでした。
※特養は、マイナス1.0%、老健は、マイナス1.1%

出典:厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査結果

2.介護職員の賃上げ率が他業種に比較すると低い

月額平均6,000円相当の給料引き上げに関する厚生労働省の資料では、今回の施策の目的として「春闘における賃上げに対し、介護業界の賃上げが低水準であることを踏まえ、必要な介護人材を確保するため、令和6年度の民間部門における春闘に向けた賃上げ議論に先んじて介護職員の更なる処遇改善を行う。」とあります。

ここで「春闘」という言葉が2回出てきますが、あまり介護業界には馴染みがない言葉ですよね。

春闘とは「春季生活闘争」が正式名称です。
一般の企業にとっての新年度となる4月に向け、労働組合が労働条件について経営者と交渉し決定することを言うんですね。
そして、労働組合が企業に要求を提出するのが2月で企業からの回答が3月頃であることから、「春闘」と呼ばれているそうです。

そして、令和5年の「春闘」では、一般企業の賃上げ率の平均が3.69%であったのに対し、介護職員の賃上げ率は1.42%という結果となりました。

出典:厚生労働省「令和5年度補正予算案の主要施策集 P3

出典:全国老人保健施設協会「令和5年4月 介護現場における物価⾼騰および賃上げの状況

これは、そもそも、他業種よりも賃金が低いとされている介護業界はさらに賃金のベースアップでも遅れをとった形となります。
これにより、介護職員が他業種へ転職してしまうという人材流出が起きてしまったのではないかと予測ができます。

人材流出に対策を!補正予算の仕様で介護職員の賃金を改善へ

以上2点の理由から、経営体力のない事業所は、賃金をアップさせるだけの原資もない状況で、
しびれを切らした介護職員が賃金も賃金上昇率も良い他業界に移っていったと予測ができます。
結果、6万3千人も介護職員が減ったのではという調査も公表されました。

※参考:2023年10月23日 日本経済新聞「介護就労者、初の減少」(新聞記事に遷移します。)

超高齢社会を支える介護業界にとって、そして、日本にとって、
ただでさえこれからさらに人材不足が推計される中、この流出を止めなければなりません。

そして、「急いで賃金を引き上げよう。」となった訳です。

しかしながら、引き上げ額は「月額平均6千円」です。

補正予算額が364億円、補助率10/10のありがたい施策ですが、全産業平均月収は36.1万円で、介護職員の平均月収は29.1万円です。
差し引いてその差は、7万円もあるなかで、「月額平均6千円」という支給額に対して、介護職の皆さんがピンとこず、足りないと感じるのも無理はないでしょう。

追記:パートの方も対象になりますか?という質問に回答

「パートで働いていますが、パート職員は対象になりますか?」という疑問にも追加で、回答させていただきます。
パートの方も対象になりますので、ご安心ください。しかし、支給方法(時期・金額)は、事業所の裁量となっているようですので詳細は事業所へ聞いてみるといいでしょう。

さいごに/介護の専門性が認められて賃金が向上していく状況を

以前、令和6年度の介護報酬改正は物価高騰分の微増と予想を記載しましたが、この状況を踏まえ、社会保障費を抑制しなければならないのはわかりますがインパクトある加増を期待したいですよね。

でも一方で他の専門職からは
「介護職は賃金が定期的に上昇して羨ましい」との声も聞こえます。

先ほどの賃金比較は、全産業平均と比較しています。
介護職よりも低い賃金水準である業界、業績に賃金が左右されやすい業界は他にたくさんありますよね。

コロナ禍のころを思い出してください。
旅行業界や飲食業界のみなさんがどれだけ大変だったか…
感染対策、対応は大変でした。しかし、給与が安定していたのは私たち介護業界でした。

介護保険制度下での事業ですので、制度の成り行きに身を任せるしかないことは事実ですが、他業界と賃金を比較して賃金が決まるのではなく、介護の専門性が認められて賃金が向上していく状況をつくらなければならないと私は考えます。

高く評価されたサービスの対価としての賃金をいただけるようともに「介護の専門性を磨く」ことをがんばりましょう。

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この記事のライター

茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)

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