介護職の離職率はなぜ14.3%に低下した?その理由と、今後の展望を解説します
介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査」より、介護職の離職率が低下しているということが分かりました。
これによると、介護職員・訪問介護員の離職率は平成19年をピークに下降傾向にあり、令和3年度は14.3%とのことで、サービス業である宿泊業・飲食業の離職率(23.8%)と比較すると-9.5%と低く、全産業の離職率(13.9%)と比較しても+0.4%の差にとどまっています。
しかし、依然として介護現場の人手不足は解消されいるとは言い難い状況が続いています。
この記事では、現役で特別養護老人ホームの施設長として働きながら、茨城県から様々な情報発信をされている伊藤浩一さんに、離職率が下がった理由の考察と、今後の展望について解説していただきました。
- 令和3年度「介護労働実態調査」結果の概要について(介護労働安定センターのPDFに遷移します)
- 令和3年雇用動向調査結果の概況(厚生労働省のPDFに遷移します)
人手不足の呪縛からの脱却、それは自分は何ができるか?へのシフトチェンジ
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員
介護労働安定センターの離職率調査では、平成19年の21.6%を上限にほぼ年々低下し、令和3年は、14.3%と過去最低になりました。これは、宿泊業・飲食業の23.8%(R3政府調べ)と比較しても低い数字であることがわかります。
では、なぜ介護職の離職率は低下したのでしょうか?
私は大きく2つの理由があると考えます。
■介護職の離職率低下理由 ①新型コロナウィルスの影響
感染拡大防止のために離職を思いとどまった
新型コロナウィルスの感染拡大は、人の動きを遮断しました。
つまり、新しい職場に移ることが感染拡大防止の観点からリスクが大きいと考え、離職を思いとどまった方は多かったのではないでしょうか。
慰労金が、離職防止に一定の効果を生んだ可能性も
また、2020年には、介護職員への慰労金が国から支給されました。このような施策も一定の効果があったと思います。微妙な時期に転職するともらえないかもしれないと考え離職を思いとどまった方も多かったと思います。
慰労金に関連した記事はこちら
介護慰労金、申請書を書いたのに受け取れない…こんな会社は辞めて転職すべき? | ささえるラボ
https://mynavi-kaigo.jp/media/articles/389【回答者:大庭 欣二】まずは確認が大切です。そして考え、行動をされてみては。
■介護職の離職率低下理由 ②職場環境を良くしようと努力する事業所が増えた
求人募集と同時に、職場環境の改善に努める事業所が増えた
「いくら求人をかけても、求職者が全くこない」なんてよく聞きますが、実際に採用したとしてもすぐ辞めてしまうことに悩む事業所も多いと思います。
そんな事業所さんの勘がいい採用担当者は、「どんなに自分が採用活動を頑張っても職場環境が悪くて辞められたら、自分の仕事の意味はない」ことに気がつきました。
そんな事業所が、現場と話し合い、職場環境の改善に努めた結果、離職率が低下したと考えられます。
職場環境を改善すれば、処遇改善加算も増額になるという好循環が生まれた
また、介護職員の処遇改善策である処遇改善加算の算定条件には、「職場環境等要件」が設けられています。
具体的には、6区分24項目が示されており、加算率の高い区分を算定するためにはできる限りこの要件をクリアーしなければなりません。
つまり、職場環境を良くするために何をすれば良いかが明確に示され、素直に事業所が取り組めば、処遇改善加算も増額になり、より良い条件の求人広告を出せるという好循環が生まれることとなったのです。
「職場環境等要件」の内容とは
具体的には下記の通りです(内容は厚生労働省資料一部抜粋)
「入職促進に向けた取り組み(人事担当者の研修実施等)」
「資質の向上やキャリアアップに向けた支援(エルダー、メンター制の導入等)」
「両立支援・多様な働き方の推進(子育て支援や有給取得推進等)」
「腰痛を含む心身の健康管理(介護ロボット等の活用促進等)」
「生産性向上の業務改善の取り組み(ICT活用促進等)」
「やりがい・働きがいの醸成(地域支援活動の実施等)」
専門家・伊藤さんの施設では離職率5%以下!
これら6区分24項目がしっかり運営できていれば、もちろん定着率も上がりますよね。
ちなみに私の勤務する施設では、最上位の処遇改善加算(Ⅰ)を算定させていただき、
離職率は毎年5%以下です。人材確保・定着の具体策として、これらを取り組む成果があることを実感しています。
処遇改善について、詳しくはこちら
介護職の給料アップにつながる「処遇改善手当て」とは?加算の仕組みや目的を理解しよう | ささえるラボ
https://mynavi-kaigo.jp/media/articles/511介護業界の人手不足を解消するために国が創設した「介護職員処遇改善加算」。要件を満たした事業所には加算金が支給され、「処遇改善加算手当て」として従業員に配分されます。加算の仕組みや目的などの基礎知識を紹介します。
■「離職率14.3%」専門家の見解は?
職場環境の改善に取り組んだ事業所と、そうでない事業所の平均値である
令和3年度介護職離職率14.3%の意味は、このような施策に積極的に取り組まず、未だ30%近い高い離職率で運営している事業所と、積極的に施策を活用しようと取り組み、10%以下で運営できている事業所の平均値ではないかと考えます。
介護施設の「働きやすさ」の二極化は進んでいく
つまり、介護事業所全体が人で不足なのではなく、人手不足の事業所と定着率の良い事業所の二極化が起きているのが今の介護事業所の現状ではないでしょうか?
そして、これからますますこの二極化は進み、職場環境の悪い事業所は淘汰され、職場環境が良い事業所だけが生き残る時代になっていくでしょう。
■介護職の人手不足に悩むより、自分にできることは何か?を考えよう
とはいえ、介護人材不足は深刻になっていきます。
それは、人口減少と高齢者増加のスピードが、待ったなしで進行するからです。
社会福祉連携推進法人制度を知っていますか?
国は、社会福祉連携推進法人制度を令和4年4月から施行しました。
これは、福祉人材の確保や法人経営の強化を図るため、社会福祉法人が連携していくことを認めるものです。
ひとつの法人で人材不足に取り組むことが難しい場合は、積極的に連携し、情報交換など行いこの局面を乗り切ろうという施策です。
法人全体で、介護職に関連した一つひとつの施策にチャレンジしていきましょう
また、岸田内閣では、介護職員の更なる処遇改善を明言していますし、外国人材の活用も促進されていくと思います。更に介護職員の裾野を広げる介護助手制度も推進されていくでしょう。
これらの取り組みにもしっかり目を向け一つ一つチャレンジしていくこと。これは、経営者、現場が一丸となって取り組んでいかなければなりません。
人手不足を悩むことから脱却し、自分ができることを探すことに行動をシフトされることをお勧めします。
茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)