■本日のお悩み
子供が小学生になったので再就職をしようと考えおり、介護職として働くことを検討しています。
しかし、介護の現場は人間関係がしんどいとも聞いたことがあります。
なぜ人間関係がしんどいのでしょう?また、どのような人間関係のこじれがよくありますか?
その際の改善ポイントなど教えてください。
なぜ、介護業界の人間関係がしんどいと言われるのか
■執筆者/専門家
福岡福祉向上委員会 代表 ▶プロフィール 外資系コンピューター会社の営業、父親が営む会社の経営見習いを経て、2002年に35歳で福祉の世界に入り、14年間で2つの社会福祉法人の経営に携わる。 新規事業立ち上げ・組織づくり・職員育成・労働環境改善を行い、職員の労働満足度を向上させ、離職率の劇的低下を実現する。 2016年10月、福祉職の離職防止・人財確保を目的に「福岡福祉向上委員会」を立ち上げ、仲間と共に福祉職を支え続けている。また、福岡市の人材確保事業や福祉の魅力発信事業などにも携わり、福祉業界全体の底上げに寄与している。 得意なことは、縁を紡ぐことと戦略を立て実践すること。
ご質問ありがとうございます。
介護業界では、人間関係を理由に退職する方が最も多いという調査報告があります。
全産業の統計と比較すると、全産業では自己都合に次いで、労働条件を理由に転職される方が多いとのこと。人間関係の問題は4番目になるそうです。
同じ調査ではないものの統計をみると、確かに介護業界における「人間関係」はひとつの課題であるようです。では、なぜ介護業界では「人間関係」が課題となるのでしょうか?、その理由を考え、対策方法を検討してみましょう。
参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和4年度「介護労働実態調査」結果の概要について」
参考:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況 転職理由」
■介護の仕事が「対人援助職」であること
介護職員の仕事は、常にサービス対象者である高齢者や障がい者と向き合い仕事を行います。
仕事内容としても、サービス対象者の命や人生に関わることが多いため、そこには、多くの責任感や正義感があるのだろうと思います。
場合によっては、指導や注意のトーンも大きくなり、指導相手にストレスを与えてしまうことがあるのかもしれませんね。
■働き手の価値観が多様であるため
介護現場には、介護職だけでなく、看護師、生活相談員、機能訓練指導員、栄養士など非常にたくさんの種類の職種が存在します。それぞれが、専門領域を持ち、異なる役割を担い、価値観や視点も違います。
また、同じ介護職同士であっても、介護観(大切にしたい介護における価値観)が異なる場合もありますから、意見が合わないという状況も起こりうるでしょう。
次に同僚となるスタッフの年齢層が幅広いことも予測ができます。
世代が異なる場合の人間関係においても価値観のズレは生じやすいでしょう。
その中で、目の前の方の人生に共に向き合うわけですから、さまざまな意見が飛び交い、たまにぶつかることもあるでしょう。そこから生じる人間関係のほつれも存在することが想像できます。
■これらを予測したうえでの対策方法とは?
上記の課題は、介護業界の魅力の裏返しとも言えます。
対人援助職であることは、「人と関わることで得られるやりがい」があるといえ、
多様な価値観の方と働けるということは、「コミュニケーション能力を鍛えられることと同時によりよいサービスを提供できる環境であるということ」になります。
・相手の気持ちに寄り添い、相手を敬うことを自然に行える
・人と接することが好きで、丁寧に尊厳をもって応対できる
・明るく朗らかで、なにごとも前向きである
・基本的に心優しく、誰にでも親切である
以上が私が思う、介護業界で働いている方々の印象です。
私も、20数年前に営業職から介護業界へ転職した時に、とにかく皆さんの笑顔に日々癒されたことを思い出します。そこから、介護業界の虜になったと言っても、過言ではありません。
ですので、もしなにか厳しい状況であると感じたときは、
・厳しい言葉や指導の背景にあるものは?
・食い違う意見は何から生じるのか?
・経験の浅い自分への期待の大きさではないか? など
気になる言葉や行動の背景を、相手の視点に立って見てみてみると、気づくことがあるかもしれません。コミュニケーションギャップは解消され、職場でのいざこざも感じられなくなるはずです。
■さいごに
この業界の方は、真面目で真剣であるということも特徴としてあるのではないでしょうか。
前述の課題も真面目さゆえに、出てきている側面もあると思います。
一緒に働く方が真面目で、一生懸命であることは、働くモチベーションにもなりますし励みにもなります。
もちろん仕事ですから、辛いこともあればしんどいこともあるでしょう。
そんなときは、根底にあるものをイメージしてみてください。
「目の前にいる対象者の笑顔が見たい、少しでも幸せな日々を過ごしてほしい」
その想いに応えたいと思っている方が多いのではないでしょうか。
そのような方と一緒に働きたいと思いませんか?
問題が生じたときはコミュニケーションのギャップに注目してみると、職場でのいざこざも感じられなくなるはずです。
心から応援しています。
介護職の人間関係の悪化は、職員の育成環境を見直しましょう
■執筆者/専門家
・けあぷろかれっじ 代表 ・NPO法人JINZEM 監事 介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、潜水士 ▶プロフィール 『介護福祉は究極のサービス業』 私たちは、障がいや疾患を持ちながらも、その身を委ねてくださっているご利用者やご家族の想いに対し、人生の総仕上げの瞬間に介入するという、責任と覚悟をもって向き合うことが必要だと感じています。 目の前のご利用者に『生ききって』頂く。
ご質問ありがとうございます!
「介護職員の離職率は高い」「離職する原因は人間関係」といったことを耳されたことがあるのかもしれませんね。対人援助のプロである、介護職員が人間関係で退職してしまうこのような事実は、少し残念に感じますよね。
そしてこの問題が、現在の介護福祉業界の課題のひとつであることも事実です。
その理由と対策を考えてみましょう。
■介護職の人間関係、問題点は「介護職員の教育体制」にあり?
では、具体的に考えていきましょう。
私は、介護職の人間関係よくない状況となる理由として、「教育体制」に問題があると感じています。
例えばですが、介護職として独り立ちするまでの期間ですが、質問者さんの事業所ではどの程度の期間を設けていますか?
「介護職経験者だから」という理由で、業務の流れやご利用者のお名前と顔を覚え次第ひとりで業務を任せているようであれば、要注意です。
経験者といっても、その人のスキルはそれぞれですし、事業形態が違うだけでご利用者の状態も大きく違います。理念の理解やご利用者への対応方法など、これまでの技術や経験を丁寧に評価しながら、その人に合った育成計画が必要です。
不安が人間関係を悪化させる
教育不足が人間関係の悪化を招くと伝えましたが、ここでいう教育とは、ただ単に業務の手順だけを伝えるということではありません。
単にやりかたを教えただけでは、新人スタッフの不安は取り除かれません。
ましてや、入職後間もない期間で一人になってしまったスタッフの精神的ストレスは大きいことでしょう。
このストレスこそが、人間関係を悪化させ、従業員の不満に繋がるのではないでしょうか?
不安やストレスを抱えたまま適切な技術も習得できない環境では、良好な人間関係を築いている余裕がなくなってしまいますよね。
そうならないために、新人スタッフをアセスメントし、実行し、評価していく。
対人援助で培ったPDCAを是非新人スタッフへも行っていただきたいと思います。
■きちんと育成されないことによる弊害
この育成計画が作成されないとどのような状態になるのでしょうか?
新人スタッフが何をどこまで理解できているのか、習得したのかが不明瞭になり
本人が戸惑うばかりか、指導者側も混乱し、育成が行き詰まってしまいます。
■育成のためにやるべき2つのこと
では、どうすればよいのか?
・取得すべき具体的な項目をチェックできる育成計画がある
・定期的に上司と面談を実施する
このような環境を整えましょう。
すると安心して仕事を続けられるようになり、程よい緊張感の中で人間関係が適切に構築されていくものだと考えます。
安心して技術を習得でき、良好な人間関係が構築できれば、心のゆとりや仕事へのモチベーションアップにも繋がりますよね。
いかがでしたか?
この職場環境を想像してみると、ワクワクしませんか?
その環境をつくっていくのは他でもない、そこで働く質問者さんを始めとした従業員の皆さんです。
まずは、育成に必要な項目を作成してみてはいかがでしょうか?
笑顔が絶えない、素敵な職場環境をつくっていきましょう!
介護職の人間関係が悪化する理由と、人間関係をよくする心がけ7つ
ここまで「人材育成」という観点から説明してきましたが、これはあくまでも人間関係を悪化させる要因、改善策の一つにすぎません。
ここからは少し視点を変えて、人間関係が悪くなる理由と改善策について考えていきます。
離職の理由として人間関係が上位にくるのは、介護職員のみならず他の産業でも同様ということは既にお伝えしましたね。
どの業界でも、人間関係は悩みの種です。
ではなぜ「働く場」において、人間関係は悪化してしまうのでしょうか?
■「2枚のピザ理論」を知っていますか?
みなさんは、Amazon創業者のジェフ・ベゾスが「2枚のピザ理論」というものを提唱しているのをご存知ですか?
それは2枚のピザを分けるのに最適な人数(5~8人)が、業務効率を最も高める人数だ。という理論です。
5~8人というのは、コミュニケーションが円滑に行えて、一人一人のパフォーマンスが発揮しやすい人数だそうです。
この数字を超えてしまうと、「集団思考」(自分で考えず、みんなの意見に同調してしまう思考)が起こる傾向があると提唱しています。
また、少人数であるということには、「ソーシャルローフィング」(誰かがやってくれるだろうという思考)が生まれにくいという利点があります。
なるほど、確かに私も現場を経験している時に感じたことがあるなと思いました。
■人間関係の悪化は、個人に理由がある場合も
多種多様な価値観が混在する中で、良好な人間関係を保つことは、実はとても難しい事なのかもしれません。
なぜなら人間関係を悪化させてしまう問題は、実は個人が抱えており、それを他者の責任に転嫁してしまっている可能性もあるからです。
人間関係を悪化させてしまう、10の理由
1. 自分は人見知りだからと他者を遠ざけてしまい、相手や自身を理解することが苦手
こんな人が注意しなければならないポイントは
人前で話すことが苦手→会議で発言するのは苦手→その場では同調する→仲の良いグループでは、会議の結果には不満があることを発言する
という行動です。
これは、そのつもりがなくても陰口だと判断されてしまう事がほとんどです。
相手の立場で考えると「意見があるならその場で言ってほしかった」という気持ちになりますよね。
本人からすると、私の気持ちも少しは考えて!と、会議で議論していた内容ではないことで相手への嫌悪感や不信感を高めます。
もしくは、誰がそんな事を告げ口したの!?と怒りの矛先も変わってきてしまうかもしれません。
これも人間関係を悪化させる可能性のある火種です。
このような例え話を上げればきりがないほどです。
その他にも、以下のようなことが火種となりえます。
2. 仕事がいい加減・利用者さんに対して雑な対応をしてしまう
3. 頻繁に仕事に穴をあけてしまう
4. 挨拶をしない・挨拶が聞こえない
5. 笑顔が少なく、いつも無表情
6. 同僚や先輩、後輩の悪口が過ぎる
7. 愚痴や文句が多いが自分の意見は通そうとする
8. 自分の価値観で判断し、間違ったと思う事にはとても強い口調になる
9. ミスを認めない
10. 謝罪が出来ない
どうでしょう、いくらでも火種は出てきますよね。
それだけ、違う価値観の中で共に働くことは難しいことなんです。
年齢や性別、国籍や経験が違う人々が働いている環境では、「みんな仲良く」という状況は難しいように感じますね。
■介護職が人間関係を良好にするための、7つの心がけ
これらを踏まえて、人間関係が良好になる秘訣をお伝えします。
多くの人がここを意識するだけで、今よりも少し人間関係が良くなると思いますよ。
1. 相手の意見を否定しない
自分と違う意見でも、そういう意見もあるのだと受け入れましょう。
2. 違う考え方を伝える時には、相手の意見を認めたうえで、強い言葉は使わない
「○○さんはそう思ったんですね。確かにそうかもしれませんね。私は○○だと思ったんですよ。」
など、相手の意見を一度受け止めましょう。
3. 相手のことを理解する 次に自分のことを理解してもらう
この言葉を使ったら、否定したみたいに感じるかもしれないな…。と、相手の気持ちになって立ち止まって考えましょう。
4. 笑顔で接する
笑顔は、誰もが持っている最強の武器です!
5. 日頃から「ありがとう」を言葉で伝える
気持ちは言葉にしなければ伝わりません。笑顔と組み合わせると無敵です!
6. 自分が正しいと思いこまない
相手には、相手の正義があるかもしれませんよね。
7. 自分の行動を振り返る
毎日数分で良いので、今日の自分の行動はどうだったか振り返りましょう。そして、反省を明日に活かしましょう。
簡単な7項目を心がけるだけで、自分の価値観にとらわれた思考から解放されて、驚くほど人間関係を良好に保てるようになると思います。
「人間関係が円滑になった!」「少し人見知りが改善された!」「ストレスが減った」など、成功体験をぜひ皆さんの言葉で、自分のチームの仲間にも伝えていってくださいね!
一人ひとりの意識改革が、良好な組織改革への第一歩です。
■「人間関係の良い施設」を選ぶ方法はある?
入社前に見えるのは、ほんの一部分
そして最後に、人間関係の良い施設の見分け方についてお伝えします。
そもそも、入職前に人間関係の良い施設を見極めることはとても難しいといえるでしょう。
もちろん、「スタッフの表情が明るい」「皆さん丁寧にあいさつしてくれた」「施設内がきれいに整頓されており、教育制度も充実している」これらのことは、ある程度の指標になりますが、見えている全体像の一部分でしかありません。
これまでお伝えしてきた通り、多くの職場や業界は、人間関係に課題がある職場が多く、自分とは違う多くの価値観を持った人たちが働いています。
人間関係を悪化させる要因や時期は、いつどのように発生してもおかしくない状況です。
その時期は良かったとしても、流動的に変化していくのが組織というものですからね。
いまの状況をどう改善していくか?という視点を持って!
また、人間関係の悪化が理由で離職した人たちの多くは、新しい職場においても、人間関係で悩まれている方がとても多いといえます。
もしかすると少人数で小規模な事業所では人間関係が良好でで仕事がしやすいかもしれませんが、その事業所に巡り合うまで、転職を続けることは、良い選択とは言えませんよね。
人間関係の良い職場を見つける事よりも、いかに職場の人間関係を改善していけるかという視点を持ったほうが、あなたの職場での人間関係が良好になるかもしれませんね!
良好な人間関係は、誰かが整えてくれるものではなく、一人ひとりの意識の上に成り立っています。
同僚への配慮や思いやりが、人間関係を良好に保つのです。
・けあぷろかれっじ 代表
・NPO法人JINZEM 監事
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、潜水士