ケアマネがやってはいけないこととは?頼まれがちなこと、解決方法も紹介
介護保険制度の要であり、「介護保険の番人」とも呼ばれるケアマネジャー(ケアマネ)は、利用者やその家族の様々な悩みに深く触れる仕事です。
そういった仕事の特性上、本当は業務の範囲ではないことを利用者から頼まれてしまうこともあるのではないでしょうか?
この記事では、ケアマネの仕事内容を振り返り、ケアマネがやってはいけないことや、やってはいけないけどケアマネが頼まれがちなことについて紹介していきます。解決方法もあわせて記載しているので、参考にしてみてください。
執筆者
ゆりかごホールディングス株式会社 代表取締役 株式会社ゆりかご 代表取締役 茨城県訪問介護協議会 副会長 茨城県難病連絡協議会 委員 水戸在宅ケアネットワーク 世話人 介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士・看護師・介護支援専門員・相談支援専門員
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まずはケアマネの業務内容を整理しよう
ケアマネジャー(以下、ケアマネといいます。)の業務というと、非常に多岐にわたります。
そして、色々な考え方もあると思います。私見も交えながら書かせていただこうと思いますので、教科書的な模範解答とは違う点もあろうかと思います。そのあたりをご了承いただきながら、お読みいただけると幸いです。
まず、ケアマネには2つのタイプがあります。居宅ケアマネと施設ケアマネです。
働く場所や、範囲が大きく異なりますが、共通していることは以下の2点です。
1.ケアプラン作成
2.給付管理
ケアプランを作り上げるために、たくさんのことに関わるということがお分りいただけると思います。
1.ケアプラン作成
ケアプラン作成について、大まかな流れは
相談(介入)→情報収集→アセスメント→ケアプラン(原案)立案→計画に基づくサービス調整→サービス担当者会議→ケアプラン立案→実施状況確認→モニタリング→再アセスメント→計画立案
となります。
一つずつ見ていきましょう。
■相談・介入の業務
ケアプランの軸となるもの
ケアプランの一番大切な部分である「利用者及び家族の生活に対する意向を踏まえた課題分析の結果」について明らかにしていきます。
ケアプランは、介護保険をどのように使い、今の生活をどのようにすれば利用者さんの状態が良くなるかという計画を立てるものです。そう考えると、最終的には介護保険サービスを利用する理由のようなものが記載されてくるわけですが、そこにたどり着くまでに介護保険以外の様々な生活のお悩みを聞きます。
介護保険外の悩み事を、広く聞き取ることもある
はじめの相談に乗る際、「それは介護保険では解決できないので」とは言えないですよね。
つまり、相談・介入とは、目の前で起こっている生活課題・将来への不安・経済的なこと・家族関係などなど相談の内容は多岐にわたります。様々な生活の中の困りごとを、利用者とその家族がどうしたいのかを丁寧に聞き取っていく過程なのです。
よってケアマネは、介護保険で解決できない生活課題や悩みも知る立場だということになります。
また、利用者とその家族がしたいことを、要望と必要性(デマンドとニーズ)に分けて考え、必要性(ニーズ)について、介護保険や様々な制度、社会資源を活用して、どのように生活の中の困りごとを解決していくかということを考えます。
■情報収集の業務
相談を受けていく中で、利用者とその家族から伺った情報を整理していきます。
身体的側面、心理的側面、社会的側面からとらえ、ICF(国際生活機能分類)に即した方法で得た情報をカテゴライズしていきます。ここでは、偏りがなく多角的に生活状況をとらえていく必要があります。
■アセスメント
ケアマネの専門性が問われる業務
相談のときに伺った「今後どのような生活にしていきたいか」という思いと、系統別に収集・整理した情報がどのような関連性を持っているか分析していきます。
この過程では医学的な知識も必要になりますし、情報の関連付けを間違えると、課題解決へのアプローチがずれてしまいます。とても大切な過程のひとつであり、ケアマネの専門性が問われる部分だと個人的には思います。
■ケアプランの原案を立案
プランですので、ここで大切なことは、どのような目標を立てるかということです。
アセスメントで情報の関連性を分析し、その課題原因を解決するために、利用者やその家族にどのような行動をとってもらうかを、わかりやすく、具体的に書面で伝える必要があります。
目標を立てる上で留意する点は次の5点です。
目標を立てる上で留意するポイント5つ
1.現実的な目標であるか。
2.利用者やその家族が理解できる目標であるか。
3.測定可能な目標、定量的な目標であるか。
4.実際に利用者とその家族が行動できる目標であるか。
5.利用者とその家族が達成できる目標であるか。
これらに留意して、目標を設定します。
その目標を、短い期間で達成する「短期目標」と、短期目標をクリアした先にある「長期目標」に分け、最終的に生活課題をどの機関でどのように解決していくか、さらには、その目標を達成するためにそれぞれの職種やサービス・本人の力・家族の力・様々な社会資源がどのような役割を担うのかを表にまとめて、ケアプランの原案が作られていきます。
■計画に基づくサービス調整
次に、修正されたケアプラン原案について、利用者とその家族から同意を得ます。
そして、実際に、チームメンバーが何曜日の何時にサービスを提供するのかなど、実際の利用を行うために調整を行っていきます。
■サービス担当者会議
ケアプランで役割を与えたられたすべての職種(と、社会資源)で、「このケアプランの内容で、利用者とその家族の生活課題が解決できるのか」という議論を行います。
ケアプランに修正が必要な場合は、ここで修正します。
また、サービス担当者会議は、チームとしての団結力を確固たるものとする機会でもあります。多くの専門職がお互いに顔の見える関係になり、チームワークを確立させていくのです。最終的に具体的な介入時間などが確定して、ここでケアプランが一旦完成することになります。
■実施状況確認
次に、ケアプラン通りに、それぞれのサービス等が機能しているかのチェックを行います。
実施状況を利用者とその家族、サービス事業者などから聞き取っていきます。万が一トラブルなど発生した場合は、適宜調整を行っていくのもケアマネジャーの役割です。
■モニタリング
毎月最低1回は、計画の進捗状況を確認するためにモニタリングを行います。
目標達成のための期間に対して、利用者とその家族の課題解決状況が遅れていないか、早く達成できそうか、新たな課題が発生していないかなどについて確認していきます。
■再アセスメント、再計画立案
モニタリングで収集した情報を再度アセスメントし、必要があればケアプランの修正を行っていきます。
再度修正されたケアプランの実施状況を確認し、モニタリングして……と、この過程を生活の中の困りごとが解決するまで繰り返していくのです。
ここまでが、ケアマネの業務のひとつ「ケアプランの作成」となります。
2.給付管理
もう一つ、ケアマネの大切な業務が「給付管理」です。
■給付管理とは
介護保険のサービス事業者では、月末にサービスをどのくらい行ったかという実績をケアマネジャーに報告ます。
その際、介護度認定に応じた区分支給限度基準額の単位数内で、どのサービスが、どのくらい利用しているかという実績の確認を行い、その実績を承認します。
これを給付管理と言い、給付管理結果を国民健康保険団体連合会(国保連)に伝送します。
事業所が、自分たちが行った実績の単位数を認めてもらうためには、ケアマネが伝送した給付管理の結果に記載されている単位数との合致が必要になります。
ここに相違があると正当な対価を受け取れないということになるので、とても大切な業務です。
「介護保険の番人」であるケアマネ
これが、ケアマネが「介護保険の番人」と呼ばれる所以でもあります。
ケアマネは給付管理を行いながら、サービスが介護保険サービスとして適正に実施されているかの確認をする必要があるからです。
ケアマネの本来の業務についてイメージができたでしょうか?
ケアマネがやってはいけないこととは?
前述のとおり、ケアマネは「介護保険だけではない生活の中の困りごとについて知る立場」と言えます。
相談を受ける中で、様々な依頼を受けることがあります。まずは、運営基準に基づいたサービス利用に関する基準としてやってはいけないことについてご紹介いたします。
■説明と同意を行わない
利用者またはその家族が理解・納得していることをきちんと確認せずに話を進めてしまう、ケアプランを実行してしまうことは絶対にあってはなりません。
ケアマネ業務として説明と同意を行いましょう。ケアマネがサービスを決めるのではなく、自由な選択を保障した上で、利用者とその家族が決定するというスタンスは忘れてはいけません。
■正当な理由なくサービス提供を拒否する
この人とは関係性が悪くなったからケアプランは作りません、なんてことになってしまっては、利用者とその家族は不安を抱えてしまいます。
要支援だから、要介護がいくつだからなど、利用者の経済状況などを理由としたサービス提供拒否は禁止されています。
サービス提供を拒否できる「正当な理由」とは?
1.人員的な理由で受けきれない場合
2.通常の事業実施地域以外の場合
3.利用者及びその家族が、他のケアマネにケアプランを作ってもらっていることもしくは、作ってもらおうとしていることが明らかな場合
もし何らかの理由でサービス提供が困難になってしまったときは、別の居宅介護支援事業者の紹介など必要な措置をとらなくてはなりません。
■利用者にとって必要な手助けをしない
要介護認定の申請において、きちんと申請できるように支援しなくてはなりません。
また、利用者の受給資格等の確認は絶対に行う必要があります。これらのことは、当たり前に感じるかもしれませんが、こちらを行わずに業務をすることはできません。
本当はやってはいけないけれど、ケアマネが頼まれがちなこと3選
運営基準等も含め、それ以外にも様々な相談を受ける中で頼まれがちなことについていくつか例を挙げてみます。
■①病院に連れて行ってほしい(車に乗せていってほしい)
「どうせ病院に行くなら連れて行って」と言われがち
ケアマネにとって、医師などの医療従事者との連携は欠かせません。サービス担当者会議等で医師が出席してくれることは極めて稀であり、なかなか時間調整が難しいという現実があります。
令和3年の介護保険改正にて「通院時情報連携加算」が創設され、受診時に同席し、きちんと連携した場合に加算が認められるようになりました。
どうせケアマネも病院に来るなら、ついでに病院まで連れて行ってくれないか?という依頼を受けることがあります。
なぜ利用者・家族を移送してはいけないのか?
こちらについては、原則対応は不適切と考えます。
通院するために介助を必要とするのであれば、訪問介護による通院等乗降介助というサービスがあります。
また、人を移送して対価を得る行為は、道路運送法に関わってきます。
運転二種免許を持たない人が、きちんと登録された車両(営業用ナンバーの車両)でない車両で人を乗車させて対価を得る場合は「白タク」行為となる可能性もありますので、行わない方が良いでしょう。
また、運転中に万が一事故に巻き込まれたとき、通常業務外での事故の場合は補償対象となるかどうかという懸念もあります。
どうしてもケアマネの車に利用者・家族を乗せなくてはならないときは?
しかし様々な背景から、どうしてもケアマネが移送せざるを得ないという状況もあると思います。その際は、このリスクを十分に認識し、リスクマネジメントをしたうえで行ってほしいと思います。
この事例と同様に、買物してきてほしい、買物に連れて行ってほしい等のご依頼もありますが、先述した通り、介護保険サービスやインフォーマルサービスの活用はできないか、道路運送法上の問題に抵触しないかなどをご確認の上、対応をご検討いただきたいと思います。
■②保証人になってほしい
「入院のために身元保証が必要だから保証人になって」と言われがち
利用者の家族がいない・頼れる親戚もいないというときに、依頼を受けることが多いのではないでしょうか?
金銭貸借の連帯保証人や保証人については、当然行うべきではないとわかると思いますが、急な体調不良で利用者が入院する必要があった場合、病院から入院するためには身元保証をしてもらわないと困るという場合などは、どうでしょうか?
もちろん原則的には行うべきではないと考えます。
ただ、周囲のケアマネでは、どうしようもなく対応したという経験がある人はいらっしゃいました。
病院側に一度相談してみましょう
こちらについては、病院と一度相談されることをお勧めします。
ケアマネから病院側に、そのような身元保証を業務として行うことができない立場であるということ、その利用者には家族や親せきがいない(もしくは、すぐにサインできる状況にない)ことなどをきちんと伝え、まずは病院の対応について相談することが大切です。
また、経済的に厳しい状況にある利用者の中には、生活保護を受給している方や、地域包括支援センターなどでケースを把握されていることもあると思います。
その際は、生活保護の担当課や地域包括支援センター、高齢者福祉を担当する課、介護保険について担当する課など行政に相談してみましょう。きっと、ケアマネがサインをしなくてもすむ方法は見つかると思います。
■③金銭管理をしてほしい
経済的情報を把握する立場だからこそ頼まれがち
ケアマネは、利用者の経済的状況も把握しています。
サービス利用調整の際に、その方の年金などの収入と、生活上の支出を把握しておかなくては、どの程度介護保険サービス等が利用できるか見当がつかないからです。
そこがわからないと、どんなに良い提案でも利用者とその家族は利用できない状況になります。
その際に、「ケアマネが利用者のお金を預かって、管理してくれれば助かるんだけど」という依頼を一度は受けたことがあるのではないでしょうか。
こちらも当然、不適切です。
成年後見制度や日常生活自立支援事業を活用しましょう
本人が自分で金銭管理ができない場合、「成年後見制度」を利用する方法があります。
利用者がどのくらい管理能力がないのかという部分について判定(後見、補佐、補助)を受け、その判定に見合った支援を受けることができます。
こちらは地域包括支援センターや市町村の社会福祉協議会の窓口に聞いてみてください。家庭裁判所への申し立てなど、利用するまでにはそれなりに大変と感じるハードルがあります。ケアマネひとりで手続きを行うというのは相当大きな負担となると思います。
成年後見制度より利用しやすいサービスとして、都道府県社会福祉協議会が実施している「日常生活自立支援事業」があります。こちらは、日常生活で扱う金銭レベルということや契約能力があることなどが条件とはなりますが、利用しやすく、日々の金銭管理について支援してくれるとても強い味方になってくれるはずです。
まとめ:ケアマネだけでなく、チーム一丸となって課題解決に取り組みましょう
■どうしようもないことを請け負ってくれているケアマネもたくさんいる
ケアマネの仕事、やってはいけないこと、本当はやってはいけないけど頼まれがちなことについて書かせていただきました。
私が今回記載したことは、(運営基準以外については)やるべきではないけどやってしまっていることがあったとしても、ケアマネを責めないでほしいと思います。
また、今回書いていないようなケースでも、それってケアマネがすべきなのか?と疑問を抱くようなことを対応しているケアマネもいるかもしれません。
しかし、ケアマネ業務の冒頭で説明した通り、ケアマネは利用者とその家族の生活全般のお悩みをたくさん知る立場です。
地域によっては社会資源の偏在が原因で、どうしようもないけど見過ごすことはできないということで、ボランタリズムでケアマネががんばっていることも多いと感じます。
よって、他職種のみなさんにはケアマネの立場を少しでも理解していただき、ケアマネだけでなく、利用者を囲むチームが一丸となって問題を共有し、解決できるようにお互いが働きかけてほしいと切に願います。
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ゆりかごホールディングス株式会社 代表取締役
株式会社ゆりかご 代表取締役
茨城県訪問介護協議会 副会長
茨城県難病連絡協議会 委員
水戸在宅ケアネットワーク 世話人
茨城県介護支援専門員協会 水戸地区会幹事
茨城県訪問看護事業協議会 監事
水戸市地域包括支援センター運営協議会 委員
水戸市地域自立支援協議会全体会 委員
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
日本社会事業大学大学院 福祉マネジメント研究科 在籍中
介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士・看護師・介護支援専門員・相談支援専門員・FP2級