本日のお悩み
一度に複数の利用者を見なくてはいけない状況について。
訪問介護をしていたときは、一人の利用者を見守ることに専念できたのでまだ目が行き届きました。
しかし、転職して複数の利用者を同時に見守りしなくてはならない状況があり、目が行き届かずツライところがあります。心的ストレスにもなります。一度に複数の利用者を見守るためのコツなどありますでしょうか?聖徳太子になったつもりで見るとか、今は能力がつくまでの辛抱と思うとか。そんな風に考えてますが、何か熟練した方のコツなどありますでしょうか。
複数の利用者、あまりの視覚的聴覚的情報の多さに、疲弊してしまいます。
悩みが伝わりずらいようでしたらすみません。
よろしくお願いいたします。
相談者:はな さん
「Look up : ルックアップ」を身につける
ご質問ありがとうございます。
お悩みよくわかります。
自分は特別養護老人ホームですが、約8年間、現場で介護職を行っていて、こんな苦いエピソードがあります。
■専門家・伊藤さんの苦いエピソード
Aさん(93才女性)は、認知症がありましたが、娘さんとお二人で自宅にて暮らしていました。
娘さんはお母さん思いで、熱心にお母さんの介護を行っていたのですが、娘さんがあまりにも熱心なので疲れてしまわないかと支援員が常に心配する家庭でした。
介護サービスはほとんど使わず、「生活が苦しい中、育ててくれたお母さんに少しでも恩返しがしたい。最期まで住み慣れた自宅で過ごしてもらうために自分が頑張る」との思いがあるとのことでした。そんなAさんが1週間の短期入所を利用することになりました。
遠方の親族のお悔やみができ、娘さんが参列することになったからです。
受け入れたユニットのリーダーは私です。
ユニットには他に9名の方が利用されていましたのでAさんは10名の中の一人です。
利用から3日目の夕食後のことです。慣れない生活環境で落ち着かない様子だったのでなるべくAさんのそばにいたのですが、食後落ち着かれているご様子だったので、洗い物を行うことにしました。
そして、もう少しですべての食器が洗い終わると思った時でした。「ガタン」と音がして転倒しているAさんが・・・。大腿部頸部骨折でした。娘さんには、転倒すぐ報告し、経過も連絡したのですが、「高齢と骨粗鬆症の為、手術が難しい」と聞いた時の娘さんの顔は今でも忘れられません。
目的が達成できないとわかった悲しみと怒りの矛先は私に向けられました。
■サッカーの「ルックアップ」という技術を身に着ける
さて、このエピソード、私が悔やんだのは、洗い物に目線が集中してしまった時間があったことです。あの時、定期的に目線を上にあげ、ホールを見渡す動作をとっていたらこんなことにならなかったんじゃないか?と。
そこで、思い出したのがサッカーで学んだ「ルックアップ」という技術です。サッカーは、ボールが足元にあるため、顔が下がりがちになります。しかし、足元ばかりを見ていては、周りの状況が見えず、次の行動の判断ができなくなります。つまり、ボールを扱う技術と顔を上げて周りを見るという技術の両方が必要なのです。
■まずは意識的に取り組んでみましょう
質問者さんは、聖徳太子のような能力と書かれていましたが、ルックアップは顔を上げるという技術です。訪問介護の経験もあり、介護の技術が身についている質問者さんは、顔を上げて周りを見る習慣を技術として意識的に取り組んでみると良いのではないでしょうか?
どんなサッカー選手も顔を上げるトレーニングを意図的に行っています。最初から完璧にできる人なんていませんよ。
■後日談
さて、後日談です。
Aさんは、退院後在宅に戻り、多職種の専門職チームで亡くなるまで在宅での生活を支えました。
娘さんも私達が真剣に、専門的技術をもって支えることで、信頼してくれるようになり、むしろ楽になったと言ってくださるようになりました。
振り返るとこのエピソードは、未熟な介護士であった自分にとって大きな力を与えてくださったと思います。介護は技術(テクニック)ですね。
茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)