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介護職の給料、本当にこれから上がっていきますか?給料が改善されていないと感じる背景には何があるか、一緒に考えます!

介護職の給料、本当にこれから上がっていきますか?給料が改善されていないと感じる背景には何があるか、一緒に考えます!

【回答者:伊藤 浩一】そもそも何を基準に給料が「低い・高い」と話題になっているのか?


本日のお悩み

介護職の給料って、本当にこれから上がっていきますか?
処遇改善とかいろいろ言われていますが、正直上がっている実感がありません。
これからの給料についてどう思いますか?

そもそも何を基準に給料が「低い・高い」と話題になっているのか?

伊藤 浩一

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14

茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもみじ館施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員

ご質問ありがとうございます。
11月9日、政府は、「全世代型社会保障構築会議」等にて年度内に介護職の収入増を「最優先」課題にするという見解を示しましたね。
岸田総理が公約として掲げていたことは把握していましたが、今年度中にというスピード感には驚きました。

正直なところ、令和元年度に特定処遇改善加算が追加され、増額になったばかりなのに!とういうのが本音です。 

↑特定処遇改善加算についての説明はこちら

これまで、介護職員の処遇改善は、2009年の処遇改善交付金の支給、2012年の処遇改善加算施行、2015年の処遇改善加算改正(拡充)、2017年の処遇改善加算改正(拡充)、2019年特定処遇改善加算施行(追加制度)とここ12年間で5回実施されてきました。
つまり、今年度中に6回目が実施されること(予定)になります。

そもそも「介護職員の給料が低い」と言われる根拠は

さて、ご質問の件、「これからの介護職員の給料はどうなっていくのか?」です。
このご質問を紐解くには、何のデータをもとにして介護職員の給料が低いと判断されているのか?という根拠から考えていきましょう。

他産業よりも非正規雇用者が多い、医療・福祉分野

11月8日に財務省は、医療福祉分野の雇用情勢について
産業別・雇用形態別・性別に雇用者数を見ると、「医療・福祉」分野では雇用者全体に占める女性雇用者の割合が高い特徴(全体の76.9%が女性)があり、また、男性雇用者総数(182万人)より女性非正規雇用労働者(272万人)の方が多い」とデータを発表しています。
その上で、職種別の平均賃金(役職者除く/月収換算)を比較すると医師が100.8万円、看護師が39.4万円、保育士は30.2万円、介護職は29.3万円となり、全産業平均の35.2万円より、介護職が低かったと報道されました。

どうでしょう。お分かりでしょうか?
なぜ、「医療・福祉分野」の給料が全産業の中で低いのか?という問いに対する答えは、全産業平均より保育士、介護職の賃金水準が低いからであり、そしてその理由は、その他産業よりも圧倒的に非正規雇用者が(特に女性)が多いからということになります。

給与比較の裏側にも雇用形態の差がある

では、看護師と介護職を比較してみましょう。

看護師の女性は約120万人が働いていますが、約75%が正規職員です。
一方、介護職員の女性も約120万人が働いていますが、50%が正規社員と下がります。

このように、看護師と介護職の給料を比較すると介護職は、非正規職員の割合が大きいことで、平均値を算出するための分子が結果的に小さくなり、平均賃金も大きく差が開いてしまうということになりますね。
もちろん、これからの介護職員の賃金向上の具体策としては、非正規雇用者も含めた処遇改善、非正規社員が正規社員となることを推進するということが必要と言えますが、逆を言えば、非正規雇用者(パートタイム)でも働きやすい場が介護業界とも言えませんか?(働き方の幅が広い)

ちなみに、報道はされていませんが、データには、対人サービス産業(「宿泊業、飲食サービス業」及び「生活関連サービス業、娯楽業」)の加重平均は、26.6万円(<介護29.3万円)と記載されていました。

結論:介護職の給料はこれからどうなるか?

さて、いよいよ本題に移ります。
今後介護職の給料はどうなっていくのか?とのご質問です。

結論です。
2007年から2020年の介護職員の平均給与額は約50万円/年(300万円から約350万円に)上昇しています。
さらに、今年度プラスになることを考えれば、これからも社会情勢を加味し、全産業の平均水準に近づいていくと予測できるでしょう。
そして、この平均値は前述した非正規雇用の方が多いことが背景となりますので、年収500万円を超えるような給料の高い介護職も増えていくと考えられます。
年収の高い介護職が平均値をひっぱり、非正規雇用者は底上げを行なっていく形が施策としてとられていくことが考えられます。

しかし、処遇改善加算の制度をシンプルにしない限り、介護職全体が実感できる給料改善は、望めないと思います。

なぜ給与が改善されていると実感できないのか?

質問者さんは、給料が上がっている実感がないとのことですが、ここ12年で5回も対策がとられているはずなのになぜ実感がないのか?

実は、特定処遇改善加算の取得率は、2020年の調査では63.3%だったそうです。
要は、処遇が改善されるはずの加算制度を約40%が活用してないということです。
つまり、5回も改善が繰り返されてきたのに活用されていない、または、活用されないから繰り返されてきたのかもという仮説も立ちますね。
では、なぜ、活用されないのでしょう?

それは、制度が繰り返す度に条件が複雑化されているからです。
例えば、その条件は研修体制や人事評価体制(キャリアパス体制)などで、確かに必要ですが、小さな事業所はそもそもマンパワーが少ないことで対応しきれず取得できない。加算が取得できない=賃金が上がらない=求人がこない=人手不足=職員の不満にという悪循環が生まれてしまっています。

国の制度変更と、現場がそれを活用すること 両方が必要

日本の介護職の給料は、他主要国と比べて低いことも明確です。
介護福祉先進国である日本の威信にかけても、これから必要な職業としても、他国にも誇れる賃金水準である介護業界にしたいですね。
そのためには、国の柔軟な制度変更も必要ですが、私たち現場が背景を知り、処遇改善加算制度を諦めずに活用することも必要と感じます。

質問者さんの事業所さんの処遇善加算取得状況はどういう状況でしょうか?
そんなところから確認してみるのも給与を高めていく一歩かもしれません。

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この記事のライター

茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員

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