介護の仕事を体験したい!
■大起エンゼルヘルプ 認知症対応型デイサービス編
ささえるラボを運営しているのに、介護の仕事を近くで見たことも、体験したこともない…。そう思った私は、マイナビ福祉・介護のシゴトの営業担当である会社の同期に頼み込んで、彼が担当している大起エンゼルヘルプ様へ伺い、仕事体験ができないかお願いしてみることにしました。
T:「私にできることがあれば何でもやってみたいので、仕事体験をさせていただけないでしょうか…。」
担当の武藤さま:「施設の責任者に話してみましょう。でも、私たち大起エンゼルヘルプでは、何でもやってもらうというのは逆に困ってしまうんです。」
なんでもやってもらうのは困る…それは一体どういうことなのでしょうか…?
まずは大起エンゼルヘルプについて
株式会社大起エンゼルヘルプは、1975年に設立され、東京都内を中心に27の事業所(東京都内21、埼玉県内5、茨城県内1)を持ち包括的な福祉サービスを提供している企業です。
取締役には「プロフェッショナル仕事の流儀」(NHK・2019年3月放映)に出演した和田行男さんを迎え、そのメソッドを基に生活支援型の介護を実践しています。
今回はデイサービスと小規模多機能型居宅介護で、合計4日間体験をさせていただくこととなりました。
一般的なデイサービスでは、レクリエーションとして体操やゲームを行いますが、大起エンゼルヘルプでは、代わりに利用者のみなさんで食事をつくります。メニュー決めや買い出しから、調理と後片付けまでを利用者さんが主体となって行うのです。
そうすることで日常生活を維持できるようにし、サービスを受ける方がより長く、住み慣れた自宅で生活できるように支援しています。
一日目のオリエンテーション
今回仕事体験をさせていただくのは、東京メトロ丸ノ内線・方南町駅から徒歩5分の場所にある「デイサービスセンター エンゼルヘルプ方南」です。この施設はその他にもショートステイ、小規模多機能型居宅介護、グループホーム、居宅介護支援(ケアマネジャー)、地域包括支援センターなどを合わせ持つ複合事業所となっています。
まずは体験の前に採用担当の武藤さまからオリエンテーションを受けます。
こんなオリエンテーションを受けたら嬉しくなってしまいますよね!
介護の仕事の目的とはなんでしょうか?
その方の病気や怪我を治すということではなく
「日常生活」をささえることです。
介護職員の仕事とは何でしょうか?
なんでもかんでも「やってあげる」ではありません。
介護職員の仕事は例えるなら利用者さんにとっての「メガネ」の存在になることです。
武藤さん:利用者さんのやってみたいという気持ちを引き出すのが我々職員の仕事です。
初めて会ったときにお話しした「なんでもやってもらっては困ってしまう」という考え方はここに繋がってくるんです。
我々職員がすべてをやってあげれば、確かに安全だしこちらのペースで介護ができます。でもそれでは利用者の方の能力を奪ってしまうことになりかねません。
能力は、使わなければ衰えてしまいます。最期のときをむかえるまで、できるだけ自立して暮らせるように能力を引き出したい。だからメガネのように、不便なところだけを支えるのが職員の仕事です。
こうしてエンゼルイズムを教わったあと、いよいよデイサービスルームへ向かいます。
認知症対応型デイサービスへ
まずは利用者さんにご挨拶をし、お名前を覚えられるようにします。
すべての方に認知症の症状があるということでしたが、本当に認知症なのだろうかと感じさせる利用者さんもいらっしゃいました。
実は認知症の方とお話するのはこれが初めて。症状やコミュニケーションの取り方について少しだけ予習をしてきたものの、どんなお話をすれば良いのか、またどこまで踏み込んで良いのか分からず、ただ職員さんと利用者さんの会話に耳を傾けることしかできませんでした。
さあ、買い物へ!
冒頭でも紹介したように、大起エンゼルヘルプではレクリエーションの代わりに利用者の方が主体となって食事をつくります。
みなさんで考えた結果、今日の昼食はブリの照り焼き、キッシュ、豚汁に決まったとのこと。さっそくご利用者さんと買い物に行くことになり、同行させてもらいました。
一緒に買い物をするのは、すてきな紫色のニットを着た、とても上品な女性の利用者さん。施設から歩いて5分程度の場所にある八百屋さんへ向かいます。
買い物中、職員の方は、どの野菜がおいしそうでしょうね?あと何が必要でしだっけ?と、
できるだけ利用者さん自身で買い物していただけるように声掛けをしていきます。
帰り道、ゆっくりと施設への道を歩きながら勇気を出して「◯◯さんはとっても上品で憧れます」とお話をしてみると、謙遜されながら、ご家族のことや若い頃やっていた仕事のことをお話してくれました。
職員さんも、その方が過ごしてきた人生をよく把握されていて、昔話をアシストします。
買い物を終え、施設に戻ると既に食材の準備をする他の利用者さんたち。
職員のみなさんも、それぞれの得意・不得意を完璧に把握されており、自然に仕事を振り分けていきます。
「このネギは豚汁に入れたいんだけどどんな切り方が良いと思いますか?」「◯◯さんに味付けをお任せしたいんですけどお願いしても良いですか?」「あと何を入れたら美味しいですかね?」「ブリを乗せるお皿を10枚出してもらっても良いですか?」
そうして完成したのがこちら。とってもおいしそう…!
盛り付けも配膳も、すべてご自身で行います。
余暇の時間
食事が終わると、片付けも自分で行います。食器を拭いたり、棚に戻したり、机を拭いたりとみなさん慣れていらっしゃる様子。
その後のんびりコーヒーを飲み、その日のメンバーの好きなことに合わせて歌をうたったり、CDをかけたりして余暇の時間を楽しみます。
時間になると順番に車に乗り込み、みなさんそれぞれの自宅へ向かっていきました。
職員さんについて
認知症対応型デイサービスでは2日間、仕事体験をさせていただきました。
まずいちばんに感じたことは、職員さんの雰囲気がとても良いということ。職員同士で顔色をうかがったり、圧倒的な上下関係があったりするようにも見えませんでした。
利用者さんを見送った後、主任の方はこんなことを話してくださいました。
「私は雇用形態に関わらず職員同士はフラットな関係でありたいと思っています。せっかく働くなら楽しく働きたいし、働いてほしい。職員の雰囲気は良くも悪くも利用者さんに伝わると思うんです。利用者さんも含めてここにいるすべての人が楽しく過ごせるといいなと思います。」
また、ある職員の方は、
「たしかに食事を作らずにお弁当を頼めば、味も間違いないし包丁で手を切ったりするようなリスクもありません。でもそうしてしまうと、利用者さんとの言葉や感情のキャッチボールは少なくなってしまう。また、人生の先輩である利用者さんに、幼稚園でやるようなレクリエーションをしていただくのも私は違和感があるんです。もし料理を失敗してしまっても出前を頼めばいいじゃない、という気持ちで、できるだけ利用者さんにお任せできるような声掛けを意識しています。」
編集部Tより
「利用者さんにお任せする」
言葉にするのはとても簡単です。
これを実践するためには、個々の症状や性格、得意・不得意、その日の体調などを考慮し、リスクを先回りして考えなくてはなりません。その上で自発的な行動を促すような声掛けをされる職員のみなさんに、高いプロ意識を感じました。
また、利用者さんと買い物に出かけるということは、地域のみなさんの理解と協力が必要です。見え方によっては「利用者さんを連れ回している」「買い物したあと荷物を持たせている」など、誤解されてしまうことも考えられます。
大起エンゼルヘルプでは事業所建設前に地域の方へ、大起が目指す介護のあり方について理解していただけるように説明会を開いているとのことです。こうした一つひとつの細かな配慮や努力が、生活支援型の介護を実現しているのですね。
施設近くの八百屋さんなど、地域のご協力により生活介護が実現しています。
私は認知症の症状のある方と話をするのは初めてで、
「認知症の方ってなんか怖い」「暴れてしまったりするのかな」「何を言っても分からないんじゃないか」「何もできなくなるんじゃないか」、そう思っていました。
でも、この日買い物に出かけたとき、忘れ物を取りに一度施設へ戻った私を、利用者の方が「道は分かるかしら?迷わないかしら?」と心配しながら待っていてくださったと聞き
認知症の症状があっても、その方のすべてが失われてしまうわけではなく、むしろ根底にある性格や優しさ、生きてきた軌跡がより現れてくるのかもしれないと思った2日間でした。
次回は小規模多機能型居宅介護編!お楽しみに!
ささえるラボ編集担当のTが興味のあることを深堀りしたり、体験したり、成長していくコラムを連載していきます。